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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
麻帆良編
  導入編 6.5-M話 閑話 ルームメイトは武器商人

 
前書き
今回、せっちゃんに余計な過去が増えます。

ご容赦を 

 
私は桜咲刹那、京都神鳴流剣士で、関西呪術協会の長の命により、麻帆良に派遣されました。
任務は近衛木乃香お嬢様の護衛です。

お嬢様と私は畏れ多くも幼馴染という奴なのですが…私のような下賤のものがお嬢様と親しくするなどもってのほかです。

さて、任務遂行のために関東魔法教会の本拠地である麻帆良学園に入学する事となった私のルームメイトは同じく裏の人間で、一人は龍宮真名という紛争地帯を飛び回る傭兵、もう一人は長谷川千雨という武器商人です。

そんな二人と夕食(回転寿司)を済ませて部屋に戻ってきました。
そして『武器商人としての自己紹介』とやらをしてもらう事になりました。

長谷川さんがネックレスを外し、手に乗せると私に見せてくれました。
「このネックレスはアンブレラの正規構成員が必ず所有している物だ。
階級によって狼の眼に宝石がはまっている事もあるがデザインは同じ、傘と狼だ。
それを見える様に携帯している事が取引ができる状態と言う合図になるんだ」

それは傘の下で狼が丸くなっている意匠の銀のネックレスで、おそらく魔法発動媒体を兼ねると思われます。

「取引可能を提示している状態の構成員に『傘が買いたい』と言う意思表示をすると、それが取引を求めるという意味になる。
ここでこちらが何が欲しいか聞くんだが、魔法関連の品が買いたいのであれば、それに『傘』と『狼』を使って答えてくれ」
「と、言うと?」
傘と狼を使って答える、の意味がよくわからない。
「人前ではしてほしくないが、思いつかなかったり、急いでるのであれば『傘と狼』と言うだけでもいいよ」

「それではわからんだろう、少し実演してみせよう、千雨も構わないよな?」
「ああ、頼む」
そう言って長谷川さんはネックレスを軽く持ち上げて見せる。

「千雨、『傘』を売って欲しい」
「かまわないよ、何が欲しいんだ?」
「そうだな、雨傘を一本くれ、狼に差してやりたいんだ」
「了解した、他には?」
「と、ここで買いたいものや売りたい物を言えば良い、わかったか?」
「はい、なんとなくは。狼柄の傘が欲しい、とかでもいいんですね?」
「その通り、呑み込みが早いじゃないか」

文字通り、『狼』と『傘』という二つの単語を使えばよかったようだ。

「さて、ついでに商談をしたいのだがかまわないか?」
「私は一向に構わないが…」
ちらりと長谷川さんが私を見る。

「あの、席を外しましょうか?」
取引に立ち会うのがどうか…という事なのだろう。
「かまわんよ、今回は大した物は買わないからな。レイン、オーダーを頼む」
龍宮さんは一向に構わないと私と長谷川さんを見る。
私達が無言を保つのを見てさらに続けた。

「まずB2弾用偽装ハンドガンのアンブレラ社製オートマチック1998型メタリックモデルを二挺、
加えて初期装着分とは別に弾倉を、通常型が10本に異空弾倉補助型が4本。
あと強化B2弾を、通常型Aグレードを2000発、Bグレードを500発、対召喚獣強化弾と対魔法障壁弾と対非実体霊専用弾を各300発だ」
「…本当にオートマチック1998型で良いのか?」
「ああ、偽装銃にそこまで威力は求めない」
よくわからないのだが、オートマチック1998型とやらがあまり威力の無いモデルなのだろうか?
「わかった、なら…
本体が35万×2、弾倉が7千×10と5万×4、弾が1万が3つに1万5千を7つの7万5千…全部で104万5千円だな。
一括払いならサービスして100万にしておく。これくらいなら今すぐでも用意できるがどうする?」
100万…強力な魔法符も買うなら数十万はするし、それくらいはするのは当然か。

「やはり、B2弾タイプは初期投資が凄まじいな…まあ、それだけの価値はあるがな」
龍宮さんがどこからともなくが札束を取り出す。
「ま、れっきとしたマジックアイテムだからな、その分弾代は安いだろ。10分程待ってろ、用意する」
そういって長谷川さんは自室を開錠し、中に入っていった。

