この夏君と・・・・・・
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
at NIGHT 6th ~希望~
うっ――――――。
あれ、なんだろう。身体がふわふわしている気分……。
――そうだ。確か俺は夏目の馬鹿みたいに大規模な魔法に巻き込まれて……そこからは記憶がない。
ああ、なるほど。これ、夢だ。
俺は地面に横たわっていた身体を起こして周りを見回した。
「なんもねーじゃん、ここ」
そう、ここには何にもない。なんて表現するのが一番うまいんだろう。俺にはよくわからない。少なくとも真っ暗ではない。うーん、謎だ。まあ夢なんてそんなもんだろ。
さあ、そろそろ起きよう。学校が、夏目が、敵が、どうなってるのか知りたいから。
――――って、どうやって起きればいいんだ? 全くわからん。試しに叫んでみようか。
「おい! 俺、起きろ―!」
駄目だ何にも起きない。
これは流れに身を任せて夢の中にまだいろってことだろうか?
「おーい、そんなめんどくさいことやってらんねーぞ」
よくよく考えてみると俺はものすごく悪い予感がした。
……もしかして俺って死んでるの……?
その可能性は否めない。あの夏目の魔法は俺みたいな魔法ド素人の俺ですら圧倒されるほどの膨大な魔力を使っていた。あるいは魔力ではなく殺意だったのかもしれない。とにかくだ。あれの余波をくらっている俺が、無事でいるわけないのだ。たとえ契約のおかげで身体能力が上がっていても無敵なわけではないのだ。あの魔法……、多分、学校一つくらい消し去るだけの威力を持っていたはず。それなら、余波とか直撃とか関係ないのだ。
「じゃあ俺死んじまったのかな……」
不思議と悲しくはなかった。それよりもこれでいいんだ、という気持ちの方が圧倒的に勝っていた。
「最後にあんな経験できたんだもんな……」
魔法なんて、そんな簡単に見ることのできない代物を見ることができた。目に焼き付けることができた。人生になんの面白みも希望も抱いていなかった俺が、最後に精一杯楽しむことができた。
だから悔いはな…………い、
「そんなわけないだろっ……!!」
「悲しくない? これでいい? 夢だからってそんな勝手なこと思ってんじゃねーよ俺っ!!」
「俺は、ただの自己満足だけで魔法なんてモンに足突っ込んだわけじゃねーんだよっ!」
そうだ。もちろん刺激を求めるために夜遅くまで起きて学校にまで行った。けれども、途中からはそんなこと考えていなかった。
だって、女の子の傷ついた姿を見てしまったから。
夏目が腹からドクドク血を流して、真っ白の着物を真っ赤に染め上げて、それでも敵に立ち向かおうとしてて……。
その目を見た瞬間、助けたい、そう思ったんだ。
――――で? それで俺は結局夏目を助けられたのか? 雪村カナタは夏目と共に闘うことができたのか?
違う! できてない!
「ほんっと……中途半端だな、カッコ悪い」
結局のところ俺はただのガキだったということだ。
この世界をつまんないとか思って、刺激がないとか思って。
ガキ特有の知的好奇心を少し満たしたと思ったらあっさり死んでしまう。
ただの馬鹿野郎だ。
「それでもいいじゃない」
えっ?
どこからか懐かしい声が響いた。頭に直接語りかけてくるような優しい凛とした声はどこか懐かしい。
「馬鹿だってかまわないわ。そんなあなたを私は必要としてるの」
ああ、夏目の声だ。幻聴だろうか?
「魔術師たるもの死後の世界に意識を飛ばすことくらい簡単だと思わない?」
いやいや、簡単じゃないだろ。
でも、夏目ならできそうだ。
ふっ、と笑いがこみあげてくる。まだ出会って一日なのに心はすっかり夏目を仲間として見ているってことに気づいたから。
「それにね、まだそこは本当の『死』ではない。ふふっ意味分かんないか。とにかくね、あなたの意思さえあればまだこっちの『生きた』世界にこれるわ」
そっか。完全にはしんでないのか。じゃあ三途の川みたいな場所にいるってことか。
「生と死の狭間、そこにあるのは本物の虚無。そこに陥った者は普通その虚無に精神をすりつぶされ、自ら死を選ぶ。けれどあなたはそんなにまいってはいないでしょ? それはある種の才能よ。あなたはね、人生に達観しているの。刺激を求めることで生きる意味を作り出しているけれど、それは言い換えてしまうと、生きる目的、本能的な衝動を持っていないということ」
そして一旦こちらの反応をうかがうように夏目は言葉を切った。
――ああ、そうだ。俺に生きる目的なんて無かったんだ。すべてに諦めていた。
でもな夏目、お前は間違ってるよ。だって今俺はもう生きる目的を持っているから。
それは――――
「俺は、お前と一緒にいたい。お前がもう怪我をしなくてもいいように。――――それが、俺の願いだ」
「そんな風に思ってもらえるなんて嬉しいわ」
「だから俺はこの空間から戻りたい。どうすればいい?」
「簡単よ。そこから出るのに必要なものは希望。希望を持てばこんな空間蹴破れるに決まってる」
「そうか、オーケー。やってみる」
「頑張って。今のあなたには目標がある。それを強く心に念じていれば大丈夫」
そう言うと夏目の意識がこの虚無空間から消えたように思えた。
よーし、やってやる。元の世界に戻ってやる!
「かけがえの無い……一つの希望」
そうつぶやいて強く念じた瞬間、意識が飛んだ。
後書き
ここから最初に投稿したものと全く話が変わります
ページ上へ戻る