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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第二十二話

 
前書き
これで良い。
これで妾が成すべきことは全て終わる。
ただ、最後にあいつの顔が見たかったな。
byアリカ 

 
第二十二話 ケルベラス渓谷


side 三人称

「魔獣蠢くケルベラス渓谷。魔法を一切使えぬその谷底は魔法使いにとってまさに死の谷。」

「古き残虐な処刑法ですが、この残酷さを持ってようやく……魔法世界全土の民も溜飲を下げる事と相成りましょう。」

「では、これより処刑を開始する」

「歩け!」

槍を持った兵士が罪人であるアリカに槍を向け、進む様に命じる。

「触れるな下郎!言われずとも歩く」

兵士を一喝し一歩一歩渓谷に向かって歩いていく。
その足取りはこれから処刑される者とは思えない程しっかりとしていた。
渓谷に住む魔獣達はいつもより吼える声が大きかったが、それにも怯む様子は無かった。
そして、とうとう渓谷に落ちていった。

side out





side アリカ

ナギは『形なきもの』いや、レイト・テンリュウに鍛えられてから変わった。
今までのバカさはなりを潜め考えて動く様になっておった。
それでも以前の様にここぞというときの行動は変わっておらんかったが、人それぞれの役割と義務が分かる様になっておった。
だからこそナギは助けには来ない。
ここで処刑されるのが妾の役割で義務だから。


恐怖は無い…。妾は…満足じゃ。
オスティアの民は救われ、アスナも保護されておる。
妾の死を持って戦争が完全に終結するのならば…...妾は満足じゃ。
だが、一目だけでも
もう一度ナギに会いたかったのう。













渓谷に飛び降りた妾を待っていたのは














魔獣どもの酷い血の臭いと、火薬の臭い、それと
















暖かい温もりを持った



「助けにきたぜ」



妾の騎士だった。






side out








side ナギ

レイトに連れられてオレはケルベラス渓谷の入り口に来ている。既に魔法が使えない事が肌で感じられる。

「ここから先がケルベラス渓谷だ。今から2時間後に処刑が行われる。お前はそれまでに処刑ポイントまで到着するのはもちろんだが、ある程度の数の魔獣を狩っておく必要がある」

「姫さんをキャッチした後、逃げる際に楽になるからだろう」

「そうだ、武器の方は最悪捨ててきても構わん。目標は二人そろっての脱出だ」

「お断りだな、こいつも今じゃあオレの相棒なんだぜ」

もう7年近い付き合いになる大剣を担ぐ。
最初の頃は振り回されてばかりだったが今では手足の様に使える様になった。
昔から持っている杖と一緒でこいつも相棒と言える。

「なら狩り殺して来い。餞別だ」

そう言ってレイトが二つのケースを投げてきた。
受け取って中身を見ると大きい方のケースにはいつも使っているオレの大剣のカートリッジが詰まっていた。オレの大剣は握り手の部分にトリガーが用意されていてそれを引く事でカートリッジが炸裂し斬撃のスピードを上げたり、移動の補助にも使える。レイトの世界ではこれが主流らしい。いつもは最低限のカートリッジしかくれなかったがこれだけくれるという事は後は自分でどうにかしろという事なんだろう。一応作り方も教わっているので作れるのだが、これが結構大変なんだ。一日20発作るのがやっとだ。今回ケースの中には(ケースも特別製らしく明らかに大きさと中に入っている量がおかしい。ケルベラス渓谷でも無効化されない)3000発もの大量のカートリッジが詰まっていた。もう一つのケースには、やっぱりカートリッジが詰まっていた。けどこれって

「見た事無いんだけど」

「そりゃそうだ、なんせ新型のカートリッジだからな」

「どんなのなんだ」

「剣に属性を込めれる。ここにいる魔獣どもは揃って火に弱い。魔力を感じれば分かるだろうが対応するカートリッジを使えば普通なら10分ぐらい、ケルベラス渓谷でも2、3分位は属性を纏わせる事が出来る。有効に使えよ。後、これ作り方」

