魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
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第1章 『ネコの手も』
第12話 『言い忘れ』
はやてが後日コタロウにストールを返したときに、それがコタロウの普段から腰に提げている『傘』の生地部分であることにはすぐに気付いた。
何せ『傘』が骨組みだけの状態で少し寒そうなのが目に入ったからである。
彼女は彼が書いた書類に不備が見られなかったこと、リインの食器のこと、そしてチョコについてお礼をした後、ストールについては別にお礼を述べる。
「あと、コタロウさん、ストールどうもありがとう。と、言いたいところやけど、生地がストール代わりって、少し汚くはないやろか?」
「自浄機能付きであるため、問題ありません」
冗談めいた愛想笑い込みの自分でも少し可愛く思うくらいでお礼を言ってみたが、相手は表情一つ変えず、ストールを受け取り、『傘』に取り付けた――実際には「傘、装着」と命令した――後、
「お役に立てれば幸いです。それでは、午前の訓練を見に行かなければならないので」
ぺこりと帽子を取ってお辞儀をし、すたすたと歩いていってしまった。
「…………」
コタロウが歩いてきたほうからリインがすれ違いに飛んでくる。彼女も嬉しそうに食器の礼をしていた。
「はやてちゃん、どうしたんですか?」
愛想笑いのまま固まっている彼女をみて、首を傾げる。
「……リイン、コタロウさんにどついてもええ?」
「ど、どうしたんですか!?」
「なんでもあらへんよ~」
「顔が笑って、いや、笑ってはいるんですけど……」
怖いですぅ。などとは口が裂けても言えなかった。
魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
第12話 『言い忘れ』
「5月13日、部隊の正式稼動後、初の緊急出動がありました。密輸ルートで運び込まれたロストロギア、レリックを――」
リインはその後、数日前の出動任務について自分なりの日誌をつけていた。
「――初任務としてはまず問題ない滑り出しだと部隊長のはやてちゃん、六課の後見人騎士カリムやクロノ提督たちも満足されているようです。っと――」
「リイン曹長」
ふと画面から顔を上げると左手にファイリングボードを持ったシャリオがいた。
「あ、シャーリー」
「ご休憩中ですか?」
「休憩半分、お仕事半分。個人的な勤務日誌をつけてたですよ~」
日誌をつけ終わり――最後に「コタロウさんはまだ、リインと呼んでくれません」と記載し――画面を閉じると、シャリオの正面にふわりと近づく。
「シャーリーは?」
「新しいデバイスの調子を見に、訓練場のほうに行ってきたんですよ?」
「そうですか~。みんな、元気でした?」
「フォワード陣もデバイスたちも、絶好調です!」
シャリオは先程訓練場で初めてコタロウの画面操作をみて、嘆息した呆れ顔だったが、すぐに戻して明るく答えた。
△▽△▽△▽△▽△▽
実際訓練が始まるとコタロウが各グループに対して画面展開し、全員を驚かせたことなんてすぐに頭の片隅まで追いやり、隊長たちは教えること、新人たちは教えられることに集中した。
スバルは現在、背中を木にたたきつけられ、「痛ぅ」とうめき声を上げている。
「なるほど。バリアの強度自体はそんなに悪くねェな」
「はは。ありがとうございます」
ヴィータが評価をし始めたため、大きく息をついてからスバルは彼女に近づき、
「アタシやお前のポジション、フロントアタッカーはな、敵陣で単身に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守ったりが主な仕事なんだ。防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間が長く取れるし、サポート陣にも頼らねェで済む。って、これはなのはに教わったな」
「はい、ヴィータ副隊長!」
大きく返事をすると、ヴィータは両手を翳して魔力を展開する。
「受け止めるバリア系、弾いて逸らすシールド系、身に纏って自分を守るフィールド系。この3種を使いこなしつつ、ポンポン吹っ飛ばされねェように、下半身の踏ん張りと、マッハキャリバーの使いこなしを身に着けろ」
「頑張ります!」
<学習します>
短い間にスバルの個人内変動を学習したマッハキャリバーはまだまだ覚えることは多そうだと意気込んでいるようにみえる。
「防御ごと潰す打撃は、アタシの専門分野だからな」
自分の身長ほどある大きな槌の先をスバルに向けると、
