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ギザギザハートの子守唄

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第十章


第十章

「あんたはわかってるんだよな」
「わかってるさ。最高の結末ってやつだ」
「最高の結末かよ」
「こういうのは。確か英語で」
 ちなみにこいつは国語の先生だ。得意なのは古典だ。寝ていたらそれだけで頭に拳骨が落ちて来る。それがまた金槌みたいに痛くてとんでもなかった。
「何て言ったかな」
「ハッピーエンドだろ」
 俺が鬼熊に言ってやった。俺が言うなんてまさかと自分でも思った。
「それだろ、確か」
「そうだよ、それだ」
「こんなの中一で習うぜ」
 だから俺でも知ってた。もっとも俺は九九が何とか言えるって程度の頭しかねえが。勉強なんてしたこともねえのが俺の自慢だった。
「覚えてろよ、先公がよ」
「俺は国語だからな」
「そういう問題じゃねえだろ」
 こうは言ったがそれでも話は続く。鬼熊はこれに悪びれることもなくまた俺とこいつに言ってきた。
「まあそれでだ」
「ああ」
「はい」
「これからはもっと仲良くやるんだぞ」
 笑顔で俺達にかけた言葉がこれだった。
「いいな、もっとな」
「結婚するからか」
「ああ、そうだ」
 また笑っての言葉だった。
「幸せにな」
「あんたにそう言われるなんてな」
 違和感があるなんてものじゃない。けれどもう話は動いていた。
「まあいいじゃない」
「いいって」
「嫌じゃないわよね」
 今度俺に尋ねてきた言葉はこうだった。
「私と一緒になっても」
「まあな」
 これは本当だった。別にそれは嫌じゃなかった。
「御前のことは好きだしな」
「それじゃあ。一緒に」
「一緒にか」
「そう、何時までも一緒よ」
 にこりと笑って俺に言ってくる。その笑顔はこれまで見たこともない可愛さだった。正直言って今までもかなり可愛かったがそれ以上だった。とにかく可愛く見えた。
「何時までもね」
「別れた恋が一つになるんだよ」
 ここで鬼熊が柄にもないことを言ってきた。これもかなり意外だった。
「いいことじゃないか。じゃあよ」
「何だ?」
「ただの卒業パーティーにはしないぞ」
 これも鬼熊のリードだった。
「いいな、おい」
「えっ、俺達!?」
「俺達か?」
「御前等以外に誰がいるんだ」
 仲間達に対しての言葉だった。とりあえず俺は除外されてるみたいだった。
「違うか?」
「そうなのかよ」
「それで何なんだ?」
「あれだよ」
 鬼熊はまた言う。
「二人の祝福だよ」
「それか」
「そうだよ、だからやるぞいいな」
 こうして鬼熊の音頭で卒業パーティー兼俺達の祝いのパーティーもはじまった。それは決して悪いものじゃなかった。むしろ気持ちのいいものだった。ギザギザハートが一つになって。何を卒業したのかわかった。俺達がガキじゃなくなった。悪ガキを卒業したってことだった。


ギザギザハートの子守唄   完


                  2008・6・29
 
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