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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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ホテル・アグスタ

†††Sideシャルロッテ†††

「――改めて、ここまでの流れと今日の任務の再確認するから、よお聴いておいてな」

私たちは今、ヴァイスの操縦するヘリに搭乗して、ある任務を遂行するために現場へと向ってる。

「これまで一切合財謎に包まれてたガジェットドローンの製作者、そしてレリックを収集してたんはこの男――」

私たちの前にモニターが展開されて、先日私とルシルにコンタクトを取ってきた人間、ジェイル・スカリエッティの画像が映し出された。

「違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティと断定して捜査を進めてく」

「ジェイル・スカリエッティの捜査は主に私が務めることになる。でも一応みんなも覚えておいてね」

「「「「はい!」」」」

フォワードのみんなもそれに頷いて応えた。さ~て、スカリエッティはどこまでヤツらに利用されて滅ぼされるか。馬鹿な人間だよねまったく。利用されるだけされて、どうせ見捨てられるんだ。

「で、今日これから向かう先はここ、ホテル・アグスタです!」

リインの言葉とともにスカリエッティの画像からホテル・アグスタの外観図に変わる。ホテル・アグスタ。そこで行われる骨董美術品オークションの会場の警備と人員の警護が、今回の“機動六課”の任務となっている。
取引許可の出ているロストロギアがそのオークションに複数出品されるらしいんだけど、その反応を“レリック”と誤認したガジェットが来る可能性がある、と。そうなってしまった場合の事を危惧して、“レリック”と“ガジェット”両方の捜査をしている私たち“機動六課”にこの仕事が来たというわけなのだ。

「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑にもなることもある。くれぐれも油断はしないようにね」

「現場には昨夜からシグナム・ヴィータ両副隊長と数名の隊員が張ってくれてる。そんで、私となのは隊長とフェイト隊長は、ホテル内の警備に回ることになる」

「うん。だから前線のみんなは副隊長の指示に従って外の警備をお願いするね」

「シャルちゃんは前線のフォローにも回ってあげてくれるか。そんでもしレーガートゥスが現れたら、可能な限り被害を出さずに対処してな」

「ん。了解。任せておいて」

はやてにそう応えて、フォワードのフォローという任務の追加に了承する。私はガジェットに追随してくる可能性のある“レーガートゥス”の対処が任務となる。ちなみにルシルは先日のこともあって六課隊舎で待機となっている。確率はそんなにないけど、隊舎に何かしらのアクションを起こすかもしれないから。
私は意気込んでる新人たちを見る。もし私がレーガートゥスの対処に追われた場合、この子たちはうまく立ち回れるか。ま、訓練を見ている限りガジェット相手に遅れを取るような子たちじゃないと思ってたり。もし“レーガートゥス”が出て来なかったら、私、かなり暇をするかも・・・。

「あのシャマル先生、さっきから気になってたんですけどその箱って・・・」

キャロが指をさす場所には3つの箱。私の知る限り、ああいうのには何らかの衣装が入ってると思うんだけど・・・。

「うん? あぁコレ? うふふ、これは隊長たちのお仕事着よ♪」

ずいぶんと楽しそうに語るな~、シャマル。そうこうしているうちにホテル・アグスタに到着。ヘリポートへと降り立った私たちは、定められた役割を果たすために解散した。んで、私はというとシャマルから仕事着のことを聞き、ケータイ片手に更衣室の前でなのは達を待ち伏せ中である。目的はもちろん、お留守番をしているルシルにフェイトのドレス姿を送るためだ。あぁ、私はなんて義弟想いな義姉なんだろう。感謝してよ、ルシル。

「何してるのシャルちゃん?」

「なんやシャルちゃん、隠し撮りはアカンよ?」

「か、隠し撮り!?」

「・・・盗撮犯なんかじゃないんだけど・・・」

扉を開けて出てきた3人から放たれる冷ややかな視線が私を貫いた。ていうかちょっぴりショックだよ、フェイト。まさかそんな目で見られる日が来るとは思いもしなかったよ・・・。

