久遠の神話
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第六十八話 集う女神達その一
久遠の神話
第六十八話 集う女神達
中田は丁度スーパーで夕食の食材や調味料を買っていた、その彼の前にである。
聡美が現れた、それで彼にこう言って来たのだ。
「あの、お買い物の途中ですが」
「ああ、買い物が済んでからでいいか」
「それからですか」
「とりあえずこれが済んでからな」
スーパーの買い物かごの中のその食材や調味料を前に出しながらの言葉だ。
「話があるのならさ」
「わかりました、それでは」
「今だと歩きながらでせわしないからさ」
だからだというのだ。
「買ってからな」
「わかりました、それでは」
「それじゃあな」
「では私も」
聡美もだ、ここでスーパーの中を見回して言った。
「自分の買い物を」
「あんたも料理をするんだな」
「はい、実は」
するというのだ。
「あまり複雑な料理は作りませんが」
「やっぱりあれだよな、ギリシア料理だよな」
「若しくはイタリア料理です」
同じ地中海にあるこの国の料理もだというのだ。
「ローマにもいることが多いので」
「ああ、あんたローマにも縁があったな」
「はい」
ローマの神々はギリシアの神々を取り入れたからだ、聡美はローマにおいてはディアナと呼ばれていた。
「その縁で」
「イタリア料理も作るんだな」
「常にオリーブと大蒜、トマトにチーズは欠かせません」
この四つはというのだ。
「絶対に」
「やっぱりその四つは、だよな」
「イタリア料理ではですね」
「ないと駄目だな」
イタリア料理にもならない、中田もよくわかっていることだった。それで聡美の言葉に対して頷いたのである。
「というか昔はなかったよな」
「トマトはですね」
「ああ、大蒜とかはあっても」
「オリーブはありました」
それはというのだ。
「ただ、大蒜もオリーブもです」
「高価だったんだな」
「チーズもありましたが」
これもあった、だがだというのだ。
「今のチーズとは違いまして」
「それで、だよな」
「ローマ帝国の頃の料理は今とは全く違います」
「トマトのないイタリア料理か」
「想像出来ませんね」
「かなりな。唐辛子もないしな」
どれも中南米原産だ、大航海時代に伝わったものだ。
「どんなのだよ」
「今ではとても想像出来ませんね」
「ちょっとな、俺にはな」
中田は聡美と話をしながら真剣な顔で首を捻る。
「大蒜も滅多に使えないしな」
「胡椒もですよ」
「ああ、胡椒もな」
「当時は途方もなく高価でした」
胡椒一粒が金一粒だった、そこまでの価値があったのだ。
「味付けも本当に今とは違います」
「料理も時代によって変わるんだよな」
「そのことは御存知ですね」
「一応はな。ただ」
「想像は出来ませんか」
「肉は胡椒がないとな」
今の時代の考えだ、中田は現代の日本に生まれ育っているのでその中での味付けしか知らないのである。
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