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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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龍を全然使わない龍使いシャインの奮闘記・14冊目

 
前書き
もう少し・・・あと少し・・・長きにわたる戦いに終止符を・・・打てたらいいな

1/12 ラストを修正 

 
「”嫌な仕事は引き受けない”!ハイ復唱!」
「い・・・嫌な仕事は・・・」
「声が小さい!もう一回!」
「い、”嫌な仕事は引き受けない”!!」
「オッケー!じゃあ次だよ?・・・”言うべき時はNoと言う”!ハイ復唱!」
「・・・”言うべき時はNoと言う”!!」
「よくできました!じゃあ次は・・・」

「おい少年。あの子は一体何をしてるんだ?」
「んー・・・口で説明するのが面倒になったから刷り込み洗脳でごり押しする気と見ました」
「フェイト・・・あんなに逞しくなって・・・!あたしゃ鼻が高いよ!」
「俺の感性と価値観が正しければ決して誇らしい事ではないんだが・・・」

流石はあのプレシアの娘。脳ミソの一部に水色混じってるような気もするが確かに逞しいと言えなくもない。残滓フェイトは我が妹フェイトに叩き落とされてからずっとあんな感じで洗脳っぽい事をされ続けている。最初は抵抗した残滓フェイトだったが元々押しに弱い性格ゆえか今では完全に流されている。
残滓フェイトは完全なプレシア依存だ。もともと生い立ちの所為か少し自我が曖昧な部分もある。だからその自我を取り敢えず作ってしまおうという作戦・・・なんじゃないかな。多分。

「”人の好意はきちんと受け取る”!!」
「なぁんだやればできる子なんだ?なでなで・・・」
「え、えへへ・・・」

フェイトを撫でるフェイト、そしてフェイトに撫でられて照れるフェイト。そんなフェイトを洗脳しようとしているフェイトに気付いていないフェイト。フェイトだらけで意味が分からない。プレシア母さんの言ってた事ってこういう内容だったっけ?何かが間違ってるような・・・ま、本人がこの光景を見たら永久保存のためにこの世のあらゆる記録媒体を使ってこの光景を撮影しまくるのは確実だろう。

「・・・ふぅん。事情は分からんが、取り敢えずジュエルシード奪還と犯罪者逮捕は”現場の判断”で見送ることにするか」
「そうしてもらえると助かるねぇ」
「おお、クルト君は三白眼のくせに融通が利くんだな」
「何で三白眼=頑固の図式作ってんだ。そんな偏見今まで聞いた事ねぇよ」

少々不機嫌そうにこちらを見るクルトは管理局の人間だ。が、どうやらクロノの3倍くらいは融通の利く性格らしい。但し面倒になったら魔法ぶっ放してくるけど。文句言ったら「この方が効率がいい」だそうだ。
冗談が通じないのではなく、冗談に乗るメリットとデメリットを天秤にかけてデメリットが多いなら吹き飛ばすスタイルだ。・・・新しい(のか?)!


・・・まぁそれはいいんだ。重要なことじゃない。今本当に重要なのは・・・


「大本は、多分そうなんだろう。でも結局誰なんだよ・・・この事件を起こした張本人は?」


残滓達に形ある器を与え、今も力を提供し続けるこの事件の中心人物にしてチート能力者。それが誰なのか、完全に行き詰まっていた。

時間が無い。もうすぐ闇の書防衛システムが完全に目覚める。無論この町の総力をあげればあれを抑え込んで原作よろしくアルカンシェルで吹き飛ばすことも可能だが、今回はそうはいかない。今現在この町に顕現している魑魅魍魎共は倒しても倒してもどこからか湧いて出てくる。それはつまり残滓を消滅させても”また出てくる”ということだ。下手をすれば宇宙空間で再構成されてアースラが危なくなってしまう危険性もある。

だから何としても大本を断たなければいけないのだ。なのに・・・

「駄目だ!分かりっこねぇだろどう考えても!」
「何だ犯人捜しか?情報は集めたのか?」

俺の独り言に反応したクルト君が話しかけてくる。俺の言葉に散らばる断片的な情報を基に話の内容を予測できたらしい。そんなクルト君に不貞腐れながら返事を返す。

「集めたさ・・・そりゃもうこの町の隅から隅までね。今でも集めてる」
「なら前情報は万全じゃねえか」
「んなこと言っても・・・どんなに条件絞っても人数が100人超えてんのに見つかるかよ!確率に直せば1パーセント以下だぜ!?」

こいつ他人事だと思って!とちょっと声を荒げて言い返してしまった訳だが――ーこれが結果オーライだった。


「発想を逆転させろ。”沢山の中から1人を見つけ出す”のではなく、”1人だけ違う奴がいる”んだろ?そしてお前は町中の情報を一度調べた。なら、もうお前の中に答えがあるはずだ」


・・・”一人だけ、違う奴がいる”?

