万華鏡
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第四十九話 準備期間の朝その十五
そのことはだ、彼等も必死に話していく。
「毎年毎年ピッチャーは抑えてくれるのに」
「先発がまず力投してね」
「中継ぎ抑えも奮闘」
「打たれて負けた記憶はあまりないよな」
「年に数回位ね」
本当にそれだけだ、阪神が打たれて負けることは。
「打たれまくって負けるのは」
「だよな、本当にピッチャーはよくやってくれてるよ」
「甲子園だと特にな」
「抑えてくれるわ」
「しかしな」
男子生徒の一人が言う、まさにそのことを。
「打線の方がなあ」
「補強しても春先はいいのに」
「夏になったら調子が落ちてきて」
補強した肝心のバッターが夏になると疲れてくるのだ、よりによって。
「それで打たなくなって負けて」
「そこから調子を落として、チーム自体も」
「それで負け」
「毎年毎年」
阪神の常だ、打たれて負けるのではなく打てないで負けるのだ。
しかしだ、今年はというと。
「今年は打ってくれるから」
「打率二割八分、ホームランも今の時点で二百本近く」
「まるで阪神じゃないみたいよね」
「だよな、確変かよ」
こうした言葉も出る程だった。
「阪神がこんなに打つなんて」
「毎試合五点は取ってくれて」
「いつもは三点も取れないのに」
こっちは三点に抑えても一点や二点しか取れないのでは勝てない、だから阪神は勝てないのである。簡単だが無念の道理だ。
「全くなあ」
「今年の阪神は違う」
「ピッチャーは相変わらずで打線は打つ」
「特に巨人がカモ」
このことがとりわけ重要である。
「いや、巨人に勝ちまくってだし」
「甲子園じゃ全勝」
「対する巨人は最下位」
「このままずっと最下位になっても」
「百年か二百年か」
そこまで言う生徒もいる、阪神の独走と共に巨人の無様な有様にも喜んでいるのだ。これは野球ファンとして当然のことだ。
それでだ、彼等は何時しか六甲おろしも歌いだす、琴乃もその中で歌う。
そしてだ、こう言うのだった。
「やっぱりこの歌いいわよね」
「そうだよな、本当に」
「名曲よ」
「いい曲だわ」
こう笑顔で話す彼等だった、歌いながら。
「阪神は六甲おろし」
「この曲はそれこそ誰が歌ってもサマになるし」
「俺カラオケで最初に歌うのこの曲なんだよ」
「私もよ」
特に今年はだ、尚阪神ファンは阪神が強くても弱くてもこの歌を歌う。それが阪神ファンというものなのだ。
琴乃もだ、歌う中で言う。
「ギター持ってくればよかったかしら」
「あっ、琴乃ちゃん軽音楽部だしね」
「だからね」
「それでなのね」
「ギターも」
「うん、だからね」
それでだとだ、琴乃もクラスメイト達に答える。
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