ゲルググSEED DESTINY
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第八十二話 切り拓かれる運命
前書き
少しばかり遅いような気もしますが、新年あけましておめでとうございます!今年も皆さん宜しくお願いいたします!
メサイアからネオ・ジェネシスが発射されたと言う話を聞いてシンはいても立ってもいられずメサイア内で与えられた部屋から飛び出した。そして格納庫へと向かって走っていると途中で思わぬ相手と出会う。
「やあ、シン。目的地は格納庫かい?」
「クラウ!?」
咄嗟にどうするべきか迷うシン。普通に考えれば彼の立場は今のシンの行動を阻害すべき立場だ。倒してでも押し通るべきか、それとも説得すべきか。そう幾ばくか悩んでいるとクラウの方から先に話しかけてきた。
「格納庫の位置はわかってるんだろ?ならそこまで一緒に行こうじゃないか」
シンはクラウの方からそう言ってきたことに対して拍子抜けするが、そのまま先に進んでいくクラウを見て慌てて追いかける。
「さーて、色々と大変な事になってきちゃったね。シン、ミネルバに行く気なら今を逃すともうないだろうけど、どうする?」
「クラウ……アンタはどうする気なんだ……」
質問を質問で返すな、と軽口を叩きながらクラウは格納庫に到着し、そこでシンと話し合う。他の技術者や整備兵はこの格納庫を出払っており、現在この場所に居るのはシンとクラウだけだ。つまり、ここでなら互いに本音を言う事ができる空間でもある。
デスティニーのコックピットへと向かいながら歩いていく二人。シンは周囲に対して警戒を続ける一方、クラウは一切そういったことに頓着せず、歩みを止める事すらしない。
「どうする……ね。どっちの道を選んでも面倒なのに変わりは無いからね。俺は流されるままにいるだろうさ。この世界には神に愛されている愛し子とその他大勢の匹夫に別れている。そして、そんな愛し子は世界を変える力を持っていて、大勢の匹夫はその持つべき力を総てその愛し子に献上していく。そんな中で君は前者で俺は後者なんだよ」
「クラウ!俺が言いたいのはそんな事じゃ……!」
「わかってるさ。でも、結局はそういうことなんだよ。迷っていたり、少しでも行く気があるなら行った方がいい。ここの施設の入り口ぐらいは開いてあげるさ」
そう言ってコックピットの前に立っていたシンをデスティニーのコックピットに押し込んで搭乗させる。元々ここの格納庫には二機のデスティニーとレジェンドといった最新鋭の機体を収容する為の格納庫だ。今現在ここにはデスティニー一機しかなく、クラウの搭乗機であるリゲルグは別の格納庫にある。故に、共に行く事はできない。
「お前が守りたいものを選べ。舞台の主役でも世界は全部救えるほど優しくは無いんだから。ステラやミネルバの皆を守りたいって言うなら今ここで行け」
「クラウッ!」
「シン、俺はお前に守られる立場でも背中を預けあう仲でもない。けど、ミネルバの皆は違うだろ?安心しなよ、ステラもそこにいる」
乱暴な手つきでシンの頭にノーマルスーツのヘルメットを被せ、そのまま格納庫の足場を蹴って離れる。シンは咄嗟に手を伸ばしたが、その手が届く事は無く、それはある種の別れと呼べるものだったのかもしれない。
「自分の道を選んだんだ。誇れ、迷ってもいい、時には足を止めたって良い。ただ――――俺のようになるなよ。お前は前に進むんだ」
シンはクラウを呼び止めようと叫ぶが、笑顔を見せながら敬礼して離れていく。その様子を見て、やがてシンは葛藤を見せながらもデスティニーを起動させた。入り口が開き、宇宙の広大な海が目の前に広がっていく。
「――――わかったよクラウ、ありがとう……シン・アスカ、デスティニー――――出ます!!」
