魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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第2話 「魔法とロストロギア」
「マスター、帰ってから何だか変だったけど学校で何かあったの?」
昨日のように眠気が来るまでテレビを見ようとしたとき、ファラが不安そうな顔で尋ねてきた。
近いうちに何かが起こるのではないか。起こった場合は自分はどうするのか。放課後からずっとそんなことを考えていたため、顔に出さないようにしていたが反応が普段と違っていたのかもしれない。
「まさか……いじめられてる?」
「いじめなんか起きそうにないくらい、うちのクラスは仲睦ましい。変だったのは考え事してたからだ」
「考え事?」
ファラは小首を傾げた後、すぐに質問せずに顔に手を当てて考える素振りを見せた。
「……好きな子でも出来たの?」
確かにそれでも人間の様子がおかしく見えるものだろう。だが、俺はまだ小学3年生だ。
一般的な好きと特別な好きの意味の区別はできなくもないが、恋愛に関して理解できない部分の方がまだ多い。他人と深く関わろうとしないことが大きく影響しているかもしれないが。
「はぁ……俺が他人と深く関わろうとしてないの知ってるだろ?」
「知ってるけど、何人か親しい子いるでしょ。それも女の子」
「だからってこの年で特別な感情を抱くわけないだろう」
親しくしているといっても俺は知り合い、相手は友人といった風に温度差があると思う。
「どうだか。マスターは同年代よりも精神年齢高いし」
……何でファラは女子が絡むと普段よりも強いというか冷たい口調で会話をなかなかやめてくれないのだろうか。
人間らしくなったため、独占欲のようなものが出てきているのか? ……嬉しく思うが、毎度のようにこういう絡み方をされるとしたら面倒だな。
また電話すると言っていたし、このタイミングでかかってこないだろうか。内心で叔母に助けを求めたとき、何かの気配を感じた。次の瞬間、耳鳴りに似た何かが俺を襲う。
「っ……」
〔聞こえますか? ……ボクの声が聞こえますか?〕
頭の中に響いた声には聞き覚えがあった。夢に出てきたあの少年の声だ。おそらく特定の相手を指定しないで念話しているのだろう。
〔ボクの声が聞こえる方、聞いてください……お願いします、ボクに力を貸してください。お願い……〕
何かが起きるのではないかという不安は、その日の夜に現実のものになってしまった。俺は無意識に顔に手を当てため息をついた。
「マスター?」
「……ファラ、この街にある魔力反応を調べて場所を割り出してくれ」
「え、それはいいけど……危ないことには首を突っ込むなって」
「分かってる。だから話を聞きに行くだけだ。管理局に話が伝わってるかも分からないから……」
話が伝わってないとすれば、自然と事態が収拾することはない。あの少年は助けを求めているから、まだ自力では何もできないのだろう。放っておいたら街に被害が出る恐れがある。
自分から首を突っ込むなと言われたが、街に被害が出るということはかなり間接的になるが俺にも危険が及ぶ可能性があるということだ。叔母への言い訳は立つだろう。
「マスター、魔力のある場所は槙原動物病院だよ」
「分かった……止めないんだな?」
「うん。マスターに危ないことはしてほしくないけど、事態が分からないことにはマスターの力でどうにかできるかの判断もつかない。それに、マスターは冷たく振舞うことが多いけど根は優しいからね」
どうせ内心では自分にあれこれ言い訳してるんでしょ? と続けたファラに、俺は返事を返すことができなかった。優しさから介入するつもりではないのだが、あれこれ自分に言い訳していた覚えはあったからだ。
「そ・れ・に、私はマスターのデバイスなんだよ。でもやってることの大半はテレビを見ることばかり。ここでやっておかないとデバイスとしての価値がなくなる気がする」
「平和で良いと思うんだがな……」
