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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos9次元世界を翔ける騎士~Paradies Wächter~

 
前書き
Paradies Wächter/パラディース・ヴェヒター/楽園(八神家)の番人(騎士)

 

 

†††Sideフェイト†††

私の母さん、プレシア・テスタロッサが犯したPT事件(母さんの名前から取られてる)の重要参考人として、私は今日もまた事情聴取を受けた。けど生活態度が良いとのことで、行動にはほとんど制限は付いてない。アースラ内なら自由に活動できるし、本局内でも局員の同行があればある程度は自由がきく。
だからこうして「ごめんね、シャル。いつも付き合ってもらって」アースラスタッフの1人で、私と同い年ながら執務官補佐の資格を持ってるすごい子、名前をイリス・ド・シャルロッテ・フライハイトに付き添いを頼んでる。
そんな私とシャルは今、私の使い魔のアルフと一緒に本局の医務局に来ていて、診察室の前でいま診察を受けている人をひたすら待っている。

「良いよ、全然。大切なお姉ちゃんの診察だもんね♪」

「うん」

「でもホントに良かったねぇ。アリシア、ちゃんと目を覚ましてさ」

「うん。そうだね。本当に良かった」

私が生まれることになった要因、母さんの本当の娘であるアリシア・テスタロッサの死。母さんはアリシアを蘇らせる為にジュエルシードと、伝説の地アルハザードを目指した。けどそれは失敗に終わり、母さんは死んだ。その代わりなのかな。驚くことにアリシアが蘇った。20年以上も前に事故死したのに。その原因は今も一切不明のままで、念のためにという事で週に一度診察を受けている。

「あ、終わったみたいね」

プシュッと扉が開いて、「あ、フェイト、アルフ、シャル! 迎えに来てくれたの?」私と同じ顔だけど、私より小さく、ずっと明るい女の子、アリシアが出て来た。アリシアは私と違って明るい色の服を好んで、今は水色のキャミソールワンピースにしろのかぼちゃパンツっていう格好だ。パァッと太陽のように輝いてる笑顔と相まって本当に可愛い。
アリシアは一直線に私の所に駆けて来て、「今日も異常なしだって♪」そう教えてくれた。そしてアリシアの後ろから出て来たティファレトさんも、「異常なし」ってピースサインを出した。

「そ♪ じゃあ、そろそろいい時間だし、お昼にしよっか」

「さんせー♪」

「うん」

アリシアは大きく笑顔で万歳、私はコクリと頷く。ここでも差がある。でもいいんだ、これで。ティファレト医務官とはここで別れて、私たちはお昼ご飯にするためにアースラへと戻るために歩き出す。そんな中、私はアリシアが目を覚ました時のことを思い返す。

◦―◦―◦回想です◦―◦―◦

なのは達とお別れをして数日。護送室での生活も慣れ始めていた頃、バタバタと大慌てってことが判る程の大きな足音が聞こえてきた。何事かと思ってベッドの上で横になっていた体を起こす。そして扉が開いて、「フェイトっ、アルフっ!」シャルが勢いよく室内に入って来た。
その剣幕に「ど、どうしたの?」って若干身を引きながら訊いてみた。シャルは答えるよりも早く私の手を取って、私を護送室から連れ出した。後ろから「いったい何事だい!?」アルフも混乱しながら追いかけて来た。

「ティファから連絡! アリシアが目を覚ましそうだって!」

「「え・・・!?」」

アリシアが目覚める。待ち望んでいたのに、逃げないって決めていたのに、あまりに突然すぎて「あの、ちょっと待って!」足に力を入れてシャルに抵抗する。シャルは「なに、どうしたの!?」って私に急に抵抗されて驚きながらも立ち止まってくれた。
そしてシャルは私の足の震えに気付いて「やっぱり怖い?」って優しい声色で心配してきてくれた。私は小さく頷いて、「少し時間が欲しい」ってお願いした。するとシャルは「ん」って頷いて私の手を放してくれた。アルフも「フェイト・・・」私の肩を抱いてくれた。
私は2度ほど深呼吸をして、「大丈夫。行こう」アリシアの待つ医務室へ歩き出す。本当はもっと時間が欲しいところだけど、きっとさらに悪い方へ考えが行っちゃいそうだったから粘るのは止めた。

