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久遠の神話

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第六十四話 戦いを止める為にその九

 スペンサーは八宝菜を食べつつ自分の向かい側に座る領事に問うた。領事も彼と同じ八宝菜を食べている。
 そのうえでこう彼に問うたのだ。
「如何でしょうか」
「アメリカの、ニューヨークやサンフランシスコの店と比べるとね」
「味が薄いですか」
「そうだね、日本人好みにしているね」
「やはりそうですね」
「アメリカの味ではないね」
 無論中国の味でもない。
「やっぱり日本の味が強いね」
「ですがそれでもですね」
「いいね」
 つまり美味いというのだ。
「いい味だよ」
「これはこのお店です」
「ニューヨークの中華街でもここまでの味はないかな」
 アメリカ最大のチャイナタウンでもだというのだ。
「そこまでいっているかな」
「シカゴでもここまでは」
 スペンサーの故郷のこの街の中華街でもだというのだ。
「ないです」
「そうだね、シェフの腕がいいね」
「はい」
「いや、いい店だよ」
 手放しでの言葉だった。
「ここはね」
「ではまた」
「来たいね、それにね」
 領事はさらにだった、今度はだ。
 点心達を食べる、海老やフカヒレの餃子に焼売、そして小龍包をだ。領事は小龍包を食べてこう言った。
「これだよ、これね」
「中のスープもですね」
「いいね、これがいいんだよ」
「小龍包は熱いスープもあってこそです」
「そう、これがいいんだよ」
 領事は口の中でその熱さを楽しみながらスペンサーに話す。
「中華料理の中では一番好きだね」
「そうだったのですか」
「それにこれもね」
 小龍包の後は餅もだった、中に韮や肉を入れた小麦粉を練って焼いた餅だ。
 その餅を食べてだ、領事はまた言った。
「好きなんだよ」
「韮の餅ですか」
「日本では餅といえば米のものだがね」
「中国ではこれもありますね」
「そうだね、日本に来てあの米の餅ばかりなのに驚いたよ」
「日本人は米ですからね」
「麦は主食とは考えないね」
「ほぼ」
「私にとってはこれもね」
 今度は麺を見る、五目海鮮麺だ。スープはとろりとした塩のものである。その麺とスープの上に海老や貝、烏賊、野菜達がある。
「主食なんだがね」
「そうなりますね」
「パンが主食だよ」
 アメリカではそうであるからだ。
「だから包や饅頭がね」
「そうですね」
 スペンサーは丁度その饅頭を食べていた。
「これもですね」
「うん、主食なんだけれど」
「日本人はここに炒飯を頼みます」
 今二人の卓の上には炒飯はない、米の料理自体がない。
「主食として」
「野菜料理としてでなく」
「絶対に主食です」
「中国でも米は主食だがね」
「主食は米とは限らない国なので」
 これは国土が広いからだ、この広東料理のある南方、淮河までは米だがその淮河を境とした北はというのだ。
「麦が主食の場所も多いです」
「北京もだね」
「北はそうですね」
 麦が主食だというのだ。
「東北の辺りも」
「あの辺りは餃子も主食だね」
「水餃子が多いです」
 卓の上にその水餃子もある。海老のチリソースの隣に。 
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