前に進めという何気ないその一言。別れの言葉にしては少ない。何時だってクラウはそんな奴だったとシンは思い返す。だが、そんな一言でも十分に伝えたい言葉は伝わった。シンは真っ直ぐ前を向く。デスティニーは今、パイロットであるシンの運命を切り拓くためにその翼を広げて出撃した。
「………行ったな」
「クラウ・ハーケン技術主任殿。両手を挙げ、ゆっくりとこちらに向いてください」
格納庫に現れたザフト兵。中央にいる責任者らしき人物を除いて全員が銃を持っており、その銃口はクラウへと向けられている。
「流石、仕事が早いね。それともこうなる事を誰かに聞いていた?例えば、デュランダル議長とか」
「察しがいいな。その通りだよ――――デュランダル議長がお呼びだ。貴様にはそちらまで連行させてもらう……シン・アスカを逃がした罪は重いぞ」
やれやれと苦笑しながら彼は抵抗する事も無く大人しく連行されていくのだった。
◇
「何だと!?メサイアから砲撃が発射されたというのか!」
「ハッ!その砲撃はジェネシスを小型化したものとのことです。その為、威力に関しては低下しているようですが……同時に、インターバルも短くなっていると推測されていまして――――」
ジュール隊は今だ合流できていない状況でほぼ最悪の形で戦端が開かれた事を聞き、イザークは怒りを見せる。ディアッカも難しい顔をしており、彼等にとっても想定を大きく上回っている状況であるということは言うまでもないだろう。
「……MSドックへと向かうぞ、ディアッカ!貴様の機体と俺の機体なら長距離用のプロペラトタンクを後付できたはずだ」
「おい、イザーク。まさか……」
まさかと思いながらディアッカは頬を引きつり自身が思い浮かんだ予想が外れてくれる事を――――可能性は全くと言っていいほど無いであろうが――――願う。
「俺達だけでも現地へ先行する。武装を可能な限り取り付けておけ。先に行く以上、向こうで補給を受けるのも難しいからな」
「マジかよ――――」
単独での長距離移動からの戦闘――――長時間の高速移動と閉鎖空間でのストレスが大きいこれはパイロットという立場である意味最も避けたいものの一つだろう。それをイザークは行うという。だが、最善を尽くすというのであれば確かにその選択は間違ってはいない。
「ハァ、わかったよ……で、武装はどうするんだ?可能な限りって言っても持っていけるもんには限度があるだろ。あの機体が持てる武器は色々とあるし、どれを優先したら良いんだ?」
「その位自分で考えろ、と言いたい所だが遠距離用の狙撃系統を中心に持っていけ。おそらく向こうは乱戦状態になっているはずだ。そんな中に横から介入するならば直接叩くよりも長距離からの援護射撃の方が有効的なはずだ」
元々本来のケンプファーであればその機動力を活かして強襲を仕掛けるべきなのだろうが、クラウは実弾に強いPS装甲を持つ機体に対する対策の為にケンプファーの武装の汎用性を高めていた。そういった経緯もあってか、元々装備していた多数の銃火器に併せて別のビーム兵器も含めた射撃武装を取り付ける事が可能としていた。そして、結果的に性能が予定していたものよりも大幅に上回る事となったのだ。しかし、一方で皮肉な事だがイザークがこの機体を選ばなかった理由はこれが原因とも言えた。
多くの射撃武装を取り付ける事が出来るケンプファーは図らずも射撃武装メインの機体となってしまったのだ。無論、その数多くの射撃武装を取り外す事で強襲用の機体として本来の性能を発揮させる事も出来るが、それならばわざわざケンプファーを選ばずとも他の機体で代用が利いてしまう上にそちらの方が性能が高いものも多い為、射撃機体としてデータ上では記録されていたのだ。ちなみにクラウはケンプファーを建造した後は関わっていないので、その事を知らないのだがそれは余談といえる。
「急いで取り付けさせろ。俺の機体の方にはENパックのマガジンを用意しておけ」
「ジュール隊長。他にも武装を用意したほうがよろしいのでは?リゲルグなら他にも武装を持たせる事は可能ですし……」