「さて。それじゃあ開けるよ、フェイト」

「・・・・うん」

医務室前に辿り着き、私は扉の前で改めて深呼吸を数回したあと頷く。シャルは「よし」と医務室の扉を開けた。私はアルフに手を握ってもらい、一緒に中へと入った。医務室に居たのはティファレト・ヴァルトブルク医務官と、ベッドに寝かされたアリシアの2人だけだった。ティファレト医務官は「もうそろそろ」と私を手招きしてきた。

「やっぱり目覚めてから初めて見るなら妹さんの方が良いと思うから」

言われるままに横たわるアリシアの顔を覗き込む。血色も相変わらず良いし、呼吸も安定していることが素人の私でも判る。度々お見舞いに来た時、寝言を聞くようにもなった。本当にいつでも起きそうな気配は有った。

「・・・ん・・・ぁ・・・」

「っ!」

アリシアが吐息を漏らして薄らと目を開いた。最初は焦点の合わない目で何度も瞬きしながら私の顔を見ていた。そして焦点が合ってハッキリと私を視認した。

(何か言わなくちゃ。でも何を? おはよう? はじめまして? それとも、ごめんなさい?)

ジッと私を見るアリシアに向けて何かを言おうとするけど、唇が渇いて上手く声が出せない。ようやく「アリシア・・・」名前を呼ぶことが出来た。

「あの、ごめんなさい! わ、私、フェイトって言います! はじめまして! ごめんなさい! ごめんなさい!」

一言でも喋ったからかスラスラと言葉が出て来た、混乱してメチャクチャだけど。私は頭を深く下げて何度も謝る。ゴソゴソと頭上から衣擦れと、ギシギシっとベッドが軋む音がした。アリシアが体を起こしたんだって判った。私は頭を上げることなく、どんな心無い言葉を掛けられてもいいようにギュッと唇を引き結んで、両手を握り拳にして心構えをする。

「フェイト・・・」

「え・・・?」

ポンと頭に手を置かれて、しかも優しい声色で名前を呼ばれた。予想としては、誰?って訊き返されると思ってた。アリシアは私のことを知っているわけがないから。それなのにまさかそんな優しく呼ばれるなんて思いもしなくて。緊張からドクン、ドクンと心臓が強く動いて苦しい。

「ごめんね、辛かったよね」

「アリ、シア・・・?」

アリシアの両手に顔を挟まれて、顔を上げさせられる。ベッドの上に座るアリシアは泣き笑いしていた。言葉が詰まる。アリシアはまた「ごめんね」って謝って私の頭をその胸に抱き寄せた。どうしてアリシアが謝るのか全然解らない。でもトクン、トクンってアリシアの心臓が動いてる音が聞こえて、それが心地よくて少し落ち着けたかも。

「わたし、ずっと見てたの。記憶があるの。わたしが死んじゃった時からのこと。ママがフェイトを生み出すところも、これまでフェイトがママから受けた虐待のことも、そして・・・ママが死んじゃったことも・・・。みんな知ってるの」

「「「「っ!?」」」」

アリシアが告げた信じられない話。ただでさえ蘇った事だけでも信じられないのに、自分が死んでから蘇るまでの記憶があるなんて。一体どうすればそんなことが出来るのか判らない。でも今はそれよりも・・・。

「アリシア、私は・・・!」

母さんを守ることが出来なかった。それだけが今でも晴れない後悔。それだけは謝らないといけない、私の罪。

「いいよ。ママのことは仕方なかったんだよ。フェイト。わたしね、ママの最期のお願いを聴いたの。たぶんフェイトも聴いてると思う」

――あなたはこれからアリシアと――お姉ちゃんと生きていくの。あなたは妹なのだからちゃんとお姉ちゃんの言うことを聴くのよ? でも、アリシアが間違っているのなら、ちゃんと正すの。行きなさい。そして生きなさい――

「わたし見たまんまで小さいけど、それでもフェイトのお姉ちゃんだって胸を張って言えるように頑張るから。だから・・・!」

アリシアの胸から顔を離して真正面からアリシアの顔を見、そしてギュッと抱きしめる。

「アリシア。私たちはもう生まれた時から姉妹なんだよ。だから、その・・・これからよろしく、アリシアお姉ちゃん」

否定もされず、拒否もされず、それどころか私を妹として見て受け入れてくれた。だからもう何も恐れる事はない。そして私もアリシアに私の想いを告げる。色々と順番がおかしいけど、家族になろうって。するとアリシアも「うん、うんっ。よろしく、フェイト」抱きしめ返してくれた。それからお互いに嬉し涙をボロボロ流しちゃって、それにアルフやシャル、ティファレト医務官ももらい泣きしちゃった。

