Element Magic Trinity
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日常編
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楽園の塔の一件が終わり、ようやくナツ達はマグノリアの街に帰ってきた。
「こ・・・これは・・・!」
「うわぁ!」
「おおっ!」
「ほう・・・」
「驚いたな・・・」
「すげー!」
「すっごぉい!」
「・・・無駄に大きいわね」
全員が同じものを見つめ、各々の感想を口にする。
「完成したのか!?」
帰ってきたナツ達を迎えるもの。
それは――――――
「新しい妖精の尻尾!」
以前よりも豪華で大きくなったギルド・・・妖精の尻尾だった。
「おっ!ナツ達じゃねーか!」
「皆おかえり!」
「久しいな・・・アカネはどうだった?」
新しいギルドに唖然とするナツ達に、ギルド入り口前に新しく出来たオープンカフェでお茶をしていたスバル、サルディア、クロスが声を掛ける。
「驚いたか?これが俺達の新しいギルドだぞ!」
「どうしたドラグニル・・・驚愕で言葉すら出てこないか?」
「だ・・・だってよう、前と全然違うじゃねーか」
「そりゃそうだよ。新しくしたんだから」
ナツの言葉にサルディアが苦笑する。
「オープンカフェもあんのかよ」
「オイ見ろよ。入り口にグッズショップまであんぞ!」
「いらっしゃい!つーかお前らか。おかえり~」
「マックスが売り子やってるよー!ヒマだねー、マックス」
グッズショップで売り子を務める砂の魔導士マックスを見ながらルーが呟き、アルカが困ったように眉を寄せる。
「妖精の尻尾特製Tシャツにリストバンド、マグカップにタオル、オリジナル魔水晶も取り扱ってるよ」
そう言うと、マックスは奥から何かを取り出す。
「中でも1番人気はこの魔導士フィギュア。1体3000J」
「いつの間にこんな商売を・・・」
「・・・アホらし」
マックスが持っているナツとマカロフを完全に再現したフィギュアを見て、エルザが呟き、ティアが呆れたように溜息をつく。
「見てー!ルーシィのフィギュアがあるよー」
「わー、ほんとだぁ!」
「えーっ!?」
ハッピーが持つルーシィのフィギュアは、星霊の鍵を持ちポーズをとっていた。
「勝手にこーゆーの作らないでよォ。恥ずかしい・・・」
「オイラはよく出来てると思うけど」
「うん。本物そっくりだね!」
「何度見ても凄いよね・・・って、わぁっ!」
笑みを浮かべながらハッピーの持っていたフィギュアを手に取るサルディア。
その瞬間、ルーシィフィギュアの着ていた服が外れた。
「もちろん、キャストオフ可能」
「イヤーーーーーー!」
半泣き状態になりながら、慌てて自分のフィギュアの服を着せるルーシィ。
「つーか、俺のは何で最初から裸なんだ」
「すぐ服脱ぐからだろーがよ・・・おいマックス、俺のはミラの横に並べてくんねーかな」
「おっかしーなぁー。なんで僕のフィギュア、頭から犬の耳生えてるの?あれ、こっちはキノコ?」
「私のも出来がいいとは言えんな。甲冑には本物の鋼を使うべきだ。そもそも、私の肌はこんなに硬くないぞ」
凄まじいまでの脱ぎ癖を持つグレイのフィギュアは最初から上半身裸であり、アルカのは特に問題はないがショップの配置に文句があり、ルーのフィギュアに至っては、何故か犬の耳が生えている。因みに頭の中央辺りからキノコが生えているのもある(キノコは多分シメジだ)。
エルザはフィギュアの素材に文句があるようだ。
「あ、あとマックス」
「何だ?」
アルカはマックスを呼ぶと、財布を取り出し、3000Jを置く。
「ミラのフィギュア1つ」
「OK。アルカが絶対欲しがると思って1個とってあるぜ」
「っしゃあ!」
「・・・」
そんな中、ティアは1人沈黙する。
