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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百三十九話 朝の夢 夜の歌?

 
前書き
お待たせしました。 

 
帝国暦484年5月28日

■オーディン 軍幼年学校

オーディン近郊に存在する軍幼年学校では、朝食中生徒達が各々話をしていた。
「聞いたか、あのジークフリート・フォン・キルヒアイス先輩とラインハルト・フォン・シェーンヴァルト先輩が明日ここに来るそうだ」

「キルヒアイス先輩は、サイオキシン麻薬撲滅で大活躍して、皇帝陛下より直々にお褒めの言葉を頂いたんだよな」
「そうそう、前線に出ても敵艦を何隻も撃破しているし凄いよな」

「そうだよな。何たって只の平民が今じゃ男爵様だからな」
「文句を言う奴も居るけど、先輩の優秀さと実績は皇帝陛下のお墨付きだもんな」
「このまま行けば、平民出身初の元帥とかもあり得るかも」

「キルヒアイス先輩なら、部下にも優しそうだし、部下になっても良い感じがするよな」
「違いないね。逆にシェーンヴァルト先輩じゃ、普段から冷たい目で見られそうで嫌な感じもするな」
「そう言えば、知ってるか」

「なにをだい?」
「キルヒアイス先輩が巡航艦艦長でシェーンヴァルト先輩が副長なんだが、指揮系統は副長が艦長に命令出しているらしいぜ」

「なんだそりゃ?」
「シェーンヴァルト先輩が何々やれって言うと、『はいラインハルト様』って応対しているらしい」
「はっ??」

「何だそりゃ?」
「まるで、貴族と従卒みたいだって」
「誰から聞いたんだい?」

「キルヒアイス先輩が艦長の巡航艦の航海士官が家の執事の息子で其処から聞いたんだ」
「なるほどね」
「じゃああれか、シェーンヴァルト先輩のガキ大将気質は今だ変わらずか」

「ん?それなんだい?」
「知らないのかい、あの噴水とかで上級生や同期生と終始殴り合いの喧嘩していたんだよ」
「へー、初耳だ」
「そうだな」

「モグモグ、アー旨かった。うんで何があったんだい?」
「話を聞いてなかったのか?」
「食事が美味しいからね」

「まあ確かに以前に比べて、格段の進化だよな」
「そうだな、以前は“栄養価は充分に考えて有る。軍人たるものが贅沢で美食を求めるとは惰弱の始まりである”とかあの禿校長がほざいていたけどな」

「そうそう、それもテレーゼ殿下のお言葉と、オフレッサー閣下の一睨みで変更だもんな」
「あの時の校長と副校長の顔と言ったら、思い出すと笑えるよ」
「あれで、食事の味、量共に改善されたから。ありがたい事だよ」

「ホントに」
「オフレッサー閣下は、食糧倉庫の危険も指摘したくれたらしいよ」
「へー、どんな危険が?」

「聞いた話なんだが、小麦粉の野積みが崩れる危険を指摘して積み方を改めさせたんだって」
「ふーん、細かいかい所にも気を配る方なんだな」
「そうさ、それにオフレッサー閣下と言えば、クロプシュトック事件でも大活躍だったじゃないか」

「そうだよな。皇太子殿下暗殺犯が皇帝陛下を害し奉ろうとしたとき、強襲揚陸艇で突撃だもんな」
「そうだよ、あの時は驚いたけど、陛下の信任が厚いのも判る気がするよね」
「確かに並みの人間じゃ、ノイエ・サンスーシへ強襲揚陸艇で突撃なんかしないよ」

「それと、先輩のランズベルク伯爵も活躍したじゃないか」
「陛下を護るために身を挺して敵の攻撃を態と受けて、オフレッサー閣下突撃の援護をしたんだよな」
「凄い先輩だよな。幼年学校時代は、詩を書く事で有名だったみたいだけど」

「あんな先輩になりたいよね」
「あれこそ、貴族の姿だよ」
「全くだね」

「同じ先輩でも、シェーンヴァルト先輩は決闘ごっこしてたらしいよ」
「へ?」
「ヘルクスハイマー伯爵とシャフハウゼン子爵との決闘に自ら決闘請負人の真似事していたんだって」