「そうじゃなくて、すこ~し撮らせてほしいなぁ・・・なんて」

「それは別にいいんだけど・・・悪用とかしないよね?」

「もちろん♪」

3人のドレス写真をゲットゲットぉ、ゲットだぜ☆ え~と、こういうときは・・・“シャルロッテはレア写真を手に入れた❤”でいいんだっけ? そんじゃ早速送信送信っと。

――フェイトのドレス姿、率直な感想を返信せよ。つまらなかったら女装の刑に処す。by義姉――

そうメールを打って送信完了っと、一体どんな感想が来るか楽しみでしょうがない。

「それじゃ3人とも中で頑張ってね~♪」

「シャルちゃんもみんなをお願いね」

「まっかせておいて❤」

さてさて、あの子たちの様子でも見に行きましょうか。オークション会場へと向かうなのは達を見送って、私もようやく行動を開始する。

「確かエリオとキャロにはザフィーラがついてるはずだし・・・スバルとティアナ組の方にでも行ってみようかな」

†††Sideシャルロッテ⇒????†††

『――シグナム・ヴィータ副隊長とシャマル先生とザフィーラ、そしてリイン曹長の6人は、八神部隊長個人が保有している特別戦力ってことなんだけど・・・。でも八神部隊長たちの詳細って特秘事項扱いだから、あたしも・・・というか、幼馴染ななのはさん達以外は誰も知らないんじゃないかな』

外を警備している最中、あたしはスバルに八神部隊長たちの話を聞いていた。これまでもずっと気になっていたことだったから。けど一切の情報公開は無し、か。やっぱりレアスキル持ちの人はみんな秘匿扱いなのよね。

『ティア、八神部隊長たちのこと、なんか気になってるの?』

『別になんでもないわ。ありがと、スバル』

『ううん、これくらいお安い御用だよ、ティア。そんじゃまたあとでね』

『ん』

短く答えてスバルとの念話を閉じる。あたしの隣では、シャルさんが鼻歌混じりで周囲を警戒している(ようには見えない)。でも実際にそう見えないだけで、実はきっちりとしている(と思う)。

「どうしたの?」

「あ、いえ」

シャルさんから視線を逸らして、周囲を警戒しながらも思考に入る。思考の内容、それは今まで気になっていたことについて、だ。あたしが思うに、六課の戦力は異常とも言える過剰なものだ。なにせ普通は決して揃うようなことが無い、S+ランク・S-ランクの魔導師・騎士が一個部隊内の隊長格として居るんだから。
それだけじゃない。そんな高ランク保有の隊長格とは別の、他の隊員たちだって未来のエリートばかり。それにあの歳でBランクを取ってるエリオと、レアで強力な竜召喚士のキャロ。この時点で、すでに2人とも将来が約束されたようなものだ。

(そして危なっかしくても潜在能力と可能性の塊であるスバル・・・)

六課の協力者として迎え入れられたシャルさんは陸戦最強とされ、若干17歳で三等陸佐にまで登り詰めた天才魔導師――ううん、騎士だ。そしてシャルさんと同じように協力者として迎え入れられた弟のルシルさん。空戦においては管理局最速にして最強と謳われ、17歳で一等空佐にまでなった過去に例を見ない超エリート。それ程の実力を持ち、高い地位に就いていながら突然辞職したと結構騒ぎになっていた。そんなすごい人たちに比べてあたしは何も持っていない凡人だ。でも、それでもあたしは立ち止まるわけにはいかないわ。

「ティアナ。私じゃ頼りないかもだけど、心配事があるなら相談に乗るよ?」

いつの間にかあたしの目の前にいたシャルさんがそう訊いてきた。あたしを覗き込むようにして見詰めてくるシャルさん。あたしはシャルさんの綺麗な桃色の瞳の輝きに、完全に魅了されていた。

「・・・いえ、何でもないんです。すいません」

でもあたしは何も言うことが出来なかった。あたしから見て、シャルさんは隊長たち以上のエリート。そんなシャルさんが何を言っても説得力がない、って思ってしまったから。だからごめんなさい。そんな失礼なことを思ってしまって。

「そっか。でも溜め込むより話した方がいいんだよ、ティアナ。1人で解決出来なくても、みんなを頼れば解決できることだってあるんだから」

「シャルさんにもあったんですか? その、シャルさんみたいなすごい人でも独りだと出来ないことが・・・?」

それはたぶん嘘。聞いた話だと10歳になる頃にはすでにSランクに匹敵する騎士だったという噂だ。

「あるよ。だってそれが普通なんだよ、ティアナ。どんなに強くたって、人ひとりの力なんて高が知れてる。だから人は助け合って生きていく。だって1人じゃすぐに壊れてしまうんだから」

シャルさんは私から離れて遠い空を見上げていた。少しだけ見えたシャルさんの横顔はとても寂しそうだった。シャルさんにも、あたし達の知らない何かがきっとあるのだろうか。

「それじゃ私はもう行くね」

「あ、はい」

「ふんふんふふ~~ん♪」

シャルさんはまた鼻歌を歌いながら去っていった。でもシャルさん、これだけは思ってもいいですよね?