「どーした、ティア」
「納得いかないわ」
「何が?」
不機嫌そうにに腕を組み、じっと前を見据える。
形のいい眉が、ピクピクと上がっていた。
「絶対におかしい・・・」
「だから、何がだよ・・・って、あ」
「どうしたのアルカ・・・って、あ」
ティアの視線の先にあるものを見て、ルーとアルカは顔を見合わせる。
プルプルと体を震わせながら、ティアがマックスを睨みつけた。
「マックス!説明なさいな!」
「え?」
「どうして・・・」
怒りに声を震わせながら、ビシッと音がしそうな勢いで『それ』を指さす。
「どうして私のフィギュアが、ネコのコスプレしてるのよっ!」
そう。
先ほどからティアが見ていたのは、自分のフィギュア。
そして何故か、黒猫の耳に尻尾、肉球の描かれた手袋をはめている。
これを見た時、楽園の塔での事を思い出したのは言うまでもない(『ナツティアネコfight!』参照)。
「あ、それ?いろんな人から強い要望があって」
「はぁ!?何よそれ!」
「それともネコ耳メイドかネコ耳ナースが良かった?それもかなり要望があったんだぞ」
「ネコから離れなさいよぉぉぉっ!」
うがーっと喚き散らすと、明らかに不機嫌そうに溜息をつく。
・・・このティアのフィギュアを、ライアーが購入したのは言うまでもない。
「最悪よ・・・人生最大にして最悪の汚点だわ・・・」
「そこまで言う?」
頭を抱えるティア。
クール系微ツンデレキャラで通っている彼女には、かなりのダメージだったのだろう(ちなみに彼女がデレを発揮するのは、大体ナツが多い。理由?それを言ったらネタバレになるだろう)。
「ね、姉さん元気を出してくれ!さ、さぁ、中に入ろう!」
凄まじく落ち込む姉を見ていられなくなったクロスは、ギルドの中へとナツ達を案内する。
「おおっ!」
「わぁー、キレぇー!」
「うん・・・素晴らしいじゃないか」
以前より遥かに広く綺麗な酒場を見て、一同は感嘆の声を上げる。
が、そんな中、ナツは1人ムスッとしていた。
「どうしたのよ、ナツ」
「前と違う」
「あのね・・・新しくして前と同じだったら意味ないでしょ」
早速復活したティアがナツの言葉に呆れる。
「ハ~イ♪妖精の尻尾にようこそ~」
すると、そんなナツ達にウェイトレスが声を掛けた。
チューブトップでタイトスカート、ギルドの紋章とロゴの入ったワンピースを着ている。
「ウェイトレスの服が変わってる」
「可愛くていいじゃないか」
「マスターの趣味かしら・・・」
「つー事はミラも・・・あれ?ミラどこだ!?失踪か!?行方不明か!?誘拐か!?あり得る・・・ありえちまって怖ぇー!犯人はどこのどいつだ!マジ殺す!」
「アルカおちつこーよ。ミラが誘拐されてたら、こんなのほほんとしてないでしょ」
「そ、そうか・・・そうだな・・・」
1人でテンパるアルカに、珍しくルーが正論を述べる。
「違ってる」
「新しいギルドはそれだけではないぞ」
「あ、ヒルダ」
やっぱりムスッとしているナツに、ヒルダが声を掛ける。
「なんと酒場の奥にはプールが!地下には遊技場!そして1番変わったのは、2階だ!」
普段ティアに次いで冷静なヒルダが興奮したように声を上げる。
すると、2階からひょこっとライアーが顔を出した。
ナツ達を見つけると同時に、2階から声を掛ける。
「誰でも2階に上がっていい事になったんだ。当然ながら、S級クエストに行くにはS級魔導士の同伴が条件だがな」
「そうそう。だからライアーもS級クエストにティアと」
「スバル悪い!手が滑った!」
「んぎゃっ!」
いつも通りに余計な事を言いかけたスバルの上に、ライアーが手を滑らせた為、テーブルが落ちてくる。
どうやったら手が滑ってテーブルが落ちるのかは謎だ。
「2階に行ってもいいのー!?」
「っし!これで俺とルー、ティアの3人で仕事に行けるな!」
「わーい!」
