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銀河英雄伝説~生まれ変わりのアレス~

作者:鳥永隆史
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決戦~前夜~



 装甲車の振動に揺られて、走る。
 それでも攻勢にうってでることに、周囲の士気は高い。
 身動きすらも難しい狭い車内はラインハルトの好むところではない。
 揺れる振動に、室内を包むすえた匂い。

 それら通常であれば誰もが忌避するような事ですら、ラインハルトを楽しませた。
 白磁のような白い肌を、僅かに朱に染める。
 それは間違いなく高揚であった。
「ラインハルト様。まだまだ時間はかかりますので、お休みください」
「ん。ああ、そうだな」
 生返事を返す様子に、狭い車内で身体を折っていたキルヒアイスが小さく笑った。

 ラインハルトの眉がひそめられる。
「何がおかしい」
「まるで遠足を期待する小学生のようです。ラインハルト様」
「酷い言い草だな」
 言葉に、ラインハルトは拗ねたように口を尖らせる。

 ますますキルヒアイスの笑みが深まった。
 表情にラインハルトも小さく表情をほころばせる。
「興奮か。確かに否定はできないな。机の上で書類を整理しているよりは余程いい、駄目か?」
「ラインハルト様らしいと思います」

「俺らしいか。それは褒めているのか、キルヒアイス」
「もちろんです」
 非難を浮かべたラインハルトに、キルヒアイスは慌てて肯定を言葉にする。

 そんな様子に冗談だと小さく呟いて、しかし、ラインハルトは笑いを消した。
「だが、遠足とは行きそうにないな」
「ヘルダー大佐ですね」

「ああ」
 頷いて、ラインハルトは声の調子を落とした。
 静かに。キルヒアイスだけに聞こえる言葉で、口を開く。
「ヘルダーが、あの女の命令で動いているのは間違いない。そして、彼にとっては今回が最後のチャンスだ」

 小さく目を開いたキルヒアイスに、ラインハルトは首を振った。
「今回の手柄で、昇進は確実だ。奴にとっては時間が足りないというわけだ。わかりやすい事にな」
「諦める事はないのですか」
「ないな」

 ラインハルトは断言した。
 細い金髪を手で触り、つまらなそうに呟いて見せる。
「単なる嫉妬ということならば、それもあっただろう。もっとも単なる嫉妬で人を殺せる人間など少ないが。奴には明確な殺意がある。出来ませんでしたですまない事は、奴自身も理解しているはずだ」

「それならば我々と協力をすれば」
「キルヒアイス」
 言葉を遮るように放たれたのは、ほんの少し――わずかばかり否定を含んだ声だった。
 咎めるような視線に、キルヒアイスが悲しげに眉をひそめる。
 それがあまりにも甘い考えであることは、キルヒアイス自身も理解している。

 だが、それでもという思いに、ラインハルトは首を振った。
「協力して何とかなるのなら、俺達は既にここにはいない」
 真剣な表情にキルヒアイスは頷いた。
 僅かな不満の残る彼の肩に手をおいて、引き寄せてラインハルトは耳に口を近づける。
「だからこそ、俺達が変えるのだ。この腐汁に塗れた帝国を」

 + + +

 会議室で、アレス・マクワイルドは苦笑した。
 防衛計画の提出を求めた司令官に対して、他の小隊長は元々あった防衛計画を焼き直そうとする。司会を務める第一中隊長のスルプト大尉も概ねそれを認めており、防衛計画を作成すると言う名目で行われた会議は、開始五分で別の話題になっていた。

 即ち、敵は本当に奇襲をかけてくるのかと。
 先のこちらの攻撃が失敗したとはいえ、敵にも大きな損害を与えただろう。
 ならば、中途半端に攻撃するよりも部隊の再編を優先するのではないかと。
 その言葉が小隊長から出るや多くがそれに同意した。

 戻ってきた部隊の再編についての話題が出始めて、アレスは机を指で叩く。
 硬質的な音に咎める視線がアレスに向き、しかし、誰もが言葉を止める。
 笑みだ。
 唇だけをあげる――士官学校では誰もがその笑みに恐怖した――それが、会議室に居並ぶ中隊長を初めとする男達の言葉を止めていた。

「何かな。マクワイルド少尉」
「恐れながら中隊長。敵はきます」
「何を根拠に」
 吐かれた言葉に対して、アレスは再び机を叩いて、言葉を制止した。

 茶番だと、アレスは思う。
 アレスは敵が奇襲を仕掛ける事を知っており、そして、その理由が同盟軍の壊滅ではなく、ラインハルトの殺害のためであることも知っている。
 だが、そのような真実を告げたところで、彼らは信じる事をしないだろう。
 そのためには、真実を隠して、嘘偽りで男達を信用させなければならない。
 それを茶番と言わずに、何というかアレスは知らない。

