『八神はやて』は舞い降りた
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序章 手を取り合って
第4話 夜天の書、大地に立つ
前書き
序章はこの話で最後になります。
今回も、説明回になります、ちょっとくどいかも。
『天が夜空で満ちるとき
地は雲で覆われ
人中に担い手立たん』
(とあるベルカの「預言者の著書」より――第一の預言)
これから語る話は、直向きに平穏な日常を願う少女と家族たちの物語。
――――それは、夜天の王「八神はやて」と家族たちの奮闘記。
◇
「ただいま」
「お帰りなさいマスター」
学校から帰宅すると、リインフォースが出迎えてくれた。
エプロン姿の彼女からは、お母さんオーラが噴出している。
父子家庭だったボクにとって、リインフォースは本当のお母さんみたいな存在だ。
恥ずかしいから、面と向かっては言えないけどね。
「シグナムとシャマルは遅くなるってさ、ヴィータ姉は?」
「鉄槌の騎士なら、近所のゲートボール大会に参加しています」
「あはは、ヴィータ姉はおじいちゃんたちのアイドルだもんね」
シグナムとシャマルは、ボクの通う学校である駒王学園に勤務している。
シグナムは剣道部の臨時顧問。
シャマルは臨時保健医。
とてもはまり役である。
この配置は、この領地の主グレモリー家には知らせてある。
というか、彼らの手配によって、学校に潜入できた。
ヴィータは少し前までは、一緒に通学していた。
同じ中学校に通っていたのだ。
もっとも長く接していた家族は、ヴィータだろう。
現在は、無職だが。
うん、なんというか、高校生は無理だった――だって、ロリだし。
ザフィーラ?彼には、自宅警備員として家を守ってもらっている。
前に冗談で、自宅警備員みたいだね、と、言ったところ響きを気に入ったらしい。
それ以後は、わたしは自宅警備員だ、と誇らしげに言うようになった。
聞くたびに思わず吹き出しそうになるのを堪えるのが大変である。
いまのところ、本当の意味を知っているのはボクだけだから、仕方ないね。
(サーゼクス・ルシファーには感謝しないとね。今の生活は彼のお蔭のようなものだし。ま、好きにはなれないけど)
リインフォースと会話しつつ、つらつらと考えごとをする。
マルチタスクはマジ便利である。
ボクは、サーゼクス・ルシファーとの初邂逅を思い出していた。
◇
誕生日に夜天の書が起動し、はぐれ悪魔を倒した後、間をおかずに空から侵入者が現れた。
守護騎士たちがボクを庇うように警戒する中、その姿に思い当たる。
空から現れた威圧感を纏う青年の名前を、サーゼクス・ルシファーという。
ハイスクールD×Dのヒロイン、リアス・グレモリーの兄にして、4大魔王の一柱である。
あまりの急展開に慌てずについていけたのは、前世の記憶があるからだろうか。
ひとまず、サーゼクス・ルシファーと相対してすぐ、互いに自己紹介をし、敵意がないことをアピールする。
守護騎士たちにも、控えるように伝えた。
はぐれ悪魔について謝罪を受けた後、現状について説明を求められた。
夜天の書についても、当然追求された。
素直に「分からない」とだけ、答えておいた。
まあ、ボク自身なぜ手元にロストロギアがあるのか、全くわからないのだから、嘘ではないはずだ。
転生しました、と正直に答えても、可哀想な子扱いされるだけだろう。
それに、本当に転生かどうかもまだ分からない。
――――問題は、どうやって「夜天の書」を説明するかである。
なぜなら、ここは、ロストロギアという概念すら存在しない世界だからだ。
「異世界から来た」なんて、馬鹿正直に答えても――言動の真偽に関わらず――ボクたちの状況は、悪化したに違いない。
強力な力を有しているのならば、なおさらである。
うかつに情報を公開するべきではない。