そう言ってメモも渡されて眼を通す......一日2発が限界かな。
まあ、良い物を貰った。

「サンキュー、何から何まですまなかったな」

「そう思うなら必ず助けろよ。オレの計画が崩れるからな」

「なんかするのか」

「やる気は無かったがボランティアの清掃活動」

「......そうか」

うわぁ〜、こりゃあ元老院のジジイども死んだな。

「それはともかく行って来い、バカ弟子」

「おうよ、行ってくるぜ師匠」

早速、火のカートリッジを半分の地点に装填し後は通常のカートリッジを装填する。
そして、アリカを救う為にオレは駆け出した。


























余裕かなと思っていた時期がオレにもありました。
やばいこいつら強すぎるだろ。
ぶっちゃけ魔法が使えたとしても普通の奴らだったら即お陀仏だな。
赤き翼なら余裕で倒せるだろうけどここじゃあ無理だな。
とりあえずレイトが予測してくれたアリカが落下してくる地点には到着したが、処刑時刻まで30分ある。その間この場にいる魔獣を少しでも減らしておく必要があるんだが、

「きりがねえな。一体どれだけいるんだよ」

手早くカートリッジを装填し直し叩き斬っていく。
すでに200近くのカートリッジを消耗してしまっている。しかも途中から逃げる様にしてここまで来る様にしてだ。
......レイトが大量のカートリッジをくれるはずだ。たぶんここにいる魔獣を全部殺す事になった時に必要になるだけくれたんだと思う。
また一匹斬り殺し終わり、火のカートリッジを装填する。

「おらおら、掛かって来い」











粗方殲滅するのに30分近く掛かった。もうすぐ落ちてくるだろう。
そこからが第2ラウンドだ。
逃げる為に通常のカートリッジばかりを装填する。
この時点で残っている数は1800。
30分で1000発も使うはめに。
本当に残虐な処刑法だな。まず生き残れないわ。
もう10年ほど鍛えてもらったら余裕なんだろうけど。
修行中にどんな魔獣がいるのかを聞いたら

「昔研究の為に映像を撮りにいった事があるからそれでも見るか」

というので見たがカメラとビデオを両手に持ったまんま攻撃を一切しないで道具も使わず普通に魔獣を全部撮影していた。普通に反対側まで撮影して行き止まりだったからって往復までしていた。
正直あのときは楽かなと思っていたが、

「記録なんだから本来よりは遅いに決まってんだろ」

とか言ってたっけ。

「魔獣蠢くケルベラス渓谷。魔法を一切使えぬその谷底は魔法使いにとってまさに死の谷。」

「古き残虐な処刑法ですが、この残酷さを持ってようやく……魔法世界全土の民も溜飲を下げる事と相成りましょう。」

「では、これより処刑を開始する」

微かにだがそんな声が頭上から聞こえてきた。
とうとう処刑ってか。
上を見上げるとちょうどアリカが落ちてきたので飛び上がってキャッチする。

「助けにきたぜ」

「ナ......ギ............? え......あれっ? 何故、お主が地獄に......?」

ものすごく混乱してるな。初めて見たぜこんな顔。
12年ぶりに見たけど、確信した。
やっぱりオレはアリカの事が好きなんだ。

「別に地獄に来た訳じゃねえんだが、地獄から引っ張り上げてやるよ」

新たな餌につられて魔獣どもがまた集まってきた。
アリカを抱えたまま剣を構え走り出す。
目指すはここから10分程戻った部分にあるここで一番でかい魔獣の死体がある場所。
死体に駆け上がって飛び、カートリッジを使えば十分に魔法が使える場所まで飛べる。