 もっとも――それが出来なければ、油断したままで敵の部隊を待ちうける事になり、結果は基地の壊滅だ。
 彼らだけが死ぬのであれば、自業自得と思えども、それに自分や部下が巻き込まれるのは御免だった。

 そもそも彼らも真に敵が来ないと思っているわけではない。
 敵が来なければいいと希望が、敵が来ない理由を探しているだけに過ぎない。
 立ち上がって、アレスは周囲を見渡した。
「敵に打撃を与えたといいますが、どれほどの打撃を与えたか御存知でしょうか」
 誰も答えられない。
 まだ正確な戦闘結果も届いていない。

 負けたという事は知っていても、誰も戦闘結果を理解していない。
 そんな言い訳が言葉に上がる前に、アレスは言葉を続けた。
「敵は大打撃を受けたかもしれない、あるいは全く打撃を受けなかったかもしれない」
「そんなはずはない。最初の報告では敵の正面を突破するまであと少しとの報告は受けている。敵の罠がなければ勝てていたと」

「勝てる状況であっても、敵の罠によって敗北した。そして、その罠はいまだに続いている事をお忘れですか?」
 アレスの口にした現実の前に、口が閉ざされた。
 あえて彼らがみようとしていなかった現実だ。
 こちらの装甲車はいまだに多くが動かぬ状況になり、基地の防衛に避ける人員は一個中隊ほどの人数しかない。

 目を背けていた現実をアレスが告げていけば、スルプトが苦虫を噛み潰した顔で止めた。
「わかった、わかった。マクワイルド少尉――こちらが不利だということがな。だからこそ、そのために防衛計画をここで立てているのだろう」
「これがですか」
 アレスは目の前の書類を手にした。

「敵軍到着までの稼働予想の装甲車が十五台――これを盾にして、本国からの支援部隊を待つと」
「何が不満なのかね」
「本当に十五台の装甲車が動くと思いますか」
「脳波認証システムの妨害解除までには一台につきおよそ四時間。敵が真っ直ぐにこちらに向かったとしても、十分に対応できる数値だと思うがね」

「妨害を解除した場合は手動で動かさなければならないとお伝えしたはずですが」
「それは聞いている」
「ならば。一体、この十五台もの装甲車を誰が動かすのです?」
「それは各部隊に配置された人員が」
「防衛計画では、装甲車の乗車人員は四名。このたった四名が装甲車を動かして、索敵し、砲弾を込めて、敵と交戦しながら、無線で報告して、他の装甲車を援護するのですか?」

 アレスの指摘した事項に、小隊長は口をつぐんだ。
 僅か二行足らず。装甲車の運用について書かれている。
 ほとんどコンピュータ制御されている現状でも装甲車の最低人員は四名だ。
 それとほぼ同数で運用しようとしている現状に、誰も異を唱えない。

 本来は気づいていたのかもしれない。
 だが、希望的観測をするあまりに誰もそれを満足に見ようとしていない。
 手元の書類を目にしてスルプトは静かに首を振った。
「確かに大変かもしれないが、他に割ける場所がない」
「ないのであれば、十五台を運用しなくても構わないでしょう。十台の運用とし、他を予備とすればいい」

「馬鹿な。装甲車一台で兵士何人分の戦力だと思っている」
「満足に動かせれば。しかし、この状態ではせいぜい半分以下の戦力でしかない」
 書類を机において、アレスは周囲を見渡した。
 静かに、それぞれの顔を窺うように一巡して、スルプトへと目を向ける。
「戦力が乏しい。ならばこそ、形ばかりの防衛計画で取り付くのではなく、いまできる最大限を一から見直す必要があるのではないですか」

 告げられた言葉は、至極まっとうな言葉であった。
 だが、誰も賛意を示す事ができない。
 肯定すれば、それまでの自分たちの意見を無にする事になる。
 それも任官三か月足らずの若造にだ。
 認める事も出来ず、代わりに言い訳を口にしようとした小隊長は、強いアレスの視線に言葉を奪われた。

 どうすると問いかける視線が、互いを向いて、やがて懇願する視線がスルプトを向いた。
 結論を求められている。
 そう感じて、スルプトは手元の書類に視線を落とした。
 手元の書類は過去の防衛計画に基づいてしっかりと書かれている。
 これが失敗したところで、上は咎めないだろう。

 そもそも装甲車が満足に動かぬ状況で戦えと言う方が無茶な話だ。
 だが。
「失敗すれば、我々は死ぬか」
「俺達などどうでもいい。死ぬのは部下だと言う事をお忘れなきよう」
「そうだな」
 スルプトは首を振り、やがて視線をあげた。

「私もこの防衛計画を再び立て直す必要があると思うが、皆はどうかね?」
「それは……」
「私もそれが正解だと思う」
 スルプトの言葉にいまだ不満を浮かべていた者たちも、続いた言葉に振り返った。