◦―◦―◦回想終わりです◦―◦―◦

「今日はなにを食べようっかなぁ~❤」

笑顔で私の左腕に抱きつくアリシア。こうして笑顔でやり取りが出来るのも、アリシアが全ての事情を知ってくれていたからこそ、だ。ちなみにどういう風に見ていたのかと言うと、夢を観ているかのように曖昧な感じで、母さんや私の側を行ったり来たりしていたとのこと。

「どうせいつものように別々の頼んで半分こするんだろ?」

「うんっ。アルフは判ってる~♪」

私の右隣に居るアルフもアリシアとはすごく仲が良いし、良いこと尽くめだ。幸せな気分で本局の廊下をお喋りしながら歩く。

「おい、知ってるか。あの連中、また出たんだってよ」

「知ってる。以前、現場で会ったよ。剣騎士セイバー、槍騎士ランサー、鉄槌騎士バスター、治癒騎士ヒーラー、防護騎士ガーダー、あと1人いるって話だが見たことないな」

「マジかよ。俺、ゴツいガーダーって奴しか見たことねぇ」

「俺はセイバーとヒーラーなら見たことある」

「その2人ってスタイル良いよなっ。ま、変身魔法かなんかで顔が動物だからそそられないけどさ」

ふと、局員が数人集まってそんな話をしているのが聞こえてきた。どうしてかは判らないけど、そのコードネームらしき名前で呼ばれる人たちのことが気になって仕方がなくなった。
アリシア達の会話から、横を通り過ぎて行った局員の会話に耳を澄ませようとしたところで、「またかぁ」前を歩いてたシャルが溜息交じりにそう漏らす。その人たちのことを知ってる素振りを見せた。シャルに「またかって?」そう訊いてみる。

「ん? あー、さっきの人たちが話してたランサーとかセイバーとかって連中のことでちょっとね」

「なになに? 何の話? わたしにも聞かせて!」

アリシアも興味を持ったみたい。シャルは「それじゃあ」って前置きをして、語り始めた。事の始まりは数ヵ月前。古代ベルカ式の魔法を使う騎士、ランサーっていう覆面騎士が現れて、魔導犯罪者を片っ端から狩り始めたみたい。抵抗した犯罪者には戦闘行動を取って、撃破したら捕縛して管理局施設に置いていく。降伏したらしたで、なんと目的らしいリンカーコアを抜き取ってから管理局施設に移送。
私はリンカーコアを抜き取るって話に総毛立った。抜き取れるような物じゃないし、抜き取った後の使い道が何なのかが判らないから余計に怖い。

「魔導犯罪者ばかり狙われてんのかい?」

「それって良いことなんじゃないの? 管理局は人手不足でいつも忙しいって、エイミィが愚痴ってたよ。それに悪い奴を捕まえてるんだもん。そんなに悪いことじゃないと思うけど?」

「エイミィ・・・。子供(アリシア)になに言ってんだか」

「あ、ひょっとしてまたわたしを子ども扱いした? もうっ、わたしの方がずっと年上なんだぞっ」

アリシアの実年齢31歳。驚くべき事実だった。

「はいはい。というかアリシア。確かに悪い奴らだけど、それでも一応は人権を持ってるからね。自業自得とは言え襲われた以上は被害者になるわけ」

「でもま、いい薬にはなったんじゃないかい? 罪を犯した分、それが自分に戻ってきたんだから」

「まぁね。わたしとしても本音を言えば、ザマァ、なんだけどさ。やっぱり傷害罪なんだよ」

「そうなんだぁ。難しいね」

「でね。そんなランサーの仲間と思しき連中がほんの1週間前に現れてね。コイツらもまた強いらしくて。ランサーと同じように魔導犯罪者を狩り始めたわけ」

シャルは最後に「同じ古代ベルカ式の担い手として嬉しいやら悲しいやら」ってぼやいて、アリシアは「わたしはアリだと思うけどなぁ~」ランサー達を擁護、アルフは「こっちに被害がなきゃどうでもいい」って興味の外へ追いやった。

