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錆びた蒼い機械甲冑

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Ⅷ:退治する“大樹”と『暴帝』

 
前書き
今回は、騎士視点になります。

(また、騎士の名前も本格的に分かります) 

 
 これと行った当てもなくさまよいあるく騎士は、とにかく何でもいいから人工的な建造物を見つけようと、物の形しか分からなくなっているレーダーを、それでも無いよりはましだと作動させてあたりを見渡す。……レーダー越しであれば後ろも見えているので、見渡す必要などないのだが。


 すると、レーダーが何かの動きを探知し、次いでその何かが此方に武器を持ち、向かってきている事が分かる。


(マタ人間カ? ダガ人間ニシテハ……少々機械的ダナ)


 騎士は“プラエトリアニ”を構えると、茂みからその何かが飛び出して来た。それは、シミターを持った数人の盗賊の様な恰好をした者たちだった。しかし騎士はその人間達が、何処かおかしい事に気付く。


(本当ニ人間カ? 敵意ト思ワシキモノハ雑……動キモ少々変ダ……)


 その奇妙な人間達は、騎士を何やら罵倒した後、徐に剣を構えて此方を見据えた。途端剣が光り出し、此方に向かって突っ込んでくる。他の盗賊達は、同じく突っ込む者もいれば静観している者もいて、どうやら連携を取ろうとしているようだ。

 しかし、それが通じるのは“このゲームに本当に参加している者”のみ。

 騎士は跳びあがって最初に突っ込んできた盗賊を足蹴にすると、周りに向けて投げナイフを投擲し、着地の瞬間に足もとに居た盗賊を、ブースターを利用したクレータを残すかの如き威力で踏み付ける。


「ぐああっ!!」


 断末魔の悲鳴と共に一瞬止まった盗賊は、ポリゴン片となって四散した。ナイフに塗った毒の所為で動きを鈍らされている他の盗賊達を見渡して、騎士はある一つの確信を得る。


(コイツ等ハ、今マデアッタ人間トハ違ウ……彼等ノ様ナ意識ガ無イウエ……何ヨリ身体カラ放ッテイル波長ガ違ウ)


 騎士のレーダー越しに人間を見た場合、今までの者達はポリゴンの体から人間の波長を放っているというおかしな調子で見えていたが、今戦っている盗賊達は見た目と波長共にポリゴンであり、彼等が現実には存在しないと教えている。


(ナラバ……加減無シダ)


 そんな騎士の思考など知らず、盗賊達は連携を取りながら迫ってくる。しかし、撹乱の動きから騎士へと踏み込もうとしたその瞬間――――爆速で近づいた騎士が、何時の間にか右手に持っていた“カッシウス”の一撃で一人屠られ、次いで近い位置の盗賊を“プラエトリアニ”の盾打撃で吹っ飛ばし、その直線状の位置に居たもう一人に当てた。

 間髪いれずに背後から迫ってきた盗賊をソバットで蹴っ飛ばすと、ブースター無しの筋力のみで跳び、追いつくと同時に“プラエトリアニ”で斬り裂く。


 一気に三人も葬られた盗賊達はなおも騎士へと向かってくるが、騎士は興味を無くしたかのように武器を消し、まず左右に居た二人の頭をぶつけて両拳で打っ飛ばす。更に残り二人の盗賊には、構えを瞬時に変えてからブースター軌道での体当たりを喰らわせた。それでも四散しなかった者が一人残るが、騎士は軽い動作でナイフを投げ、空中で盗賊をポリゴン片へと変えた。


(終ワッタカ)


 戦闘後の余韻に一瞬も浸らず、騎士は歩いて行く。右も左も分からない大森林の中を。













「ム……」


 一晩中歩き続けた結果、騎士は建造物と思わしき建物を発見した。


 しかし、外観は蔦やら木の根やらが覆い苔むしている為、とても人が使っているようには見えない。だが、何か使えるモノがあるかもしれないと騎士は扉を開けて中に踏みいる。


(駄目元デモ、探してミント分カランカラナ)


 中は思っていた通り鬱蒼としており、化け物の鳴き声も聞こえる。先程自分で思った駄目元が本当に駄目元になりそうだとため息をつき、いきなり向かってきた口の付いた花を両手で掴んで真っ二つに裂くと、そのまま歩き始めた。


 三階、十回、十六階と苦もなく進んでいき、遂に騎士は大きな扉の前にたどりついた……ついてしまった。

 普通に行き止まりだったなら騎士も引き返しただろうが、如何せん目の前にあるのは扉。しかもかなり重々しく、中に何かがあるのは明白と言える。機械騎士である彼だが、実際は『生体機械』である為、人間の様な好奇心も持ち合わせているのだ。


