魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第42話 模擬戦での一幕
前書き
こんにちはblueoceanです。
かなり時間がかかってしまいました。物凄く苦労しました………
「今日はありがとうございました。久しぶりにいい気分転換が出来ました」
戻った時には既に空は赤暗くなっていた。
そう言ったティアナの顔は晴れ晴れとしていてまだ疲れはあったようだが、それでも行く前よりはマシになっていた。
「そいつはよかった」
「だけど訓練はやめません、私はどちらにしても実力不足ですから………だけどもう一度ちゃんと考えて訓練する事にします」
「それでいい。俺は一言も止めろとは言ってないからな。頑張れティアナ」
「はい」
そう言って隊舎へと向かって行くティアナ。
「さて、これで少しは変わればいいがな………」
「何が変わるんだ?」
「おわっ!?」
後ろから声を掛けられ慌てて振り向くとそこには私服姿のシグナムがいた。
「姐さん!?一体どうしたんです?」
「いや、シャマルの買い物の付き合いで丁度その帰り道にお前の姿を見て声をかけたのだが………」
「あっ、そうですか………」
「しかしデートか?ヴァイスもしっかりやることはやっているのだな」
「いや、そういうのじゃ無いんですよ………」
「じゃあどういう事なのだ?」
苦笑いしながらそう答えるヴァイスにシグナムが不思議そうな顔で答えた。
「姐さんはティアナの自主訓練の様子を見たことありますか?」
「ああ。全部見ていた訳じゃないが、よくいつも訓練している所を見かけたな………」
「あいつ、その訓練いつもの訓練の後や空いた時間にやっていて寝る暇すら削ってやっていたんですよ」
「………何?そんなオーバーワークで訓練をしていたのか!?」
「はい。流石に見ていられなかったんで………隊長たちも色々と忙しいと思って余計な事しちゃいました」
「そうか………済まんなヴァイス。本来なら私達がしっかり見ていなければならないんだが………」
「よしてください、昔の俺と同じように見えてほおっておけなかっただけですから」
そう言って笑いながら答えたヴァイス。
「ああ、ありがとう」
そんなヴァイスにシグナムも笑って応えたのだった………
「………何だろう、あの2人妙に親しげ………」
そんな2人の様子を少し離れた物陰から覗くティアナ。
ティアナは借りっぱなしだったジャケットを返しに来たのだが、2人の姿を見て思わず隠れてしまった。
「私、何で隠れちゃったのかしら………別に出て行ってジャケットを返しに行くだけなのに………」
既にヴァイスは話し終え、シグナムも自分の部屋へと戻っていた。
「………まあいいわ、明日返しましょう」
そう言ってティアナは気にしない事にし自分も部屋に戻ることにした………
「ただいま」
「お帰りティア」
「スバル帰ってたのね。………スバルどうしたの?」
「ちょっと話がしたくて」
部屋に帰ったティアナだったが待っていたのは部屋着のスバルではなく、訓練をすぐに出来る格好のスバルだった。
「どうしたのよ?もうすぐ夕飯よ?」
「ティア、聞いて。………私決めたの、ティアと一緒に訓練するって!!」
「いや、私一言もOKと言った覚えが無いんだけど………」
「そんなのどうだって良いの、私がそう決めたんだから」
「いや、それただ自分勝手に言ってるだけじゃない」
「さあ、最初は何をする?私最後まで付き合うよ!!」
「話を聞きなさい!!」
少し暴走気味のスバルの頭にチョップを落とし、沈黙させるティアナ。
「ティアぁ………痛いよ………」
「少しは落ち着いた?全く、勝手に話を進めないでよ………」
「ごめん………ティア、勢いで押していかないと直ぐに断られると思ったから………」
「何よ、私は勢いで押せば良いとか思われてるのかしら………?」