「でも実際。アリシアと同じ考えを持つ人が出て来ちゃってるのも確かなんだよね。連中、パラディース・ヴェヒターって名乗ってるんだけど、コイツらって被害者たちから英雄視されてるのよ」

「「「英雄視?」」」

「そ♪ ほら、管理局って万年人手不足って話でしょ。だから規模・被害が小さいのはどうしても後回しになっちゃうわけ。でも連中はそんなのお構いなしに手当たり次第に解決しちゃうから、後回しにされてた被害者たちからすればそうなるのは必然だった」

シャルは続けた。パラディース・ヴェヒターはそれだけじゃなくて各管理世界の政治家やお金持ちの人たちのことも助けてるから、その人たちが味方しちゃうかもって。中には管理局運営に必要なお金や資材を出資している人たちも居るらしくて、もしその人たちに保護でもされたらお手上げとも。

「連中のリーダーか、それともメンバーの誰か、か。どっちにしろ、頭の良い奴が向こうに居る。自分たちが犯してる罪を、次元世界に知れ渡ってる犯罪者を狩ることで覆い隠してる。しかもちゃっかり大物に恩を売ってる辺りセコイと言うかなんと言うか」

シャルは呆れとも感心とも取れる溜息を大きく吐いた。アリシアはパラディース・ヴェヒターのやり方に「ほわぁ、すごいねぇ~」感心してる。そして私はと言うと。

「リンカーコアって何に使うんだろう・・・?」

その疑問が消えない。魔導犯罪者ばかりを狙う以上は根っからの悪い人たちじゃないのかもしれない。だけどリンカーコアっていう魔導師にとって一番大切な器官を奪うということは何かしら大きな企みがあるって思うのが自然だ。

「さぁ? 再犯させないための罰かもって噂されてるけど。真実を知りたいなら当人たちに訊くしかないよ」

シャルの言う通りか。でも「なんにしてもわたし達には関係ないよ。担当じゃないんだし、地上に降りることなんてそうそうないから遭遇する確率もほぼゼロだし」シャルの言う通り私がランサー達と出会うきっかけはほとんどない。
でもどうしてこんなに気になるんだろう。それが本当に解らない。まるで何かにそう思わされているかのような、妙な感じがする。変な気持の悪さを抱いていると、きゅ~、って可愛い音が耳に届いた。音の出所は「あぅぅ」アリシアのお腹で、アリシアは大きく鳴ったことに顔を赤くしてた。

「ほら、アリシアもお腹鳴らしてるし。早くご飯にしよ♪」

「う、うん」

そうして私たちはお昼ご飯を食べるためにアースラへ早く戻ることにした。

†††Sideフェイト⇒はやて†††

『こちらセイバー。対象を撃破。リンカーコアの回収を完了』

『バスターだ。こっちも標的撃破。リンカーコアをゲットだ』

『ガーダー。リンカーコア回収完了』

「お疲れ様。じゃあセイバーは即時帰還。午後から仕事が入ってるからな。バスターも帰還、俺――ランサーと交代だ。ガーダーは引き続きよろしく頼む」

『『了解』』『おう、了解だ』

ソファに座って空間モニターってゆう画面越しに居るシグナム、ヴィータ、ザフィーラに指示を出すルシル君。わたしはシャマルと一緒にルシル君が使った食器を洗いながら眺める。通信を切ったルシル君はソファから立ち上がって大人の姿、そして真っ黒な服――騎士甲冑に変身した。ついでに頭をキグルミのようなチーターに変えた。デザインはリアルやなくてデフォルメされた可愛いやつや。

「さて。じゃあ俺も出るよ。シャマル。はやてのこと、よろしく頼むよ。はやて、いってきます」

「ええ、任せて♪ あとコレ、ザフィーラのお昼よ」

「う、うん。いってらっしゃい。気ぃ付けてな」

ザフィーラ用のお弁当箱をシャマルから受け取って手を振るルシル君に手を振り返すと、ルシル君はその場から一瞬で消えた。転移ってゆう魔法や。わたしは振ってた手を膝の上に降ろして「ホンマにこれで良かったんやろか?」ポツリと漏らす。ルシル君たちは日夜戦ってくれてる。それもわたしを助けるために。
シグナム達からわたしの下半身麻痺の原因を聴いて早1週間ちょっと経った。
いきなりわたしの前で土下座するんやもんなぁ、あれにはホンマ驚いたわ。何度も頭を上げてって言うても上げてくれへんし。結局土下座したままのみんなから事情を聴いた。わたしの麻痺の原因は“闇の書”の呪いやって。でも別にそれで悲しんだわけでも恨んだわけでもなし。だってそれ以上に貰ったものがあるから。

