蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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ありのままの自分を
「ふぅ・・・・。やっぱり考えちゃいますよね・・・・」
ーもしかしたら母を生き返らせることが出来るかも知れない・・・・・
「出来ないと、分かっているのに・・・」
ー明様ほどの霊能力者が次々に死神を作っています
真の話が耳から離れない。
考えてしまう、脳が勝手に、想像してしまう。思い出してしまう。母との懐かしい日々を。
「つまり、私であれば、幽霊を肉体に戻せる・・・・」
今まで、そんなことを考えたことも無かった。
幽霊は成仏した方がいいに決まってる。自然の摂理に逆らってはいけない。
でも・・・もし。それが許されるのであれば・・・・・
「母にまた・・・・会いたい・・・・」
明の目から涙がこぼれる。
分かっている。もう母の魂すらもこの世に残っていないことは。
「それでも・・・・それでも・・・・」
明はベットに身を預け、しばし、涙と共に追憶を行う。
神条家。平安時代に安部清明の助手として活躍した霊能力者の家系であり、安部清明がとっくに亡くなった今も現存する。
安部清明には遠く及ばないが、それでも十分過ぎるほどの霊感を持った神条家は、日本の中心を支える柱の1本でもある。
今は霊能力も歴史に埋もれたが、それでも神条家は神条財閥となって結局日本を支えている。
外国にも手を出し、ありとあらゆるジャンルに関わっている神条家は、国際的にも有名である。
昔は表の顔だった霊能力者としての顔も、現在では裏の顔である。
それでも霊能力は、影ながらも必要とする人がいる限り用いられる。
しかし、一番強い霊能力を持たない明がいない現在、神条家は、所持する霊能力者を使い、現状を維持している。
そんな神条家には一つの鉄則があった。
神条家で多大な霊能力を所持できるのは女性のみである、という鉄則だ。
神条家で、男性が霊能力を持つことは多々あるが、女性の所持出来る霊能力の比ではない。
女性と言っても、直系かつ、長女である必要がある。
長女という言葉は正確には違っている。なぜなら神条家では必ず直系として生まれる女性は一人なのだ。
裏を返せば、必ず女性は一人産まれるということでもある。
その鉄則は、確かに不思議だったが、一家の中ではそれを調べようとするものはいなかった。
そして、神条財閥の総帥の娘、つまり直系として生まれた自分も、そして母も多大な霊能力を所持していた。
神条財閥の直系の娘には、生まれたときから既に決められた許婚がいる。
大体、大きな企業の社長の息子とかで、神条財閥の富を継続させるため、つまり政略結婚させられる。
明にも当然、許婚はいるし、母も父と結婚することは決められていた。
父は明が物心ついたときから、仕事をして、財産を護る、という考えしかない人だった。
だから、明が勉強でいい成績をとると褒めてくれてるが、明のそこしか父は見ていなかった。
非情に厳格で、よく幼い頃に殴られた。
幽霊と会話していると、「死者と話して何が楽しい!」と怒鳴られた。
そんなときによく庇ってくれたのが、優しい母だった。
母にはよく甘えた。母は自分の全てを、ありのままを見てくれていた。
そう・・・・母が死ぬまでは。
母の死因は、急性の心臓発作だった。朝、女中が起こしにいったら亡くなっていたという。
その数日後、壮大な葬式が行われた。
親戚が、同情の言葉を掛けてくれるが、あくまでそれは上辺だけの社交麗辞に過ぎなかった。
確かに、もう自分が生まれている時点で、神条家直系の女が死のうと、さして問題では無かった。
それが、ひしひしと伝わってきて、明は途中で葬式を抜け出した。
それからだ。父が更に厳格になったのは。
もう母さんがいないのだから、勉強し、賢くなり、立派に当主を支えられる女になれ!
