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LONG ROAD

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第二章


第二章

「全然。だって」
「だってなんだ」
「事故って聞いて本当に心配だったから」
「それでなんだ」
「ええ、それでよ」
 その通りだと答える彼女だった。
「それでほっとしたから」
「それでいいんだ」
「ええ、それでよかったわ」
 本当にそれでだと言ってくれた。
「むしろね」
「むしろ?」
「ほら、去年のこと」
 ここで彼女が話すことは。
「覚えてるわよね」
「親父さんだね」
「そうよ、お父さん」
 高校二年が終わった春休みだった。
 僕達は二人で彼女の家に行きだ。親父さんと話をした。
「結婚したいの」
 まずは彼女が言った。
「この人と」
 そしてだ。僕も言った。
「お嬢さんを僕に下さい」
 こう言った途端だった。親父さんは。
 いきなり殴りかかってきた。僕の右頬にその左拳が炸裂した。
「あの時痛かったわよね」
「凄くね」
 そのまま苦笑いで答える僕だった。
「もう。吹き飛んだし」
「あの時部屋の壁まで吹き飛んだけれど」
「親父さんってあれだったっけ」
「そう。暴走族のヘッドで」
 それで喧嘩慣れしていたのだ。勿論その拳の一撃も尋常じゃなかった。後で聞いた話だと暴走族のヘッドの時代はメガトンパンチの何とかと呼ばれていたそうだ。
「それでね」
「道理で凄い一撃だった筈だよ」
「これ言ってなかったわよね」
「初耳だよ」
 僕は苦笑いで答えた。
「今聞いたよ」
「御免なさい。とにかくね」
「それであのパンチだったんだね」
「ええ」
 その通りだというのだった。
「そうなの。けれどそれでもだったわね」
「だってさ。あそこまでいったらね」
「逃げる訳にはっていうの?」
「そういうこと。それに決めてたんだ」
「決めたって何をなの?」
「好きな人ができたらさ」
 苦笑いが普通の温かい笑顔になっているのが自分でもわかった。そうしてそのうえでだ。彼女に対して話しているのだった。
「もう何があってもね」
「何があっても?」
「最後の最後まで貫こうって思ってたんだ」
「それでなの」
「そうなんだ、それでだったんだ」
「それで殴られてもだったの」
「うん、そうだったんだ」
 こう彼女に話した。
「だってそれ位じゃないとね」
「ええ」
「君を幸せにできないじゃない」
 彼女の顔を見て。そうして告げた言葉だ。
 
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