沢山の内から抽出するのではなく、間違い探し?


俺の脳裏にロジックと言う名のラインが奔った。


   理想を現実に変える能力    性別、外見的特徴不明     目立つ人間ではない
       原作の存在する人物である可能性      この町にいる
 能力の暴走      介在した供給源    推定9歳       世界観
      キャラの年齢と年齢別のイベントは一致       平行世界
    原作とのズレ      きっかけ      思念集合体      情緒不安定 
  実体化する残滓      許容範囲     チート能力者      法則性
    

「・・・整理、するか」

まず”理想を現実に変える能力”と結びつくのは・・・”能力の暴走”だ。司書の言葉のまんまだ。そしてその原因として”情緒不安定”が結びつく。

では、これらが結びついた結果起きたのは?証拠があるわけではないが”実体化する残滓”がそれに当たるとみて間違いないだろう。ならば順接的に”思念集合体”は”能力の暴走”とも結びつく。

だが実体化には”介在した供給源”が無ければ成立しえない。それは誰か?深く考えるまでもない、”チート能力者”だ。

これらを併せて考えれば、状況はこうだ。


チート能力者Aは情緒が不安定であり、能力を暴走させるリスクを負っていた。そこに思念集合体が便乗、若しくは何らかの影響を与えて暴走させ、その力を利用して体を得た。理想を現実に変える能力があればそれ位難しくないだろう。つまり能力者Aこそが残滓の発生源なのだ。


次に・・・そうだな、Aの特徴を結びつけるか。”性別、外見的特徴不明”で”目立つ人間ではない”。年齢は”推定9歳”で”この町にいる”。同時に情緒不安定でもあるらしい。

そのAは”原作の存在する人物である可能性”がある。つまり”平行世界”で得たチルドレンのデータと丸被りする可能性が無きにしも非ずだ。

チルドレンについても纏めよう。原作の存在があるキャラクターたちは人によって”原作とのズレ”がある。ズレが生じる原因は本来その子供がいた世界と”世界観”が違うが故のものと、他の誰かによって本来接しえない”きっかけ”によって早い段階で力が芽生える事例が多くあった。

が、皆揃ってそれ以外の”キャラの年齢と年齢別のイベントは一致”している。この世界にはそういった”法則性”が働いているようだ。そのラインこそが世界観や人格の破綻を防ぐ”許容範囲”の枠なのだろう。その枠を超えられる者がいるとすれば、それはチート転生者くらいのものだろう。

これらの情報を統括すると、こうだ。


Aは9歳前後の子供で目立つ人間ではない。ひょっとして原作ありきの世界の人間であり、もしもそうならば・・・チルドレンの法則性から逸脱している可能性がある。



それらを纏めて考え、改めて考えよう。



Aとは誰だ?誰が仲間外れだ?



・・・



・・・・・・!!



「いた」
「へ?」
「・・・すまんアルフ!あとのこと任せた!!」
「あ、ちょっと!?」

仮定と憶測だらけのボロボロなロジックだが、それに当てはまる人間が一人だけ思い至った。後は本人にあって確認するだけだ。・・・確認できればの話だが。

「はーぁ、これで違ったら俺はもうしーらねっと」

いや、そこは責任持てよ主人公。







「さあ、今こそ謀反の時!フェイトよ、立ち上がれ!!」
「えっと・・・こほん。私、フェイトは!今ここに、私を捨てたボッチの寂しい母と決別することを・・・・・・駄目!お母さんが独りぼっちになっちゃう・・・そんなの寂しい・・・」
「うーんもうちょっとなんだけど、何が足りないのかなぁ?」

惜しい所行ってると思うんだけどなー、と顎に指を当てるフェイトを見ながら残滓フェイトは思う。私と同じはずなのに、私と全然違うよこの人・・・と。

それはそうだろう。何せこの世界のフェイトはその当時フェイトが思い描いていた理想・・・すなわち昔の優しい(実際にはちょっとおかしくなってたが)お母さんに戻ってほしいという願望がすんなり実現しているのだから。更にはもう会えないと思っていたリニスまで戻ってきて、いつの間にやら遊んでくれる兄弟や友達も出来て、まさに今までの不幸でチャージされていた幸運が一挙に押し寄せて来たかのような状態にある。
(なお、フェイトは未だにリニスが死後の世界から無理やりこちらに引き戻されたことを知らなかったりする。これは”無限力があれば人造魂魄を内包した存在を蘇生できる”という事実が広まればそれを巡って様々な厄介事が起きるであろうことを憂慮して敢えて教えていないのだ。)

