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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  ドレイク

 《剣の世界の魔法使い》。そうだとしか考えられなかった。

 うわさには聞いたことはあった。《エクストラスキル》と呼ばれるスキルの中に《ユニークスキル》というモノがあると。そして、その実例を目に見たこともあった。

 普通、《上位スキル》はそのスキルを習得していくと特定段階で使用可能スキル欄に出現する。もっとも分かりやすい例でいえば《両手剣》系だろう。《片手剣》スキル熟練度100から選択可能になる《両手剣》は、文字通り両手で剣を握るスキルだ。武器は《両手用直剣(ツーハンデッド・ロングソード)》。その両手剣スキル熟練度700に達した時に選択可能になる上位スキルが《大剣》。《大剣(バスターソード)》と呼ばれる大型の剣を使えるようになり、使用できるスキルも増加する。そして、《両手剣》系の《エクストラスキル》が《巨剣》だ。《エクストラスキル》とは上位スキルの中でも出現条件がはっきりとしていない物のことを言う。例えば《体術》。このスキルは《体術マスター》を名乗るNPCのクエストをクリアすることで習得できた。例えば《刀》。《曲刀》スキルを完全習得(コンプリート)たる熟練度1000まで上げた後にもしつこく使い続けていると、たまに出現する。ちなみに《巨剣》はバスターソードをはるかに上回る大きさの《巨剣(グレートソード)》を扱えるようになるスキルだ。習得条件は《大剣》スキルを延々と使い続けること。

 そんな《エクストラスキル》のなかで、習得条件が完全に不明であり、なおかつふつう最低でも10人はいる習得者が1人、最大でも2人しかいないだろうと目されているスキルこそ、《ユニークスキル》だ。《唯一(ユニーク)》の名が示す通りいわば《専用スキル》であり、その力はゲームバランスを崩壊させるほどであった。そのうちの一つが、《閃光》アスナの所属するギルド《血盟騎士団》団長(ギルドマスター)、《聖騎士》ヒースクリフのもつスキル《神聖剣》だ。専用能力は《盾攻撃》。そして圧倒的な防御力。ヒースクリフが最強であるのは、間違いなくこのスキルのおかげだ。なぜなら、このスキルが明るみに出るまで、ヒースクリフは全くの無名だったのだから。

 そして、シェリーナは世界にその存在を、ゲームデザイナーたちを除けば三人しか知らないスキルを一つ、そして何人が知っているかはわからないが、恐らくそう多くはないであろうものを一つ知っていた。

 一つ目は《二刀流》。キリトの隠し持つ切り札だ。本来SAOでは両手に武器を装備した状態では一部の例外を除き《ソードスキル》を発動できない。《魔法》のないこの世界でプレイヤーの頼みの綱であるソードスキルが使えないとなると、それはどう考えても損だ。しかし《二刀流》は、《片手用直剣》に限り、二本剣を装備することを許されている。その攻撃速度は信じられない速さであり、《神聖剣》の防御力を突破できるのは《二刀流》しかないと確信できるほどだった。これを知っているのは所持者であるキリト、そしてシェリーナと、キリト二本目の剣をつくり出した鍛冶師の少女リズベットの三人だけだ。

 もう一つのスキルのことを考えるのはためらわれた。あのスキルはほかのユニークスキルとは少し異なるものだ。

 そして、そんな《ユニークスキル》の予想に関しては多くの話題が尽きなかった。そんな中の一つに『《魔法》というユニークスキルがあるらしい』というモノがあった。自分を助けてくれたあの魔導服(ウィザードローブ)のプレイヤーは、アインクラッドに一人しかいない《魔法使い》なのだろうか……。
 

 シェリーナはすでにアインクラッド第七十四層主街区に帰還していた。クエストは達成され、報酬ももらった。しかしシェリーナの心にはやり残した感がいまだわだかまっている。あの《魔法使い》――――シェリーナはそう確信していた――――にもう一度出会って、確かめたい。幻ではなかったことを。助けてもらったお礼もしなくてはならない。

「とは言っても……」

 あの《魔法使い》には、どうすれば会うことができるのだろう。プレイヤーであることは、緑色のカラーカーソルがあったことからも明らかだ。NPCなら黄色いカラーカーソルが、モンスターなら赤系のカラーカーソルが出現するはずだ。だから、あの《魔法使い》はプレイヤー。しかし、《魔法使い》が姿を現したのは森の奥……《不可侵エリア》からだった。《不可侵エリア》はダンジョンのマップ外に存在する、2Dゲームで言うところのタダの背景だ。そんな場所にプレイヤーは入れないし、出てくることもできない。