「グラーフアイゼンに打っ叩かれたくなかったら……」
ヴィータの目の色が変わる。
「しっかり守れよ」
「はい!」
そのときは身の心配はしないからな。と思わせる低い声に相応の返事で応えてみせた。
△▽△▽△▽△▽△▽
「エリオやキャロは、スバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから、反応と回避がまず最重要。例えば――」
フェイトの周囲には現在複数の障害物と球体機器に囲まれている状態で、合図とともにスフィアからビームが発せられると、彼女はステップやジャンプをして避ける。
「まずは動き回って狙わせない」
障害物を左右へ横切り、相手を錯乱させ、
「攻撃が当たる位置に、長居しない。ね?」
『はい!』
こうすればよい。と、手本を見せる。
「これを、確実にできるようになったら――」
2人はこれから先は早さが上がるのだろうという予測は正しく、スフィアの目標への認知、攻撃までの早さと速さがあがり始め、目で追うのがやっとになる。
しかし、フェイトは先程2人に教えたことを忠実に再現しながら避けていく。
『ッ――!!』
2人が声を上げたのは、フェイトがある地点に長居をしたため、攻撃の的になり、スフィアからの一斉射撃を受けたからである。
悪い見本でも見せたのだろうかと思った矢先、
「こんな感じにね?」
後ろのほうで声がしたので振り向くと、ついさっきまで正面にいた女性が「はじめからこんなのは無理かな?」 というように眉をハの字にして微笑んでいた。
もう一度正面を向くと、彼女の移動の軌跡が地面をえぐるように残されているのがみえ、感嘆する。
「今のも、ゆっくりやれば誰でもできる基礎アクションを早回しにしてるだけなんだよ?」
『は、はい』
「スピードが上がれば上がるほど、勘やセンスに頼って動くのは危ないの」
フェイトはゆっくり2人の正面に立って視線が合うように屈んで、
「ガードウィングのエリオはどの位置からでも、攻撃やサポートができるように。フルバックのキャロは素早く動いて、仲間の支援をしてあげられるように」
エリオとキャロの肩にぽんと手を置く。
「確実で、有効な回避アクションの基礎。しっかり覚えていこう?」
『はい!』
「キュクル~」
私も! と、フリードが尻尾を振った。
△▽△▽△▽△▽△▽
「うん。いいよ、ティアナ。その調子!」
なのはとティアナのほうでは魔力弾が飛び交い、2人の弾丸がぶつかるたびに大きな音がして、地面が響いていた。
「ティアナみたいな精密射撃型は、一々避けたり受けたりしてたんじゃ、仕事ができないからね」
なのはが人差し指を上げると、いつもの彼女の魔力弾とは色の違うものが2つ指先に集まる。
「――ッ!? バレット、レフトⅤ、ライトRF!」
ティアナのデバイス、クロスミラージュが反応した直後、背後から別の弾丸が彼女を狙う。
今いる位置から飛び退き、身体を回転させて避けると、すかさずなのはが彼女に狙いを定める。
「ほら。そうやって動いちゃうと後が続かない」
起き上がりの隙をつき、彼女は弾丸を撃つとティアナはその2つに向かって撃鉄を引き、引き金を引く。
弾丸の一つは互いに交差しながら上空へ駆け上がっていき、もう一つは地面に水平に直進に弾丸同士が当たって雲散した。
「そう、それ! 足は留めて視野は広く。……射撃型の真髄は――」
ティアナはなのはが制御する弾丸を次々と命中させて霧消していく。
「あらゆる相手に正確な弾丸を選択して命中させる」
弾倉を交換しまた次、また次と打ち抜く。
「判断速度と命中精度!」
「チームの中央に立って、誰より早く中長距離を制する。それが、私やティアナのポジション、センターガードの役目だよ」
またもう1つ、いや、複数個魔力弾をなのはは生成した。
△▽△▽△▽△▽△▽
はやて、リイン、シャリオが隊舎の外に出たとき、ちょうど向こうからフォワード陣たちが歩いてくるのが見えた。
「あ、皆お疲れさんや」
『はい』
「はやてとリインは外回り?」
「はいです。ヴィータちゃん」
「うん。ナカジマ三佐とお話してくるよ。スバル、お父さんやお姉ちゃんに何か伝言とかあるか?」
「いえ、大丈夫です」
スバルは手をひらひら振る。
その反応を見てからジト目で1人に視線を送る。
「それと、コタロウさん」
「はい。何でしょうか、八神二等陸佐?」
「あんさんについて、よ~く聞いてくるからな?」
「……はぁ。私について、ですか? 私、そのナカジマ三等陸佐にお会いしたことがないのですが」
コタロウはただ上長に言われて出向されてきただけなので直接ゲンヤに会ったことはない。
「ちゃうちゃう。機械士についてや。もう驚かへんようにな!」
