八条学園怪異譚
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第五十一話 オペラ座の怪人その八
「出てたからね」
「その時のルパンにそっくりだっていうのね」
「ええ、外見はね」
「かもね、似てるわね」
花子さんが応える。
「言われてみれば」
「そうよね」
「ううん、私としては」
愛実も怪人を観ている、彼女はこう言った。
「ルパンよりも何処かの貴族とか?」
「欧州のよね」
花子さんは愛実にも応えた。
「そっちの方のよね」
「仮面舞踏会とかあったのよね」
欧州での貴族達の遊びの一つだ、お互いに顔を隠して仮の人格になって遊ぶというものだった。逢引にもよく使われた。
「そういうのみたいだけれど」
「そっちも似てるわね」
「でしょ?私はそっちをイメージしたけれど」
愛実は今も観ながら言う。
「どうかしら」
「まあどっちもね」
あると答えた花子さんだった。
「似てるわね」
「そうよね、怪盗というか貴族というか」
「そんな格好よね」
「気品のある人だよ」
口裂け女は二人にこのことを話した。
「まさに紳士だよ」
「それでその紳士の人とよね」
「後で」
「この舞台が終わったらね」
その時にだというのだ。
「行こうね」
「うん、じゃあね」
「その時にね」
二人もまずは舞台を観ることにした、舞台はまさに能の美があるものだった。
その美を観ながらだ、愛実は聖花に言った。
「ねえ、能ってね」
「うん、前も観たけれどね」
八条学園では芸術鑑賞も行うのだ、それで二人も能を観たことがあるのだ。
その時から感じていることをだ、愛実は聖花に言い聖花も愛実に応えるのだ。
「不思議よね」
「この目で観てるのにね」
「この世にないみたいで」
「幻を観てるみたい」
そうした感じだとだ、二人で話しつつ観ているのだった。
「それが不思議よね」
「本当にね」
こう話している二人にだ、口裂け女が言って来た。
「あれだね、幽幻だね」
「それなの、この感覚って」
「幽幻っていうの」
「そうだよ、そんなことをろく子さんから聞いたよ」
妖怪達の中でとりわけインテリの彼女からだというのだ。
「こうした感覚は幽幻っていうんだよ」
「そうなのね、それが能なのね」
「幽幻なのね」
「そうみたいだね、あたしもいいと思うよ」
この幽幻がだというのだ。
「能にある、何か最後には幻の中に消えてしまいそうなね」
「ううん、何かもう」
「この世にあるのを観ていない気がするわ」
二人は能のその消えてしまう様な舞台を観て思うのだった、そしてその舞台が終わると。
妖怪も幽霊達も静かだ、その中でテケテケが車椅子に乗り換えてからそのうえで一行に対して言って来た。
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