そう毎日のように似たようなことを言われた。
明の許婚も、その日からやたらと明に会いに来るようになった。
母上の死は、僕も大変遺憾に思うよ、とかなんとか言って。明に気持ちも知らずに。
上辺だけは明を愛しているように見せても、明を自分の未来のための土台と見ていることは明確だった。
結局、母が死んでから、誰もありのままの自分を見てくれる人がいなくなった。
そして、母が死んでから半年後、明は親しかったSP数十名を連れ、父のいる本邸から別居した。
父や許婚、親戚諸々から反対されたが、自分の手持ちの金は、既に多くあった。
母が、自分の口座にちょくちょく振り込んだ金だった。
結局、自分の金で何処かに住める、ということが明確になると、父は渋々別居を許可した。
明は使われなくなっている別荘に住んでも良いと許可され、家賃や維持費などは私が負担すると、言っていた。
別居してからは、流石に許婚も来なくなった。
勉強は麗がいるから問題ない。時々出かけては幽霊と出会い、成仏させる日々を送っていた。
時々、本邸で開かれる舞踏会などに参加しなければならなかった。
許婚からの熱烈なアプローチや、親戚からの「引き篭もり」という冷たい視線が嫌で嫌でたまらなかった。
結局いつも途中で離脱した。
父とは別居してから話してない。
母の墓に行くときも、舞踏会のときも挨拶なしだ。
家族や親戚を避けながらそうやって今まで過ごしてきた。
親戚が自分のことについてよくない噂をしているのは知っていたが、気には留めなかった。
幽霊と出会い、別れを繰り返しながら、今に至る。
明は天井を見上げながらハ~っとため息をつく。
自分の気持ちに気付いてはいる。あの出会いの夜から。
しかし。自分には結婚しなければいけない男がいる。
今までは避けてこられてが、いつかは会わなければいけないのだろう。
このことはまだ彼には話してない。
麗から、促されるときはあるが、彼の反応がどうなるか怖くて、言えない。
そもそも、彼は、自分のことをどう思っているのだろう。
もう、彼と出会って半年になる。しかし、なんの進展もない日々が続く。
明は胸の中にモヤモヤを抱えて、考えにふけっていた。
そこでドアをノックする音がした。「どうぞ」と答える。
「・・・あの~。もしかして寝てました?」
「・・・・!」
流石に今まで考えていた彼が出てくるとドキッとせずにはいられない。
「いいえ、寝ていませんでしたよ」
やっとのことでそう答える。
「散歩の時間、いつもより十分もオーバーしてますけど、何かありました?」
そうだった。そろそろ毎日の日課の散歩だった。
いつもは時間きっかりに正門の前で集合する明なので、宏助が怪しむのも無理はない。
考え事をしている間に、どうやら時間を過ぎていたようだ。
「すみません。遅れちゃって。少し考え事してて・・・。今行くので、ちょっと待ってください」
明がそう起き上がったところで。
「・・・・・!」
「・・え?どうかしました?」
宏助が明の顔を凝視する。何か恥ずかしい・・・。
「あの~?」
「・・・・・あ、いや。何でもないです、すみません」
そういって宏助は明から視線をそらす。
しかし、ややあって、
「明さん、今からどこかへ出かけません?」
「・・・・・へ?」
突然謎のことを言い始めた。
「あの、どういうことですか?」
頭に疑問符を浮かべる明だが、
「何があったか知りませんけど。気持ちが暗いときはパーッと騒ぐのが一番ですよ!」
「・・・・・!」
次の瞬間謎が解凍した。
宏助が見てたのは自分の泣いた跡だったのだ。彼ならそれを見つけることが出来る。
「やっぱり明さんも普通にそうやって楽しむべきですよ。位とか、家とか関係なく。
明さんは・・・・・・」
そこで宏助は言いよどむ。どうしたのだろうと思うが、宏助の顔は見る見る内に赤く染まっていって、
「明さんは・・・普通にしてればただの綺麗な女性なんですから!
もっと普通にしてていいんです。そっちの方が可愛いです」
「・・・・・・!」
明の顔も同じような状態になった。
「じゃ、じゃあ。先に外に出てます」
そそくさと宏助が明の部屋をあとにする。しかし、明は逃がさない。
「宏助さん!」
「ハイッ!」
ビクッと宏助が止まり、おそるおそる後ろを振りかえる。顔はまだ赤い。
「・・・宏助さんも普通にしていれば格好いいですよ」
「・・・・・!」
バタン!
大きい音がして宏助がやっと部屋から出て行く。
しかし、その顔が更に赤くなっていたのを、明は見逃さなかった。
「・・・少しお洒落していこうかな・・・・」
前に宏助と洋服店で買った服を身につけ、薄い化粧をして、外に出る。
いつもと少し変わっていたこと
一つ、出かけることを承諾した麗のニヤニヤ度がいつもに増して凄かったこと
二つ、明も宏助も終始顔が赤かったこと
三つ、明と宏助は、終始腕を組んでいたこと
「進展・・・・したかな?」
明はその夜にもう、涙を流すことはなかった。
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