「お前らが行くと、必ず大規模な問題が起こるよな・・・」
喜ぶルーとアルカに、呆れた様にヒルダが呟く。
「帰ってきたか、バカタレども」
「!」
そんなナツ達に、マカロフが声を掛ける。
「お」
「あ」
マカロフの隣を歩く少女を見た瞬間、グレイとティアがほぼ同時に声を上げた。
「新メンバーのジュビアじゃ。かーわええじゃろォ」
「よろしくお願いします」
その少女とは、元幽鬼の支配者のエレメント4であり、楽園の塔で共に戦ったジュビアだった。
外巻の青い髪をショートにし、服装も以前の暗い色のコートより明るくなっている。
「ははっ!本当に入っちまうとはな!」
「ジュビア・・・アカネでは世話になったな」
「およ?知り合いか!?」
まさか知り合いだとは思わず、マカロフが驚愕する。
「皆さんのおかげです!ジュビアは頑張ります!」
「よろしくね!」
「恋敵・・・」
「違うけど・・・」
そしてやっぱりルーシィを恋敵だと思っていた。
髪型と服装が変わっても、そこは変わらないようだ。
「ジュビア」
「ティアさん!ジュビア、妖精の尻尾に入れました!」
「よかったわね。そうそう、Gの方は任せておきなさい」
「はい!よろしくお願いします!」
変わらない無表情―――でも少し笑みが混じっている気がする―――で淡々と呟くティア。
『G』の意味は解らなかったが、それ以上に解らない事が出現し、ギルドメンバーを代表してエルザが問う。
「ティア・・・」
「何」
「お前、そんなにジュビアと親しい仲だったか?」
それを聞いたティアは不思議そうに首を傾げ、ジュビアが口を開いた。
「ジュビアとティアさんはお友達ですから!」
その瞬間――――――
『ええーーーーーーーーっ!?ティアに友達がぁぁぁぁぁっ!?』
ギルドにいた全員が叫んだ。
唯一その事を知っていたグレイは「やっぱこのリアクションとるよな・・・」と呟く。
「マジかよ!俺ティアには一生友達出来ねーと思ってたぞ!?」
「スバル、それは失礼だろう・・・」
スバルの言葉にヒルダがツッコむ。
「そうか。姉さんの友達か・・・」
クロスはゆっくりとジュビアに歩み寄り、手を伸ばした。
「俺はクロス=T=カトレーン。姉共々、仲良くしてくれると嬉しい」
「ジュビア・ロクサーです。こちらこそよろしくお願いします!」
差しのべられた手を取り、握手を交わす2人。
そんな中、マカロフがエルザに呼び、囁く。
「ならば知っとると思うが、こやつは元々ファントムの・・・」
「ええ・・・心配には及びません。今は仲間です」
「ほーかほーか、ま・・・仲良く頼むわい」
エルザの言葉にマカロフは安心したように微笑む。
「それならもう2人の新メンバーも紹介しとこうかの。ホレ!挨拶せんか」
「!他にもいるの!?」
「誰?僕、仲良く出来るかな?」
マカロフの言葉にハッピーが驚き、ルーが楽しそうに笑う。
近くの席に座っている2人のうち、1人が振り返り、頭を下げた。
その姿を見たクロスが、珍しく顔を歪める。
「っアイツは・・・」
その人物はローズピンクの髪を姫カットにして下ろし、メイド服を着ていた。
その手には何故かバケツが握られており、中には山のような釘やらネジやらが入っている。
「お久しぶりですわ」
そう言ってにっこりと微笑むのは――――
「シュラン!?」
「セルピエンテ・・・お前か・・・」
シュラン・セルピエンテ。
幽鬼の支配者最強の女にして、蛇魔法の使い手だ。
以前、ギルドを破壊した張本人でもある少女。
抗争の際はティアさえもが苦戦し、最終的にはクロスに倒されている。
そして、その彼女がいるという事は――――――
「え!?」
「オ、オイ・・・嘘だろ!?」
「テメェは・・・!」
―――――自然と、もう1人の人物も、その人に特定される訳で。
『ガジガジ』と何かを喰い、ルーシィとグレイ、アルカの声に反応したかのように立ち上がる、その人物は―――――