「驚く、ですか? というより、機械士というのは――」
「ええな!」
「……はい」
なにか説明しようと口を開くが、基本的にコタロウは反抗ということはしないため、こくりと頷く。
「コイツについてわかることはぜ~んぶ聞いてこいよ、リイン!」
「紹介情報以上にわかる工機課の情報を仕入れてきてください、八神部隊長!」
言葉に出したのはヴィータとシャリオであるが、ここにいる全員が『よろしくお願いします!』 と言っているような表情をしている。
コタロウが首を傾げる中、はやてとリインは皆の意思を確認すると、颯爽と車を走らせていった。
△▽△▽△▽△▽△▽
ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐は一通りはやてのロストロギアの密輸ルートについての詳細を聞き、ちょうど良く冷めたお茶を口にする。
結果だけいうと、調査のための人材が欲しいということらしい。
「ま、筋は通ってんな。いいだろう、引き受けた」
(肝心なところは濁すか。質問しても、のらりくらりやられそうだな。すこし、傍観に努めるか。言うのは点が線になったときだな)
「ありがとうございます」
「捜査主任はカルタスで、ギンガはその副官だ。2人とも知った顔だし、ギンガならお前も使いやすいだろう?」
「はい」
モニターで説明するために立っていたはやては、スカートに手を当て、ちょこんとゲンヤを正面にして座る。
「うちのほうは、テスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になりますから、ギンガもやりやすいんじゃないかと」
(しかし、よく頭がまわる)
「スバルに続いて、ギンガまでお借りするかたちになってしもうて、ちょっと心苦しくはあるんですが……」
「なに、スバルは自分で選んだことだし、ギンガもハラオウンのお嬢と一緒の仕事は嬉しいだろうよ」
「はい」
「しかし、まぁ、お前も気が付きゃ俺の上官なんだよなぁ。魔導師キャリア組の出世は早ェなぁ」
ゲンヤはさすがといわんばかりに呆れ混じりにお茶で喉を潤すと、はやてはどう切り返せば分からない顔をして、
「魔導師の階級なんて、ただの飾りですよ。中央や本局へ行ったら、一般士官からも小娘扱いです」
「だろうなぁ。っと、すまんなぁ。俺も小娘扱いしてる」
「……ナカジマ三佐は今も昔も私が尊敬する上官ですから」
ここだけは心に留めていますとばかりに、彼女はゲンヤに目を合わせる。
(女性は嘘を付くとき目を合わせるみたいだが、コイツの場合は分からんな)
「そうかい」
しかし、実のところゲンヤの少し後ろに焦点をあわせて恥ずかしさを隠しているのは、本人しか分からない。
「失礼します。ラット・カルタス二等陸尉です」
話が一段落したところで、ゲンヤがモニタを展開して一人の男性に通信をとる。
「おォ、八神二佐から外部協力任務の依頼だ。ギンガ連れて、会議室でちょいと打ち合わせをしてくれや」
了解しました。といって、通信を打ち切る。
「ありがとうございます」
「打ち合わせが済んだら、メシでも食うか」
「はい! ご一緒します」
はやては笑顔で応えるがすぐに真摯な顔になる。
「ナカジマ三佐」
「ん、どうした。まさか、他に人を出せとか言うんじゃねェだろうな」
それはさっきのロストロギアの密輸ルートについての説明くらいの表情だ。
「機械士って何者なんですか?」
△▽△▽△▽△▽△▽
会議の後、はやてはリインとともにゲンヤ、ギンガと一見和風とも思える食堂で食事をすることになる。
この食堂はゲンヤがよく通っているようで味も確かであった。
「そんな人、いるんですか?」
スバルの姉ギンガ・ナカジマは普段は落ち着いた、沈着な女性であるが、はやての話を聞いたときはさすがに青い長髪を少し揺らして驚いた顔になっていた。
「本当に優秀な人間みたいだな、その、カギネ三等陸士っていうのは」
ゲンヤは箸で魚を啄ばみながら依頼した工機課課長を思い出しながら笑う。
「笑い事やあらへんですよ」
「この食器も然りですぅ」
彼が作成した食器の中には箸も含まれていた。
「まぁ、機械士が器用なのは事実だな。それくらいわけはない」
ギンガはリインのスプーンを手に取り、それには装飾も施されているのをみてさらに驚く。
「機械士っていうのは修理が主なんですよね? なんで書類整理も凄いんですか?」
彼はぐいとお茶を飲んで、にやりとする。
「そりゃ副産物だ」
「副産物?」
「ですか?」
「あいつ等は、修理をするにあたっては設計図を見たりもするわな。だが、その設計図は自分が作ったもんじゃねぇ」
「…………」