「私は、私たちはこれからもはやてちゃんに生きていてほしいです。原因である私たちが言うのもなんですけど」

シャマルが後ろから抱きしめてくれた。シャマルの温かさと柔らかさが背中から伝わって来る。わたしは胸に回されたシャマルの両腕にそっと両手を添えて応える。思い出すのは事情説明を聴いた後のこと。ようやく頭を上げてくれたかと思えば、お願いがあります、なんてまた土下座するんやもん。

――我々は、主はやてを喪いたくありません。ですから、主はやてとの誓いを、申し訳ありませんが破棄させていただきたく思います!――

――はやてを助けるには闇の書を完成させて、はやてを本当の主にするしかないって!――

――ですから私たちに戦闘の許可をお願いします!――

それがお願いやった。わたしの麻痺を治す、最低でも進行を止めるためには“闇の書”を完成させる必要がある。そやけど完成には魔力、リンカーコアが必要やってことや。そのリンカーコア集めのために戦うことの許可が欲しいってことやった。

――それってリンカーコアを持ってる人に迷惑が掛かるってことやろ? わたし、他人様に迷惑は掛けたくない――

そう言うたらルシル君にメッチャ怒られた。他人の迷惑より自分の命を優先しろ、って。それを皮切りにシグナム達からも懇願された。わたしの命を優先して考えてほしい、って。そやけどわたしは今の生活がホンマに気に入ってた。みんながいつも一緒に居って、楽しくお喋りして、どこかに出かけて遊んで。それが崩れるくらいなら、たとえ短くても充実した生活を選びたかった。そやけど・・・。

――はぁ。はやての人格からしてこうなることは判っていた。だから俺は・・・――

そう、全ては手遅れやった。ルシル君は3ヵ月も前からリンカーコア集めをしとった。リビングに溢れるいろんな色に輝くリンカーコアが幾つも出て来た。聞けば総数200以上。眩暈がした。ルシル君がいつの間にか大悪人になってたことに。しかもわたしの所為で。

――ちなみにコレらは全て魔法を悪用する犯罪者から頂戴した物だ。だから気に病むことはない。連中は自業自得だったんだ――

そう言ったルシル君は凶悪な笑みを浮かべた。わたしなんかの為にルシル君は罪を犯してしもうた。それが申し訳なくて。わたしは謝った。

――俺ははやてに生きていてほしい。それが俺の、俺たちの願いだ。だから俺たちは何だってする。せめてもの筋として罪なき人には手を出さない。出すのは、どうしようもない悪人ばかりだ。正直、悪人の魔力で闇の書を完成させ、はやての未来を繋げるのも嫌な話だけど、それでも・・・助けたいんだ――

ルシル君が困り果ててたわたしの手を取って、初めて辛く悲しそうな表情をわたしに見せた。そこまで想われたらもうアカンとは言えへん。

――・・・判った。わたしも出来るならホンマはこれからもずっと、おばあちゃんになるまでみんなと生きてたい。そやから・・・よろしくお願いします――

(わたしはそうしてこの道を選んだんや・・・)

もちろんすべてが終わったら時空管理局ってゆう、次元世界での警察に自首するつもりや。たとえ悪人でも襲われた以上は被害者やし。それをみんなと約束したうえでこうして戦うみんなを見守ってる。
ルシル君はランサーと名乗ってチーターの顔に変身して。シグナムはセイバーと名乗ってライオンの顔に変身して。ヴィータはバスターと名乗ってウサギの顔に変身して。ザフィーラはガーダーと名乗って狼の顔に変身して。ちなみにシャマルはヒーラーで、ヒツジの顔に変身して素顔を隠してる。
そんなみんなは公衆にはこう名乗ってる。楽園の番人、パラディース・ヴェヒター。言い換えると八神家の騎士、ってことらしい。