「・・・さっきからずっと音程・・・ずれてますよ?」

シャルさんは音痴だということが判った。なんか可愛らしい欠点だな、と思ったことは胸にしまっておこう。そしてこのすぐあと、ロングアーチからガジェット出現の報が入った。私は戻ってきたシャルさんと一緒にホテル・アグスタへと向かった。

・―・―・―・―・

オークション会場よりある程度離れた深い森林の中に2つの影。その2つの影――大柄な男と小柄な少女は、眼下に広がる森林に立ち上る黒煙を見ていた。それはガジェットの迎撃に赴いた機動六課の2人の副隊長、シグナムとヴィータによるガジェット撃破の証だった。

『ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア』

その2人の目の前にモニターが現れ、1人の男が挨拶を口にした。今回の事件の首謀者、ジェイル・スカリエッティだ。彼は大柄の男をゼストと呼び、小柄な少女をルーテシアと呼んだ。ルーテシアは同じく「ごきげんよう」と挨拶を返すが、ゼストと呼ばれた男は冷たく「何の用だ?」と言い放った。

『いやはや、相変わらずだね、騎士ゼスト』

スカリエッティはゼストの態度を大して気にもせずに話を進めていく。その内容は、ホテル・アグスタに在ると思われていた“レリック”は無いと判明したのだが“レリック”とは別の、実験材料として興味深い骨董を見つけたという。その骨董品を確保するために、ルーテシアとゼストに協力してもらいたい、とのことだった。

「断る。レリックが絡まぬ限りは、我らは不可侵を貫くと決めたはずだ」

スカリエッティからの依頼を考えるまでもない、と切り捨てたゼスト。しかしゼストのその返答にも動じず、スカリエッティは『ルーテシア、君はどうだろうか?』とルーテシアの返答を聞いている。ルーテシアは俯いていた顔を上げて「いいよ」とそう一言、依頼を受けることを承諾した。

『優しいなぁ、ルーテシア。感謝するよ。今度ぜひお茶とお菓子を奢らせてくれ。それでだが。ルーテシア、君のデバイス・アスクレピオスに私の欲しい物のデータを送っておいたから、確認しておいてくれ。ルーテシア、騎士ゼスト。良い知らせを期待しているよ』

「うん。じゃあごきげんよう、ドクター」

『ごきげんよう・・・。あぁそうだ。もう1つ、大切なことを言い忘れていたよ、ルーテシア。君の力を疑うわけじゃないが、今ホテルを守っている魔導師の中に少々厄介な者がいてね。その魔導師の足止めとして、こちらから助っ人を用意させてもらった。仲良くしてあげてくれると私も嬉しいな』

スカリエッティの言葉にゼストの表情に僅かだが変化が現れる。自分が信用していない男の用意した助っ人とやらに警戒しているのだ。それにルーテシアは気づかないのか「判った」とだけ告げて、スカリエッティとの通信を終えた。少しの間の沈黙。その沈黙を破ったのは、ゼストのルーテシアの名前を呼ぶ声だった。

「・・・っ! ルーテシア・・・!」

ゼストはルーテシアを庇うようにして前に躍り出る。目の前に現れたのは波打つ空間。その空間から現れたのはルーテシアくらいの少女だった。
レースとフリルが多くあしらわれた蒼いドレスに身を包み、頭部にも同様に蒼い大きなリボンのついたヘッドドレスを着けている。瞳は深い翠色、髪はショートカットの紺色といった感じだろう。そしてクジラのぬいぐるみを両手で抱えて、ぬいぐるみの頭で口元を隠していた。
一見どこからどう見てもただの少女でしかない。一切の魔力も感じられず、それ以前に存在感すらハッキリと感じ取れることが出来ない。人間のようであって人間ではないもの。それがこの少女だった。

「今のは転移魔法ではないな。何者だ、お前がスカリエッティの言っていた助っ人とやらか?」

ゼストは静かに、されど高圧的に目の前に現れた少女に問いかける。少女はその問いにただ「うん」とだけ頷いた。正直ゼストは今、スカリエッティの考えが本気で解らなくなっていた。魔導師ですらない、このような幼い少女に一体何が出来るのか、と。

