魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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預言者の著書 ~Prophetin Schriften~
†††Sideシャルロッテ†††
はやての部隊長室に集まった私とフェイト。そこで、はやてがこの六課に査察が入るって話をしてきた。たぶん昨日の戦いが地上の実質的なトップ、レジアス・ゲイズ中将の耳に入ってしまったんだろうね。厄介な人に目を付けられてしまったものだよホント。
「うっわぁ、地上本部の査察って上が上だけに結構厳しいよ? 以前いた部隊の時もそりゃあもう厳しかったもん」
「うへぇ・・・、私らが言うのもなんやけど、六課って目を付けられるようなところがどこの部隊よりも多いしなぁ」
「この大変な時に色々と配置やシフトの変更の命令が出たりしたら、六課の存続に大きく響くよきっと」
「そうだよね~、ここでバラバラにされるのはまずい」
査察官の判断によっては、六課内のメンバーが外されることになるかもしれない。私とルシルが代わりになる、っていうのは論外だし・・・。
「う~ん、なんとか乗り切らなアカンよなぁ。六課は地上部隊やから次元航行部のクロノ君たちには頼れんし」
はやての言うとおり、ここはどうにかして乗り切るしかない。手伝えることがあれば、なんだって協力してあげないとね。
「・・・ねえ、はやて。これって査察に対する対策の為ってことにもなるんだけど、この六課を設立した理由、そろそろ聞かせてもらえるかな・・・?」
「あのぉ・・・よかったら私も教えてほしいんだけど・・・。あ、もし機密情報だっていうんなら無理に聞かないよ?」
フェイトがこの機動六課設立について質問したから、私もそれに続いて訊いてみた。でも、私はもう局員じゃないし、六課の隊員でもないから無理には聞けない。
「う~ん、シャルちゃんのことは信じてるし話してもええよ。それにええ機会やと思う。これから聖王教会本部――カリムのところに報告に行くから、そこでまとめて話すな。今回の一件すべての事を」
「うん」
「・・・ありがとう、はやて」
はやての“信じてる”という一言を聞いて口元が緩むのが判る。すごく嬉しい。
「うん。さてと、なのはちゃんはどうやろ? もう医療院から帰ってきてるかな?」
フェイトが浮かび上がったキーボードのキーをいくつか打ってモニターを立ち上げた。んで、そのモニターに映し出されたのは『ほーら、どうだ、ヴィヴィオ?』って昨日保護した女の子を肩車して笑っているルシル。
そんなルシルの足元には、うさぎのぬいぐるみが踊ってる。え? なにこの状況・・・。その他にも、ルシルの側で笑みを浮かべてるなのは。さらにフォワードの子たちも居る。モニターに映るそんな光景を見て、私だけじゃなくてフェイトとはやても目を点にしてる。
「え~と・・・これは・・・どうゆう状況やろ?」
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「暇すぎて頭がどうにかなりそうだ」
昨日の怪我がどうのこうのってことで、今日1日の強制休暇を取らされた。大してやることのない私は、後髪を切り整えたり、のんびり海を眺めながら時間を過ごした。それにも飽きて職員寮へと戻ると、遠くから子供の泣き声が聞こえた。
「やぁ~だぁ~!」
「ん? 子供の泣き声・・・?」
こんなところに子供の泣き声というのもおかしな話と思い、声のするところまで行ってみると、そこはフェイトとなのはの部屋だった。なぜか私、それとザフィーラとエリオは、女子フロアでもある3階に上がれることになっている。信頼してくれるのは嬉しいが、それはある意味男として見られていないってことにも・・・。まぁ今さら気にするような事じゃないが。
「失礼するよ・・・って、その子は昨日の・・・」
部屋に居たのはなのはとフォワードの子たち。そして昨日保護した少女の6人。泣き声はなのはの足元にしがみ付いているその子のものだった。
『あ、ルシル君。うん、異常もないってことだから連れて来たんだけど・・・』