「自分が作ったものでもねぇ設計図を見たり、それに関わる資料をみているうちに書き手の性格を無意識のうちに読み取る技術がつく」
今は専門メカニックが自分で設計したものを自分で作成し、自分で修理するだろう? とさらに言葉を繋ぐ。
「加えて、質量兵器の機械調査も請け負ってるんだから、情報整理、書類作成はお手のもんだ」
そこまで聞いて3人は『なるほど』と息を吐くと、ギンガが口を開く。
「でも、そういうことなら、私たちでも――」
「『やっている』わな。でも、工機課の人間は全部で何人か知ってるか?」
「確か、5人、と」
そこでいち早く答えたはやてはぞくりと背筋に違和感を覚える。
「そう、5人で、課の紹介情報にはなんて書いてあった?」
リインはそこでモニタと開きポンとキーを叩く。
「『時空管理局陸上における、電磁、電算、電気、電器、電子部品を担う部であり、工機課はさらに工業生産部品、主に管理世界に存在する質量兵器の調査、検証を行う課』ですぅ」
「まぁ、あえて言うなら、その情報は設立当初から変わってねぇから、正しくは陸に海も追加されていることだな。設立が陸なんで海がついていないだけだ」
至極簡単に管理局上の機械すべての修理を5人でやっていると言ってのけた。
『…………』
「な? 言い得て妙だろう?」
ま、現在は各部や課には専門メカニックがいるから、忙しさはさほどでもないがな。とそこまで言うと、店員にお茶のおかわりを注文する。
「つまり、管理局の機械の修理を5人でまわしていると?」
「いや、今はほとんどそういうことはない。それでも見てきた書類の数は俺やお前等がやってきた量とは段違いだ。特に俺が入局3年目くらいまではそういった機器のインフラは後回しされ、工機課に集約させてなんとかやってたからな。まぁ、昔は5人じゃなかったが」
『…………』
他の3人は言葉を出すことができなかった。
「だから、そのときは“困ったときは工機課の機械士へ”なんて言ったもんだ」
今はこの言葉なんて、俺より上の人間しか知らんだろうなぁ。そもそも機械士なんて工機課にしかいねぇのに。と感慨深く息を漏らす。
「な、なんとなく、わかりました。機械士の凄さが。でも、そんな凄い課ならどうして私たちが知らないんですやろか?」
「そりゃ、おめェらが若いからだろ。あいつらは基本末端だし、メカニックの下に付いて、目立たず、細々と忠実に動くからな。ましてや魔導師なんて、入局入隊してから退役するまで会うこともないだろう。まぁ、お前等の知らないところで、お前等がやらない仕事をやってる『縁の下の力持ち』の代表だな」
「はぁ」
「しかし、その修理の速さと記憶力はちょいと異常だな。それは個人的なものだろう。それに感情表現もだ」
また、一口ご飯を運び飲み込んだ後、
「あいつらは修理する過程で使う人間のこともよく観察するからな。人間を嫌いになることなんて皆無だ」
(というと、あの丁寧口調も性格か。基本、あの速さや記憶力は個人に能力ということやねぇ)
はやては指をあごにおいて何度か頷く。
「どうだ、機械士についてすこしは詳しくなったか?」
「あ、はい。大変参考になりました」
ゲンヤに会う前とは随分と機械士について知ることができて、はやて、リインは満足そうだ。
いざ、2人は食事を再開しようとしたときに、連絡が入る。
「――うん、うん。了解や。すぐ戻るから、対策会議しよ。ちょうど捜査の助けも借りられたところやから――」
(機械士についても……コタロウさんについてはまだ不明なところがあるけど)
「うん。そんなら、また後で」
そう言って通信をきる。
「なにか、進展ですか?」
「うーん。事件の犯人の手がかりがちょっとな」
一度、機械士については頭の片隅に追いやり、頭を切り替える。
「というわけで、すみませんナカジマ三佐。私はこれで失礼させていただきます」
「おォ」
はやては会計をしようと伝票に手を伸ばしたが、ゲンヤがそれを制して先にとり、
「そ、そんな――」
「さっさと行ってやんな。部下が待ってるんだろう?」
立ち上がっているはやてに挑戦的な上目遣いを向ける。
「……はい。ギンガはまた、私かフェイトちゃんから連絡するな?」
「はい。お待ちしています」
「ほないこか、リイン?」
「は~いですぅ」
そういって2人は足早に食堂を後にした。
「……あ」
「お父さん、どうしたんです?」
「いや、機械士について言い忘れたことがあった」
「え?」
「まぁ、事件にゃ、なぁんも関係ないから、いいといえばいいな」
ゲンヤはごくりとお茶を一口、言葉一つを飲み込んだ。
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