 けれど、何もしないままでいるのは、シェリーナの本能が許さなかった。何か、行動する。そう決めたら、シェリーナはもう押さえられなくなる性分だった。

 シェリーナは消費してしまったアイテム類を買いそろえるために、まずはNPC雑貨屋に向かった。


 ***


「……本当に、申し訳ありませんでした」
『いや……良いのだ。我が臣下に不注意をさせ、人を脅かした。奴らには当然の罰だ』

 《彼》が殺したモンスターの中には、《彼》の仲間たちが含まれていた。本来ならあのような暴挙に出ることはないのだが、アルゴリズムにずれがあったのだろう。

「いえ。しかしそれでも、彼らはあなたの大切な臣下。私が殺していい命ではなかった。それに……私は、あの者の前に姿を見せてしまいました。再び、《来客》が来る可能性が非常に高い。せっかく人の少ないこの地を選んだというのに……もしあの者が私の《繋がり》の事を大衆のもとにさらしてしまえば、再びここに人々が集まって来るでしょう。……《王》よ。この地をお離れになることを提案します。もしあなたの姿が目撃されてしまえば、あなただけでなく、あなたの臣下までもが危険にさらされてしまう」
『もう良い。汝は我らのために尽くしてくれた。我はそれをうれしく思う。たとえわが身が、汝の所業によって滅びることとなろうがな』
「《王》よ……」
『……来たようだぞ』
「ええ。……では、私はこれで」
『うむ。また参れ。我は汝との会話を唯一の愉悦としているのだからな』
「そんな、恐れ多い……。……それでは」


 ***


 《仄暗き森》はひっそりと静まり返っていた。モンスターの姿すら見えず、完璧なる静寂に包まれていた。ざくっ、ざくっ、と、シェリーナのブーツが地面を踏みしめる音しか聞こえてこない。少々不安になるが、それを振り払ってシェリーナは森の奥へ、奥へと進む。

 さわわ、さわわ、と葉っぱがこすれて、かすかな音を立てる。風が冷たい。良く考えると、アインクラッドはあと一週間ほどでイトスギの月……11月になるのだ。寒くて当然だろう。全てが始まったあの日から、もうすぐ二年になる。現在の最前線は七十四層。マップが完成し、ボスモンスターが討伐されるまで最低でもあと三日はかかると推定されていた。残る階層は26。そしてそこにはどんな冒険が待っているのだろうか。どんな悲劇が待っているのだろうか……。

 表示された簡易マップは、もうすぐダンジョン最奥部……あの広場に出ることを示していた。そして、索敵スキルと連動したそれには、緑の光点が一つ、ポツンと表示されていた。

「―――!!」

 シェリーナは走り出した。敏捷値に優れているシェリーナの肉体は、現実世界のそれとは比べ物にならない超人的なスピードで道を駆け抜け、広場に出た。そこに立っていたのは、あの魔導服(ウィザードローブ)のプレイヤー。

「あなたは……」
「おや……やはり、いらっしゃったのですか。来ないはずはないと思っていました。()()もしましたしね。」

 微笑の気配。《魔法使い》がフードを脱ぐ。そこにあったのは、予想通りの笑みを浮かべた、少女めいた少年の顔。年のころはシェリーナと同じか、少し上か。灰色の男にしては少し長めの髪に、赤銅色の瞳。そしてその眼は、言葉と同じ様に年齢に似合わない深い光を湛えていた。

「あの、先ほどは、助けていただいてありがとうございました。あなたが来て下さらなければ、私は……死んでいました」
「いえいえ」

 彼は喜びを湛えた声で言った。

「先ほど一度会いましたが、きちんと対面するのは初めてなので、『はじめまして』と言わせていただきます」

 にっこりと笑うと、演劇めいた仕草で彼は腰を折って、礼をした。

「私の名は《ドレイク》――――この世界唯一の、《魔法使い》です」
「《魔法使い》……」

 ええ、と姿勢を戻した《魔法使い》――――ドレイクは言った。

「予想はしてたけれど……本当に、《魔法》を使うのですか?」
「はい。私には今は亡き異世界の大地との《繋がり》が残っていますから。この浮遊城では失われて久しい《奇跡を借り受ける》力が私には宿っています」
「異世界……」

 異世界。それがこの世界の事であるのは明らかだ。そして、アインクラッドは《浮遊城》。大地、ということは、アインクラッドがかつて存在していた世界がある、ということなのだろうか。

「この世界について、多くの《プレイヤー》の方たちは詳しくお知りにならない。私に残された《繋がり》についても、知りたいでしょう?」
「あ、はい……」
「それでは、立ち話も難です。付いて来てください。ええと……」

 そこでシェリーナは、自分が名乗っていないことに気が付いた。

「シェリーナ、と言います」

 ドレイクが素顔を見せたのだから、シェリーナも見せなければ不敬だろうと思い、普段は決してはずさないフードを外す。シェリーナの金色の髪と青い目がわずかな光に反射してきらめく。

 ほう、とドレイクが息を漏らす。

「シェリーナさん、ですか。とても綺麗な方ですね」
「いえ、そんな……」
「すみません。戸惑わせてしまったようだ。……それでは、こちらへ」

 ドレイクは《不可侵エリア》の方へと足を進めた。そして、本来なら《侵入不可能》の表示が出る場所に手を触れると、二言三言呟いた。瞬間、何かが消えた。ドレイクは、障壁に阻まれることなく《不可侵エリア》入って行った。

「さぁ、どうぞ」

 促されるまま、シェリーナは森の奥地へと足を踏み入れた。 
 

 
後書き
 影の薄いオリ主ことドレイク君の登場でした。 
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