「思われてる?私以外にも誰かにアタックされたの?」
そんなスバルの言葉にあの時、目が覚めた時の光景が甦った。
(起きたらヴァイスさんの顔があんなに近くに………)
ヴァイスもティアナが寝た後、暫く寝顔を見ていたのだが、ついつい眠くなってきてしまい、2人仲良く寝ていたのだ。
「ティア………?」
「な、何!?」
「いや、なんかいきなりボーっとしたから心配になって………」
あの時の様子を思い出していると、いつもとは様子の違うティアナを心配してスバルか声を掛けてきた。
「今日も訓練していると思って帰ってきたらティアはどこにも居ないし………やっぱり何かあったよね?」
「な、な、何もないわよ!!」
「………私にも言えない事?」
「うっ………」
潤んだ瞳で見つめられ罪悪感が湧き上がってくるティアナ。
「わ、分かったわよ………だけど別に深い意味とか、何か特別な意味は無いんだからね!!」
「えっ?あっ、うん………」
何故か所々強調するティアナを不思議に思いながらスバルはティアナの話を聞くのだった。
「なんだ、デートしてただけか」
「で、デート!?」
話を聞いたスバルの第一声がそれだった。
「だから別にデートとかじゃなくてただ、自分を顧みない滅茶苦茶な訓練していた私に呆れて注意を………」
「だけどそれだけで自分のお気に入りの場所に連れていく?それって少しおかしいと思うよ?」
スバルの意見は最もなのだが、それを認めてしまうと異様に意識してしまうような気がしてその考えは捨てていた。
「だ、だけど私よ?子供っぽくて何時も訓練ばっかりしている様な女の子よ?」
「ひたむきに頑張る姿に惚れた!!………とか」
ニヤニヤしながら答えるスバル。ティアナの反応を見ながら楽しんでいた。
(訓練校の時から恋愛の話になると人が変わるもんね………ティア可愛い!!)
もじもじしながら弱々しい声で話すティアナを見て心の中で高らかにそう叫んでいた。
「でもスバル、多分ヴァイスさんはシグナムさんと仲が良さそうだったよ………」
「だってあの2人は前に所属していた部隊が一緒なんだから仲が良いのは当たり前だよ」
「そ、そうだけど………」
「あれ?やっぱり気になる?」
「ち、ち、ち、違うわよ!!私はただ………」
「ただ………?」
そう言って顔を近づけ、じっとティアナの顔を見つめるスバル。
「あああああ!!もう終わり!!!」
そんなスバルをティアナは無理やり自分から離した。
「あらら………だけどもし2人の関係が親密だったとしてもシグナムさんに勝つつもりで頑張れティア」
「だから!私は別に………」
「いっそのことヴァイスさんに聞いてみる?」
「スバル!!」
「ごめんごめん………」
いじり過ぎたかティアナが怒ったため、スバルも笑いながらだが素直に謝った。
「でも恋愛話なんて久し振りだね。六課に来てからプライベートも仕事中心の話だったし、最近はティア訓練ばかりで碌に話もしていなかったんだもん………」
「そうね………」
「ティア、悩みとか1人で抱え込まないで私に話してよね。私はティアの相棒なんだから何でも話を聞くし、私の力で良ければいくらでも力を貸すから」
「スバル………うん、ありがとう………」
そんなスバルの頼もしい言葉に感謝しつつお礼を言ったのだった………
「えっ!?自主訓練続けるの!?」
食事が終わり、スバルとティアナは再び自室へ。
そこでティアナは改まってこれからの方針をスバルに伝えることにした。
「ええ。私がみんなより劣っているのは確かだし、みんなの足を引っ張りたくないもの」
「ティア………」
そんなティアナの言葉にしゅんとするスバル。
そんなスバルの様子に小さくため息を吐いて話を続けた。
「けどこれからはちゃんと休みも考えるし、なるべく無理してやるような事はしないわ。そんなの本末転倒よね」
「ティア………!!」