「なぜ......なぜ助けになど来た」

アリカを抱えている為、カートリッジの装填が出来ないので走り続け、時に剣で防ぎ、時には飛び乗ったりしながら目的地に向かう。

「昔のお主ならともかく今のお主なら妾がやらなければならない事位分かっておるだろう」

「分かってるさ。だからこうやって助けてんだろうが」

「どこがじゃ」

「レイトに教えてもらったんだけどな。ケルベラス渓谷の刑ってのはさ、飛び降りるまでなんだってよ。つまり既に刑は執行されたんだから自由なんだよ」

「そんな物、屁理屈じゃ」

「屁理屈だろうと、あぶね」

アリカに気を取られて魔獣の爪が服にかすりカートリッジのケースが二つとも落ちてしまう。
これで完全に装填が出来なくなってしまった。

「あちゃあ、ちょっとヤベエな」

まあ、全滅させる必要は無いので今更必要ないか。......もったいないけど。

「ここでは魔法も気も使えないのに今のお主では」

「確かにいつもよりはキツいけど、気付いてねえのか」

「えっ?」

「そこらに転がってる死体に気付いてねえのか。今のオレは魔力や気に頼らなくたって」

証拠として見せつける為に一番小柄な魔獣を一刀両断する。

「十分強え」

そしてまた走り出す。
もう目的の死体は見える距離まで来ているので全力で走る。
そして死体から飛び上がりカートリッジを全て炸裂させる。

「杖よ」

呪文を唱えもう一つの相棒である杖を呼び出し剣を背中に背負い、杖に乗りアリカを俗にいうお姫様抱っこする。出てきた所を攻撃されるかもと思ってもみたが魔法も気も使える以上レイトとエヴァンジェリン以外に負ける気はしねえ。だが予想に反して元老院のジジイどもが乗っている船は大混乱を様していた。今なら襲われる心配も無いな。

「オレはさ、この2年間色々と世界を見て回ったよ」

「ナギ......?」

「オレ達がやってきた事は一体なんだったのか。それが知りたくて世界中を回ってみた」

「いきなりどうしたのじゃ」

「住んでいた場所を焼かれ、親も死に飢えて死にかけている子供を助けた。傭兵崩れが襲い壊滅した村を見た。奴隷として働かされて死んでいく人も見た。オレたちに恨みがある男が自分の命すら捧げて喚んだ悪魔と戦いもした。そして、その悪魔との戦いに巻き込まれて殺してしまった人もいた。それでも眼に付く範囲で人を助け続けてきた。いつしか周りはオレの事を“偉大なる魔法使い”と呼ぶ様になっていた。だけどオレは英雄と呼ばれる事が苦痛になっていた。初めてレイトにあった時あいつは言った。
『攻撃魔法でどれだけの人が救える』と。全く持ってその通りだったよ。オレが2年の間で一番使った魔法は間違いなく回復魔法だったよ。そしてオレが大戦中に一番使った魔法は千の雷。オレはこの手で何人殺したか分からない。それなのに助ければ礼を言われる。その事が苦痛でオレはいつしか自分の名を語らずに、それでも人を助け続けた」

「......ナギ、もういいそれ以上言わなくても」

「レイトが正義を語らずに悪を語る理由がよくわかった。正義じゃあ矛盾を抱えすぎていつか壊れるってことあいつは知っているんだ」

「良いから何も言うな。そんな泣いている顔で言うな」

オレは泣いているのか。
アリカは何も言うなと言うけどそれでも言わないとな。

「ある日さ、たまたま盗賊のアジトをつぶしにいった時に攫われた人を助けにきていた男に出会ったんだ。そいつはたいした力を持っていなかったけど攫われた大事な人の為に文字通り命がけで助けにきていた。なぜ無謀な事をしたのかと聞いたらそいつはこう言ったのさ『思いを伝えられないまま終わる事を僕は認めたくない』それを聞いてオレは自分がどうしたいのか分かったよ。オレもそいつと一緒なんだよ。お前はオレを騎士から解任したって言うだろうけどな、オレは今でもお前の、お前だけの騎士だって思ってる。だってオレは、お前の事が好きなんだよ」