「そうだけど、デバイスとして生まれた以上はマスターの役に立ちたいって気持ちは消えないものなんです。というか、人間らしくなると余計にその思いは強くなると思うな」
ファラは胸を張って力強く断言した。父さんが聞いていたならば、すかさずメモを取っていたかもしれない。
……家には父さんの残した資料があるし、叔母はデバイスに詳しい。そして俺にはファラがいる。前々から思っていたことではあるが、俺は父さんの研究を継げるんじゃないだろうか。叔母は難しいからといって詳しいところまでは教えてくれないが、今度時間があるときには詳しく聞いてみよう。
「行こう……と言いたいところだが、着替えたほうがいいよな」
「セットアップしないで行くなら着替えたほうがいいね」
セットアップして飛んで行ったほうが早いが、今回の目的は話を聞きに行くだけだ。念話は適性があるものなら聞こえるため、魔導師ではない者でも少年の声が聞こえる。
高町あたりは聞こえている可能性があるため、彼女の行動次第では鉢合わせもありうる。鉢合わせてしまった場合のことを考えると、普段着のほうが誤魔化しやすい。
「着替えるから少し待っててくれ」
★
ファラを胸ポケットに入れ、彼女が落ちないように気を付けながら走って向かう。歩いてもいいと思うのだが、夜に子供がひとりで歩いていると面倒ごとになる恐れがある。それを考えると急いだほうがいいと判断したからだ。
「マスター、もっと揺らさないように走って」
「俺は陸上選手じゃないんだから、そういう走りを求めるな」
「むぅ……」
頬を膨らませてこちらに抗議の目を向けるファラ。彼女の容姿は人間サイズにすれば中高生くらいのものなので、正直かなり子供っぽく見える。
「子供か」
「そうですよーだ。私はまだ3年しか活動してないし」
「拗ねるなよ……というか、しゃべるなら念話にしてくれ」
誰かに見つかったら俺は、変人というかどこかおかしいんじゃないかと心配されかねない。それを理解してくれたのか、完全に拗ねてしまったのかファラはポケットの中に潜ってしまった。機嫌を損ねてしまっていた場合、どうやって機嫌を直してもらうか考えておかないといけない。
「……っ」
病院の近くまで来ると、再び耳鳴りのような何かが俺を襲った。それとほぼ同時に、街の明かりはついているのに街から人の気配が消えた。
「……結界?」
結界も魔法の一種のため……張った人物は考えるまでもなくあの少年だろう。導き出される答えの中で最も可能性が高いものは……夢に出ていた謎の存在と再び戦闘しているのか。
俺の答えが正しいことを証明するかのように、地面に何かが衝突した音や木々が倒れる音が耳に響いてきた。
「はぁ……最悪の方向にしか展開しないな。……ファラ」
「うん!」
状況を察したファラは先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情で俺の手の平の上に出てきた。
「セットアップ」
と呟いた瞬間、ファラから漆黒の光が出始め、光は俺を包んでいく。
ファラは漆黒の球体に姿を変え、それを中心に夜空のような蒼色のパーツが出現し、やや大振りな片手直剣が組みあがっていく。それを手に取った瞬間、俺の身体を黒のロングコートにシャツ、同色のズボンと黒一色のバリアジャケットが包む。
〔うん、夜だとマスターって全然目立たないね〕
〔それは前から分かってることだろ〕
緊張感のないやりとりをしながら、俺は空中へと上がった。病院には戦闘の痕跡があるが、移動したのか誰の姿も確認できない。視線を這わせていると、街の一角から巨大な桃色の閃光が空を貫いた。
「……なんて魔力だ」
自分よりも遥かに多い魔力を感じる。いったい誰が、と思ったが、魔力を持っていそうな人物の心当たりはひとりしかいなかった。
「高町か……」
光の収束と共に、純白のバリアジャケットに身を包まれた高町が現れた。デバイスが自動でバリアジャケットやデバイスの形状の形成を行ったのか、地面に着陸した彼女は自分の身なりを見て驚いているように見える。