「ガジル!?」
以前シュランと共にギルドを破壊した張本人・・・ガジル・レッドフォックスであった。
「何でコイツが!」
「きゃあああっ!」
「僕・・・こいつ等とは仲良く出来ないよ」
ルーが2人を睨みつけ、呟く。
彼がティアと同じくらいに大好きなルーシィに、辛い思いをさせたギルドの人間―――簡単に許せはしない。ジュビアはエルザを救う為に戦ってくれた為、もう彼の中で敵意はないのだが。
「マスター!こりゃあ一体どういう事だよ!」
「待って!ジュビアが紹介したんです」
「ジュビアはともかく、コイツ等はギルドを破壊した張本人だ」
当然、他のメンバーもこの2人に対しては凄まじい怒りを覚えている。
「フン」
「どこに行っても、私達は嫌われ者ですね。ガジル様」
自分達に敵意を向けてくるメンバー達に対し、ガジルは気に入らないと言いたげに鼻を鳴らし、シュランは少し寂しそうに呟いた。
「まあまあ、あん時はこやつ等もジョゼの命令で仕方なくやった事じゃ。昨日の敵は今日の友ってゆーじゃろーが」
そんなメンバー達をマカロフがたしなめる。
「うん・・・私も全然気にしてないよ」
「レビィちゃん」
酒場の奥のプールにいたレビィが、おどおどしながら必死に呟く。
彼女を含めるチーム『シャドウ・ギア』は、ガジルとシュランによって重傷を負わされている。
その為―――レビィの後ろに立つジェットとドロイは、2人を睨みつけていた。
「冗談じゃねぇ!こんな奴と仕事できるかぁ!」
怒りながらづかづかとナツがガジルに向かって歩いていく。
「安心しろ。慣れ合うつもりはねぇ」
直後、ガジルの言葉にカチンときた。
「俺は仕事が欲しいだけだ。別にどのギルドでもよかった。まさか1番ムカつくギルドで働く事になるとはうんざりだぜ」
「んだとォ!?」
ガジルの言葉に憤慨し、ナツが突っ掛かる。
すると、そんな2人の間に境界性をつくるように、シュランが腕を伸ばした。
「ガジル様に直接御知らせするべき重要事項以外の御用件があるのであれば、まずは側近である私がお伺いいたしますわ。内容によっては痛い思いをしてもらいますけれど。さぁ、御用件をどうぞ」
「あぁ!?やんのかコラァ!」
淡々と告げるシュランにナツが怒鳴る。
そんなナツに、シュランは変わらない表情でやはり淡々と告げた。
「それは喧嘩の申し出、と受け取って構わないのでしょうか?ならばガジル様の手を煩わせる必要などありませんね。ガジル様の敵は私の敵。理由なしにガジル様を傷つけようと言うのであれば、私が相手になりますわ」
「上等だコノヤロウ!かかってこいやァー!」
ナツが戦闘態勢を取り―――――
「面倒な揉め事を起こすなバカナツ!」
「うごっ」
その頭上から、バケツを引っくり返した様な凄まじい量の水が降ってきた。
当然、その水はティアが引き起こしたものである。
「何しやがんだよティアァー!」
「別に・・・ただその頭を冷やしてやっただけよ」
「ア!?」
こちらも淡々と呟くティアにナツが突っ掛かる。
「・・・アンタ達も、結局は『人間』なのね」
「?何言ってんだお前」
ティアの意味不明な言葉にナツが首を傾げる。
曇りのない目でナツを見つめ、ティアは更に言葉を紡いだ。
「他人を仲間だ家族だ言うアンタ達も、結局は人を差別するのねって事よ」
いつも通りの冷静で、冷淡で、冷酷な声。
全てを沈黙へと変えるその声は、静寂を呼んだ。
「バカみたい。人を過去で差別するのは愚か者のやる事よ」
そう言うと、ティアはショルダーバックを肩から下げて、バーカウンターの1番奥の席に座る。
そしていつも通り、無言で魔法書を読み始めた。
「・・・気にしないでくれ。レッドフォックス、セルピエンテ。姉さんはああいう性格の人なんだ」
静寂を、クロスが破る。
シュランは少し沈黙すると、ナツに向かって深々と頭を下げた。
