ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第65話 ギルド・黄金林檎
~第57層・マーテン~
そして、武器鑑定を依頼した翌日の事。
4人はヨルコと再び会っていた。
彼女も十分危険だと言う可能性。それをリュウキから聞いて、このまま彼女を放っておけなかったのだ。そして、昨日の刀匠の名を確認する為もある。
「ねぇ……ヨルコさん。グリムロック……という名前に心当たりある?」
アスナがその名を口にした瞬間。ヨルコの体がピクンッと飛び上がるように揺れた。そして、その後表情を暗めながら頷いた。
「はい……。昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」
そのヨルコの言葉を聞いて、いよいよ、真相に迫ってくるとそんな感じがした。それはキリトも同様のようの様だ。
「実は……あの黒い槍、鑑定したら作成したのはそのグリムロックさんだったんだ」
「ッッ!!」
思わず口を覆ってしまうヨルコ。それだけの衝撃的な事実だった様だ。
「……何か思い当たる事があるのか?」
リュウキは、間違いないかとそう聞いた。
「ッ……はい。あります」
ヨルコは、表情をまた変えた。それは、先ほどとは違って、申し訳なさそうにしている。
だが、暗いままの表情だった。
「昨日……お話し出来なくてすみませんでした……。忘れたい……あまり思い出したくない話だったし……。でも、お話します。……そのせいで、私達のギルドは消滅したんです」
ヨルコが語りだしたその時、まるで 空が泣いているように……、雨がポツポツと降り注いでいた。
それは、ヨルコ、カインズの2人が所属していたギルド。
ギルド名、それは《黄金林檎》と言う名。
そう……半年前、たまたま遭遇したレアモンスターを討伐したら、敏捷力を20UPすることが出来る指輪をドロップしたのだ。それはかなりのレアアイテムだと言える物。その指輪は……ギルドで使うか、売って儲けを分配するかで意見が分かれた。
そこで多数決で決める事になった。
結果は3対5で売却。
そして、有効にかつ……大きな金額で取引してくれる前戦の競売屋に委託する為に。そのギルド黄金林檎のリーダーであるグリセルダが一泊する予定で出かけたのだ。しかし……彼女が帰ってくる事は無かった。
「……後になって、グリセルダさんが死んだ事を私達は知りました。……どうして死んでしまったのか。今でもわかりません」
ヨルコの表情は暗く悲痛に満ちていた。……当然だろう。ギルドのリーダーが……そして次にギルドの仲間が死んでしまったのだ、そして、その理由がわからないのなら尚更だろう。
「……転移門を利用する以上は、その街への直通。そして、売却が目的ならば圏外に出る必要性も無い。なら、考えられるのは1つか」
リュウキは話を聞いてそう言う。
「睡眠PK………」
レイナも表情が強張った。悪質なその言葉を呟きながら。
「……半年前だったらまだ、手口が広まる直前の時期だわ」
アスナもそう答える。広まり、ある程度警戒をされてしまう前、時期的にも間違いなさそうだ。だが……解せない点もある。
「……偶然にしては話が出来すぎているな……そのグリセルダと言うプレイヤーを狙ったのは、指輪の事を知っていたプレイヤー。……つまり」
「ッ……」
ヨルコは……リュウキの言葉を聞いて再び表情を落とす。
「黄金林檎の……残り7人のメンバーの誰か……」
キリトが口に出していた。
「中でも怪しいのは売却に反対した……か」
「指輪を売却される前に……グリセルダさんを襲った……って事?」
「……状況から考えたらその線が濃厚だろう」
ここまで、話が見えればもう間違いないと思える。状況証拠だけとは言え、それは、推理以前の話だ。
「ああ、そうだな。……そうだ、グリムロックさんと言うのは?」
キリトがヨルコにそう聞く。
「……彼は、グリセルダさんの旦那さんでした。勿論、このゲーム内の……ですけど」
ヨルコは……悲しくもあり、懐かしくもあるその容姿を頭に思い出しながら話す。
「グリセルダさんは……とっても強い剣士で、美人で頭も良くて……。グリムロックさんは、いつもニコニコしている優しい人で、とてもお似合いで……仲の良い夫婦でした」
そして、皆の正面をはっきり見据えて口に出した。今回の事件の動機と思われるものを。
「もし……この事件の犯人がグリムロックさんなら……あの人は、指輪売却に反対した3人を狙っているんでしょうね……」
そして……ここからが最も重要な情報だった。ヨルコは、一瞬視線を逸らせたが、直ぐに元に戻し。
「指輪売却に反対した3人の内2人は、私とカインズなんです。」
そう、告白したのだ。
その後、ヨルコに4人は残りの1人が誰かを聞いていた。最後の1人、それは攻略組である聖竜連合の守備隊のリーダー。
《シュミット》と言う名らしい。
4人とも名前には聞き覚えが当然ある。攻略会議では必ず顔を合わすメンバーの1人。
巨大な槍を装備している。槍使い。知っている事実をヨルコに伝えると、合わせるという約束を交わした。
今回の事件。
この街にいた者しかまだ知らない。だから、シュミットも知る由も無いのだ。……自分に危険が迫っている可能性があるという事を。
「聖竜連合には知り合いがいるから、本部に行けば彼を連れてくる事も出来ます」
アスナが、ヨルコにそう伝えた。
「うん。今の時間なら大丈夫だと思うし、あ……それより、ヨルコさんを宿屋まで送っていこう?あまり……言いたくないけど、危険だって思うから」
まずは、彼女の安全の確保からとレイナは提案する。皆もそれには直ぐに同意した。もし、彼女が言うように反対したメンバー全員を狙った犯行なのなら。……非常に危険なのだから。