(……マァ、入ッテ何モ無ケレバ出レバ良イ……ソレダケノ事ダ)


 結局好奇心に負け、扉に手を掛けて押しあける。そして中に入って律儀に扉を閉めた後部屋の中を見渡すが、そこはジャングルの奥地とも言うべき内装になっており、とてもじゃないが宝や役立つ物があるようには見えない。


(ハズレカ……流石ニ落チ込ムナァ…)


 入る時とはまた別の意味でため息を吐き、扉を開けよとした騎士だったが――――幾ら踏ん張っても扉があかない。ならばと破壊を試みた、その瞬間――――


「ギシェアアァァ!!」


 奇怪な咆哮と共に触手の様な物が、彼の背に叩きつけられようとする……が、奇声など上げてしまえばバレるのは当然であり、余裕でかわされた。



(……チ……アッタノハ宝デハ無ク化ケ物ノ親玉ダッタカ)


振り向いた騎士の眼に入ったのは、全長数十メートルはあろうかという大樹の形をした化け物であった。洞の部分に顔があるが、その風貌はよくある木のお化けでは無く人に近いモノで、不気味なことこの上ない。


「ギュアアァァアア……」


 その木の化け物が身震いをする……すると、紫色の煙幕が大量にまかれたのだ。煙自体はすぐ消えたが、騎士がふとある事の気付く。


(……何ダ? 微妙ニ倦怠感ガ……)


 実は、先程大樹が巻いた煙幕は“毒煙”であり、本来ならばバッドステータスとして徐々にHPバーが減って行く“毒”状態となるモノなのだが、幸いと言うべきか騎士には倦怠感を味合わせるにとどまったようだ。


 大樹は次いで触手を次々と伸ばし、鞭のように撓らせてあたりを叩くが、ソレは騎士に全て回避され、何時の間にか接近されてお返しの斬撃を幾度も喰らう。

 以降それがずっと続く。時に毒煙幕を吐くものの、騎士はゲームに参加してはいない……異世界からの来訪者“異邦人”なので、バッドステータスどころか体力を削る事すら儘ならない。


「ギィ……ジュガアアァァアアア!!」


 苛立ったように声を上げ、攻撃の速度、破壊力ともにました攻撃を仕掛けるも、尽くかわされ斬撃と打撃を叩き込まれる。


(クダラン……コレナラアノ牛ノ方ガマダ“マシ”ダナ……)


 止めに『機能』を作動させた“カッシウス”の斬撃で大樹を真っ二つにし、二つに割られた大樹はこれまでの化け物よろしく、四散して消え去った。


(肩慣ラシニハナッタガ……)



 やはり時間の無駄だったと後悔し、剣を地面に刺して手を柄に置き、再三吐いてきた溜息をもう一度はく。

 少し休憩したらこの建造物を抜けようと、そのまま少し力を抜いた矢先――――扉の向こうから、微かに人の声がした。それも一人二人では無く大勢のもので、鬨にも似たような響きを持っていた。

 その声が聞こえた直後に扉が重たい音を立てて開かれる。


「は?」
「あれ?」
「なに?」
「あ、ありゃ? 何で?」


 彼等は入ってくると同時に素っ頓狂な声を上げ、立ち止まっているようだ。こんな大自然に自分の様な者がいるなら、それも無理からぬことだと彼は思い、別に危害さえ加えなければ大丈夫だろうと、そしてこんな所に何をしに来たのだろうと考えていた。


(宝探シノ類ニシテハ随分ト大袈裟ダガ)


 静観を決め込んでいや彼は、次に発せられた言葉で僅かに顔を上げる。


「……とにかく油断はするな、何時襲ってきてもいい様に構えておくんだ」
(何故俺ガ、オ前ラヲ襲ワネバナラン……?)


 特に理由もないし、そもそも依頼でも無いのに殺しをする理由は無い。それに、目の前の者達はかなりの武勇を持っているとは言い難い者ばかりで、一番マシな人物は黒いコートを着た線の細い少年ぐらいだろう、と彼は見たてで思う。

 こんな者達を相手にする気はないと殺気により威圧するが、彼らもまた武器を構える手に力を込めたり、少し視線を外すことで耐えている。
 そのにらみ合いによる硬直状態が……ついに破られる。


「うわああっ!!」
「バッ…待て!」


 機械騎士の右手に居たシミター使いが、此処まででよく見てきた光をシミターに纏い突っ込んでくる。
 余りにも単調なそれを難なく避けて突かによる一撃を見舞い、騎士は正面の者達を見やった。