「申し訳ありません、ナツ様。つい感情に任せてしまいましたわ。不快な思いをされたのであれば、私を殴るなり蹴るなり、好きにしてくださいませ」
謝罪し、再び腰を下ろす。
再び騒ぎを取り戻したと同時に、マカロフが口を開いた。
「道を間違えた若者を正しき道に導くのも、また老兵の役目。彼らも根はいい奴なんじゃよ・・・と信じたい」
「それがマスターの判断なら従いますが、しばらくは奴等を監視してた方がいいと思いますよ」
「はい」
エルザの言葉に返事をするマカロフ。
「う゛う゛~!何か居心地悪ィなぁ・・・新しいギルドは~」
「いいから座れ。そろそろメインイベントだぞ」
「?」
言葉通り居心地悪そうにするナツを、ライアーがほぼ無理矢理ガジルの隣に座らせる。
それと同時にギルドの電気が一気に消えた。
「暗え」
「演出なんだから明かりつけないの!」
口から小さく炎を吐くナツをカナが注意する。
「何だ何だ」
「あんな所にステージが」
「よォ」
「あ、エルフマン。やっほー」
全員の視線が、これもまた新しく作られたステージへと集中する。
そしてステージの幕が上がると―――――
「ミラさん!?」
そこには、ギターを持ったミラの姿があった。
その瞬間、ギルドが一気に歓声に沸く。
「待ってたぞー、ミラー!」
「ミラちゃーん!」
「ミラジェーン!」
周囲からの歓声を受け、ゆっくりと歌い始める。
「♪あなたのいない机をなでて 影を落とす今日も1人・・・
星空見上げ~ 祈りをかけて~ あなたは同じ 今 空の下
涙こらえ震える時も 闇にくじけそうな時でも~
忘れないで~ 帰る場所が~
帰る場所があるから~」
ミラの美声が、ギルドに響く。
「いい歌~」
「仕事に出る魔導士への歌よ」
「さっすがミラ!」
ルーシィが笑い、カナが説明を入れ、アルカが満足そうに頷く。
「♪待ってる人~が~ いるから~」
優しい笑顔で1番を歌い終えたと同時に、何人もの人が立ち上がる。
「ミラちゃーん!」
「最高~!」
「いいぞ~!」
大歓声。
文字通りの光景だ。
「フン」
しかし、ガジルは面白くなさそうに鼻を鳴らし―――
「痛ぇーー!」
「ギヒ」
隣に座っているナツの足を踏んだ。
「何すんだテメェ!わざと足踏んだろォ!」
「ア?」
憤慨し怒鳴るナツに対し、何言ってんだコイツ、と言いたげにガジルが返す。
―――だから、気づかない。
「オイ・・・ナツ・・・」
「あ!?」
その背後で、1人の青年の堪忍袋の緒が切れていたなんて。
「ミラの歌の・・・邪魔すんじゃねぇぞコラァァアアアアァァア!」
「うご」
「ギッ」
完全にキレたアルカが近くにあった空のコップを勢いよく投げ付ける。
普段は簡単にキレないが、ミラの事となれば話は別。それがアルカだ。
「何すんだアルカアアアアアッ!」
「ひいいい!」
「うわぁ!」
それに更に憤慨したナツは、勢いよくテーブルを引っくり返す。
ルーシィが驚愕し、ジュビアは体が水で出来ているため特に慌てず、カナがひっくり返った。
「ナツ!テメェ!暴れんじゃねぇ!」
そんなナツに向かって、グレイが怒鳴りながら立ち上がる。
その拍子にグレイの左肘がエルザの右手にぶつかり、エルザが食べていたいちごケーキが床に落ちた。
「私の・・・いちごケーキ・・・」
自分の好物を台無しにされ、怒り震えるエルザ。
「テメェ等!漢なら姉ちゃんの歌聞きやがれっ!」
「やかましいっ!」
その怒りは近くで暴れていたエルフマンへと向けられ、その顎を思いっきり蹴り飛ばした。
「全く・・・帰って来るなり何をやっているんだ、アイツ等は・・・」
「ナツ達が帰ってくると一層騒がしくなるな!」
その騒動を見てライアーが呆れ、スバルが無邪気に笑う。
「あぁ・・・だが、騒ぎすぎはいけない。そろそろ止めに入らねば―――――」