「待って、ゼスト」

ルーテシアはゼストの背後から前へと移動して、少女ときちんと顔を合わせる。お互いに表情が乏しいためどこか似ている2人だった。

「わたしはルーテシア、ルーテシア・アルピーノ。あなたは?」

「・・・許されざる嫉妬・・レヴィヤタン。・・・レヴィ・・・でいい・・・」

レヴィヤタンは逡巡したあと、そう静かに告げた。レヴィヤタンは抱いているクジラのぬいぐるみを強く抱きしめて、未だに自分に警戒しているゼストへと視線を移す。

「・・・ゼストだ(許されざる嫉妬・・・? コードネームか?)」

ゼストは半ば諦めたように自分の名前を告げると、レヴィヤタンはそれに頷いて応えた。ゼストは2人に気づかれないほどの小さな溜息を吐いた後、ルーテシアへと向き直った。

「ルーテシア、本当にいいのか?」

「うん。ゼストやアギトはドクターを嫌うけど、わたしはドクター達のこと、嫌いじゃないから」

「そうか」

ルーテシアは羽織っていたコートをゼストに預け、召喚魔法陣を展開した。ゼストとレヴィヤタンはそれを少し離れたところから見守っている。

「我は乞う、小さきもの、羽ばたくもの。言の葉に応え、我が命を果たせ。召喚、インゼクトツーク」

ルーテシアの詠唱が終わり、召喚魔法陣からどこか無機質な多数の羽虫が現れた。

「ミッション・オブジェクトコントロール。いってらっしゃい」

ルーテシアの周囲に飛んでいたソレらは、彼女の言葉を合図に飛び立って行った。それを確認したレヴィヤタンは静かに音もなく歩を進める。

「・・・わたしも・・・行ってくる・・」

「レヴィも気をつけてね」

「??・・・あ、ありが・・・とう・・・」

現れた時と同じように空間が波打ち、レヴィヤタンは姿を完全に消した。

†††Sideシャルロッテ†††

「遠隔召喚、来ます!!」

私たちの目の前に4つの召喚魔法陣が浮かび、そこから何機ものガジェットⅠ型が現れた。エリオとスバルがその光景に驚いている。戦闘中にいちいち驚いていると危険だよ2人とも。戦場において、意識を逸らすのは一番いけないこと。咄嗟の判断と行動が出来なくなっちゃうからね。

「優れた召喚士は、転送魔法のエキスパートでもあるんです!」

それにしても本当に変わるものだね。転送術式なんて昔だと結構レベルの高い術式だったのに、現在じゃポンポン使われてるし。時代の移り変わり、魔術からの魔法へと変異。普通の人間なら決して見ることも体感することも出来ないその奇跡を、私は経験してる。なんてことを思いながら、私はいつでもみんなのフォローに移れるように待機しておく。

「何でもいいわ、迎撃いくわよ」

「おうっ!」「「はいっ!」」

ティアナがこの場の指揮官として動くことになってる。だから3人は力強く応えて臨戦態勢に入った。

「シャルさん、数が多いので左方から来るガジェットを任してもいいでしょうか?」

「了解。遠慮なんかせずに好きなように使ってくれればいいから」

「え、はい!」

ティアナにそう答えて、この世界での相棒のアームドデバイス・“トロイメライ”を構える。久々の“トロイメライ”の戦闘で俄然やる気が出てきた。でも、だからと言ってみんなの成長を邪魔するようなヘマはしない。

「そんじゃ久々に暴れるよ、トロイメライ!」

≪Jawohl. Meister≫

あぁこれこれ、これだよ~。武器が喋って応えてくれるというのが本当にいい。私はそっと“トロイメライ”の刀身部分を優しく撫でる。

「っとと、こんなことしてる場合じゃなかった」

気を取り直して、みんなと少し離れてしまう場所でガジェット掃討に移る。まずは手始めに一番近いガジェットⅠ型を3機と真っ二つに斬り裂いて破壊して、その勢いのままⅢ型も破壊、と。そう狙いをつけてガジェット群へと突撃したけど、紙一重の差で回避されてしまった。

「・・・あれ?」

さっき来たロングアーチからの報告どおり、確かにガジェットの動きが明らかに良くなっている。AIじゃなくて人の意思による有人操作へと切り替わった、って。そのお陰でさっきの一撃で破壊するつもりだったⅠ型の3機は健在。私が突っ立ていることで、ガジェットが物凄い勢いで攻撃してきた。