 閉じられた扉が開き、冷気が流れ込む。
 そこにいたのは一人の兵士だ。
 防寒服が破れ、乾いた血を顔に張り付けて、戦場から帰還したという姿に誰もが息を飲んだ。
「レティル少佐!」

 誰かが呼んだ名前が引き金となって、慌ててレティルを室内に引き入れる。
 椅子を差し出す姿に、レティルは小さく礼を言いながら、腰を下ろした。
「報告に行けば、ここで会議をしていると聞いてね。このような形で失礼する」
 小さく息を切らせて、レティルは痛みをこらえるように身体をよじった。
「少佐。お身体に障ります。すぐに衛生兵を」

「構わない。この程度は致命傷ではない――それよりも防衛計画をまとめるのだろう」
「それは我々が……」
「現場を見てきた私がいた方がいいと思うがね。そうだろう、マクワイルド少尉」
「ええ。ですが、ここで無理をなされるより、少佐には早く回復していただいた方がいいかと。すぐに地獄が待っています」
「人使いの荒い男だ。構わない、ここで一時間座っていたところで、傷の治りは同じだ」

 アレスの言葉にもレティルは楽しげに笑い、机で組んだ手に身体を預けた。
 小さく息を吐いて、アレスを見る。
「メルトラン中佐からだ。すまなかったと……」
 アレスは眉をあげた。
 突然の言葉に、アレスを初めとして誰もが首をかしげている。
 なぜ、戦場に散ったメルトラン中佐がアレスに謝罪するのかと。

 それをいち早く理解したのは、アレスだった。
 小さく首を振れば、レティルと同じように息を吐いた。
「すんだことです」
「ああ。だが、まだ終わっていない――そうだな」
「これからが本番です」
「そうか。ならば少しでも良い結果となるよう、君の意見を聞かせて欲しい。これから始まる地獄を少しでもマシにするようにな」

「私がですか」
「君がだ。それが見当違いであれば、私やスルプトが訂正するだろう。だから、安心して話してほしい――期待している」
「期待されるのは好きではないのですが。今から資料をお配りします。帰りの装甲車でまとめたものなので、手書きですが……」
 
 + + +  

 アレスの基本構想に、レティルとスルプトが手を加えて、防衛計画がまとめられた。
 当初の防衛計画からは大きく外れたものに、クラナフは驚いていたがレティル少佐を初めとして、全員の総意に認める事となった。
 計画に基づいて、各隊の隊員達は準備を行う。
 塹壕を掘り、雪を固め、罠を仕掛ける。
 計画さえ決めれば、それに向かって一丸となるのは良くも悪くも軍のいいところだ。

 誰もが死なぬために、睡眠時間さえ削って準備している。
 それでも間に合うかどうか。
 発電機からおくられる白光色のライトが夜を照らしながら、アース社製の削岩機が塹壕を掘り進める。担当の第二小隊長が設計図を見ながら、激を飛ばしている。
 それを雪の堤上から見下ろしながら、アレス・マクワイルドは白い息を吐いた。

「寝ないのですかな」
「軍曹?」
 声に振り向けば、堤上をのぼる老兵士の姿がある。
 身体を持ちあげれば、吹きすさぶ寒風に身体を震わせて、コートの前を押さえた。
 その手にあるワインボトルとグラスに、アレスは表情を綻ばせる。
「明日も早いでしょう。休憩時間にきちんと休憩をとるのも兵士の勤めですぞ」

「そういう軍曹は?」
「私は雪見酒を楽しもうかと――いかがです?」
 手にした二つのグラスに、アレスは苦笑を浮かべる。
 準備が周到だと、一つを手にすればワインが注がれる。
 器用に自分のグラスにも注いで、ワインを雪に埋める。
「寒いのは嫌ですが、冷蔵庫がいらないのはいいですな」

「この寒さならホットワインの方が嬉しいけどね」
「違いない」
 グラスが打ち鳴らされて、二人は同時に口に含んだ。
 冷たいワインといえど、少しの熱さが喉に残る。
 熱さの残る息を吐けば、白い息は闇に消えた。
 耳に残るのは唸る吹雪と作業する兵士達の声。
 それを肴にして、カッセルが再びワインを注いだ。

「初戦で緊張しているというわけではなさそうですな」
「緊張しているように見えるかい?」
 アレスの声に、カッセルは首を振った。
「少尉は不思議ですな」
 言葉を残して、カッセルはワインを口に含んだ。
「まだ二十歳であるはずなのに、年に似合わない落ち着きがある。まるで歴戦の将のように部下を安心させる。そうかと思えば、時にはまだ若く助けなければいけない気にもさせる。果たしてどちらが本当の少尉なのです?」