俯いていた顔から笑顔へ一転するスバルにティアナも笑みを見せ答えた。
「それでねスバル、ちょっとお願いなんだけど………」
「うん、何………?」
「ん?あれは………」
次の日。業務を終え、紙パックのコーヒーを飲みながら歩いていたヴァイスは訓練場から音がしたので覗いてみると、そこにはまだ訓練をしていたティアナとスバルがいた。
「へぇ………俺もなかなかやるじゃん」
前よりも動きのいいティアナを見ながらヴァイスは呟く。
「ほう………まだ訓練をしているのか………」
「姐さん。………ええ、ですけどティアナの奴、スバルと共に色々と考えて訓練をやっていますから少しは考えてみてくれたみたいっす」
「なるほど、この前のデートは上手くいったと言う事だな」
「デートじゃねえっすよ」
と話ながらも2人は並んでスバルとティアナの訓練の様子を見ていた。
「………何だあれは?」
「何だって、ティアナが囮になってスバルが大技で攻撃ってパターンの訓練でしょ?それがどうしたんです?」
「あれではティアナが玉砕するようなものだろう?」
「いや、ティアナはあれでクロスレンジ下の戦闘でも十分に戦える実力は持っています。………流石にスターズ全員の中では弱いかもしれないけれど時間稼ぎ位は出来る………」
「だがあれではティアナがボロボロになるだけではないか!」
「………だからこそ、ティアナは予め細かく罠を伏せておくんです。力や魔力量で劣っていても戦闘でそれが勝敗に左右する事は決してないって事を感じたんだと思いますよ。高魔力の魔導師を相手にするにはそう言った考えも必要です」
「それは分かるが………今からそんな戦いばかりしていてはいずれ大怪我をするぞ?」
「それも分かっていると思いますよ」
「いや、分かっていない………ティアナもヴァイスも………」
そう言い残して1人行ってしまうシグナム。
「姐さん………?」
ヴァイスにはシグナムの言葉の意味が分からなかった………
「それじゃあ訓練を始めようか」
そして1週間後。スターズの訓練が始まった。
「今日も隊全体の連携はギンガがちょっと呼ばれてていないからそれぞれ別々でね。バルトさんは加奈ちゃんのクロスレンジの訓練を手伝って」
「おし、分かった。今日こその分厚い防御を崩してやるよ!!」
ヴォルフバイルを高々に構え、そう叫ぶバルト。
「いや、訓練だからねバルトさん。ちゃんと分かってるわよね?」
「大丈夫だ、殺しはしねえ」
「なのは!!」
身の危険を感じなのはに訴える加奈だが………
「大丈夫だよ、ヴォルフバイルは非殺傷しか設定が出来ないようになってるから死にはしないよ」
「そういう問題じゃ無いわよ!!このバカップル!!」
加奈の叫びも虚しくバルトと1対1で訓練と言う名の戦闘が始まるのだった。
「………さて!2人は模擬戦をしようか。最近よく2人で訓練後も特訓してたみたいだし、今まで復習出来てるか見せてね」
ちょっと棘のある物言いにギクリと身体が強張った2人だが、直ぐに互いを見て頷いた。
「ティア、準備はいい?」
「ええ。なのはさんに私達の今の実力を見せてましょう」
それぞれバリアジャケットを展開したティアナとスバルを見てなのははコクリと頷いた。
「準備OKだね。それじゃあ始めようか」
なのはの言葉と共にそれぞれの模擬戦がスタートした………
「行くわよスバル!!」
「うん!!」
ティアナは幻影で3人の自分を出し、スバルはウイングロードでなのはまでの道を複数作る。
「ティアナがフロントアタッカー!?一体何を考えてるの!?」
少々怒り気味の口調で言いながらアクセルシューターをティアナに向かって広範囲に広がるように発射するなのは。
「抜ける!!」
しかしティアナは怯まずクロスミラージュで向かってくる魔力弾を発射し迎撃しようとするが………
「くうっ!?」
当然魔力も威力も劣るティアナに全てを撃ち落とす事は出来ず、幻影は全て消し去られてしまい、ティアナ自身も何発かもらってしまった。