「喧嘩好きにもほどがあるな」
「色々訳があるらしいけど」
「けど、男爵が決闘するのって、観客は喜ぶだろうけど、貴族としては失格だよ」

「まあ、生まれながらの貴族じゃ無いし、育ちの差という所じゃないか?」
「そうなると、キルヒアイス先輩の方がよほど貴族らしいよ」
「そうだな。後輩の面倒をよく見て頂き、誰にでも博愛の精神で望める。理想的な貴族の姿かもな」

「俺達も、オフレッサー閣下、ランズベルク先輩、キルヒアイス先輩の様に頑張らないとだな」
「そうだな」
「明日が楽しみだよ」


帝国暦484年5月29日

■オーディン 軍幼年学校

ラインハルトとキルヒアイスが揃ってオーディンへ帰還し、次の任務が決まるまで、各地の見学の最中に幼年学校へやって来た。

「シェーンヴァルト中佐、キルヒアイス大佐、二年ぶりの母校へようこそ」
禿頭の校長がにこやかに2人を迎え入れる。
「はっ、中将閣下」

「はは、畏まりは無用だよ。自分は単なる退職間際のロートルにすぎんのだから」
ラインハルトとキルヒアイスは校長の突っ込みに困惑の表情を浮かべる。
「はぁ」

「しかし、キルヒアイス大佐の活躍は、生徒の間でも有名で、是非話を聞きたいと生徒会から講堂での講義を頼まれているんだが、どうだろう?」

校長の言葉に、キルヒアイスはラインハルトの方を見ながら。

「折角ですが、自分の武勲と行っても、他の方々との協力無くしては立てられなかった物です。それを自慢げに話すのは、生徒のためにも成りませんので」

「そうか、武勲を誇らず、慎ましくか」
校長はキルヒアイスに言葉にウンウン頷いている。
「そう言う事なら、仕方が無い。生徒会にはその旨を伝えておこう」

「ご足労お掛けします」
「なに、気にする事は無い。それでは、ゆっくりと見学して生きなさい」
「「はっ」」

校長室を辞した後、幼年学校内を散策している2人を生徒達は遠巻きに見ているだけである。ラインハルトの持つ覇気と他者を近寄らせない威圧感に萎縮しているのであった。

「キルヒアイス、卒業以来2年だが、幼年学校も様変わりしつつあるな」
「はい、ラインハルト様」
「くだらない劣悪遺伝子排除法の授業も無くなったそうだし」

「食事も立派な物に変わって居ますね」
「あの頃の食事は酷かったからな」
「そうですね。お嫌いなチャシャが出る度に私のトレーに移していましたから」

ラインハルトの言葉にキルヒアイスが笑いながらチャチャを入れていく。
「あれは、歯に挟まるから、嫌なんだ。決して好き嫌いじゃない」
「判っております。奥歯に挟まる感覚がお嫌いなのですよね」

お互い顔を見ながら、2人して笑いだす。

その日は、結局何も起こらず、幼年学校へ宿泊した。
翌日、TV電話でラインハルトとキルヒアイスの新しい任務先が伝えられた。

『シェーンヴァルト中佐、キルヒアイス大佐に軍務省人事局より辞令です』
「キルヒアイス大佐です」
『シェーンヴァルト中佐、キルヒアイス大佐に6月1日付けで憲兵隊への出向を命じるとの事です』

「憲兵隊?」
『はっ、1日午前9時までに憲兵隊総監部へ出頭して頂きたいとの事です』
「了解した」
『はっ』

憲兵隊と聞いてラインハルトもキルヒアイスもお門違いの部署だと思っていた。
「憲兵隊と言えば、キルヒアイスに多生の縁があるな」
サイオキシン事件の事をライハルトは思い出していた。

「はい、しかし一瞬の事でしたし。それほど繋がりが有るとは」
「まあ、行ってみるしかないな」
「はい」

「憲兵隊総監と言えば、ボケ老人が勤めていると聞くが事実か?」
「お待ちください」
キルヒアイスは、携帯端末を起動させ調べ始める。

「リヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン上級大将、大公時代のフリードリヒ4世の侍従武官で伯爵、ひなたぼっこ提督の居眠り伯爵の異名を持つ、74歳」
「何だそれは?」