≪Seelisch Widerstand≫

もちろんそんな簡単に墜とされる私じゃない。対魔力障壁を四方に展開してガジェットの攻撃を防ぐ。

「そっかそっか。でも無駄な足掻きって言うんだよ、それは・・・。トロイメライ」

≪Eiszapfen Flügel≫

――氷牙凍羽刃(アイス・ツァプフェン・フリューゲル)――

刀身に冷気が纏わりつくことで私の周囲の気温が下がっていく。そして“トロイメライ”を横一閃に薙ぎ払い。氷の羽根を8つ、ガジェット群に向けて放つ。まぁガジェットは簡単に避けたけど、まだ終わっていないんだよ。

≪Sprengen≫

ガラスが割れたかのような音が周囲に響く。音の原因は、8つの凍羽刃が爆発したことによるもの。周囲に弾け飛ぶ細かい氷の弾丸がガジェットのAMFを突破、そして直撃を受けたガジェットを爆散させていく。

「それでも・・・たったの8機しか壊せなかったか。まぁいいか。それじゃ次は回避も防御も出来ないから、そのつもりで。・・・いきます、か!」

歩法・“閃駆”を使っての高速移動。もちろん有人操作だからこそガジェットは何1つ対応できない。私はガジェット群の合間を縫うようにして疾走した。

「まっ、こんなものよね」

“トロイメライ”を振るって肩に担ぐ。肩に峰が“トンッ”と当たった瞬間、私の背後に浮いていたガジェット9機、その全てが爆散した。

「よし、それじゃフォワードのみんなのところへと戻りますか」

私に任された仕事を終え、ある程度アグスタに近づいた時、上空をウイングロードで疾走するスバルを確認した。あれって気持ち良さそうだよね。空を飛ぶとはまた別の爽快感がありそう。私はそんな上空のスバルから、真っ直ぐ前へと視線を移す。そこに居るのは今まさにガジェットを一斉撃滅をしようとしているティアナの姿だった。

(クロスシフトAかぁ~)

ティアナの周囲には多数のスフィアが展開されている。スバルがかく乱を担当して、ティアナの誘導操作弾の一斉射撃による対象の殲滅・・・なんだけど、一体何をやっているんだか。4人が一緒に居るうちにその手は必要ない。ティアナの選択は明らかに間違っている。どうやら私の話はティアナには届いていなかったようだ。少し残念。

「シューット!」

――クロスファイアシュート――

私が念話でティアナを止めようとした時はすでに遅く、ティアナは無数のスフィアを魔力弾を放った。放たれた弾丸の第一波は見事にガジェットを捉えて破壊していく。それでもティアナは全機自分で破壊する気なのか、手を止めることなく撃ち続ける。さらに続けざまに両手に携える“クロスミラージュ”から撃った弾丸の1発がガジェットから逸れて、最悪なことにウイングロードで疾走するスバル目掛けて飛んでいくのが見えた。

「危な・・・っ!」

――我が心は拒絶する(ゼーリッシュ・ヴィーターシュタント)――

スバルと弾丸の間に割り込むようにして対魔力障壁を展開。私の障壁に弾丸は容易く防がれ消滅。そして自分に迫っていた弾丸を見ていたスバルは顔を青くして立ち止まり、撃った本人であるティアナは呆然としていた。

「この馬鹿がっ! 無茶やったうえに味方を撃ってどうすんだッ!!」

いつの間にか来ていたヴィータが肩で息をしながらティアナを怒鳴りつけた。それに対してスバルが「今のもコンビネーションの内で――」って反論しようとするけど、「ふざけろっ、どこをどう見ても直撃コースだよ!」ってヴィータは怒鳴り返す。

「ち、違うんですっ! 今のは――」

「フライハイトが居なきゃお前、今頃どうなってたか判らねぇわけでもないだろぉがっ!」

スバルの言葉を遮って再度怒鳴りつけるヴィータ。それでもスバルはティアナを擁護するために言葉を紡ごうとしてる。

「待ちなさい、スバル」

「・・・シャルさん・・・?」

私もさすがにこれ以上黙っているわけにもいかない。だからスバルの名前を呼んだ。

「ねぇスバル。気づいたときにはもう回避できないの、判ってたでしょ?」

「っ、そんなことは――」

「あなたはとても優しいのは判るよ。うん、だからティアナを庇いたい気持ちも、まぁ判る。でもね、今のティアナを庇うことは間違ってるし、逆にその優しさがティアナを傷つけるんだよ」