「だけどまだ………」
それでもティアナは足を止めずなのはに向かって距離を詰めた。
「まだ来るんだ………だけど幻影も消えた状態でどう戦うのティアナ?」
少将呆れ気味に問いかけるなのは。
「あんなの只の囮です………今度はこっちの番です!!」
そう言ってクロスミラージュを構えたティアナはなのはに向かって魔力弾を連射した。
「効かないよ」
しかし片手で張ったプロテクションに魔力弾は弾かれてしまう。
「ん?弾かれる?」
「行きます!!リフレクバレット!!」
その直後、ティナアは弾かれた魔力弾に向かって魔力弾を発射。
その魔力弾は弾かれた魔力弾に当たった瞬間、なのはに向かって射角を変えたのだった。
「なるほど、防御出来ない覚悟からの攻撃………それで私の足を封じて、その隙にスバルの攻撃って作戦だね………」
しかしなのははその攻撃をプロテクションを張りながら最小限の動きでティアナの攻撃を避けたのだった。
「まだまだ!!」
ティアナも負けじと魔力弾を増やし、その攻撃は正に360°囲まれた状態で攻撃されている様に錯覚させるほど攻撃の手を強めていた。
「やるねティアナ。だけど………ディバインシューター!!」
避けながらも攻撃の手は決して止めないなのは。
「うぐっ!?」
当然、反撃もあると予測していたティアナだったが、流石に攻撃をしながら全て避けるのは無理だったため、4発放ったシューターの内、2発直撃されてしまった。
それでのティアナは攻撃されながらもなのはに近づいて行く。
「まだクロスレンジにこだわるんだ?」
「………」
返事のないティアナに内心失望しながらも再びディバインシューターを発射するなのは。
「あぐっ!?」
今度は距離が近くなった影響で4発全て命中してしまった。
「ぐうっ………!!」
それでも歯を食いしばって耐えながら前へ進むティアナ。
これが逆になのはに不審感を持たせた。
(これは明らかにおかしい………こんなのティアナらしくない。それにこんなにティアナがボロボロになっていたら直ぐにでも駆けつけるであろうスバルに全く動きが無い。………一体何を考えてるのティアナ?)
スバルはウイングロードでなのはへの道を複数作った後、その場から全く動いていなかった。
「……何を考えているのか分からないけど………取り敢えず足を止めるよティアナ!」
「!?」
もう少しでクロスレンジの間合いに入りそうになったティアナになのはがバインドを掛け、ティアナの足を止めた。
「ティアナ、覚悟してね………ディバイン………」
「バスター!!!」
なのはが砲撃を放とうとした瞬間、真下から大きな声と共に強力な砲撃がなのはを襲った。
「なっ!?いつの間に!?」
慌てて真下にプロテクションを張る溜め、向きを変えるが………
「これが……狙いですなのはさん。行きます!!ファントムブレイザー!!」
横からティアナの渾身も砲撃もプラスされ、まるで十字架を描いているような光景が出来上がった。
「これなら………!!」
下から攻撃したスバルが拳を握りしめた。
「………なるほど、ティアナが囮になってその内にスバルを死角に移動させて私の動きが止まった瞬間に攻撃、それに続いてティアナも攻撃って作戦かな?」
「嘘………」
「効いてない………?」
「いや効いたよ。だけどね、もうティアナは気づいていると思うけど、この作戦は相手に深手を負わせるか倒し切るかしないと………こうなるんだよ」
バリアジェケットがボロボロになっているなのはは、淡々とそう告げ、ティアナに向かってレイジングハートを構え、砲撃を発射した。
「あぐっ!?」
何とか直撃こそならなかったが、動きが鈍く、完全に避けきれず左腕が巻き込まれた。
「ティア!!………えっ?」
助けに行こうとしたスバルだったが、なのはのバインドに捕まり動けなくなってしまった。