「……ヨルコさんオレ達が戻るまで、宿屋から出ないでくれ」
キリトが念を押すようにそう伝える。ヨルコも、その言葉には重々承知のようで、一呼吸置く間もなく頷いた。
そして、一行はヨルコを宿に送った後、血盟騎士団の本部へと向かっていった。聖竜連合とコンタクトを取る為に。
「……ねぇ、皆は今回の圏内殺人事件……どう思う?」
その帰り道、レイナが皆に聞いた。この事件についてを。
「………」
リュウキは、ただ目を瞑っていた。
「オレは、大まかに3通り……だな。まず1つ目は正当なデュエルによるもの。あの時は、見つけられなかったが、1つの可能性として考える事は出来る。2つ目は機知の手段の組み合わせによる、システム上の抜け道……」
「まぁ、そんな所、でしょうね。……3つ目は?」
「圏内の保護を無効化にする未知のスキル、またはアイテムの存在……かな」
アスナの問いにキリトはそう答えるが。それを横で聞いていたリュウキは、目を開けると首を振った。
「3点目は、オレは無いと思う」
「え? どうして?」
レイナは、キリトの仮説、3つとも、どれもありえそうな気がしていたから、リュウキの言葉に少し興味を持ったようだ。
「……この世界のシステム・ルールは、基本的に公平な仕様になっている。まぁ、少し業腹だと思うが……あの男がそう言った仕様を……認めているはずが無い」
リュウキは鋭い視線のまま、雲行きの怪しいこのアインクラッドの空を見つめていた。
「………だな。オレも3つ目はそう思うよ。フェアじゃないからな」
キリトも、可能性の1つに上げこそしていたが、リュウキと同意見だったようで頷いていた。
「へぇ……」
「………」
レイナは元々キリトやリュウキの実力は知ってるから、今更そこまでの感心は無かったのだが、話を聞いていたアスナは2人に感心した様子だった。
2人共共通して思ったのは、この世界において……、本当に信頼できる2人だと言う事。
アスナはキリトの後ろ顔を見つめる。
すると自然に若干歩幅が広がりリュウキ、キリト・アスナ、レイナの距離が広がった。その距離を見たレイナはニヤっとアスナの方を見て耳打ちする。
(お姉ちゃん、キリト君の事 結構頼りにしているみたいだねっ! 上手くいってる?)
「ッッ!!」
アスナは、その言葉にピクンッ!っと反応した。
「……ん?」
リュウキはそれに反応したのか振り返る。
「どうかしたのか?」
キリトもどうやら同じだったようだ。
「やっ! なんでもないなんでもない!」
アスナは手を思いっきりふった。レイナはただただ笑っているだけだった……。
「ちょっと……レイ。状況が状況なのに変なこと言わないでよ」
レイナにだけ、聞こえるようにアスナはそう言った。
「だってさ。お姉ちゃん、あのキリト君と決闘した時から、見てる目が変わったって思ったし。変じゃないでしょ? それに何よりも……あのお昼寝した時も……。キリト君、私も素敵だって思うよ?」
ニコッ……っと、レイナは笑みを見せた。
確かに、今はそんな事を考えている状況じゃない、って思えるが……そこまで言われてしまったら何も言えなかった。
「っ……そ……それは」
アスナは直ぐに否定できない。そう、それは以前の攻略会議の事だった。
会議中に意見が真っ二つに分かれてしまった事があったのだ。その中心にいたのがアスナとキリトだった。レイナとリュウキは、それを離れたところで見ていた。険悪な雰囲気も醸し出していた為、近寄りがたく感じていたようだ。
ある程度の事だったら、レイナはアスナ。リュウキはキリトの方に付いていたが今回はそれとは雰囲気が違った。話し合いでは平行線となって、全く纏まらず 最後には代表者間での決闘で決着と言うなった。
勿論キリト VS アスナ。
その頃アスナは、少なからずキリトの事を気にしていたのだ。でも、その気持ちをアスナは一笑、そして振り払うように決闘を決行したのだ。
そして、アスナはキリトに敗北する。
その時、キリトの本当の実力を目の当たりにしたのだった。
そこから、彼のこと、そこから気にかけるようにしていた。だからこそ、会議ではしょっちゅうぶつかっていた。
受け止めてくれるからこそ……ぶつかっていった。
そして極めつけは あのお昼寝の事。この世界で生きているんだって思った。
現実での一日を無駄にするわけじゃなく……。一日一日を積み重ねているんだって強く思っていた。
「お姉ちゃんは私の相談にのってくれたんだし……。私でよかったら相談してね……」
レイナは優しそうな表情でアスナを見る。
これまでも、悲しい事件が沢山あった。そんな中、トップギルドの一員で副団長の姉はいつも心を痛めていたんだ。だからこそ……、心の拠り所はあった方が良いに決まっているんだと、レイナは思っていたのだ。……それは、レイナ自身にも言える事だが。
「……ッ」
アスナは一瞬顔を赤らめた。アスナ自身、レイナの事はよく相談に乗っていた。相談にのる……というよりはおせっかいをした。と言った方が正しいかもしれない。
それでも、レイナは随分明るくなった。
リュウキと会う、話す機会が断然と増え。きっとリュウキは、レイナの事少なからず想っていると思う。でも、きっとその感情がわかっていないとも思える。
「そう……ね」
アスナは顔を赤らめながらレイナを見た。
「お互い……頑張ろう。レイ」
「うんっ……」
2人は見合って……そして笑っていた。
今回のこれは大変な事件だと思う。そんな事にかまけてはいけない。それはよくわかってる。
でも……そんな中でも息抜きは必要だろう。アスナは、そしてレイナも、互いにそう思っていた。
でも、この事件に関しては全力で当たろう。そうも心に決める2人だった。
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