(サテ……此方ニハ殺ス理由ガ無イ……適当ニアシラッテゴ退場願ウカ)


 如何出るかまずは様子を見ようと、彼等動きを見、会話を聞く。どうやら自分は噂になっているらしく、蒼錆色の機械騎士という名前が上がった途端に皆一様に驚愕の顔をする。随分目立ち過ぎたと後悔しながら、騎士はまず最初に向かってきた者達に蹴りを浴びせて距離を取り――――


「オオオオオオォォォォォォォオオオオオ!!!!」



 咆哮を発した。














アレからもう数十分は経っただろうか。


 一進一退とは言い難い、ほぼ一方的な攻防は、人をかえながら続いている。黒コートの男は確かに強かったが、騎士と比べると力の差があり、余りいい展開にはなっていない。

 だが、彼等は諦める事無く機械騎士へと突貫しては、軽く避けられて吹き飛ばされる。騎士は、どうやったらこの状況を変えられるだろうかと、取り出したクリスタルを砕いたり、カウンターに徹しながら考える。しかし如何策を弄そうとも、如何恐怖を与えようとも彼等は引こうとしない。
 いっそ、一人二人斬り捨ててやれば……浮かんだその考えを即座に否定し、再び構えなおす。

 
 すると、彼等は何か大声を上げた。次いで他の者達が扉から脱出していくの目に入り、騎士は怪訝に思う。何故今になって、撤退などするのだろうか。


 そんな考えを余所に、一人の人物が前へと進みでる。それは、この集団の中で抜きんでている実力を持った、あの黒コートの男だった。


「皆! あの機械甲冑は俺が引きつける! その間に後ろの扉から脱出しろ!」
「何っ!? キリト君!?」
「幾らお前でも無茶だキリト!」
「ソレに忘れたのかおどれは!? おどれはもう十数回もメカ鎧にあしらわれとるんやで!?」
「キリト君!私も―――」


 後ろから数人が声を掛けているのを見る辺り、どうやら意見を無視して無理やり殿をかって出た様だ。
 尤も、そんな事をせずとも騎士にはもう……否、最初から手を出す気など無いのだが、そんな事は彼等が知る由もない。


「うおおおぉぉぉ!!」
(ショウガナイ……後ガ去ルマデ、付キ合ッテヤルカ)


 また同じことの繰り返しになるだろうと、やってきた攻撃を弾き、次いで拳を打ち込む。しかしそれは、身体を捻る事によってかわされ、黒コートの彼はそのまま距離を取る。
 今までとは明らかに違う動きに若干驚く騎士だったが、すぐに行動を再開し、目の前の男の攻撃を防ぎ、回避する。


「ふぅー……はあぁ!!」


 彼の斬撃の後に来る拳は掌で受け流し、反撃は必要最小限にとどめる。ずっと続けていた戦闘方法を、彼は逆に利用して自分の足止めを行っているのだ。


(ナルホド……コノ戦イノ中デ、俺ノ行動パターンヤ傾向ヲ分析シテイタカ)


 カウンター以外を行っていない事に気付くのが少々遅過ぎな気もしたが、それでも簡単ながら対策を練ってそれを実行する力は流石と言えた。


(ダガ、コレハ如何ダ?)


 騎士は今まで行っていなかった本人では無く武器への攻撃を行い、黒コートの持っていた片手直剣を弾き飛ばす。
 そして、そちらに目が言った隙に拳を叩き込んで彼を転がし、脱出中の面々に目をやる。


(マダ時間ガ掛カリソウダガ――――)
「やああぁぁっ!!」


 その外した視線を隙と見たのか、一人の女剣士が細い剣を光らせ突っ込んでくる。その技の間合いはもうとっくに分かっていたので、少しだけ下がって拳を握りしめる。


「ぬああっ!!」


 容赦のない一撃……といっては幾分語弊があるその一撃を打ち込もうとした矢先、横から無理やり大斧を持った男が割り込んできた。


 機械騎士は若干ながら、当たりかけてその攻撃に驚いていた。そして彼等は何やら作戦会議の様な物を始める。如何やら、自分に一発当てるつもりらしい。


(フ……面白イ、ヤッテ見セロ)


 その事に何故か笑みが浮かんだ機械騎士は、彼等の話し合いが終わるまで退却する者たちを見やりながら待つ。


 そして“プラエトリアニ”を握り直すと同時―――――黒の剣士が突っ込んできた。

(コノ『カリギュラ』ニ……当テテ見セロ!)

 
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