ラインハルトが怪訝そうに聞き返す。
「読んで字の如くで、総監室で日がな一日居眠りしているようです」
「何故その様な老害が総監をしているのだ?」

「色々と言われているようですが、陛下の侍従武官をしていたことで、陛下の信任が厚いと」
「無能者を、単なる繋がりだけで、お飾りの総監にしている訳か」
「そうとも言いきれないかと、憲兵隊はサイオキシン事件以来、素晴らしい働きをしていますし」

「しかし、それはグリンメルスハウゼンの部下達の手柄ではないのか?」
「確かに、副総監のモルト大将や総監高級副官のケスラー中将の手腕が有名です」
「モルトにケスラーかどの様な人材か、会って確かめてやろう」

「ラインハルト様」
「ああ、他人に聞かれるような事はしないさ」
「はぁ」

ラインハルトに聞こえないように溜息をつく、相変わらず気苦労の絶えないキルヒアイスであった。


帝国暦484年6月1日

キルヒアイスの功績のオマケと姉アンネローゼの口利きで、中佐に昇進できたラインハルトは、暫くの間、憲兵隊へ出向と相成った、無論キルヒアイスも一緒であるが、階級がキルヒアイスが大佐であった。

憲兵隊へ到着すると、なんと若い綺麗な女性の居る受付で訪問理由を告げた。

「シェーンヴァルト中佐、キルヒアイス大佐、憲兵総監閣下へ着任の挨拶に参りました」
にこやかに受け答えする、受付嬢の階級は大尉であった。
「はい、総監閣下より直ぐに御通しするようにと命じられております。総監室は5階の角部屋です。其方のエレベーターをお使いください」

キラキラした笑顔で受付嬢はエレベーターまで2人を案内してくれた。

ラインハルトもキルヒアイスも受付が女性であることに驚きを隠せない、何と言っても荒くれ者の巣憲兵隊である、このような妙齢な女性が居ればたちまち餌食に成るのではと考えたのである。

5階で降り憲兵隊総監室前へ向かうと、副官らしき人物が2人を出迎えた。
「キルヒアイス大佐、シェーンヴァルト中佐、ようこそ。小官は憲兵隊総監次席副官のリッチェル少佐であります。グリンメルスハウゼン総監がお待ちです」

軍人と言うより軍官僚タイプの少佐の案内で総監室へと入室する。
しかし其処で見たのは、総監室の机に涎を垂らしながら居眠りする老人の姿であった。その横には、苦笑いの大将とニヤニヤ顔の大将、グリンメルスハウゼンを起こそうとしている、中将の姿が有った。

「閣下、キルヒアイス大佐とシェーンヴァルト中佐にお言葉を」
中将の言葉に、居眠りしていたグリンメルスハウゼンが欠伸をしながら起きる。
「おお、済まんの、年寄りは眠くなるんじゃよ。えーと、キルヒアイス大佐、シェーンヴァルト中佐、暫しの間、憲兵隊で法務士官の真似事をして貰いたい」

そう言うと又ウツラウツラし始める。
ラインハルトは内心、苛つき。キルヒアイスも呆れ始めていた。
「まあ、総監はこの様な方だから、副総監のモルト大将に事案があれば提出して貰いたい」

中将がそう言って挨拶してくる。
「此方が、副総監のモルト大将、此方が憲兵隊査察官のケーフェンヒラー大将で小官が総監高級副官のケスラー中将だ、宜しく頼む」
「「はっ」」

こうしてラインハルトとキルヒアイスの憲兵隊における数か月の日々が始まったのである。

その日の夜はラインハルトがキルヒアイスに散々グリンメルスハウゼン上級大将が使えない愚物で老害だと言いまくったのである。

数日後、あの受付嬢が何故か男子トイレから出てくるのを見て、2人は目を白黒させることになった。 
 

 
後書き
受付嬢が大尉と言う点で変。 
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