ヒルダがそう言いかけた瞬間―――その顔に、誰かが食べていたのであろう、コント等でよく見るクリームパイが直撃する。
「・・・まずいぞ、ライアー」
「非常にマズイ・・・今のうちに退散するのが得策だな、スバル」
その光景を見ていた2人の意見が珍しく合致し、2人は素早くヒルダから距離をとる。
ポトッとパイが落ち、ヒルダは顔についたクリームを近くにあったタオルで拭き取り――――
「貴様等・・・いい加減にしてもらおうか」
背負っていたセルリヒュールを手に・・・全てを震わせるような低い声を響かせた。
「き、来たぞ・・・ヒルダの裏の顔・・・」
「魔王ヒルダ・・・声だけで怖ぇ・・・」
ライアーとスバルがそんな会話をしている事は知らずに、ヒルダはセルリヒュールを構える。
その先に赤い光が集まり―――――
「ブラッティィイィ・・・ブレイカァァァアァァアアーーーーー!」
『ぎゃああああああ!?』
無差別に本気のブラッティブレイカーを放ち、メンバーを吹き飛ばした。
「もーっ!ヒルダもナツ君もダメでしょ!あんまり騒いじゃ!私が止めないとね!」
「い、いや・・・サルディア、待て・・・」
ライアーの静止も効かず、サルディアは魔法陣を展開させる。
「力を貸して!召喚!アイゼンフロウ!」
「グオガアアアアアアアアアッ!」
呼び出されたアイゼンフロウはギルドの天井に頭が届くんじゃないかというほどに大きい。
「アイゼンフロウ!皆の騒ぎを止めて!」
「グガアア!」
返事の様な短い声を上げると、アイゼンフロウは頬を膨らませ、咆哮を放つ。
『うがあああああっ!?』
突然の咆哮に驚愕するメンバー。
「全く・・・!サルディアはいつもアイゼンフロウを召喚して困るな・・・なぁ、スバル・・・スバル?」
頭を抱えるライアーがスバルに声を掛けると、スバルは何故かその手にエウリアレーを握りしめている。
嫌な予感しかしないが、一応訊ねた。
「お、おいスバル。まさかとは思うが」
「俺も混ぜろやーーーーーーーーーー!」
「やはりか・・・!」
妖精戦闘狂の魂に火がついた。
騒ぎの中心に向かっていくスバルを見て、ライアーが更に頭を抱える。
「フフッ、まあいいじゃないかライアー。時には騒いでも」
「主」
そんなライアーにクロスが歩み寄る。
が、次の瞬間―――
「・・・私の、魔法書が・・・」
騒ぎで宙を舞ったコップの中の酒が、ティアの読んでいた魔法書を濡らす。
それを目撃していたクロスをライアーは見て、恐る恐る声を掛ける。
「・・・主、どうか落ち着い」
「姉さんに辛い思いをさせるなああああああああっ!」
「主ーっ!・・・って、本人は全く気にせず読んでいるが!?」
シスコンが剣片手に騒ぎに向かっていく。
まぁ本人は濡れても気にせず読書を続けているが。
「・・・全く・・・お前らは・・・!」
プルプルとライアーが怒りに震える。
「問題ばかりを起こすなああああああっ!」
そして、唯一の常識人であったライアーまでもが、フィレーシアン片手に飛び出した。
それを見ていたスバルがニヤッと笑う。
「ライアー、久々に手合わせしねーか?」
「手合わせだと?」
スバルの言葉に眉を顰めるライアー。
普段の彼なら確実に断っているのだが―――――
「・・・いいだろう。お前にこの苛立ちをぶつける!」
「っしゃあ!かかってきやがれコノヤロウ!」
苛々が止まらないライアーは、普段通りの思考ではなかった。
そのままフィレーシアンとエウリアレーの戦いが始まる。
『うわああああああ!?』
当然、周りへの配慮なんてない。
「どりゃあ!」
「ミラの歌聞けっつってんだよコラァア!」
「誰かナツとアルカをおさえろォ!」
周りのメンバーを巻き込むナツを、同じく周りを巻き込みながら追うアルカ。
「いや、最優先は魔王だろ!誰か魔王を止めろ!」
「私を魔王と呼ぶなああああああああっ!」
魔王状態のヒルダは更に砲撃を放ちまくる。