ジュール隊の一人はイザークが弾薬だけで銃を手に持つものと予備の二つしか持っていく気がなく、他の武装を持っていかないことに対して意見する。しかし、イザークはにべも無くそれをいらないと否定した。
「他の武装も持っていけだと?そんなものはいらん、一々向こう側で武器を取り替える気は無い。必要となったら向こうで勝手に拾うぐらいの事はする」
イザークやディアッカ以外のジュール隊の面々も付いていくと申し出た者等がいたが、イザークはジュール隊での指揮系統の混乱を避ける為に長距離からの狙撃での誤射の危険性を解決する為の観測手とイザークのように強襲するのに共に行動できるであろうシホを含めた実力を伴っている者数名のみ同行を許可した。焦りを募らせていく中、彼等は出撃の準備を整えていく。
◇
オレンジカラーのデスティニーは次々と移動を繰り返してアークエンジェルの攻撃を防ぎ、逆に反撃を加えていく。ハイネの猛攻に耐え忍ぶようにアークエンジェルはミサイルや主砲を放つがデスティニーにはかすりもしない。
「その程度か!前大戦の英雄って言った所で戦艦じゃあMSに対抗できないってことだな!」
『ならばMSの相手はMSが行って見せよう!』
そう言ってハイネのデスティニーに割り込んできたのは同じように専用カラーを施された砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドだ。ビームランチャーとシールドランチャー、ミサイルを放つことでデスティニーの気を引きつけて介入する。
「専用カラー?隊長機ってわけか!」
『砂漠の虎って言えばわかるかね?』
「ヒュ~、アンタがあのクライン派の……いいぜ、だったら俺がここで落としてやろうじゃねえか!」
そう言って肩のフラッシュエッジ2ビームブーメランを抜いてサーベル代わりに展開する。それを見たバルトフェルドはシールドランチャーで狙いを相手の手元に定め、ビームを放つ。しかし、ハイネは手首のワイヤーアンカーを岩に向けて射出し回避した。
『操作は上手いが――――そこだ!』
バルトフェルドはワイヤーによって動く不規則な操作に対応してビームサーベルで切りかかる。ハイネもデスティニーのフラッシュエッジ2で迎撃しようとする。
『やらせん!』
ビームブーメランの威力は非常に高く、例えビームシールドであったとしても突破されるほどだ。それを前に流石にバルトフェルドもリゼルのシールドで受け止めようなどという無謀な真似をすることなく、距離を取って回避した。
「逃がすか!」
サーベルとして振り下ろしたフラッシュエッジ2をリゼルは躱したが、デスティニーは振り上げると同時に本来の用途であるブーメランとして投げ飛ばす。
『何て性能だ!?勢いも桁違いだぞ!』
ブーメランの実体部分をビームサーベルで防ごうとしたが、勢いが強くリゼルはビームブーメランを弾けることなく逆にそのまま腕ごと切り裂かれた。とはいえ、バルトフェルドもただでは転ばないとそのまま一気に突撃してもう一方のシールドを持っている左手側の腕からビームサーベルを抜いて叩ききろうとする。
「ハッ、軽いぜ!全く重さが足りてねえ!!」
だが、リゼルの振り下ろしたビームサーベルの攻撃は全く通じない。左手に取り付けられたアンチビームシールドによって容易く防がれてしまった。そのままデスティニーは右手を突き出しパルマフィオキーナでリゼルを仕留めようとする。
「そら、こいつで終わりだ!」
『いいや、まだだ!』
バルトフェルドはシールドを正面に構えてデスティニーの掌がそれを捉えると同時にシールドをパージしたのだ。パルマフィオキーナの攻撃を何とかシールド一つを犠牲にする事で避けたがそれでも損傷は大きい。零距離用のビームとはいえその兵器の本来の姿はビーム砲であり戦艦すらも一撃で破壊できる武器だ。シールドが破壊され、そのまま左腕の関節も破損する。