なのはが口頭じゃなく念話で応対してきたから、フォワードの子たちと視線だけの挨拶を済ませつつ、こっちも念話で応対する。
『それはなのはの判断だからいいとして、どうしてこういう状況に?』
『えっと、ヴィヴィオ――この子の名前なんだけど、私が仕事に戻らないといけないって言ったら、行っちゃヤダって泣き出しちゃって放してくれないの。それでフォワード陣に相手をしてもらおうと思ったんだけど・・・』
私となのはの視線を受けた子たちは面目なさそうに頭を下げて、『すみません』と4人同時の謝罪一言。その4人には苦笑を返すしかない。
『私が少し話をしてみようか?』
『え? うん・・・、お願い出来るかな・・・』
私がこういうことをするような人間には見えないだろう。だから、なのはの歯切れの悪さも理解は出来る。が、幼い子供と関わりを持つことは契約中度々あったりする。それに、赤ん坊だった妹シエルの面倒だってゼフィ姉様と一緒に見たこともある。そんな中で、いろいろと小さい子との付き合い方を学ぶこともたくさんあった。とはいえ、この子にも通用するかどうかは判らないが・・・。
「こんにちは」
まずは目線を合わせるために膝をつく。目線を合わせるだけでも反応が違ってくるし、子供の目線にこっちが合わせるのも結構大切だ。
「・・・こん・・・にちは・・・」
両目に涙を浮かべながらも、恐る恐るといった風だが目を合わしてくれる。それにきちんと挨拶を返してくれた。いきなりの拒絶でなくて良かった。まずは第一難関を突破というわけだ。
「わた・・・、お兄ちゃんは、ルシルっていうんだ」
「・・・ルシル・・・?」
ルシリオンって長い名前よりかはルシルの方がはるかに憶えやすいだろう。この愛称をつけてくれたゼフィ姉様には本当に感謝している。
「そう、ルシル。君のお名前はなんていうのかな?」
「・・・ヴィヴィオ・・・」
最初の難関だった自己紹介も終わった。それじゃ本題の方へと持っていこうか。
「ヴィヴィオ、か。いいお名前だね。それでね、ヴィヴィオ。ヴィヴィオは、なのは・・・さんと一緒に居たいんだよな?」
なのはさんかなのはお姉ちゃんのどちらかで少し迷って、結局さん付けを選択。何か変な感じだ。さん付けなんて・・・。なのはもそうなのかテレを含んだ微苦笑を浮かべながら私を見た。だって仕方ないだろ? さすがになのはお姉ちゃんと口に出すのは正直恥ずかしい。
「・・・うん」
「うん、そっか。でも、なのはさん、少しの間だけお仕事に行かないといけないみたいなんだ。でもちょっとで戻ってくるから、それまでお兄ちゃんと・・・」
そこで一度言葉を切って、側に落ちているぬいぐるみを見、そしてなのはを見る。
『なのは、このぬいぐるみはヴィヴィオのものか?』
『え、うん。医療院で買ってあげたんだ』
念話でなのはに確認。ならこのぬいぐるみにも働いてもらおう。指を鳴らして、操作系の魔術を発動させる。操作系を苦手とする私でも、このぬいぐるみくらいならそう苦労せず操作できるだろう。
「この子と一緒に遊ぼう」
「?・・・・ふぇっ!?」
突然起き上がったうさぎのぬいぐるみに少し驚いて、ヴィヴィオはトコトコ歩くぬいぐるみを注視している。さて、ヴィヴィオの返事は如何に。ヴィヴィオはぬいぐるみとなのはを見て「・・・やだ」そう一言。う~ん、駄目だったか。と、そう簡単に落とされないぞ、私は。
「それは困ったな。あ、そうだ。肩車はどうかな? すごく面白いぞ?」
よくエリオにしたことがある。当時、休暇は専ら“界律”との契約執行に使っていたが、フェイトとの約束だけは出来るだけ守った。契約はシャルひとりに任せて、私はフェイトとエリオ、別の日には私とフェイトとキャロで、といった感じで遊びに出掛けていた。だがそれも始めの間だけだったが・・・。だからその穴埋めとして、シャルの代わりに私が多くの命を奪い去ってきた。シャルの心が歪まないように、かつての私みたいに壊れたりしないように・・・。
「かた・・・ぐるま・・・?」
ヴィヴィオの声で現実に引き戻される。両手に染み付いた血の幻視を振り払って、まっすぐにヴィヴィオを見詰める。
