この夏君と・・・・・・
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at NIGHT 3rd
俺は怒鳴って、そして走り出した。夏目たちは唖然として一歩も動かない。
「女の子一人に多人数でとか……恥ずかしいと、思わねーのかよっ!」
もう一度怒鳴った。実は自分を鼓舞するために大きな声を出しているのだ。なぜってこの空間に漂っている殺気は半端なものじゃなかったからだ。少しでも怯んでいると殺される、そんな気がした。
俺はただただ全力で走り、夏目に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
近づいたからこそ分かる、傷の深さが尋常ではないと。
しかしそれでも、夏目は平気そうな顔をしている。自分の傷よりも俺がここにいることの方が気になるみたいだ。
「ええ、身体は全く問題ないのだけれど……どうやってここに?」
「えっ、学校の塀をよじ登って入ってきたんだけど……」
夏目は理解できないといった顔で俺を見た。
「――おい、魔術師よ。この闘いに一般人を巻き込むことは許されているのか?」
敵の一人が夏目に問いかけた。
――魔術師? 今魔術師って言ったよな。どういうことだ。
夏目はその問いかけに静かに応える。
「勿論。そもそもここには一般人は入れないはずなのよ?」
「それは承知だ。もしやお前の契約者じゃあるまいな」
「確かに目をつけてはいたわ。でも、違う。だって私、強いもの。余裕があるからゆっくり時間を掛けて契約者は探そうと思ってたの」
はっきり言って何を話しているのか全く分からない。でも、俺についてのことだというのは辛うじて理解できた。
「で? オレ達としては全く問題ないのだが秘密主義のそちら側としてはこの事態はマズイのではないか」
「そうね、とってもマズイわ。でも個人的にはおいしい、かしら」
「どういうことだ」
「それはね、こういうことよ!」
そう言うと夏目は何か呪文のようなものを唱えた。
「風の守護精霊よ、我を悪しき者たちから守りたまえ!」
ブワッ
夏目と俺の周りに暴風が吹き荒れた。なるほど、呪文から察するに風が敵の侵攻を妨げるってことか。
こちらに振り向いて夏目はこう言った。
「ごめんなさい、こんなことに巻きこんで……」
しかしそんな言葉には申し訳なさよりも少し喜びらしきものを感じる。
「でも、私の結界を越えてきたということは才能があるのかもしれない。それに、雪村くんの挑戦的な目、気に入ってるのよ」
挑戦的な目って……。そんな目してますかね? まあ、それはいいとして、
「結界ってなんだよ、ってか今どうなってるんだ?」
「それは、あとでね。時間無いのよ。精霊結界ってのはね、対価を支払う必要が無い代わりに持続時間が短いの」
何が何だかわからない。でもこの感じ、嫌いじゃない。
「オーケー。なら端的に説明してくれ。俺は何をすればいい」
「私と契約しないかしら」
「は?」
すみません、さすがに意味分かんないっす。
「ああ、ごめんなさい。え~っと、手助けしてくれないかしら? このままでもあいつらを倒すことはできるけれど、時間がかかるし……。ううん、時間の問題じゃない。雪村くん、あなたの力を貸してほしいの!」
真剣な顔をして夏目はそう言った。
ゾクゾクしてきた。自分の心臓が昂ぶっているのがはっきり分かる。必要とされている、それだけで嬉しい。なぜなら、必要とされているということは生きることを赦されているということ。
それに、この願いを受け入れるということは日常の枠を飛び出すことに他ならない。
だから俺の心はすでに決まっていた。
「俺は――なんだってできるわけじゃない、神様じゃない。だけれど、そんな俺でも力にはなってやれる。なあ夏目、俺、図々しいか?」
「いいえ、そんなことない。最高に、最高よ」
夏目は腹から大量に血を流しているくせに頬に赤みがさしている。声からも分かるように昂ぶってるみたいだ。
――いける。俺は、夏目と一緒なら新しい世界に行ける。
だから俺はこう言った。
「やってやる、いや一緒にやってやろうじゃないか夏目! お前の手助けなんていくらでもしてやるよ!!」
後書き
少しだけ変えました
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