この夏君と・・・・・・
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思考整理
午前六時は普段俺が起きる時間だ。
寝る時間は普段午後十一時ごろだ。
――これらはあくまでも普段の話だが。
――現在午前八時。
「学校は遅刻かあ」
ねぼけた頭でそんなことを呟いてみる。実際のところ遅刻なんてどうでもいい。そんなことよりも気になるのは夜中の出来事。
――まるで夢のような、現実味の無い、でも疑う余地も無く実際の出来事。
今日寝坊してしまった理由は寝た時間が遅すぎたからだ。
「家に着いたのが午前四時半って……」
これで寝坊しないわけがない。本当は徹夜をする予定だったのだが、身体は予想以上に疲れていたみたいでシャワーを浴びて着替えた後すぐに寝入ってしまったみたいだ。
「梢も起こしてくれたらよかったのに……」
妹なんだから寝坊している兄を優しく起こしてくれたりしてもいいのではないだろうか。
しかし実際はリビングのテーブルに一つの書き置きがなされていただけ。
『にぃ、気持ちよさそうに寝てるから起こさないけれど遅刻はしないでね! そこにおいてある料理はチンしてくれたらおいしく食べられるよ♪』
なんだろう……お兄ちゃんがまさか寝坊なんてしないだろうと全面的に信頼してくれたからこそ寝坊をしてしまったということか。
でも気付いてほしかったなあ。六時に目覚めていない時点ですでに寝坊なんだってことに。
「まあいっか」
もう寝坊という事実は変わらないのだし、遅刻なんてどうでもいいわけだから。今俺が一番気になってるのは学校がどうなっているのか、だ。
あの時夏目は「そんなの気にしなくていいの。私の仕事は敵を倒すことであって壊れたものの修復をすることは管轄外よ」なんて言っていた。
それってつまり夏目のような活動をしている人が他にもいると言うことだ。
(夏目は何らかの団体に所属しているってことか?)
そうとしか考えられない。転入してから一日で魔術師活動(?)なんてしているってことはもしかしたら転入が親の転勤って言うのは嘘で、魔術団体から派遣されたようなものだと考えれば納得がいくのだ。
――――おっといくらなんでも遅いな。
時計は八時二十分を指していた。そろそろ家を出ないといけない。
支度を整えて家を出るとうだるような暑さを感じた。
蒸し風呂みたいな感じだ。身体がベタベタするのが本当に不快だ。俺は暑さを忘れるために考え事をすることにした。
(まずは夏目のことからだよな)
昨日転入してきた夏目春香は着物を好んで着る大和撫子。そんな和風な感
じを醸し出しておきながら実は魔術師。完全に西洋風なのは気にしてはいけないのだろう。
次に昨日――時刻的には今日になるのか――の夜の出来事だ。何か起きそうだと感じた俺が学校に行ってみると戦闘が行われていた。それは一般人のレベルをはるかに超越していたものだ。敵の正体はよくわからない。傷をつけても全く血が出ず、倒したと思ったら霧散する。謎だらけの存在だ。
そしてここが一番の問題だ。夏目と俺の意識の食い違い。夏目は術式解放を行っていないと言うが俺は確かにその声を聞いた。そもそも夏目がそれをしないと俺が死にかけることも無かったのだ。夏目が嘘をついているというのならば分かりやすいがあの態度からして嘘ではないのだろう。
そして最後に夏目は何かに気づいていた。その何かもとても気になる。
――――まだまだ分かんないことだらけだな。
――おっと、学校に着いた。俺は腕時計の時間を確認した。八時四十分。一時間目に少し遅れるくらいだな。
俺はさっきまでの思考を停止して学校の門を通った。
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