私の言葉を聞いてスバルはティアナへと視線を移す。そこには未だに俯いて立ち竦んでいるティアナが居た。

「今回のミスはティアナが一番判っているし傷ついていると思う。何せ大切なパートナーのスバルを、もう少しで自分の攻撃で傷つけていたのだから」

「はぁ、テメェら2人はすっこんでろ。ここはあたしとフライハイトで片付ける」

「っ!」

ヴィータに邪魔だから消えろ(←ここまで酷くない)と言われたスバルとティアナの肩が震えた。つまりヴィータが言いたいのはたぶん、こういうことだろう。

「スバル、ティアナについていてあげて。今のティアナは1人だと危ないから、ね。 それにスバルならティアナを何とか出来るでしょ?と、我らが副隊長ヴィータちゃんは仰いました」

「言ってねぇだろっ! あと、ちゃん付けすんなっ!」

「でもそう言いたかったんでしょ?」

「んなわけあるかっ!」

そこまで捻くれなくてもいいのに、ヴィータは素直じゃないな~。必死になるところがまだまだ甘いよ、ヴィータ。

「ヴィータ副隊長、シャルさん、ありがとうございます!」

「ああもう、いいからとっとと行け。しっしっ」

「スバル、ティアナをよろしくね~」

スバルがティアナを連れて下がって行ったのを確認した。さてと、もう一暴れといこうかな。肩に担いでいた“トロイメライ”をスッと正眼に構え、いざ臨戦態勢に。

『こちらライトニング2シグナム。戦闘区域にて民間人を発見し保護。身なりからしてオークションに参加する客の子供と思われる。年齢は10歳前後、性別は女。誰か手の空いている者に引き取りに来てもらいたい』

残るガジェットからの攻撃を待ち構えているところでシグナムからそう通信が入る。シグナムが担当しているのは結構深い森の中のはずだ。そんなところに子供がいるわけ・・・・まさか。

「こちらフライハイト。シグナム、その子に名前を聞いてもらってもいい?」

ヤツら“ペッカートゥム”や“レーガートゥス”の反応はない。だからそれはないと思いたい。でも一度疑ったらもう止まらない。

『・・・レヴィヤタン、だそうだ』

「・・・っ!」

最悪すぎるでしょ。まさか神秘を感知できないヤツがいたなんて。いくらヤツの分身体の中では最弱とされる嫉妬レヴィヤタンでも、さすがのシグナムですら話にならずに負ける。

「シグナム、すぐに撤退を! 私がそっちに向かう!」

「例のヤツか!?」

ヴィータも真剣な面持ちで訊いてきた。私は頷いて応え、この場のガジェット掃討をヴィータに任せることにして、超特急でシグナムとレヴィヤタンの居る森へと飛んだ。

†††Sideシャルロッテ⇒シグナム†††

「紫電・・・一閃!」

「・・・・」

私の渾身の一撃を何の防御もせずにその細い体で受け止める少女。“レヴァンティン”の炎が一瞬のうちに消えるが、そのまま力を籠めて“レヴァンティン”を押す。

(堅い? いや、違う。・・・・なんだ、この手応えは・・・?)

少女の名はレヴィヤタン。以前の隊長会議で、此度の事件の首謀者であるジェイル・スカリエッティに協力している一派の1人として挙げられた名前を持つ少女だ。

「・・・まだ・・・」

“ペッカートゥム”。人間のようであって人間ではない虚構の存在。かつて理解に少々苦しんだ神秘という力の塊。同じ神秘でしか打倒できないモノ。人間ではない、ということはすでに聞き及んでいるが、やはりどう見ても人間でしかない。そしてその目的は不明。だがスカリエッティに何かしらの協力をしているらしい、とのことだ。

「今まで多くの敵と戦ってきたが、一切の攻撃が通用しないというのは嫌なものだな。ここまで通用しないとは、呆れを通り越して笑いがこみ上げてくる」

距離を取り、レヴィヤタンと名乗った少女と向き合う。ガジェットの掃討は先に撤退させたザフィーラに任せてある。私にも撤退するようにフライハイトに言われたが、少女の目的が判明していない以上はこのまま1人にさせるわけにもいくまい。“レヴァンティン”を構え直し、「目的はなんだ?」と問いかけたところで、あの少女の姿がないことに気づく。

「消えた、だと・・・?」

一瞬のうちに姿を消した少女の姿を探す。

(まばたきの瞬間を狙われた・・・?)