オレが言いたい事は全て言った。これで拒絶されたならそれはそれだ。拒絶されようがオレがアリカの事を好きなのは変わらねえ。なら幸せになる事を祈っているだけだ。

「妾がお主を苦しませてしまったのじゃな、すまない」

「謝る必要なんかねえ。この苦しみが無かったらオレは人として最低になってたと思う」

「それでもじゃ。すまない」

「わかったよ。それよりも返事を聞かせて欲しい」

「妾などで良いのか、お主を苦しめた妾で」

「アリカ・アナルキア・エンテオフュシアならさっき死んだだろう。今ここにいるのはただのアリカだ。そのアリカがオレになんかしたのかよ」

「本当に良いのか妾で、傍に居て良いのか」

「良いに決まってんだろ。そうじゃなきゃこんな方法で助けにきたりしねえよ」

「妾も、嫌、私もナギの事が好きじゃ。この2年間お前の事を思わぬ日は無かった。私を傍に置いてくれ」

その言葉を聞いてオレは嬉しかった。
レイトはエヴァンジェリンの為なら世界を滅ぼせると言ったがオレもアリカの為なら世界を......滅ぼそうとはするけどレイトに返り討ちにあいそうだな。
まあ、アリカの為なら何だってやるな。

「当たり前だ。絶対に離してやるかよ」

そう言ってオレはアリカにキスをする。






side out












side レイト


アリカ王女が落ちたのを確認してからオレは元老院の前に姿を見せる。

「一応初めましてと言っておこう。オレは『形なきもの』」

「なっ!?なぜこんな所に」

「何故って?簡単だ。完全なる世界を滅ぼそうと思ってな」

「何を言い出すかと思えば、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアは処刑された。既に魔獣どもの腹の中だろう」

「それとは別だ」

「何の事かな」

「これを見てもシラを切れるか」

指を鳴らし後ろの空間に映像を映し出す。
それら全てに共通する事はここにいる元老院の完全なる世界との密会や裏取引の資料といった物である。これら全てクルトが集めた物だ。さすがにこの量には呆れて物が言えなかったがこれを有効に使えるのはオレだからとクルトに渡された。そこまで考えれる様になっていたので弟子から卒業させてやったが代わりに必ず元老院を潰して欲しいと頼まれ色々と細工を施し今日、この場にいる。

「見ての通りお前達が完全なる世界と繋がっていた証拠だ」

「それがどうした。すでに記録は止めてある。あとは貴様を殺せば問題は無い」

「ふ、ふふふふははははははははは」

「何がおかしい」

「いやぁ〜、こんなに簡単に自供してもらえるとは嬉しい限りだよ。一つオレも良い忘れていたが、処刑から今まで、全て魔法世界中に生中継されている」

「そんなバカなこ」

「本当の事だ。それともう一つ言っておこう。今この場にいる兵士達だが」

オレがまた指を鳴らすと回りにいた兵士の姿が変わっていく。

「全員アリアドネー戦乙女騎士団だ。そしてオレの地位はアリアドネー教授兼騎士団長代理」

「ついでにオレたちもいるぜ」

ジャックが後ろから出てくる。

「赤き翼のジャック・ラカン」

「他のメンバーもいるぞ。ついでに言うと法務官も混じっている」

「あ、ああ」

「更についでだがお前達の裁判も実は終わっていたりもする。まあここは法務官の方に直接言い渡してもらおう」

「うむ、世界を破滅に導こうとした完全なる世界への協力、またそれらの罪をアリカ・アナルキア・エンテオフュシアへ擦り付けた罪は重い。ゆえに古き残虐な処刑法で残酷であるケルベラス渓谷を持ってようやく……魔法世界全土の民も溜飲を下げる事となるであろう。今すぐ刑を執行せよ」

「さっさと歩け」

「い、嫌だ。死にたくない」

逃げ出そうとするもすぐに拘束される。

「突き落とせ」

俺の命令を受けて元老院のジジイどもを兵士達が次々に突き落としていく。
一応ちゃんと喰われたかを確認する。......うん、全員喰われたみたいだな。
さて、オレのやる事も終わったしそろそろ帰りますか。
アリアドネー戦乙女騎士団に退却命令を出し、ナギとアリカがイチャイチャしているのを撮影して、切りのいい所で迎えに行った。


side out
 
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