「そうだよ、肩車。それにヴィヴィオだってなのはさんを困らせたくないよな? この子だってヴィヴィオと一緒に遊びたいって言っているぞ?」
うさぎのぬいぐるみがヴィヴィオの足元までトコトコ歩き、ヴィヴィオの足をその手でトントンと叩いて彼女を見上げる。
「・・・ぅぅ」
少し揺らぎ始めたようだ。あともう一押しといったところだな。右手の親指と人差し指を何かを摘むようにしながら、ヴィヴィオの顔の前に近づける。それで少しヴィヴィオが引いたが、構わずに左手の指を鳴らす。右手に一瞬の煙が上がって、そして霧散する。
「????」
ヴィヴィオは本当に不思議そうな顔をしている。親指と人差し指が摘んでいるのは、さっきまで無かった1輪のクジャクアスターの花。花言葉は可憐。ヴィヴィオにはちょうど良さそうな花だ。
「どうぞ、お兄ちゃんからのプレゼントだ」
クジャクアスターの花を1輪、そっとヴィヴィオの髪に挿す。少しビクッとさせてしまったが、大人しく受け入れてくれた。
「よかったね、ヴィヴィオ。すっごく可愛いよ♪」
なのはにそう言われ、ヴィヴィオは小さく頷いた。もうそろそろいいだろう・・・。
「だから、なのはさんが戻ってくるまでの間だけ、お兄ちゃん達と遊ぼう? 遊んでいれば、すぐになのはさんが戻ってくるから」
「・・・ホント?」
ヴィヴィオがなのはと私を交互に見ながら確認してきた。それに私となのはは笑顔で頷いて応える。
「うん、ホントだよ。それまで大人しく待っててね、ヴィヴィオ」
「・・・うん」
なのはの言葉を聞いて、ヴィヴィオがゆっくりとなのはから離れた。ミッションコンプリートだな。
「よしっ、それじゃ肩車・・・いってみようか?」
「・・・うん」
ヴィヴィオの脇下にそっと両手で入れて持ち上げる。いきなりのことでヴィヴィオも驚いたようだったが、私の肩に乗せクルクル回ってみると小さく、本当に小さくだが笑い声を上げてくれた。
「ほーら、どうだ、ヴィヴィオ・・・?」
なのはもフォワードの子たちも安心したような表情をしているのが判る。こんな私でも役に立てて何よりだ。
『ありがとう、ルシル君。でも、すごいね。何か慣れてるみたいだったよ?』
『ん? あぁ、まぁな。それにしてもどうするんだ、ヴィヴィオは? このままずっと君が面倒を見るわけにもいかないだろ?』
『うん。それについてはまだ考えてるんだけど・・・』
そこのところはなのはに任せるしかないな。なのはがどういう選択をしても、それを手伝ってあげればいいか。六課には女性隊員が多く在籍しているし、後学として経験させるのもいい。
「失礼しまーすっ♪」
そう挨拶をしながらこの部屋に入ってきたのはシャル。そのうしろにはフェイトとはやても居る。
「なんやルシル君、こうゆう事したことあるんか?」
「黙秘。それより何かあったのか、はやて」
はやての質問には黙秘権を発動。そんな残念そうな顔をしても話さないものは話さないぞ、はやて。
「・・・まぁええか。ここに来た理由はな、なのは隊長を迎えに来たんよ。これから聖王協会に報告に行くからね。なのは隊長にも一緒に来てもらおう思て」
「あぁ、昨日のことか。それは私も一緒に行くべきなのか?」
私のその言葉で、肩に乗せているヴィヴィオの動きに少し変化があった。はやてもそれには気付いたようで、首を振ってこう告げた。
「ルシル君にはこのままこの子の相手してもらおう思てるけど、どないや?」
「そうか。なら、なのはが戻ってくるまでヴィヴィオの相手は任せてもらおう」
現状ではなのはに一番懐いている。そして自惚れかもしれないが、私が2番手だと思う。その2人が居なくなればヴィヴィオはもちろん、フォワードの子たちも大変なことになる。それはさすがにどちらとも可哀想だ。
「えっと、エリオ、キャロ。2人もルシルと一緒にその子の面倒を見てあげてくれるかな?」
「「はいっ」」
フェイトからのお願いを快諾したエリオとキャロ。正直助かる。
「スバル、ティアナ。悪いけど、ライトニングの分のデスクワーク、お願い出来る?」
「あ、はい。お任せください」
「が、がんばりますっ」