「ティア!!」
「ティアナ、チェックだよ」
撃ち返そうとしたのティアナにもバインドを掛け、近づいてティアナの額にレイジングハートを向けた。
「だけどその前に聞かせてもらうよ?今日は今までの復習で言ったよね?どうして身を削る作戦にしたの?」
「………私の実力を認めてもらうためです。なのはさん、私はホテルのあの事件で自分の力のなさを嫌という程痛感しました。あの場だってヴィータ副隊長が指揮を執って皆も動いていた。そしてそれは私よりも的確で正確だった………私から指揮能力を取れば何も無い。………だから私はそれを補うためにがむしゃらに訓練を続けてきましたがそれも無駄だと気づかされました。………皆に置いていかれないようにするにはどうすればいいか………それで思いついたのが、囮を使った誘導からの死角からの攻撃。その囮役になればなのはさんの様に防御も固い魔導師でもダメージを与えられる………」
「その結果が今のティアナの状態だよ?」
ティアナを見るなのはの目はとても冷ややかでティアナは思わず身震いしてしまうほどであった。
「………だけどこの作戦には必ず囮役が必要になる。囮を選ぶとしたらそれはやっぱり攻撃が一番弱く、だけど攻撃のバリエーションが豊富で相手の動きを抑えられる私が適任でしたから」
「………けど結果は私を倒すどころか、追い詰められてるよね?この奇策自体が今回の早期決着を招いたって分からないティアナ?」
「早期………決着ですか?」
なのはの問いに信じられない様な顔でそう答えたティアナ。
「そう、どの部隊だって指揮官がいた倒されちゃうとその場を立て直すのに時間がかかる。その間にどれくらいの被害が起こると思う?」
「………分かりません。でも今回は2人ですし、スターズなら私がいなくても皆優秀だから………」
「それでもだよ。指揮系統が崩れれば周りの状況も分からないし、どう動くべきか、撤退するべきなのか、そんな様々な指示を出していた人がいなかったら不安で一杯になるよ」
「だからそうならない様になるには私の自分の実力を上げなくちゃいけないんです。その為にはもっともっと訓練も応用を含めてもっと自分を変えていかなくちゃいけないんです!!どんなに気づついても、ボロボロになっても、元々劣ってる私が生き残るにはこれしか………」
しかしそこまで言ってパンッ!!と乾いた音が響いた。
「えっ?」
叩かれた頬の痛みを感じながらも呆然となのはを見る。
「………もういいよティアナ。今日は終わり」
「なのはさん………」
「自分を大事に出来ない人間にもう教える気もないから」
そう吐き捨てるようにティアナから離れるなのは。
「何よ………じゃあ私はどうすれば良かったのよ………!!」
「ティア………」
地面に降りたティアナはスバルとのすれ違い時にそう漏らしながら去って行ったのであった………
「なのは」
「あっ、バルトさん………」
そんな事件が起きた模擬戦後、バルトと加奈の2人も早々に訓練を切り上げ、なのはの様子を見に来たバルト。
なのははバリアジャケットのままロッカー室のベンチに座り込んでいた。
「バルトさん、ここ女子用のロッカー室ですよ?」
「大丈夫だ、加奈に許可をもらった。今は俺となのはだけだ」
「私、着替えていたかもしれないじゃないですか………」
「見られるのは今に始まった事じゃないだろ?」
「そうですけど………」
と覇気の無い声で答えるなのは。
「………相当参ってるみたいだな」
「………大人気ないです。ああでるかもってティアナの訓練を見た時に感じていたのに、受け応えを聞いているうちに我慢出来なくなって………」
「俺はもっと酷い目にあわせると思ってたぞ?あのバインドした後に砲撃で痛めつけたりとか………」
「バルトさん、私何だと思ってるんですか………」
「管理局の白い魔王」
「魔王じゃ無いですって………」
そう否定した後、暫く押し黙るなのは。