「優しいはやてちゃんですから辛いかも知れませんが。今は耐えてください。私たちの未来のために」

「そうやね。うん、みんなの覚悟の為にもわたしは生きやなアカンね」

わたしは改めて覚悟を決めた。生きよう、精一杯。みんなの為に。ルシル君が出かけてから数十分後、「ただいま~!」ヴィータが帰って来た。遅れて数分、「ただいま帰りました」シグナムも無事に帰って来てくれた。
リビングに入って来た2人にシャマルと一緒に「おかえり」って出迎える。そして4人でテーブルに着いてお昼ご飯。ヴィータは2回もお代わりした。ご飯の後、シグナムは1時間の仮眠をしてから非常勤講師として働いてる剣道場へ出勤。そんでヴィータはまだお休み中。夜からまたリンカーコア集めにいかなアカンから。

「はぁ。みんな体壊さへんかが心配や」

「一応みんな丈夫な体ですし、そう病気になることはないとは思いますけど。万が一病気になった場合はちゃんと休ませます。私とルシル君で治せるようなら治しますし」

「そんなスパルタせんでもええよ。ゆっくり横になって休ませやなな」

戦場のことは判らへん。そやけど家やったらわたしにも出来ることがたくさんある。みんなの帰る家を守ること。わたしにはそれくらいしか出来ひんけど、でもそれがわたしの役目や。

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

俺はまずザフィーラの居る第4世界カルナログに赴いた。用としてはザフィーラに昼食を届けるためだ。カルナログの辺境の廃棄都市区画でザフィーラと合流場所を念話で決め、合流後は念入りにサーチャーや人の目が無いのを確認した後、合流したザフィーラに弁当を渡す。

「待たせてすまない、お腹空いたろ? マスターとヒーラーの合作弁当だ」

「すまぬ、助かる」

ザフィーラは人型から狼形態へと変身し、弁当をがつがつ食べ始める。それを横目に水筒のコップにお茶を注いでいると、合流する直前でばら撒いておいたサーチャーの魔術、イシュリエルに招かれざる客の姿が映り込んだ。

(こんな場所に一体何の用だ?)

とりあえずモニターを展開し、カルナログでの事件・事故を報じるニュースが無いかを確認する。と、「ビンゴ!」イシュリエルに映る男の顔の特徴と、放送されているニュースに出ている顔写真が一致。

「その男を討つのか? この世界での担当は我だ。我が行こう」

「いいよ。ゆっくり昼食を摂っていてくれ。俺が行ってくるよ」

ザフィーラにそう告げ、頭部をチーターに変身させてビルを出る。目指すは隠れる場所を探しているらしい犯罪者の元。気配・足音を消し、背後から近づいて行く。そしてポンポンと肩を叩く。

「うひっ!?」

男はビクッと肩を跳ね上げ、前に飛び退いた。そして「管理局か!?」と俺へと体を向けた。その途端、奴は顔を真っ青にした。

「チ、チーターの被り物に2mの大槍・・・! まさか、お前、近頃有名な・・・ランサー!?」

「ご名答。今ニュース観たけど、お前は魔法を使って一般人を襲い金品を奪ったそうだな。いかんな、そんなことをするのは」

ジャリっと一歩足を踏み出すと、奴は「ヒッ」と怯えを見せて後退。そして「頼む! 自首する、許してくれ!」と懇願してきたが、俺は首を横に振った。

「どんなに小さくても魔法を悪用した時点で標的だ。今のお前に委ねられる選択肢は、抵抗して撃破されてリンカーコアを出されるか、抵抗せずに痛みなくリンカーコアを出されるか、だ」

“エヴェストルム”をクルクルと回し、片方の穂先を犯罪者に向ける。奴は「なんでこんなことに・・・!」ガクガクと膝を震わせ、ついにはその場にへたり込んだ。抵抗の意思なしと判断した俺は警戒を怠ることなく歩み寄る。そして手を伸ばせば触れられるところまで来た時、「ふざけんな!」奴は手の平を向けて来た。グローブ型のストレージデバイスだと判断。

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

「いぎっ・・・!?」

奴が魔法放つより早く閃光系の魔力槍マカティエルを発動。奴の両手の平に打ち込み、そのままの勢いで背後の廃墟の壁に縫い付けてやった。さらに両太ももにもマカティエルを打ち込む。