今度はなのはからのお願いを承諾したスバルとティアナ。ティアナは至って普通に返事をしたが、スバルは若干困り顔。すまない、スバル。
「それじゃ、ヴィヴィオ。すぐに帰ってくるから、それまで良い子で待っててね」
「・・・うん」
私はしゃがむことで、なのはとヴィヴィオの目線を合わせられるようにした。ヴィヴィオの返事は少し涙声だ。やはりなのはと一時とはいえ別れることが原因だろう。
『ルシル君、それじゃお願いするね』
「『ああ、任せてくれ』さぁ、ヴィヴィオ、なのはさんに“いってらっしゃい”だ」
「・・・いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
こうしてシャル達は聖王協会へ、スターズは今日の仕事へと向かった。私とライトニングはお姫様と、なのはが戻ってくるまでの時間つぶしを始めた。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
聖王協会に着くまでの間、私はヘリの中でさっきの光景を思い出す。肩車された子供、肩車をしているルシル、側で笑っていたなのは。まるで本当の親子のようだった。それを見たとき、胸が苦しかった。
『ふふ、さっきのルシル達を見て、親子みたいだったな~、とか思ってんでしょ?』
突然のシャルからの念話に驚いたけど、顔に出さないようにして応対した。
『え、あ・・・そ、そんなことないよ? 羨ましいなぁ、なんて思ってないよっ?』
『ふ~ん、羨ましいって思ってったんだ。ていうか別に誤魔化す必要ないよ、フェイト。みんな、フェイトがルシルに抱いてる感情には気付いてるし・・・』
そうなんだけど、それでもやっぱり恥ずかしいよ。
『それ以前に、なのはとルシルがくっつくなんてこと自体がおかしな話だし。そもそもなのはにはすでにユーノがいるからね』
シャルに微笑みかけられたなのはが「ん? どうしたの?」首を傾げた。シャルは「なんでもないよ」って言って、また微笑んでる。
『フェイトとルシルってお似合いだと私は思うよ』
『そ、そうかな? 本当にそう思う?』
ルシルへの想いはもう10年になる。そういえば私とルシルの出会い方は、“ジュエルシード”を巡っての戦いだったな。今思うとめちゃくちゃな出会い方だよ。
『思うよ。でもルシルがその気になるかどうかはすごく難しい話だけどね。だけど私が何とかしてあげるから、フェイトはそれまで待ってて』
『え? う、うん・・・?』
何を待ってればいいのかは、目的地の聖王教会に着いたことで聞けなかった。その後もはぐらかして教えてくれなかったし・・・。
†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††
フェイトは本当に可愛いな~。だから応援したくなってくるんだよね。でも、ルシルがそれを認めてくれるかによっていろいろと変わってくる。そこをどうにかして私がフォローしてあげないと・・・。
「ここや」
はやての後ろについて教会内の廊下を歩いて少し、目的の部屋の前に着いた。はやてが木製の扉にノックをして、「どうぞ」との返事が返ってきたから、「失礼いたします」と告げて扉を開けて部屋へと入っていく。
「お待たせや♪」
「高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
「シャルロッテ・フライハイトです」
なのはとフェイトは敬礼をして名前と階級を告げた。でも私はもう局員じゃないから、敬礼はしないで名前だけで済ませる。
「はじめまして、聖王教会教会・騎士団所属、カリム・グラシアと申します」
迎えてくれたのは、教会の騎士カリム・グラシア。直接の面識は初めてだけど、想像通りの物腰が柔らかそうな女性だ。その彼女に席へと案内されると、すでにクロノが椅子に座って待っていた。う~ん、それにしてもクロノの制服姿ってなんだか新鮮?っていうより違和感が湧いてくる。なのはと一緒に「失礼します」と一言断ってから椅子へと座る。
「お久しぶりです、クロノ提督」
「ああ。久しぶりだな、フェイト執務官」