「つーかアイゼンフロウ止めろって!」
「無理無理!アイツ痛覚鈍いのか痛がらねーし全然倒れねーんだよ!」
「ふっふーん。私が流してる魔力がそうしてるんだよ!お願い、アイゼンフロウ!」
「グギャアアアアアッ!」
「迷惑な事しやがって!」
主サルディアの命令によってさらに爪を振るうアイゼンフロウ。
「おい誰か!このシスコン止めろ!マジで羅刹の剣使うぞ!」
「俺はシスコンじゃない!ただ姉を大切にしているだけだ!姉を愛して何が悪い!」
「だからそれを世間的にはシスコンっつーんだよ!」
相変わらず頑として自分がシスコンだと認めない、太陽の剣を振り回すクロス。
「行くぞフィレーシアン!紅蓮連斬!」
「っと!ならこっちは・・・ブルーリベリオン!」
「お前らは本気で魔法ぶっ放すな!」
「桜花連斬!」
「レグルスレイ!」
「人の話を聞けーーーー!」
一切手を抜かず、フィレーシアンとエウリアレーを激突させるライアーとスバル。
「・・・」
その様子を無言で見つめるマカロフ。
ナツが引き起こした騒動は、とてつもなく大きくなっていた。
「バラードなんか歌ってる場合じゃないわね」
その騒ぎを見たミラは――――
「ロックで行くわよぉ!へんしーん!」
先ほどのゆったりとしたバラードとは打って変わり、服装も変身魔法で変え、エレキギターで激しい演奏を始めた。
「わーい!ミラ、僕も混ぜて!サックスなら吹けるよ!」
そこにルーが乱入し、何処から持ってきたのかサックスを慣れた手つきで吹き始める。
「これじゃ前と全然変わらないじゃない・・・」
わーわーと様々な声が飛び交い、飛んでくる物から身を防ぐように頭を抱えるルーシィ。
呆れたように呟き、溜息をついた。
「でも・・・こーゆー方が妖精の尻尾だよね」
物が壊れる音が響く。
ギターやサックス、ドラムの音も響く。
が、全員笑顔だった。
ナツも、ハッピーも、グレイも、エルフマンも、カナも、エルザも、ミラも、ルーも、アルカも、クロスも、ライアーも、サルディアも、スバルも、ヒルダも、ルーシィも・・・。
大騒ぎするメンバーも、それを見ているだけのメンバーも、皆笑顔だった。
・・・マカロフを除いて。
「な、なぜあと1日我慢できんのじゃ・・・クソガキども・・・」
プルプルと怒りで身体を震わせながら、マカロフが叫ぶ。
「明日は取材で記者が来る日なのにィーーー!」
「取材!?」
そう叫びながらマカロフは泣き、ルーシィは取材という言葉に反応する。
「やめんかバカタレども!片付けーい!」
「オイ!じーさん!巨大化すんなァ!」
「ショップやウェイトレスやステージはその為だったのね」
マカロフが巨大化した事により、騒ぎは大きくなっていく。
まぁこれが・・・妖精の尻尾のいつもの姿である。
ちなみにこの大騒ぎは、色々な苛立ちが重なっていたティアが我慢の限界を向かえ、これ以上ないくらいの殺気を放出した事により、強制的に治まった。
その後はマカロフを含め、ティアから3時間を超える説教を受け、ギルドの掃除と片づけをやる事になった。
後に聞いた話だが、その日、マグノリアの町民は、原因不明の寒気を感じたという―――。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
バトル・オブ・フェアリーテイル編の前に日常編です。
何をするかと言いますと。
・次回、取材。
・新しくBOF編を始めるとしばらく出来なくなるので、番外編。
・謎が謎を呼びほったらかしになっている謎の1つ『ナツが約束した相手』についてやろうかな、と。
・これはまだ『やってもいいかな』と思っているだけですが、チェンジリング。
・・・こんな感じです。
感想・批評、お待ちしてます。
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