「い、い゛い゛い゛ぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛・・・!」

「無駄な抵抗をしなければ痛い思いをせずに済んだものを。お前は彼我の力量差を測れないほどのド素人か?」

魔力ダメージであっても痛みは存在する。しかも貫かれているというシチュエーションで精神的にもダメージが高い。だから奴は苦痛に満ちた表情で呼吸を荒く乱している。少々やり過ぎ感も否めないが、やってしまったものは仕方がない。
早々にリンカーコアを取り出して気絶させる方が双方にとって好ましいだろう。転移魔法を発動し、俺は奴の胸元へと腕を突き入れ、リンカーコアを掴み取ったまま一気に引き抜くと「あがぁ!?」奴は苦痛によって一瞬で気を失った。

「これでまた1つ回収だな」

赤く輝くリンカーコアを創世結界の1つ、“神々の宝庫ブレイザブリク”へと取り入れる。活動を開始した“夜天の書”は意思を持ち、はやてに寄り添うように浮遊し始め、呼べば転移して来てくれるようになった。だから今も呼べば来てくれるんだが・・・「私に何か用か?」今はまだ“夜天の書”が起動していることを知られるわけにはいかない。

「カルナログ地上本部所属、陸士第133部隊です」

「パラディース・ヴェヒターのランサーとお見受けします」

「聴取を開始する前に貴様に言っておきたいことがある!」

3人の陸士隊員が俺を包囲していた。女性1人に男性2人。最後の男は一目見れば判ると言えるほどに正義感が強そうな顔立ちだ。ビシッと俺に指差して宣言してきたし。

「そうだが。何か?」

「貴様はあれか? 自分が法の番人になったつもりか? 正義の使者になったつもりか? 貴様や仲間がしているのは、そこの犯罪者と同じ犯罪行為だ! 犯罪で犯罪を取り締まろうなど俺は許さない! 人が人を裁いていい道理はなし! 取り締まる資格を持たない貴様らは悪!」

面倒なタイプが来てしまったものだ。法こそ絶対。法の下に犯罪者を取り締まる自分こそが絶対の正義。ああいう手前の奴はいつか正義にとり憑かれ暴走する。レジアス中将がいい例だ。

「自分が法の番人になったつもりか、正義の使者になったつもりか、人が人を裁いていい道理はない、か。何か勘違いをしているようだな、君は」

俺に突っかかって来た青年にそう言い返す。

「なに?」

「私たちが行っているのは正義ではない。法の番人にもなった憶えもない。いくら相手が犯罪者であろうとこうして襲っている以上は管理局法に則れば罪とされる。それくらい私たちは理解している」

「そ、そうだろう!」

「だが、人が人を裁いていい道理はない。これには反論させてもらう」

「何故だ! 罪を犯した者を裁けるのは唯一法だけだ!」

「捉え方の相違だな。なら訊こう。お前の言う法。それは誰が、いや何が創ったものだ?」

俺はそう問い質す。青年は「え?」と呆け、事の成り行きを見守っていた他2人は「あ」と漏らした。

「人、という答えは無いぞ。いま言っただろう? 罪を犯した者を裁けるのは法だけだ、と」

「あ・・・!」

「理解できたか? 人が人を裁いていい道理はない。違う。人だから人を裁けるんだ。法律然り判決然り執行然り。法律は人の手により創られ、判決は法に照らし合わせて人の手によって下り、執行は人の手によって行われる」

「それは・・・そうだが・・・!」

「いかなる世界でも、いかなる時代でも、人を裁くのは常に人だ」

法ではなく人が裁く。法の下に働き執行するのならその責任をしっかりと自覚していないといけない。

「私たちパラディース・ヴェヒターは悪を成しながらでも進まなければならない。そう、いかなる妨害があろうとも、だ」

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

背より12枚の剣翼アンピエルを出現させフワリと宙に浮く。「待て!」と制止して来る陸士隊員に手を振る。

『ガーダー。悪いが私は先に標的の場所に向かう。弁当箱は君が責任を持って帰ってくれ』

『承知した。武運を、ランサー』

ザフィーラに『ありがとう』とだけ告げ、俺は一気に高度を上げて俺の標的が居る第15管理世界アネアへ向かうために転移した。


 
 

 
後書き
チャオ・アウム。
今話の前半に、フェイトとアリシアの話をぶっ込みました。本当ならまるまる1話を使って出そうと思ったのですが、文字数が半端なく少なくなると思い別の話、今話に組み込むことにしました。
 
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