そんでフェイトとクロノの2人は、お互いに役職名を名前に付けて挨拶なんてしてるんだから堅苦しいことこの上ない。だから騎士グラシアも「硬くならずに普段通りで良いですよ」って綺麗に笑う。
「騎士カリムがそう仰ってくれたから、普段通りにしよう」
「えっと、じゃあ元気だった? お兄ちゃん」
「クロノ君、ちょっと振りだね♪」
「っていうかクロノ、制服姿が変だね。笑っちゃう」
と言うことでクロノに対してはフランクな挨拶。なのはは普通の挨拶だけど、私とフェイトからは口撃が放たれた。特にフェイトからの一撃が堪えたようで、クロノは若干頬を赤らめてる。昔からそういうのには弱いよね、クロノって。
「互いに良い歳なんだから、お兄ちゃんはもう止せ。それとシャル、ドサクサに何だそれは?」
「ええー? 兄弟関係に年齢なんて関係ないよ」
「リアクション感謝。それにフェイトの言うとおりじゃない。兄弟関係に年齢は無関係。クロノだって本当はお兄ちゃんって呼ばれて嬉しいくせに」
さらに追撃。クロノはさらに頬を赤らめた。全員が判るくらいに、ハッキリとだ。
「そ、そういうシャルこそルシルに、お姉ちゃん、と呼ばれたらどうするんだ?」
ふ~ん、そういう切返しをしますか・・・。私は軽く想像してみる。クロノの言葉を聞いたなのは達もおそらく想像したんだと思う。だって微妙な表情してるし・・・。そして、結論。
「キショい」
「「「キショい!?」」」
「それは酷いな。もう少し言葉を選んだらどうだ」
盛大なリアクションをありがとう、なのは、フェイト、はやて。そしてクロノは黙れ。だってルシルが私をお姉ちゃん呼ばわり? 数年前までは少し期待してたけど、今となっては背筋が凍るよ、本当に。それに実際の年齢で言えば、私は享年21歳で、ルシルは今なお生きているから・・・・、もう6千歳以上になる計算だ。それで兄弟関係となったら一種のホラーだよ。ていうか今は実際そういう関係だけどさ。
「仕方ないじゃない。咄嗟に浮かんだのがそれだもん」
「でもキショいってあんまりだよ?」
「ああもうっ、いいじゃない。それより本題に入ろうよ」
こういうやり取りも楽しいんだけど、六課設立の秘密という興味の方が勝ってる。私の方向修正で、この場の空気が若干重くなった。内容が内容だから当たり前の話だ。少しの沈黙の後、はやてがその沈黙を破って語ってくれた。“機動六課”の真実を。まずは、設立の表向きの理由・レリック対策と独立性の高い部隊の実験例のため。
「もうすでに知っているだろうが、六課の後見人は僕クロノ・ハラオウン。こちらにいらっしゃる騎士カリム。そして僕とフェイトの母親で上官であるリンディ・ハラオウンだ」
モニターに映し出されたのは、その3人の顔写真と簡単な情報が載った画像。それにしてもリンディさんはほとんど変わってない。衰えってものがないのかも・・・。
「僕たちに加えて非公式ながらに、彼の三提督も機動六課設立に協力してもらっている」
そして次に告げられたことに、事情を知らない私となのはとフェイトは驚くことになった。何せ伝説とまで言われている三提督が、非公式で後見人として登録されているんだから。なのはもフェイトも驚いてる。というか、局員なら驚かない方がどうかしてる。
そんなとんでもない事態となっている理由は・・・
「私の能力・預言者の著書プロフェーティン・シュリフテンと関係があるんです」
騎士カリムが告げた。能力? あぁ、残念。ルシルがいれば複製できたのに。私はルシルの複製されたものなら使えるけど、複製することは出来ない。
「預言者の著書は、半年から数年先の未来を書き出した詩文形式の預言書を作成することが出来ます」
騎士カリムは、手にしていた手の平に乗るくらいの紙束を纏めていた紐を解いた。すると光を発しながら紙束がバラけて、騎士カリムの周りを囲むようにして回り始めた。かなりすごい能力かと思ったけど、ミッドの衛星軌道にある2つの月の魔力によって、年一にしか発動できないって事だ。
じゃあ、ルシルが複製しても意味はない。この世界限定なら尚更。そういう制限のないものはルシルもすでにいくつか持ってるから余計にだ。それにルシルの固有魔術にもあった気がする。なんだっけ、コード・ミーミルだったかな?