とりあえず、有無を言わさずに、その場では、守護騎士たちに、記憶喪失を装ってもらった。
サーゼクス・ルシファーが現れてから、自己紹介までの前の短い時間で、頼めたのは、本当に幸運だったと思う。
というのも、リインフォース――――名前がないと申告されたので、後で原作通りに名付けた――――に尋ねたところ、転生機能によって、見知らぬ次元世界へ転移してきただけだ。と、彼女たちは、認識していたからである。
したがって、話をややこしくする前に、ボクに話を合わせるように、念話で頼んだ。
そう。都合のいいことに、念話は、すぐに使えるようになったのだ。
リアルタイムで、堂々とバレずに打ち合わせができたのは、僥倖だった。
どうにか、平静と取り繕うことができたおかげで、その場での追及は、避けられたようだ。
もちろん、不審な点は多かっただろうが、疑問を後まわしにしてくれた。
――――おかげで、カバーストーリーをでっちあげる時間を得られた。
本当に運が良かったと思う。当時のボクを賞賛してやりたい。
ボクの機転は、結果的に大正解だった。
魔王たちは、夜天の書を、「いままで確認されていなかった珍しい神器」であり、「少々強力な力」をもっている。
と、誤解してくれたからだ。
むろん、怪しい点は大量にあった。
未知の神器。
規格外の力。
神器にもかかわらず感じる魔力。
強力な魔力を有する稀有な人間などなど。
どうやら、親が悪魔に殺された幼い少女ということで、見逃してくれたようだった。
敵対する可能性が低かったのも一因としてあるだろう。
悪魔陣営の領地に住む以上、監視をかねて保護ができる。
と、同時に恩を売ることもできて、一石二鳥だ、と考えたのかもしれない。
異世界――夜天の書にとって――で活動する基盤を、手に入れた瞬間だった。
いろいろと設定を煮詰めることで、ボクたちは「家族」になり、新たな門出を迎えたのである。
◇
ぼんやりと、守護騎士たちとの出会いを回想しながら、リインフォースと一緒に夕飯を作る。
「ヴィータお姉ちゃん」とよんだときの、ヴィータの喜びようは、今でも鮮明に思い出せる。
お姉さんとして振る舞う姿は、微笑ましい。
と、同時に、確かに、ボクの姉だと強く認識することができる。
いろいろと辛酸も舐めてきたが、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そしてリインフォースの5人は、いつもボクの傍にいてくれた。
――――ああ、間違いなくボクは幸せ者だ。
◆
聖書の神とともに旧魔王たちが倒れ、なし崩し的に私は魔王になってしまった。
旧魔王を信奉し、私を認めない者たちがいた。
自らが魔王たらんとし、打倒サーゼクス――私のことだ――を掲げる者たちもいた。
おかげで、悪魔社会は混乱の最中にあり、同時に、天使や堕天使連中を牽制し、少子化問題など山のように仕事が舞い込んできた。
すっかり疲労した私は、生き抜きを兼ねた視察と称して、かわいい妹のリアス・グレモリーが将来領有することになる駒王町の視察にきていた。
幸か不幸か、視察を終え帰る間際に、はぐれ悪魔の出現情報が舞い込んできた。
ちょうどよいから、側近には止められたが、見回りと称してこの町を練り歩きながら、はぐれ悪魔を捜索することにした。
都合のよいことに、真夜中の少し前――人間に姿を目撃されづらい、悪魔の活動時間である――だった。 頭上の満月が美しかった、と、記憶している。
探し始めて、数分いや十数分過ぎた頃だろうか。
突如、悲鳴が鳴り響き、発生源から、はぐれ悪魔の気配を感知した。
急行する途中、悲鳴が途切れ、
(間に合わなかった)
と、自責の念にとらわれた瞬間。
はぐれ悪魔の気配がする一軒家から、強い力の波動が溢れだし、唐突にはぐれ悪魔の気配が消えた。 とりあえず確認した時間は――――午前0時。