そんななのはの横でなのはが話し始めるまでバルトは静かに待っていた。
「………バルトさん、私間違っていました………?」
そして一番聞きたかった質問をした。
「………どっちもどっちだな。先ずはティアナの戦法だが、あれ自体はかなり有効な戦法だ。囮はかなりリスクがあるが、それでも引き連れてくれている間に様々な攻撃展開を思考できる。……まあ思考する側が囮になってちゃ意味がねえけど」
と笑いながら答えるバルト。
「それは理解しています。私も完全にティアナの突攻だと思ってましたから………あの場に動かなかったスバルがまさか幻影だったなんて………」
「ティアナの奴、ますます奴に似てきた………将来が楽しみだ………」
そんなバルトの様子に自然と笑みが溢れるなのは。
「………少しは元気出たか?」
「はい。ありがとうございます。…で、あの……できれば………」
「分かってる、なのはに関しての問題点だろ?そもそもなのはには1つ重要な要素が欠けていた。自分で何か分かるか?」
「欠けていたもの………?」
そう言われ、暫く考えていたなのはだったが答えが出なかった。
「分からないか?」
「教え方ですかね………?」
「30点かな」
「30点かな………じゃあ何が………」
「ズバリ、コミュニケーション不足だ」
ビシッとなのはに向けて指を差し、そう答えたバルト。
「コミュニケーション不足?でも私、少ないですけどなるべく一緒に食事したり話しかけているつもりですけど………」
「そうだな。なのはは結構誰にでも気軽に話しかけているが、私的な話は少なく、どちらかと言えばほとんど接点が無かっただろ?結局どちらとも壁を作ったまま上辺だけだったって事だ」
「そんな、私は………」
「………まあ百歩譲ってなのははそう努力していたかもしれん。……だがティアナだけじゃない、スバルやギンガだってあまりなのはには相談しないだろ?」
「………確かに」
認めたくなさそうななのはだったが、それでも実際に相談事や悩み事などほとんど相談された事が無かったのは事実であったため、渋々頷きながら答えた。
「今回だってティアナの様子に感づいていたみたいだが決して注意もしなかっただろ?訓練で動きが悪かった時も1度詳しく話を聞いてみても良かったんじゃないか?」
「………」
バルトの言葉に返す言葉もないなのは。
「先ず、教える側はなるべく1人1人の性格や考えをある程度把握しておく事。ティアナみたいなタイプは人に相談事を話せなさそうなのは見てて分かるだろ?そういうもの察して自分から悩みを聞いてやるのも隊長や今はいないが副隊長のヴィータの役目なんじゃないか?」
「………何かバルトさん、妙に慣れてますね………ずっと一匹狼って感じでいたのは格好だけですか?」
言われ続けていた溜め、冗談気味に嫌味を含んだ返事を返すなのは。
「俺の場合は嫌でもジジイに教え込まれたんだよ………『ログスバインとして騎士の憧れになった以上、お前も指導しろよ』ってな」
「うわぁ………バルトさんの指導ってどんな感じなんだろう………」
「受けた奴の8割は一週間で辞めたレベル」
「鬼畜だ!!」
「最近の奴は根性が無さすぎる」
と親父臭く言うバルトになのはもクスクスと笑い始めた。
「まあその話は置いておいて。とにかく、なのはに足りない物はコミニュケーション。それにお前さえ良ければお前の思いもちゃんと話してやれよ。そうすればティアナだって分かってくれるんじゃないのか?」
「自分の思い………」
「なのははどんな風に皆をしたいのか?俺の目指していた様に最強の魔導師か?」
「私は………」
そう呟いて黙り込むなのは。
「………決めました」
暫くしてバルトを見て、そう答えた。
「私、2人の所に行ってきます!ちゃんと自分の思いを2人に話そうと思います」
「決めたら即行動か、お前らしいな。………まあ頑張れ、なのは」