「預言の中身は古代ベルカ語となりますので、解釈によって内容が大きく変わってしまい、しかも次元世界に起こる事件をランダムで記されるだけと言う、実用性に少々欠けてしまうのです。それだけでなく、正しく解釈しても的中率はお世辞に言っても良いわけではないので、あまり便利ではない能力なんです・・・」
騎士カリムの周りを回っている紙片のうち3枚の紙が、私、なのは、フェイトの前に飛んできた。さらっと目を通してみる。書かれた文書は私の世界で使っていた言語に似て、少し読める。やっぱりベルカと、故郷レーベンヴェルトは関係があるようだ。
「「・・・?」」
チラッとなのはとフェイトを見てみる。私と違って、なのはとフェイトはさっぱりなようで、首を横に振ってお手上げといった風だ。ていうか、騎士カリムには大変失礼だけど、預言者の著書使えねぇ~。
「騎士カリムのこの予言には聖王教会はもちろんのこと、次元航行部隊の上層部も目を通す。まぁ信用するかどうかは別問題となっているが、有識者による予想情報の1つとして捉えてもらっている」
「でもな、地上部隊はこの予言の事を良く思ってない」
「ああ、そう言えば有名だもんね、ゲイズ中将のレアスキル嫌い」
レジアス・ゲイズ中将。平和を求める姿勢は良いけど、どっか危なっかしいんだよね。優秀で地上の正義の守護者って聞くけど、黒い噂も絶えない。でも地上部隊における下からの信頼が厚い。まったくもって面倒な人だ。
「で、だ。騎士カリムの予言に、数年前から少しずつだが、ある事件が書き出され始めたんだ」
クロノが騎士カリムに視線を向け、騎士カリムはそれに応えるようにしてその予言を思われる言葉を口にし始めた。
「旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。死者たちは踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けとし、数多の海を守る法の船は砕け落ちる」
なのはとフェイトが息を呑むのが判った。抽象的だけど、頭が冴える人なら判るだろう。旧い結晶、おそらく“レリック”。大地の法の塔、これは地上本部だね。数多の海を守る法の船、これはおそらく本局の事だ。つまり、レリックが原因として管理局が焼け落ちて、それが先駆けとなって本局が滅ぶ、と。騎士カリムも抽象的な予言を解釈して、私の思っていたようなことをみんなに告げた。なのはとフェイトが目を見開いた。私はこういうのには慣れている手前、若干驚きが小さい。
「実はこれだけではないんだ。この予言にはまだ続きがある」
地上本部の壊滅に管理システムの崩壊、それに続く出来事なんて予想が容易く出来る。
「そうなのですが、こういったことは初めてなので未だ全てを解読できていません」
「ん? あの、解読できないというのはどういうことなんでしょうか? 完璧な解釈は出来なくとも、古代ベルカ語を読めるんですよね・・・?」
こうして予言の解釈とかを行うことが出来るのだから、古代だろうと読めないことはないはず。だから私は疑問を口にしてみた。すると騎士カリムは少し逡巡した後、別の紙を自分の目の前に持ってきた。それが解読できていない予言が書かれたものなんだろう。
「・・・さっきの予言の続きだけが古代ベルカ語ではないんです。使われている言語がバラバラで、使われていた世界も時代もまた統一されていません。現時点で解読できたのはたったの一行の一部だけなんです」
かなり戸惑っている様子だ。自分の能力に今までなかった異常があればそうなってもおかしくはない、か。
「現状で解読できている予言はこうです。“その果てに大罪を標として、遥かに高き破滅の座より”・・・、ここまでです」
今度こそ私は驚愕した。この予言の内容からして“大罪ペッカートゥム”の目的が判ったからだ。ヤツらは“絶対殲滅対象アポリュオン”の誰か(しかもかなり高位の)をこの世界に呼び入れるために、この世界で活動しているんだ。