気配はない。が、おそらくどこかに居るはずだと本能が告げてくる。最大に警戒していた。だと言うのに耳元で囁かれた「・・・それが・・・限界」という、感情の見えない一言。振り返ると、そこにはクジラのぬいぐるみを私の顔へ向けて突き出した状態の少女が居た。

「・・・わたしには・・・勝てない」

――Mors certa/死は確実――

その直後にそのぬいぐるみから閃光が発せられる。しかし魔力が一切感じられない。しかし避けろという警鐘が頭の中に鳴り響く。

「・・・っく!」

発せられた閃光は砲撃と化した。私は体を捻るようにして紙一重で回避し、無駄だと知りつつ遠心力を載せた“レヴァンティン”を叩きつける。刃は間違いなく少女の頬に当たっているものの何1つ傷が付かないうえ、逆に私の右手に鈍い痛みと痺れが襲ってきた。サッと一足飛びで後退したところで、フライハイトから『離れて、シグナム!』と思念通話が届く。

「・・・来た・・・第三の力(しろいろ)・・・」

「はあああああっ!!」

少女の背後に乱立している木々の間から、真紅の翼を羽ばたかせたフライハイトが突進してきた。その手に持っているのは“トロイメライ”ではなく“キルシュブリューテ”。神秘を宿すと言われた武器だ。だが少女はフライハイトの一撃を難なく回避した。

「チッ。見もしないで避けるとか・・・!」

小さく舌打ちをしたフライハイトは私の傍へと降り立ち、「ごめん、遅くなった。あとは私に任せて、ガジェットの方をお願い」と謝罪を述べる。ここに居ても私は何も出来はしない。ゆえに「・・・ああ、任せた」と、素直に応じる。傷1つとして付けられないようでは私は通常任務に戻り、レヴィヤタンはフライハイトに託すしかないだろう。

・―・―・―・―・―・

「ようやく現れたと思えば、初撃を容易く回避されるとは腕が落ちたな」

ジェイル・スカリエッティのラボにて1人の男がモニターに映るシャルロッテを見、静かにそう嘆息した。歳は外見からして20代半ば。服装は白いスーツに、目立つ赤いネクタイを締めている。茶色の髪を無造作に伸ばし、その金色の双眸でシャルロッテを見つめている。

「すまなかったね、彼女を借りて。レヴィヤタンは3rd・テスタメント君に敗れてしまうのだろう?」

男の隣に立つスカリエッティは、自分の秘書である女性ウーノが淹れた紅茶を飲みながら男に向かって謝罪の言葉を口にした。

「気にするな。こちらとしても三番の現状の力を見れたことには感謝しているんだ」

男はスカリエッティと同様に紅茶を飲みながらそう答えた。

「それに許されざる嫉妬(レヴィヤタン)なら大丈夫だろう。何せ今の三番は駄目だからな。いくら人間の器に閉じ込められようと弱くなり過ぎだ。あれではおそらく許されざる傲慢(オレ)にすら苦戦を強いられるだろうな」

「そうなのかい? ならこのままルーテシア達と共に行動させてもいいかな?」

スカリエッティのその言葉を聞いた男は少し逡巡した後に「好きにしろ」と答えた。そこに『ご歓談中、申し訳ありませんと、2人の間にモニターが展開された。

『ドクター。お嬢様のガリューが例の物の入手に成功しました』

モニターに映るウーノが、ルーテシアがスカリエッティの依頼を無事に終えたことを報告した。

「そうかい、さすがはルーテシアとガリューだね。ではルシファー。レヴィヤタンにルーテシアと合流するように頼んでもらってもいいかな?」

「判った。レヴィヤタン。ルーテシアと合流して、しばらく彼女たちと同行してくれ」
 
許されざる傲慢たるルシファーはどこを見ずともそう告げた。

・―・―・―・―・―・

「・・・もう・・・終わり?・・・戻らないと・・・」

私の“キルシュブリューテ”の攻撃を紙一重で回避していたレヴィヤタンが呟いた。正直、甘く見ていた。簡単に勝てると思っていたのに、与えることが出来たのは八撃だけだった。しかしどれもレヴィヤタンを消滅させるまでには至っていない、浅いダメージばかり。