「と、こんな具合だ。
あいつはなんだかんだで面倒見がいいからな、欲しいものがあればダメもとで聞いてみるといい」
「はぁ…それはそうと、長谷川さんは先ほどの注文分、全部持っているんですか?」
「ああ、あれくらいは序の口さ、あいつらの拠点は武器庫みたいなもんなんだ。
それに特別製の中距離転移ゲートも持ってるから限度はあるにせよ、その地域の共通倉庫から商品を引き出せる」

「待たせたな」
そんな話をしていると長谷川さんがトランクケースを持って戻ってきた。
長谷川さんがトランクケースを開けると中には金属製の玩具の銃のようなものが二挺、その弾倉が合計16本、1000発入りの弾が二つに色違いの500発入りが1つ、さらに色違いの300発入りが3つ入っていた。

「うん、確かに受け取った」
そういいながら龍宮はその武器弾薬を異空間に放り込んでいく。

こういった技術を使用する戦闘者は限られる。
私達剣士は『それが他愛のないもの』であるかのように認識阻害をかけて持ち運ぶ方がずっと楽だし、
それを取り出す瞬間の魔法秘匿やその維持にかかる魔力を考えると、予備弾薬や予備の武器を大量に使うものくらいしか使用しない。
まあ、詳しくはないが最近そういった魔力負担を軽減する術式が実用化されつつあるらしいので、そのうち広がっていくのだろう…私は即応性の問題で予備武器の携帯以上に使いたいとは思わないが。

「さて、桜咲も何か買うか?」
「いえ…私は特に…あ、魔法符のカタログや、陰陽術の呪符や式神作製用の紙や墨とかありますか?」
「ん~魔法符のカタログも専用紙や墨もあるんだが…陰陽術関係は呪術協会とのコネがあるならそっちから直接買った方が安いぞ?」
そういって長谷川さんは魔法符のカタログを渡してくる。
その後ろの方の材料販売リストを見る限り、確かに質の割に少し割高だ。
関西を裏切って関東についたとみなす者もいるが、長の命で派遣されている以上、これくらいはできる。
「うちは、あくまで無所属だとか、所属組織の弱い所の商品を必要とする相手をターゲットに商売してるから、関西呪術協会所属の人間に魔法符として役に立つものは提示できても、自作用の材料だとなぁ…
急ぎの時や関西に秘密で何かやりたい時、あるいは今マナに売ったような関西が弱い方面ならいい買い物ができると保証するよ、こういうのとかな」
そういって彼女が見せてくれたのは2本の軍用ナイフだった。

「これは?」
「俗にいうスペツナズ・ナイフ、暗器の類だよ。こっちは射出ナイフ、もう一本は単発銃が仕込まれている。
両方それなりに有名な武器だが、神鳴流の剣士が使うのは心理的盲点だろうから保険にはなるんじゃないか?」
「そうですね…考えてみますが、当座は必要ありません」
発想は悪くないが…それを扱う訓練をする時間で剣や陰陽術を磨いた方が良いと思う。
「そうか、ならいいや、何か必要になったら言ってくれ、情報や教導も含めて、な」
そういって彼女は笑った。

彼女が扱っているのが命を刈り取る武器である事をまるでそれを感じさせないような笑顔…
彼女がそれを理解していないわけではない、きっとこの少女は…



「では、そろそろ私は帰るとしようか」
「お休み、マナ。また明日な、案内はまた後日にしよう」
「そうだな、そうしてくれると助かるよ、桜咲もまた明日な」
「はい、龍宮さん、また明日」
そういって龍宮は帰宅していった。

「さて、桜咲、大浴場とやらに行こうと思うんだけど、どうする?行くか?」
そんな事をのんきな声で長谷川さんがいう。

しかし、一つ確かめておかないといけない、会った時…いや気配を察知した瞬間から感じてる危険な感じ…
笑顔で話している今まさにこの瞬間でさえ、感じる彼女の恐ろしさについて。

「…あの、長谷川さん、貴方は『何』ですか?」
「ん~質問の意味がよくわからないな」
そう気楽な言葉を返す長谷川さん、しかし振り返ったその眼はもう笑っていない

「…質問を変えます、貴方は人を殺した事はありますか?」
「あるよ?」
「っ!」
なぜそんなことを聞くのかわからない、と言いたげな声で彼女は即答した。
その眼は質問をする前よりむしろ、なんだそんな事か、と言わんばかりに『和らいでいた』

