| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

例えばこんな裏方の仕事にもやりがいはある

 
前書き
フルメタル・パニックとゼノサーガのクロスっていけるじゃないかな?(※錯乱しています) 

 
「・・・・・・」
「?どうしたウツホ」

学園祭の出し物であるメイド喫茶で接客をしていたウツホの動きが止まった事に、私ことラウラは眉を顰めた。お目付け役も兼ねて一緒に行動させられている私としては理由を聞かねばなるまい。

「やな匂い、する」
「・・・?」

ウツホはそう言っているが、アドヴァンスドとして強化されたラウラの嗅覚では周囲の臭いに異常など感じ取れない。だが彼女は人の姿はしているが中身はISだ。人に感じ取れない微細な異常を検知したのかもしれないと思い返す。

「何の臭いだ?」
「不愉快な匂い。油の臭い。洗っても洗っても消えない血の臭い。・・・あいつだ、あの厚化粧のおばさん」
(・・・福音事件で暗躍していた亡国機業(ファントムタスク)の尖兵?)

その考えに到るとほぼ同時に、ウツホはお盆をテーブルの放り出してつかつかと移動を始める。ラウラは慌てて周囲に「少し抜ける」と伝えて彼女を追いかけた。同時に暗部に秘匿回線で通信も送った。
間違いなく、ウツホは自力で障害を排除するつもりだ。



 = = =



それはゴエモン君とリューガ君が試合を開始する前に空いた数時間だけの休憩時間。私はこの学園祭の時期が訪れる度に、いつも同じ人の事を思い出す。

小村順子(こむらじゅんこ)。私より1つ上の学年にいたIS学園時代の先輩だった。
常に明るくて後輩にも人当たりが良く、いつも良く分からないジョークを飛ばしては私をからかっていたのを今でも思い出す。
ISの操縦技術はかなりのもので、次期日本国家代表候補でもあった。同じ候補生でもてんで腕前が無かった私に先輩は次々に技術を教え込んでくれ、それを私がマスターする度に自分の事のように喜んでくれた。一緒にカラオケにいったり逆ナンにつき合わされたりもしたが、その底抜けの明るさが私は好きだった。

そんな小村センパイとの関係に陰りが見えたのは、夏休み中に行なわれた第1次国家代表選抜でのこと。私はそこで小村センパイと代表の座をかけて戦うことになった。

当時の私は「あのセンパイに勝てるわけがない」というプレッシャーと「小村センパイが何のために訓練を付けてくれたと思っている」という相反する感情の板挟みになっていた。それでも私は『銃を握った時だけターミネーターになれ』という教えを守って戦いを挑んだ。

私は、小村センパイに勝った。

センパイは「流石は私が見込んだだけのことはあるな・・・さあ!私の屍を超えて行けー!!」などといつもの調子で笑っていたが、先輩がその時本心では何を思っていたのか、今では知る由もない。

噂は沢山あった。「山田に才能で抜かれているから邪魔をしようとしている」だの、「自分の夢と技を山田に託した」だの、その種類は実に様々。女と言う生き物は本当に憶測でモノを言うのが好きで、小村センパイが私に何を思って指導をし、負けてどう思ったのかの真相はちっとも分らなかった。

でもその頃から先輩の表情に少しづつ陰りが見えてきて、私はその原因を突き止めたかった。ひょっとしたら、先輩は私の事を疎ましく思っていたんじゃないか?自分が勝ってしまったことが原因ならばいっそ身を引こうとさえ覚悟していた。答えを問い詰めた私に先輩は「学園祭で話すよ」と笑いながら告げた。その日に決着をつけようと心に決意した。


そして学園祭当日に、センパイはいなくなった。


先生に聞けば、既に私が問い詰める前から小村センパイは学園に退学届を出していたそうだ。私を含む後輩や友人の先輩たちが慌てて彼女の部屋に行くと既にそこはもぬけの殻。実家とはもともと折り合いが悪く絶縁状態だったため、ご家族もセンパイの行方は知らなかった。

あれからもう5年以上が過ぎた。

そう、私と先輩は―――実に5年ぶりの再会を果たしたのだ。



 = = =



目の前にある揚げタコを一つ頬張る。昔は揚げタコではなくたこ焼きが主流だったのに、時代は変わるものだ。―――おいしい。外側は変わっていても、甘辛いソースとタコの触感はたこ焼きと変わらないみたいだ。

「あの人たちは、先輩とどんな関係なんですか?友達とその子供とか?」
「そだね。子供二人はまた別の友達の子なんだけど、今日は面倒任せられてんのよ~ん!」
「へぇ、センパイに任せるなんて勇気ありま・・・よっぽど信用されてるんですね!」
「ユウキ・アリマさんがどうしたって?」
「き、気のせいですっ!」

揚げ足を取るような発言に思わずそう言い返すが、こうなってしまうといつも弄り倒されてしまうのが常だったのを思い出す。やはりというか、センパイはあの頃と変わらぬ悪ガキの様な表情でにやにやしていた。

「ぬへへへ・・・相変わらず嘘がヘタクソだねぃ。可愛いったらありゃしない!」
「や、止めてください・・・こんな生徒が見ているかもしれない所で・・・!?」
「お、今の台詞超エロイね。もう一回どうぞ!」
「もう~!センパイったらいい加減にしてくださいっ!」

それほど長く時間が残されていないことは分かっている。あと数十分もすれば持ち場に向かわなければいけない。それでも、先輩とまたこうして並ぶ時間は懐かしくて、質問をしてしまえが今度こそこの安らぎが消えてしまう気がした。