ほどなくして、現場につくと、はぐれ悪魔は既に討伐されていた。
なぜならば、妹のリアスと同世代だろう幼い少女が、両親と思われる遺体に泣きながらすがりつき、 その傍らには、無造作にはぐれ悪魔の残骸が放置されていたのだから。
これで、懸念の一つが解消されたわけだが、いままさに、別の問題、しかも、はぐれ悪魔とは比べ物にならないほどに、厄介な代物に直面している。
――すすり泣く幼い少女
――彼女を守るように傍に控える4人の人物
――浮遊する本
目の前には、とても奇妙な光景が広がっていた。
しかしながら、少女を含む全員から、強い力を感じるため、警戒を怠らない。
感じる力は、悪魔が使う魔法の力に近く、人間のもつ神器とは異なる点が不可解だった。
一切の油断は許されないと、私は緊張とともに、敵意がないことを示しながら、彼女たちの前に降り立った。
近くで観察してみると、少女からは、強い力を感じるものの、泣きじゃくる様は演技ではないようにみえた。
おそらく、力を持つだけの、一般人だろう。
しかしながら、傍の4人と本――魔道書の類だろう――は、別格だ。
――仮にも魔王たる私が、気押されるほどの力を放っていたのだから。
とりあえず、簡単な自己紹介のあと、少女――八神はやての両親の亡骸とはぐれ悪魔の残骸の後処理を提案。
私が、魔王だと名乗ると、一気に場が緊張した。
が、すぐに、涙をふいた少女のとりなしで、その場を収めることに成功した。
はやて嬢が、主導して、そばに控える4人――――八神はやてに仕える守護騎士「ヴォルケンリッター」と名乗り、私への警戒を怠る様子はない――――も協力することになった。
ただし、魔道書――――夜天の書という名前らしい――――は、はやて嬢を守るように彼女の周囲を浮遊していたが。
あわただしく、遺体をグレモリー家の息のかかった病院へと運び込み、家の片づけをした後。
一息ついたところで、本格的な話し合いに入ることになった。
はやて嬢は、眠そうにしていていたが、強く希望し、同席していた。
話し合いの結果、悪魔側の管理不行届きが事件の原因だと私が認めることで、はやて嬢への支援と後見人となることを約束した。
ただし、基本的に金銭支援のみにとどめ、生活は守護騎士たちとともに送ることを約束させられた。
もちろん、守護騎士たちの戸籍も、こちらで用意することになる。
庇護するためと言い張り、はやて嬢と魔道書、守護騎士たちの強力な力を、あわよくば悪魔陣営へ引き込みたかったが、断固として拒否された。
「強すぎる力は災いを招きかねない」と諭したものの、父を殺した悪魔に傅くことは許容できない、と、見た目からは想像もつかないほどの、強い口調で拒否された。
さすがの私も、彼女たちを悪魔陣営に引き込むことは、諦めるしかなかった。
妥協案として、駒王町に居る限りグレモリー家の客人として庇護を受け、対価として、拒否権つきの依頼をこなしてもらうことになった。
――夜天の王「八神はやて」
――雲の騎士「ヴォルケンリッター」
――魔道書がもつ意思の具現、管制人格「リインフォース」
これが、将来世界を震撼させる彼女たちとの、出会い。
終りの始まりの日。
私も、誰にも気づかれず、ゆっくりと運命の歯車は、狂い出すのだった。
後書き
・「預言者の著書」は、カリム・グラシアのレアスキルです。Strikersに登場する人物で、不定期にビビッと預言を受信します。
・ヴィータといったらゲートボールですよね。ゲボ子。
・ザフィーラは自宅警備員にジョブチェンジしました。それでいいのか盾の守護獣。
・サーゼクス・ルシファーは四大魔王の一角であり、リアス・グレモリーの兄になります。結構キーになる人物です。
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