「どちらも俺ですよ」
 問うたカッセルの言葉に、ワインを片手にしてアレスは苦笑した。
 グラスを空にして、新たに注がれるワインに視線を向ける。
 ワインを注ぐカッセルはグラスを見ていなかった。
 ただじっとアレスを見ている。

「軍曹はなぜいまも軍にいるのです」
 問われた言葉に、カッセルは小さく目を開いた。
 グラスを戻して、誤魔化すように笑えば、アレスの視線がカッセルを見ている。
 給料が良いから、それしかできないから言おうとした事が言葉に出てこない。
 誤魔化しの笑いが消えた。
「なぜでしょうな。昔はこれでもやる気はあったのですよ。悪しき帝国から同盟市民を守ると強く思っていた。そうこんな私でも英雄になれるのだと」

 ワインを飲み干して、苦そうに笑う。
 そうカッセル自身がまだアレスぐらいの年齢であったとき。
 戦場の最前線で、彼のビュコックやスレイヤーと共に戦っていたときの話だ。
 死など恐れず、自らの放つ銃弾が同盟を救うと信じていた。
「欲でしょうかな。十年が経ち、二十年が経てば、同盟などよりも大事なものが出来る。可愛くはなくても上手い飯を作る嫁ができ、生意気だが可愛い娘がいる。今では孫までできた。英雄になどならず、ただ平凡に生きていたいと」

 愛おしそうに片手を広げて、苦く笑う。
「そんな自分を過去の自分が見れば何というか」
 開いていた手を握りしめて、カッセルは息を吐く。
「あえて言うならば、そんな平凡な私でも妻や子供を守りたい。守れるのだと思いたいがために、いまだ軍にいるのかもしれませんな。馬鹿な考えでしょうが」
「馬鹿とは言いませんよ。同盟のためなどという抽象的な理由よりも、家族のためにと言った方が遥かにマシな理由です」
 ワインを手にしながら、覗き込むようにカッセルはアレスを見る。

 アレスがワインを一飲みすれば、ワインを注ぎ足した。
「少尉はなぜ軍に?」
「なぜでしょうね」
 返された言葉にカッセルは小さく眉をあげた。
 アレスが苦笑いを浮かべる。
「私は軍曹のように英雄になりたいわけでもない。そんな立派な理由などありません。なぜ入ったのか……入校式でも疑問だった、そして今もわからない」

 首を振って、アレスは息を吐く。
 吐いた息はすぐに水蒸気となって、白く消えていった。
「なぜ負ける戦いに挑もうとするのか」
 呟いた言葉に、カッセルが息を飲んだ。
 言葉を押さえるようにワインを一口飲み、唇を湿らす。
 手に持つグラスが小さく震えた。

「負けますか。それは……」
「軍曹に聞かせることではなかったですね」
 呟いて、アレスは首を振った。
 今話すべき話題ではない。
 ましてや、自分の部下に対して言うべき台詞でもない。
 しかし、思い続けてきた疑問が言葉となった。
 
 帝国には勝てない。

 彼がまだ中村透であったころ。
 帝国に負けないためには単にアムリッツァを防げばいいと考えていた。
 だが、アレス・マクワイルドになり、おそらくアムリッツァは防げないと知る。
 アムリッツァの引き金を引いたのはフォークだ。

 だが、銃を用意したのは同盟市民であり、それに弾を込めたのは同盟の政治家。
 用意された銃の誰が引き金を引くかだけであり、仮にフォークが引かなくても引きたい人間は山のようにいるだろう。
 むろんそれだけが理由ではないが、結局のところ……おそらくは負ける。
 そう理解してもアレスは軍に入って、今も戦っている。
 自分では英雄願望などないと思っていたが、実際にはあるのだろうか。
 それが答えならば納得できるのだが、どうも上手く納得ができない。

 軍を辞めればいいとも思うのだが、軍を辞める事は全く考えていない。
 アレスはここにいたいと思っている。
 だが、その理由を理解できないでいる。
 中村透であった年月と現在の年月を足しても、なお年長の軍曹に対して、思わず愚痴が出た。
 良いことではないと思い、振り返れば、カッセルが朗らかな笑みを浮かべていた。
「なに、謝ることはありません。私になど本音を語っていただいて、ありがたいと思います」
「負けると言われてもですか?」

「驚きはしましたが――何の根拠もなく勝てると思われるよりかは、遥かにマシな理由ですな」
 先ほどアレスの言葉を真似て口にする軍曹に、アレスが首をかしげる。
 カッセルが立ち上がり、腰についた雪を払う。
 作業の進む陣地を見下ろせば残ったワインを飲み干して、アレスに手を差し出した。
「勝ち戦ばかりが戦争でもありません。負け戦も楽しいものです――生き残って、あの時こうすれば勝てたのにと愚痴を言いながらね。そうでしょう?」

「……ええ」
 差し出された手をとって、アレスも小さく笑った。


 
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