「なぜ!なぜそんな眼でそんな事を!」

わからない、どうしてそんな眼で人を殺した事があるといえるのかわからない…

「殺人ですよ?人を殺すんですよ!」

私の叫びに長谷川さん…いや、ナニカは黙ってフィンガースナップをすることで答えた。
私の中の冷静な所が防音と認識阻害の結界貼られたこと、そしてそれが無詠唱でなされた事を理解する。

「どうして、どうしてそんな眼であっさりとそんな事を言えるんですか」

しかし、私の感情は止まらない、ただ堰を切ったように溢れ出していく

「…『ある』んだな?人をk」
「言うな!」

私も『守れなかった人』を別にしても…ある。
それは退魔師としての仕事の過程で…ほんの数か月前、人を殺した。

そいつは外道だった、死んで当然だと思った…だから激情に任せて戦いの過程で『首を刎ねた』
どうせ捕縛した結果も同じだったが…それでもその血しぶきを浴びて冷静になり…私は…私は…

「…正直さ、うらやましいよ」
「何を!」

ふざけたことを、そう続けて叫びながら切りかるという衝動を解き放つ前にソレは言った。

「そこまで、自分のした事を悩める桜咲が、だよ。真っ青だぜ?顔色」

それはそうだろう、今でもたまに夢に見る、あの悪夢が今まさに私を苛んでいるのだ
私は人殺し、お嬢様の目に映る事すら許されない汚らわしいモノ

だからだろうか、ソレの接近を許してしまったのは

ポン

気付けば彼女は私の正面から両手を私の肩において私の顔を覗き込んでいた。

「私はさ、そういうのよくわからない。
私が、私という人格が生まれて育った街、あのロアナプラでは人間の命なんて一日分の食費の価値があるかも怪しい。
庭の雑草を引っこ抜くのと人を殺すのの違いなんて、後片付けをきっちりしなきゃ面倒なことになる位って認識だ」

私をまっすぐに見つめたまま彼女は続ける。

「だからさ、大事にすると良いよ、そういう悩める自分を、な」

きっと彼女はそういう、人を殺すことをためら『え』ない人間なのだろう。
人を殺す事を何の理由もつけず、飲みこめてしまう、『私とは違うナニカ』なのだろう。

でも、私は…

ぎゅっ

私は彼女の胸で泣いていた、そして彼女はそんな私を抱きしめてくれていた。

そして私をあやすように私の知らない、英語の歌を歌ってくれた。

私は人を殺してから初めて泣いた

『よくやった』『悩むことはない』と言ってくれた師匠ではなく、
『うらやましい』『悩む自分を大切にしろ』と言った死をばらまく武器商人の胸の中で
 
 

 
後書き

はい、今回はロアナプラ編のバオさんの話に対応する刹那さんのお話です。
正直ですね、原作の刹那の行動はびみょいのですよ。

護衛っていうのは身を挺して守る、周辺で脅威を排除する、情報を察知して先制攻撃をする…といった感じでなされます。

正直、刹那は一つ目の護衛として派遣されたと思うのです、本来は、でもどう見ても接近する気が欠片も見えない。
三つ目は関西所属の刹那が関東の膝元で独自にやるとか完全に喧嘩を売ってる行為です。
なら、二番目…かと思えば現地勢力(魔法先生)との協調行動がほとんど見られない。
役に立たないとまでは言いませんが、それじゃあ比較的簡単に隙を突かれます。
見えない護衛が別にいる、と思わせられれば意味はありますが…

作中で本人も言っているように、嫌われるのが怖くて距離を取ってしまう、それは自分を卑下しているからで、理由はおそらくハーフの烏族だから、しかも禁忌の白だから、だという理由だと思うんですが、『自分の手は血で汚れている』というブラックラグーン寄りの理由も付け加えてみました。

レインが歌ったのは『The world of midnight』、アニメの双子編のあの歌です。
彼女が一番気に入っている歌で、彼女にとってとてもとても思い出深い歌です。



あ、ちなみに本人も(街の価値観という形で)言ってますが、レインという人格は『人を殺すことが悪い事だと考えられている』ことは理解していますが人を殺すことを悪い事だとは思っていません。
厳密には、何かをする『手段』として殺人を採用することにためらいがない、のです。

ただ、ちゃんと殺人の結果まで考えて損得勘定してるので…紙一重ではあるものの、ダッチのいう所の『厄種』ではないです。

どちらかって言うと、刹那さんが首を刎ねた外道さんの方が千雨さんと近しい存在なのは秘密。 
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