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ギザギザハートの子守唄

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第一章


第一章

                 ギザギザハートの子守唄
 ガキの頃から色々と言われてきた。
「全くあいつはな」
「どうしようもない奴だよ」
 こう言われてばかりだった。とにかく俺は悪ガキだった。
 確かに悪いことばかりしてきた。喧嘩もしたし万引きもいつもだった。煙草なんかもう小学六年でやっていた。流石にこれはないだろうと親に呆れられた。
 中学でも有名なワルで十五になった頃にはもう立派な不良だった。誰もが言う不良だった。
 それで俺も気持ちもどんどんやさぐれていった。何かっていえば喧嘩だった。肩に触れた、ガンを飛ばした、それだけで喧嘩だった。
「また御前か」
 先公のいつもの言葉がこれだった。
「そんなに喧嘩が楽しいか」
「ああ、楽しいな」
 強い先公だった。俺が喧嘩をする度に柔道場に連れて行ってぶん投げてくれた。俺も反撃するが適うもんじゃない。それでも幾ら投げられても止めなかった。
「止められないぜ、喧嘩はな」
「御前、本当にどうしようもない奴だな」
 ここでまた投げられた。背負い投げで背中から思いきりだった。畳の上で俺の背中が打ちつけられた。
「馬鹿もここまでいけば立派だよ」
「褒めてるのかよ」
「怒ってるんだよ」
 こう言って今度は立たされた。そして今度は足払いだ。
「これで最後だ。今回はな」
「そりゃまたどうも」
 こかされても悪びれずに先公を見上げて応えてやった。
「有り難いことで」
「また喧嘩したらやってやるからな」
「喧嘩でも煙草でも酒でも何でもやりますよ」
 隠すつもりもなかった。実際にどれもこれもやっていた。長ランでリーゼント、鞄に入っているのは櫛とポマード、勉強なんて考えたこともねえ。それがこの時の俺だった。
「何でもね」
「それで挙句にどうなるんだ?」
「さあ」
 そこまで考えたこともなかった。今つっぱってるだけだった。
「何とかなるでしょ」
「そのまま実家の散髪屋か」
「別にそれでいいですよ」
 髪いじるのは嫌いじゃない。だから別にそれでもよかった。つっぱっていてもそのことはちゃんと考えてるつもりだった。
「それでもね」
「だが今も少しは真面目にしろ」
 立ち上がった俺にこう言ってきた。今度はこれだった。
「そんなのでいいのか」
「いいですよ。喧嘩とかだけならいいでしょ」
「それが駄目なんだ。いいか」
 それでまた説教だった。
「今度やったらもっと投げてやるからな」
「幾ら投げられても止めませんよ」
 ふてぶてしく返してやった。
「絶対にね」
「なら勝手にしろ。俺も何度も投げてやる」
「そうですか」
「ああ。しかし今はこれで終わりだ」
 そう言って踵を返してきた。背中から俺に語る。
「またな」
「ええ、また」
 これで今回は終わりだった。悪びれない態度を保ったまま帰っていると校門のところで俺と同じような格好をした連中が待っていた。皆俺の仲間だ。
「よお」
「ああ」
 俺はそいつ等に笑顔で応えた。応えながら手をあげてみせる。
「随分時間がかかったな」
「鬼熊に投げられていたな」
「まあな」
 あの先公の名前は熊本だ。それが鬼熊になってるってわけだ。
「何でもないさ」
「投げられてもかよ」
「また随分と強気だな」
「幾ら投げられても平気なんだよ」
 俺は言いながら懐から煙草を出した。安い百円ライターで火を点けて早速吸いはじめる。煙草の味が妙に口の中に滲みた。そんな感じだった。
「投げられても喧嘩は止めないからな」
「それと酒と煙草もか」
「ああ、止めないさ」
 それが俺のポリシーだった。とにかくこの三つはやるが他はしない。俺もこいつ等もそれは絶対に守っていた。そこはしっかりしているつもりだった。
「その三つはな」
「真面目だねえ、俺達」
「そこいらのゾクよりもな」
「大概のソクはあれだろ」
 俺は夕日の街を仲間達と横一列になって歩いていた。その中で話していた。やっぱり煙草は口から離しはしない。そのままだった。
 
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