「はい、ありがとうございます!!」
晴れた顔でロッカー室を出て行くなのは。
「やれやれ………」
そんななのはの背中を見た後、バルトも腰を上げ、ロッカー室を出るが………
「あれ?何でバルトさんがロッカー室に………?」
「ん?キャロか。学校は終わったのか?」
丁度中に入ろうとしていたキャロと出くわした。
「あれ?キャロどうしたの?中に………ってバルトさん!?」
「おっ!?何だフェイト、いきなり大声あげて………」
「だ、だってバルトさん、な、何で女子ロッカー室から………?」
「ん?………あっ」
ロッカー室に居たのを知っているのは加奈となのはのみ。当然他の者達は知っているわけが無かった。
「ちょっと待て2人共、落ち着いてくれ………」
「バルトさん、最低です………なのはやヴィヴィオちゃんがいるのに恥ずかしく無いんですか!?」
「そうです!!ヴィヴィオちゃんが悲しみます!!」
「だから人の話を聞けって!!」
しかし怒ったフェイトとキャロは一向にバルトの話を聞こうとはせず、結局加奈が事情を説明するまでバルトはエローシュ並みの変態扱いをされたのだった………
「来てくれたね2人共」
「「………」」
バルトとの話の後、身支度をして直ぐにティアナとスバルを呼び出したなのは。
ティアナは不満そうに、スバルはそんなティアナを見ながらあたふたしていた。
「………何の用ですか?私はもう見捨てられたので自分でこの部隊に生き残る術を考えなくちゃいけないので無駄な時間は掛けられないのですけど………」
「ティ、ティア!!」
いきなりの毒舌に思わず声を上げるスバル。
「………ティアナ、先に言うけどティアナの考えた作戦は決して間違いじゃないよ。囮に敵の目を集中させて不意の攻撃で敵を攻撃し、致命傷を負わせる。確かに真下からの射撃なら私もプロテクションも張りづらいし、対応も遅れる。だけどね、囮が部隊を指揮しなければならない人がやってちゃ例え成功しても立て直しが難しくなる」
「だけど、囮は一番目立つ人じゃないと………」
「それはティアナじゃなくても良いよね?バルトさんや、加奈ちゃんだって十分囮が出来るよ………」
「だけど私じゃ攻撃も弱いし、とてもなのはさんや高魔力の敵、AMF下の敵の相手なんて………」
悔しそうにそう呟くティアナ。
「それは攻撃の仕方でいくらでも変える事が出来る」
「でもなのはさんは基礎的な部分しか教えてくれないじゃないですか!!だから私は自分の手で、手に入れようと………」
「それでがむしゃらに?私には自分から逃げているだけにしか見えなかったよ?」
「逃げる………?私自身から?」
「自分の弱さにちゃんと向き合わないで、ただ、不安を消す為にがむしゃらにやっただけ………ほら、逃げてるだけだよ」
「なのはさん!!」
厳しいなのはの指摘にティアナじゃなく、スバルが声を荒げた。
しかしなのはは気にせず言葉を続ける。
「ティアナ、ハッキリ言ってどう頑張っても、どう願っても魔力が一気に増える事なんて無い。だったら今の自分で生かす環境を考えなきゃ………じゃないと夢半ばで夢を完全に絶たれてしまうよ?」
「例えそうなったとしても私は後悔しません」
「ううん、するよ絶対に」
ティアナの答えになのは真っ向から首をふって否定した。
「なのはさんに私の何が分かるんですか!!」
「分かるよ。………だって私がそうだったから………私ね、一度任務中に事故で空も歩く事も出来ないかもしれないって言われた事があるの」
「「………え?」」
不意にそんな事を話し始めたなのはに驚く2人。
「原因はその時まで無理して戦って来た負担が戦闘中に現れちゃって、しかもタイミング悪く、その時に当時未確認扱いだったガジェットに襲われて私は撃墜されたの」
「なのはさんが撃墜………!?」
「そんなに強かったんですか!?」