「さあ、その両腕でどう戦う気だ!」
ハイネの言ったように既にリゼルは満身創痍と言える。右腕は完全に破壊され、左腕は関節部も殆どが破壊されている。それでもバルトフェルドは諦めてはいないが今の左腕の関節の状態ではビームランチャーを一発放てれば良い方だろう。
『……アークエンジェルを落とさせるわけにはいかない!年長者の俺が頼りなくて悪いが後は任せるぞ、キラ君、ラミアス艦長!!』
故に、バルトフェルドは自分の命を賭けてでもアークエンジェルへと向かわせないようにする選択を選んだ。リゼルを可変させMA形態に移行する事でビームランチャーを使いながら突撃する。腕を介しないMAの状態であればまだビームランチャーによる攻撃は可能だ。
「突撃だと、正気か!?」
『あれを止める為だ、俺一人ぐらいの命で――――道が拓けるというのなら惜しくは無い!!』
「冗談じゃねえ、テメエのそれは自分勝手なだけの自己満足だろッ!」
MA形態での突撃。PS装甲系列であるデスティニーの装甲には通用しない。オレンジカラーが施されている事からもわかる事ではあるが、本機のハイネ・ヴェステンフルスが乗っているデスティニーの装甲は防御性能がシン・アスカの乗るものより高く設定されている。更には電力の配分を計算する事で個人ごとにおける被弾率を計算し、最小限にダメージを抑えるような構造となっているだ。つまり、何が言いたいかと言うと――――
「ただの突撃で、倒せると思ってんじゃねえぞ!」
突撃されてもデスティニーにとっては痛手にならない。ビームランチャーがデスティニーの回避ルートを塞ぎ、リゼルの突撃を可能とさせたが、それはハイネにとっては寧ろ好都合である。危険な威力を持っているビームにだけ警戒すればいい。しかし、それはバルトフェルドの賭けがある意味で成功したということを意味した。
MA形態となったリゼルの先端部がデスティニーに衝突する。だが、それはデスティニーにとって大したダメージにならない。それどころかソリドゥス・フルゴールのビームシールドが攻撃武装として展開される事で装甲の薄いリゼルの先端部が拉げ、あらゆる部分が悲鳴のようなアラートを鳴らしコックピット内部でも機器の一部が爆発する。
『まだまだァッ――――!!』
既にリゼルのビームランチャーも銃身が焼け爛れ、機体の一部のスラスターなどは使い物にならない。機能が生きているのはほんの僅かだろう。だが、バルトフェルトにとってはそれで十分だった。
「なッ、まさか!?」
これほどまでの損傷を負っても下がろうとしないリゼルを前にハイネはバルトフェルドが何をしようとしているのかをようやく察する。
『すまんな、悪いが俺はここでリタイアのようだ……』
コックピット内の爆発で体中に傷を負い、腹の辺りから血を流しつつも、無事な義手の左腕を動かして一つのパネルを取り出し数字を打ち込む。その間にデスティニーは下がろうとしたが、拉げてまで突撃したリゼルは食い込んだかのようにデスティニーにピタリと取り付いていた。
『アイシャ……僕も君のところに……』
実行ボタンが押され、リゼルが爆発を巻き起こした。
後書き
新年早々クラウは連行されてしまいました(笑)
アナウンサー「容疑者は黙秘権を行使しており――――」
クラウ「いや、話すよ!?ていうか話させて!お願いだから出番頂戴!!」
多分プラントのお茶の間のテレビにはこんな感じで流れているに違いない。
NGシーン
ハイネ「ははは、見たか?デスティニーが量産の暁には敵なんてあっと言う間に叩いて見せるぜ!」
バルトフェルド「やだやだ、見てらんないじゃないの。キラ君、しっかり面倒見てちょうだいよ。悲しいけどこれ戦争なのよね」
普通にどっちにも似合わないから没にしました(笑)
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