そうなるとこの世界の結末は唯一つ。純粋な滅びでしかない。たぶん、それが私とルシルに与えられた本契約の内容。予言にはまだ続きがあるみたいだし、解読できていない部分に正確なことが書かれている可能性がある。
「残りの部分の解読には、無限書庫司書長のユーノを筆頭とした考古学者も当たっている。確かに気になる内容だが、現時点では全くの不透明なものだ。だから、現状ではすでに解読を終えている部分にのみ力を注ごうと思ってる。それを防ぐことが出来れば、解読を終えていない部分も事前に防げることになるからな」
クロノの言葉に、なのはとフェイトは強く頷いて応えた。もちろん私もそれに続いて頷くけど、頭の中はすでに“アポリュオン”のことでいっぱいだ。管理局本局を潰して、ヤツらに何のメリットがあるのか。世界の管理組織であっても、所属しているのが神秘を失った人間である以上は障害にすらない。
真っ向から衝突しても本局くらい余裕で破壊できる。それが人外たる私たちの力だ。深く考えているところに、「シャル。ちょっといいか」ってクロノが声をかけてきたのに気付いて、「ほへ?」と思考を一時中断。
「騎士シャルロッテ。本来なら、たとえ地上本部が攻撃を受け崩壊したとしても、そのまま本局が崩壊するようなことはまずあり得ないでしょう。ですが・・・」
「うん。そこでな、シャルちゃん。ここで私らが行き着いたんが、ペッカートゥムなんや。一般的な魔導師では手も足も出せへん相手が今このミッドに来とる。それが何らかの手を使って、スカリエッティ達と協力して本局を・・・って」
「あぁなるほど。でも、ペッカートゥムの連中が何をしても本局を潰すなんて無理だよ。確かにヤツらなら本局に居る人員や艦船と言った戦力くらい苦も無く無力化できるはず。でも、そうならないように私とルシルがミッドに居て、連中を消すために六課に身を置いてる。・・・でも、地上本部が連中に襲撃されたら、たぶん最悪な結末になるかもしれない。クロノ、壊滅的な事が示唆されているわけだけど、地上本部はどういう対策を取るの?」
「君も元は地上本部に所属していたんだ。しかもゲイズ中将の事も知っているだろ。中将は予言を一切信用していない。だから通常通り、特別な対策は取らないとのことだ」
まったく、あのヒゲ親父はどうにかならないものかな~。いっそのことルシルの複製能力とかで黙らせられないかな~? 確か、相手に絶対の命令を強いる、絶対遵守の能力があったはずだ。その能力で、ヒゲ親父をルシルの操り人形にでもしてしまえば問題解決・・・って、ダメすぎよねさすがに。
「自分の信じることや正義を貫くのは勝手だけど、それで招いてしまう滅亡もあるって、どうして判らないかなぁ」
「やはり異なる意志を持つ組織が協力し合うのは、哀しい事ですが困難です・・・」
「協力を申請したとしても、それを強制介入・干渉と捉えられてしまってはすぐにでも争いの種となってしまうだろう」
なるほど掴めてきたよ、“機動六課”の設立の真相が。はやて達はその争いの種が現実になることをどうにかして防ぎたいんだ。予言が外れればそれで結構、表向きの理由もあるから問題にはならない。そして、もし予言が当たっていれば、すぐに自由に動き出せる戦力のある部隊が必要になる。それが“機動六課”。これでようやくこの部隊の過剰戦力についても納得できた。
「そっか。地上本部の武力や発言力の強さ、また一段と強くなってるみたいだもんね。これ以上本局と地上本部の確執を生みださないために、表立っての主力の投入は出来ないわけ、だ」
「まぁおおよそはシャルの言うとおりだ。みんなには本当にすまないと思う。こういった後ろ暗い政治的な話は、出来るだけ現場に持ち込みたくないんだが・・・」
それはどこの世界でも、いつの時代でも抱える問題の1つだ。現場は常にそういった上層部の政治云々で乱される。少しは現場のことも考えてほしいものだよね。
「どんな手段を使ってでも地上で自由に動くことが出来る部隊が必要やった。レリックの件だけで事が済めばええし、もし大きな事態になってしまったとしても、最前線で事態を見守って、地上本部が本格的に動くか、本局と教会の主力が投入されるまでの間、頑張るのが私ら六課で・・・。それが六課の意義、ということなんや」