「ううん、いつもの私だったらあの当時でも問題なくやれたと思う。だけどそれまで私は碌にちゃんとした訓練もせずにPT事件、闇の書事件で戦ってきて、それに加えまだ安全性が確実に確認されていなかったカートリッジの乱用で私の体はかなり負担が溜まっていたの。そして更に上官の人の話を無視して任務に没頭していたのも原因の一つだね」
当時を思い出しながら語るなのは。その顔は少々青かった。
「これはバルトさんにちょこっと話しただけで未だにフェイトちゃん達みんなには話していないんだけど、お医者さんにもう空を飛べるどころか、歩く事も無理かもしれないと言われた時はもう自分が自分じゃなくなったみたいで、何だろうな………世界に色が無くなったみたいに感じたんだ。その恐怖は今でも覚えている………」
「「なのはさん………」」
「だけど私には支えてくれるみんながいたから今の自分があるの。だからね、私は教導官になった時から1つ決めている事があるの。………それはね、『何があっても壊れないようにする』まあ簡単に言えば怪我をしない、守りが強く粘り強い魔導師を育てるって決めてたんだ。だからね、私は今日みたいな自分を犠牲にするような戦い方は絶対に許せなかった」
「なのはさん………」
「………」
スバルが小さく名前を呼ぶが、ティアナは何も話さず、拳を握りしめているだけだった。
「だけどね、ティアナの思いももっと考えてあげるべきだった。………ううん、他のみんなもだね。私がどういった教導方針なのかも碌に話していなかったし、どう言う風に訓練を進めていくかも話してなければ教わる方は不安になるよね。………その件に関してはごめんねティアナ、私の配慮が足りなかった」
「い、いえ………そんな事は………」
「だからね、これからは定期的にミーティングを行うようにして、もし何か聞きたい事があったりしたら私に質問して。それにもっとこうしたい、こうなりたいとか要望もあったらそれもその時に話して。私もそれをふまえて訓練を考えていくから」
「はい」
「分かりました………」
「取りあえず話はこれで終わり。2人共何かある………?」
そう問いかけたが、2人は特に何も無かった。
「じゃあ解散。明日は訓練を始める前にミーティングをやるから。先ずはそこでみんなの訓練方針を説明するから………じゃあ今日はお疲れ様」
そう言ってなのはは先に部屋を出ていった。
「………ティア?」
「………私バカみたい。自分の劣等感で自分を見失って………そして好き勝手して、強くなれないのは訓練を考えているなのはさんのせいだって当たって………本当に情けないし恥ずかしい………」
そんな俯きながら話すティアナの言葉にスバルは何も返せないでいた。
「でもなのはさんは自分も悪いと私を一方的に叱る訳じゃ無くて自分の至らない点があったって色々と考えていてくれた。本当はクビも覚悟していたのよ?なのはさんは本当に凄いわ………」
「ティア?」
「私、もっとなのはさんを信じて頑張ってみるわ。だから明日、私なりの意見ももっと言ってみようと思う」
「ティア………!」
先ほどまで俯いてティアナの顔はすっかりと晴れきっており、むしろやる気に満ちている様にスバルには見えた。
「そうだね!私も色々となのはさんに聞いてみたいことがあるんだ。初めて魔法を使った時とか、フェイト隊長との初めての戦いの時とか」
「そうね………闇の書事件のヴィータ副隊長達との戦いも聞いてみたいわ………」
そんな話で盛り上がる2人。
「スバル」
「何?」
「これからも頑張りましょ!」
「うん!!」
そう言って互いに笑いあう2人。
次の日、午前中からのスターズの訓練はお昼を挟むまでミーティングが長引いたが、午後の訓練はいつも以上の動きで取り組んでいるスターズのメンバーの姿があったのだった………
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