どう考えても高町に魔法の知識はないだろう。魔力だけしか持たない少女にいきなり実戦をさせるなんて、あの少年は何を考えているのだろうか……。
「……なんて考えている場合じゃないか」
夢で見たときよりも凶暴化している謎の存在は、高町へと襲い掛かっていた。高町は空を飛びながら攻撃を回避している。魔法の知識は皆無のはずだが……デバイスがかなり優秀なのかもしれない。
仕方がないことと思うが、街が破壊されるのを見るのは気分が良いのものではないな。高町は現状の対応で精一杯なのか気にしている素振りは見せていないが。
「グワァァッ!」
謎の存在、ロストロギアと呼ばれるであろう代物は咆哮を上げ、身体の一部を使って高町に攻撃する。
「きゃあぁぁっ!」
悲鳴を上げて怯えた様子の高町だが、デバイスが防御魔法を展開したようで彼女は無傷だった。それどころか、衝突したロストロギアの一部を木っ端微塵にしてしまった。彼女は防御面に優れた資質を持っているのだろう。
「…………」
介入するつもりでいたが、高町の予想以上の奮闘に俺は動けないでいた。叔母との約束を守らなければという思いももちろんだか、魔法に対して何の知識もなかった状態でここまで戦闘できる彼女に驚愕してしまったからだ。
「……!」
高町が姿を隠すと、ロストロギアは少年の方に目標を変えて突撃した。ほぼ同時に桃色の光が同じ場所へと向かう。土煙が晴れると、ロストロギアを受け止めている高町の姿が見えた。
デバイスの協力があるとはいえ、高町が行っているのは間違いなく実戦。魔法、ロストロギアといった未知の存在に戸惑いや恐怖を感じるだろう。何が彼女をあそこまで駆り立てるのか……。
拮抗を崩す指示をデバイスが出したのか、高町は顔を歪ませつつも片手を伸ばした。そこに魔力が収束し、放たれる。
魔力弾に貫かれたロストロギアは3体に別れ、それぞれ逃亡を始めた。すぐさま高町たちは、あとを追い始める。
「高町の速度じゃ追いつけそうにないな……」
正体がバレる危険性はあるが、あれが結界の外に出るほうが不味い。
高町から見えない位置で追跡し、徐々に距離を詰めていく。封印魔法の準備を整え、ロストロギアに向かって発動させようとした俺の視界の端に、桃色の光が入った。意識を向けるのと、桃色の閃光が凄まじい速度で発射されたのは同時に近かった。
「くっ……!」
後方に宙返りし、どうにか砲撃を回避することができた。気づくのが少しでも遅ければ、運悪くロストロギアと共に砲撃の餌食になっていただろう。
高町が放った砲撃は、的確に全てのロストロギアを捉え、封印を完了させた。
一撃で封印する魔法の威力に防御魔法の強度、恐怖に負けない強い心。今は完全に素人だが、近いうちに彼女は俺よりも優れた魔導師になる。魔導師としての才能が違いすぎる。
これはむしろ良いことだ。才能がなければ高町がどうなっていたか分からない。だがこれで彼女は、完全に魔法の世界に足を踏み込んでしまったことになる。彼女の性格を考えれば、これからもきっと危ないことに首を突っ込み続けるだろう。
高町に何かあれば悲しむ人たちがいる……だが俺にも悲しませたくない人がいる。高町の潜在的な能力は俺よりも上……。
砲撃に直撃しなかったことに安堵する一方で、そんな風に思わずにはいられなかった。
「…………喜ぶべきことだよな。俺が首を突っ込む必要がなくなったんだから」
後書き
魔法と出会い、初めての戦闘だったのにも関わらずロストロギアを封印したなのは。
ショウは彼女の潜在的な力を認めながらも、経験の浅い彼女では今後も封印できるとは限らないと考えてしまう。
なのははまだしも、街に被害を出すわけにはいかないと自分に言い訳し、もしものときだけ介入するとショウは決める。
新たなロストロギアの反応を感知し、それぞれの行動を取るショウとなのは。その一方で、なのはと同様にロストロギアを集めようとしている人物がいた。
次回 第3話「新たな魔導師」
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