「他の連中が帰って来い、って言っているわけね」

もちろん逃がすわけにはいかない。ここで数を減らしておかないと、後々厄介なことになると思ったからだ。

「・・・来て・・・罪眼(レーガートゥス)・・・」

私を囲むようにして現れたレーガートゥスは約50弱。今の私の敵じゃないけど、対処しているうちにレヴィヤタンには逃げられる。

「面倒なことを・・・!」 

――凶牙波瀑刃(シュヴァルツ・シュトローム)――

魔法から再度魔術へと切り替えた一撃を放つ。レーガートゥスが黒い波に飲まれていく中、レヴィヤタンの背後の空間が波打つ。

「・・・弱い・・・第三の力(しろいろ)・・」

「・・・なっ!? 弱い・・・この私が・・・?」

「・・・心が弱い・・・先代たちの許されざる嫉妬(わたし)が・・・そう言ってる。・・・今の・・・第三の力(しろいろ)・・・守護神になっても・・・きっと弱い」

レヴィヤタンはそう言い残して消えていった。私の力じゃなくて心が弱いと・・・だから勝てないのだと。

「ふふ、あはははは」

確かに私の心はこの世界に召喚されてからは弱くなっていったと思う。でもなのは達と会う前の私よりかはずっと良い心になっていると胸を張って言える。それが弱くなったと言うのであればそれで構わない。

「だってこれが幸せというものでしょ」

だから今の私の幸せを崩そうとするお前たちは絶対に消し去ってやる。レヴィヤタンが完全に撤退したのを確認した私は、みんなと合流するために歩き出したそんな時、携帯端末から着信音が鳴った。おそらくルシルからの返信だと思う。通信端末を取り出しメールを確認する。仕事中だろ?というツッコミはなし、ということで。

――何を企んでいるんだ?――

ルシルからのメールはたったのこれだけだった。私は“感想”を返信しろと送ったのになぁ。

「・・・アウト」

ルシル、女装の刑決定。ルシルへの宣告は、その時になってからにしよう。その方が面白そうだしね・・・って、無理やり面白いことを考えていないとやってられない。許されざる嫉妬レヴィヤタン。速いだけのクセして、心がどうだとか言ってくれた。心の無いお前ら“ペッカートゥム”なんぞに言われたくないっつうの。木々を手当たり次第に殴ったり蹴ったりしながら歩いていると、わざわざ私を待っていてくれたのだろうか、ガジェットの残骸の中心でシグナムが佇んでいた。

「・・・あ、シグナム」

「その様子では逃げられたようだな。どうした? ずいぶんと荒れているではないか」

「あはは、うん・・・。気にしないでくれると助かる」

「どうした、傷でも負わされたのか?」

「ううん、大丈夫。気持ちの問題なんだ。私なんかよりシグナムは?」

私がレヴィヤタンと交戦する前にシグナムは戦っていた。だからシグナムのことも心配なんだけど、シグナムの周りに転がるガジェットの残骸を見れば大丈夫かな。

「見ての通りだ。しかしアレは本当に厄介だな。聞いていた通り攻撃が何1つ通らなかった。フライハイト、やはり私やテスタロッサ達が能力リミッターを外してもアレには勝てんのか?」

「前の会議で話したとおり、だね。ペッカートゥムと戦うには神秘と言われる力がどうしても必要になる」

2人して歩きながら“ペッカートゥム”のことについて話す。みんなにはヤツらと戦うだけの能力はあっても、ダメージを負わすための神秘がない。それでは戦いにはならず、一方的に倒されてしまうことになる。

「そうか。それはなんというか悔しいな。私たちではやはり手も足も出ない、というわけか」

「だから私とルシルが、命を投げ打ってでもヤツらからみんなを守る。まぁ守護騎士(シグナム)にとっては嫌なことだろうけどね」

「そんなことはない。守り守られるのが仲間だろう? ならば私もお前たちに守られよう」

「シグナム・・・。そうだね。うん、そのとおりだ」

2人でうっすらと笑い合う。だけど隣を歩いていたシグナムが急に立ち止まって、「だがなフライハイト」って真剣な面持ちで私を呼んだ。私も数歩先まで行ってから立ち止まって、シグナムへと振り返る。

「命を投げ打ってでも、というのは許さん」

そう言ってシグナムはまた歩き出して私を追い抜いていった。“命を投げ打つのは許さない”、か。そんな気遣われること、初めて言われた。

「ありがとう、シグナム」

「当たり前のことだ。だからお前たち2人も我々に守られろ。命を粗末にするような真似は絶対にさせん」

「うん。ありがとう、ホントに」

会話はそれっきりであとは静かなものだった。でもみんなと合流するまでのこの静かな時間がなんだか心地良かった。そのあとは事後調査やユーノとの再会などを経て、私たちは六課隊舎へと帰った。
 
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