ようやくはやての口から発せられた“機動六課”の真実。なのはとフェイトは頷いて応えた。私も“大罪ペッカートゥム”と“アポリュオン”が関わってくる以上は全力でみんなを助ける。
「シャル、そしてこの場に居ないルシルにも改めてお願いしたい。どうか、君たち2人の力を僕たちに貸してくれ。君たちにも君たちなりの事情があるだろうが、今回の一件が終わるま――」
「はいストップ!!」
クロノが椅子から立ち上がって、私に頭を下げてまで頼み込んでこようとしたから止める。そんなことしなくても助けるに決まってるでしょ、バカ。
「私の答えも、ルシルの答えも、とっくの昔に決まってる。事情なんて気にしないで。大切な友人が困っているのに手を貸さない馬鹿がどこにいると思う? だから頭を下げる必要もない。こっちが好きでやるんだから、好きなだけ使ってくれていい。そもそも無関係じゃないしさ。ペッカートゥムも管理局に関わっちゃっているし。私たちがみんなから貰った幸福のお返しはまだ出来ていないんだから」
守るための戦い。それは騎士として、そして守護神としての私が望んでいたものだ。その守るものが友人だというのなら尚更喜ばしいことじゃないの。
「というわけでクロノ。今から少しでも頭を下げたらマジでキレるから。だからやめてよ」
クロノに少し怒鳴るように言って頭を下げさせないように釘を刺しておく。クロノは立場としてそうしたんだろうけど、こういう場合は友人として頼ってほしいものだ。全力でみんなを守ってみせるよ。たとえ何が来ようとも・・・みんなを害するものは全て・・・。
(殺し尽くしてやるわ)
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「「ただいまー!」」
「「おかえりなさい」」
フェイトとなのはが帰ってきた。が、エリオとキャロが小さな声で囁くようにして返事する。私も小声で「おかえり」と返す。私に寄りかかって眠っているヴィヴィオを起こさないように注意しているからだ。
フェイトとなのはも私とヴィヴィオの様子に気付き、ハッとして2人は人差し指を自分の唇にあてた。私はヴィヴィオを起こさないように細心の注意を払ってゆっくりと横にしてからそっと立ち上がり、ソファにまで歩み寄ってきた2人と場所を入れ替わる。
『眠っちゃってるんだね』
『ああ。さっきまでは起きていたんだけどな』
声を出すとヴィヴィオが起きてしまうかもしれないから、ここからは念話での話になる。
『ありがとう、ルシル君。エリオとキャロもありがとう』
『いえ、僕たちはルシルさんのお手伝いをしただけで・・・』
『そんなことはないぞ、エリオ。エリオとキャロの2人が居てくれて本当に助かった』
『そっか。エリオ、キャロ、ありがとう』
エリオとキャロは本当に頑張ってくれた。時折エリオは難しい顔をしていたが、何だったんだろうな。私がエリオとキャロの頭を撫でていると、フェイトが2人をそっと優しく抱きしめた。微笑ましい光景だ。とそこに『ルシル。話があるの。すぐに部屋に戻って1人になって』とシャルからリンク。いつもの弾んだ声ではなく、かなり焦りのある声色だった。『判った』と返し、リンクを切る。
『それじゃ、私は戻るよ』
『うん、今日は本当にありがとう。おやすみ、ルシル君』
『お休みなさい、ルシル』
『ああ、お休み、フェイト、なのは。エリオとキャロも明日早いから、そろそろ休むようにな』
『『はいっ』』
フェイト達と交わし、私は自室へと早足で戻った。
後書き
フェイトのヴィヴィオあやしスキルを、ルシルにさせてすいません。
ルシルのスキルの多さを何となく出すためにこうなりました。
そして予言について。
ペッカートゥムの目的、シャルシルの本契約?をチラッと登場させました。
後半部分を、他の言語で書かれたために解読できないとしたのは、ここで書くのもつまらないと思ったためです。
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