でも、聞かなければいけない。聞かない方が、互いにとて幸せなことかもしれないけれど、それでも私は切り出した。

「・・・センパイ。どうして何も言わずにいなくなっちゃったんですか?この5年間、この疑問を忘れた夜はありませんでした」
「へっ・・・あっしは元々根無し草、風の向くまま気の向くままに行くだけよ?行き先はお天道様に聞きな!」
「真面目に答えないとIS使いますよ」
「御免。真面目に答える・・・」

センパイはどこか遠い目をして空を見上げた。

「昔っからさ。人とおんなじことやって生きていくのってヤダな~って、漠然と思ってた。それが嫌でIS学園に入ってみたけどさ。学園でもやっぱり入ってしまえば周りのみんなとおんなじになっちゃって・・・」

人は規則、法則、習慣に縛られる。それが社会の掟であり、不適合者はその輪から弾きだされるからだ。例えIS学園と言う世界的に特殊な場所に来たからと言って、底で与えられる条件は結局周囲に合わせたものになる。特別が普通になってしまう。

「それでも最初は楽しかったけどね?ほら、IS学園って将来の進路で本当にIS関係の職に就けるのは20パーセントくらいでしょ?そこに食い込んだところでまたルールと周囲に縛られてさ。それって私の欲しいものと違ったのよねー」

そう言ってまたタコを頬張る。食べるか喋るかどっちかにして欲しいものだが、センパイは昔からそうだった。

「だから、取り敢えずIS学園で学んだ経験をまやちーに全て教え込んで学園からプリズンブレイク!って決めてたのよん。何も残さずに出ていったら学園に入った私を否定するみたいじゃん?だから可愛い可愛いまやちーには、覚えておいてほしかったわけ」

脱獄(プリズンブレイク)。このIS学園が監獄。それが、センパイの答えですか。私たちにとっての楽園だったここは、センパイにとっては・・・

「センパイは、ここが嫌いだったんですね」
「どーだろ?少なくとも人は嫌いじゃなかった。どっちかってーと型に嵌っちゃってる自分が嫌だったんじゃないかな?」

そろそろ現場に戻らなきゃいけない。まだいくつかタコの残ったトレーをセンパイに渡す。残念ながらこれ以上食べている暇はないだろう。センパイのトレーはとっくに空になっており、余ったタコは次の瞬間全てセンパイの胃袋に収まった。

「それじゃ、行きます。今日は会えてよかったです」
「がんばって、と言うのは私の流儀に反するわけで、ここは『覚えてろよ~!』と言わせて貰おう!」
「何所の悪役ですかそれ・・・」

全く、何年間も人を悩ませておいてこれだ。相変わらずこの人は変わらない。
だが―――自分なりの返事くらいは返しておこう。もう言われるがままの人間ではないのだから。

「―――センパイ。私、センパイの事は尊敬してますけど・・・私はセンパイの記録係でも代理人でもないので。他の皆には自分で事情を説明してくださいね。私たちがここで出会ったことは、皆には伝えませんから」
「えーメンドイ」
「二つ返事ですか!?」

何年経っても先輩には勝てた気がしないな、と思い知らされたのであった。



 = = =



本来聞こえるはずのない振動音が鼓膜を叩く。―――間違いない。何者かが建物内で戦闘を行っている。それも、近い。ウツホはずかずかと進み、やがて現在は使われていないはずの学内倉庫の前で足をピタリと止めた。

「ここ・・・!」
「おい、待て!学園側からの指示を待つんだ。独断行動は後後被害を増やす結果になりかねん」

どうにか追いついたラウラがウツホの肩を掴んだ。が、関係ないとばかりに掴んだ腕ごと彼女の身体は前へ進む。何という力だろう。中身がISなだけにラウラの軽い体重ではどうあがいても彼女の歩みを止められない。

「やだ。人間って脆いんでしょ?私はISだもん、怪我してもすぐに治るもん」
「馬鹿者!そういう問題では・・・」
「もう戦闘が始まってる!ヴァイスお姉ちゃんが苦しんでるの!!どうして邪魔するの!?」

振り払うようにウツホの手が振られる。その速度は人間が振るそれよりも明らかに鋭く―――



次の瞬間、私はどうしてか天井を眺めていた。

頭の後ろに鋭い痛みを感じる。周囲を軽く見渡してみたところ、ここはIS学園医務室で間違いなさそうだ。しかし経験則と言うのは馬鹿に出来ない。私は現在の状況と酷似した経験を一度した事があったため、自分に何が起きたか見当がついてしまった。

「そうか、私は失神したのか」

一度だけ、教官を怒らせて頭を(死なない程度に)強打されたことがあった。その時初めて知ったのだが、気絶からの覚醒は体感時間ではほんの一瞬―――それこそ瞬きの間くらいにしか感じないのだ。ついでに失神と気絶は同じ意味で、失神の方が医学で使われる言葉と言うどうでもいい情報も知ったが。

「目が覚めたみたいだね」

隣から聞き覚えのある声がした。横を見てみると―――

「あ、君がここに運ばれた理由は頭部の強打による裂傷と失神が原因だよ?」
「あ、ああ。いや、その・・・シャルロット・デュノア。お前は何故そんなにボロボロなのだ?」

そこには何故かズタボロなシャルロットがベッドに寝そべっていた。どうも足の骨とか折れてる。
本当に、いったい何が起きたのだろうか?弟と妹は無事か?それよりあの後ウツホはどうなったというのだ?

「そうだ、ウツホはどうしたのだ?」


「ウツホは・・・その―――学園を退学したよ」
 
 

 
後書き
最近になって漸く小説を評価したユーザーを調べる機能があるという衝撃的事実に気付いた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