Ｉ　ｌｏｖｅ　ｙｏｕ，　ＳＡＹＯＮＡＲＡ

第二章

「そうじゃね？売れないとよ」
「馬鹿、売れるよ」
　それでもリーダーは言った。
「俺達はよ。だから」
「そうだよな、売れるよな」
　俺はリーダーのその言葉を聞いて呟いた。
「やっぱりな」
「おいおい、どうしたんだよ」
　リーダーは俺が深刻な顔をしているのを見て笑ってきた。
「絶対売れるに決まってるだろ、俺達だぜ」
　根拠もなくこう言うのが常だった。
「だからな」
「そうだよな」
　俺はリーダーのその言葉を聞いて思い直した。
「だったら」
「そうそう」
「次の作曲御前だろ？」
　リードヴォーカルが俺に声をかけてきた。チビだがメンバーの中じゃ一番光るものがある。俺達がここまで来れたのはリーダーとこいつのおかげだった。
「頼むぜ」
「ああ、わかった」
　俺はその言葉に頷いた。
「今度は六千円だ」
　リーダーは言ってきた。
「一気に十倍にしようぜ」
「ああ」
　そんな話をしていた。俺は家で作曲をはじめた。夜遅くまであれこれと書いているとそこにあいつが帰ってきた。
「只今」
「ああ、お帰り」
　顔を向けて挨拶をした。
「今日は遅かったな」
「その分頑張ったわよ」
　派手な服から普段着に着替えながら俺に答えてきた。
「お金の方は任せてね、だから」
「いいのかよ」
「いいのよ」
　こう俺に言ってくれた。その言葉は今でも覚えている。
「だってそうでしょ。自分でこうするんだって決めたのよね」
「まあな」
　音符を書きながらそれに頷く。けれどその中で言った。
「それで。御前はいいんだよな」
「何が？」
「今のままで」
　顔を見て言った。その時に目に入った指はやつれていた。手も。苦労しているのは明らかだった。そして苦労させているのは他でもない俺だった。
「違うよな」
　けれどすぐに言い返した。
「やっぱり俺が売れて」
「それに越したことはないわ」
　笑って言ってきた。それはその通りだった。
「けれどね」
「けれど？」
「それでも。今のままでも別にいいの」
　微笑んで俺に言ってきた。寂しげな顔だった。俺の側に座っても何かやけに小さく見えた。
「私はね」
「何でだよ」
　俺は半ば無意識的にそう聞き返した。流石に今の言葉はそうなった。
「本当にそれでいいのかよ、今のままで」
「だから。自分で選んだのよね」
　そう俺に言ってきた。
「こうするって。だからよ」
「だからか」
「そうよ。そうだから気にしなくていいから」
　それを聞いて何を言ってやがると思った。そんなやつれた手で。今だって生きていくのに必死だっていうのに。そんなことを言うのが信じられなかった。
「だからね」
「わかったよ」
　この時はその言葉を受け入れた。
「じゃあ。今のままで満足なんだな」
「ええ。だから気にしないで」
「わかった」
　そう答えてギターに心を戻した。そうして実際に作ってみた曲をチェックしてみる。
「それ何処で使う曲なの？」
「今度のシングルの別面でな」
　俺は答えた。作詞がうちのリードヴォーカルで作曲が俺だ。結構明るい曲だったりする。
「それに使うんだ」
「そうなの。いい曲ね」
「俺が作った曲だからな」
　晴れない顔でこう返した。実際には自信はあっても売れるとは思っていなかった。リーダーの印税を見てそう思ったからだ。
「この曲も有名になるさ」
「ええ。期待してるから」
　次の日事務所に出掛ける時皮ジャンのポケットに金が入っていた。あいつが夜のうちに入れてくれていたものだった。いつものことだった。
「無理しやがって」
　俺はいつもその金に触れてこう呟いた。その気遣いまでが痛々しかった。それは最初の頃だけじゃなかった。三枚目のシングルが出たすぐ後だった。
「えっ、マジかよ」
「いきなりそんな」
「いや、これがマジなんだよ」
　居酒屋で七人揃っていた時だった。リーダーが俺達に対して言った。