・・・羨ましいなぁ、あんなに楽しそうで。私だって、何かを掛け違ってたらあんな風に・・・誰かが助けてくれればあんな風に・・・私も、そうなりたかったよ。

「・・・私も、貴方みたいになりたかった」
「そうだね。誰だってきっとそう思う」
「でももうなれない」
「・・・そうだね。きっとあなたが今から私のお母さんの子供になっても、貴方のお母さんと笑い会える日は来ない。だって―――違う人だから」

そう、フェイトとフェイトは同じ名前で同じ生い立ち、同じ容姿なのに決してで同一存在ではない。一度終わってしまった時間はもう二度と戻ってこないのならば、フェイトは同時に存在している時点で既に違う。
それを認識してしまった今、残滓であるフェイトは「母のためにジュエルシードを集める」という行動理念を喪った。同時に自分の存在意義も。

「もうどうにもならないや・・・でも良かった」
「何が?」
「今、こうして体を得て、暴れて、倒されて、おしゃべりして・・・それを一つでもしなかったら―――私は間違ったままずっとあそこにいただろうから」
「・・・私には分からない。それっていい事なのかな?」
「いいことだよ。諦めないことは大事ってよく言うけど・・・”諦めきれない”ことは辛いだけだもん」
「その結果自分が居なくなっちゃってもそう言えるのかな?」
「言えないよ。だって未練が無いから他の魂は何も言わずに逝っちゃうから言う暇もないし」
「そういう問題?」
「そう言う問題」

眉間にしわを寄せてうんうんと唸るフェイトにくすっと笑いが零れた。生きる人間には諦めないことが必要だが、死者は諦めることが必要なのかもしれない。諦めきれない存在が”呪い”や”地縛霊”、”幽霊”になると考えればこの推論は当たっているかもしれない。

死者には死者にしか解らない価値観がある。

それが分かっただけでも、この世界で体を得たことに価値はあった。

この先私が何所に行くのかは分からないけど―――それは生きていた時と変わらない不安だから、怖くは無い。


「それじゃ私、行くね」
「・・・え!?ちょ、ちょっと待ってまだ考え纏まってないから!あと1分!あと1分~!!」
「あはは・・・そんなに焦らなくたっていいのに・・・」

どうにもズレてるフェイトにまた笑わされたフェイトは、そこではたと、とんでもない事実に気付いた。

彼女たちの肉体は”憑代”から力を得て初めて実体化している。その憑代に干渉しているのはあくまで闇の書防衛プログラムであり、それ以外の残滓の多くは勝手に引っ張られたり便乗して体を得ただけに過ぎない。
よって、憑代と防衛プログラムが繋がっている限り肉体を維持する力は流れ込み続け―――


―――自力で成仏できない。行けない。帰れない。


「どどどどどうしようフェイト・・・私成仏したいのに出来ないよ!?」
「いや言ってる意味が分かんないよフェイト!?そう言うのって本人の意思で行けるんじゃないの!?」
「わ、分かんない・・・ちょっと自力で成仏出来ないか頑張ってみるっ!」
「えっとえっと、これって応援するべきなの?止めるべきなの?」


「あら?何やらトラブル発生みたいだねぇ」
「そうか。あっちもトラブル発生みたいだがな」

あたふたするフェイト二人を遠目で見ていたアルフに、律儀に隣で待っていたクルトがそのトラブル発生地に指をさして返事をする。


彼が指差した先には、海鳴の美しい海を裂いて膨張する巨大な異形の塊―――

―――自動防衛運用システム「ナハトヴァール」の姿があった。


物語はいよいよを以て終幕へと向かう。
 
 

 
後書き
今更ながらリニスが蘇生するのに必要だった条件纏めときますね。

・無限力の一定以上のコントロール(失敗すれば力に呑まれて自滅します)
・呼び出す意志の強さ(学者魂で補いました。本来なら超死ぬ気じゃないと無理です)
・一定以上の魔力(召喚と契約、肉体の再構成に魔力が必要です。最低でもオーバーSないと無理)
・通常位相から離れた空間にいる事(より次元が不安定な方が干渉しやすいです)
・魂の共鳴(共通の意思。マザコン魂に火が付きました)
・魂の情報(直接契約した相手なら魂にリンクした情報が残りますが、それ以外は基本無理です)
・触媒(生前の思い出の品や霊的な力を秘めたアイテム。リニスの場合は応龍皇そのものがそうです。本人の遺体は既に運命が決定しているので正しく魂魄が定着せず、キョンシーやゾンビのような存在になります)

人造魂魄だから再構成なんて馬鹿な真似が出来ますが、普通の人間なら精々”一瞬声が聞こえたような・・・”が限度です。イタコやシャーマンとは共通項もありますが、やってることや根底にある思想はだいぶ違います。
 
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