ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第32話 もっとエグイ?塩爆弾の恐怖!?
---- SIDE アズロック ----
一晩明けて早朝から王宮へ行く事となった。対応は早い方が良いと、判断したからだ。公爵もこの意見には賛成の様で、共に馬車で王宮へ向かう。
「アズロック。今王宮は何処から予算を削るかで、殺気立っている。今日も朝からその会議が開かれる予定なのは話したな?」
「はい」
「ドリュアス家の領地の事とは言え、今回の件にアズロックは無関係だ。領主として会議に出なければならないが、本来なら会議室の飾りと言って良いだろう」
私は公爵の弁に頷き、その続きを言う。
「分かっています。しかし、今回はそうならない」
「その通りだ。そこで昨晩の話につながる。昨晩伝えた注意事項は、しっかり頭に入っているか?」
公爵の言葉に、私は再び頷いた。
「うむ。それならば問題無い。落ち着いて行けば大丈夫だ」
恐らく公爵は、私が緊張しているのを感じ取ったのだろう。その事実に、自分がまだまだであると実感させられる。しかしそれも仕方が無いだろう。今回対峙する相手には、陛下さえも含まれるのだから……。
そんな事を考えていると、馬車が王宮に到着した。公爵と共に馬車を降りると、衛兵が驚いた様な表情を見せた。
「ヴァリエール公爵。……それに ッ!! ドリュアス侯爵!?」
驚くのも仕方が無いだろう。ドリュアス領に召喚の使者が出立したのが、昨日の昼前で騎獣はグリフォンと聞いている。使者がどんなに急いでも、明るい内に到着出来ない。夜目の利かない騎獣で夜間飛行は危険なので、使者はまだドリュアス領に到着していない事になる。それを無視したとしても、私の到着は今日の夕刻以降となる筈だからだ。
驚く衛兵を横目に、公爵と共に王宮内に入る。
「アズロック。会議前に、国王に昨晩の事を話しておく。アズロックも国王に挨拶だけして、会議室で待っていてくれ」
公爵と共に国王の執務室に行き、簡単に挨拶をすませ会議が行われる部屋へ向かう。国王も含め、私の姿を確認した者は皆驚きの表情を見せていた。しかし例外は居るものだ。リッシュモン派の一部の者達は、私の姿を確認するとニヤニヤと笑って見せたのだ。
(イケニエの到着を喜んでると言う事か。だが、イケニエはどちらかな)
私は心の中で気合を入れ直すと、会議室に入り自分の席で会議の開始を待った。会議室に人が集まり、次々に空席が埋まり最後に公爵と国王が席に着くと、先程まで会議室にあったざわめきが消え失せた。
「これより、フラーケニッセ領・ローゼンハウト領防衛費横領事件対策会議を始める」
国王の宣言に続いて、国王の補佐らしき人物が口を開いた。
「今回の事件は……」
今回の事件の概要を、補佐らしき人物が説明し始めた。神官着を着たその人物は、マザリーニ枢機卿だ。細身ではあるが、なかなか鍛えられていて精悍な印象を受ける。国王の手前あまり表には出ないが、トリステイン王国で事実上の宰相を務めている人物だ。
「……以上です」
枢機卿の説明が終わった。しかし何故この席に、マザリーニ枢機卿が出て来たのだろう? 私は疑問に思ったが、その疑問は会議が進む事で解けた。
「問題は不足分の22万エキューを、如何するかです。国の予算から出すとなると、何処かの予算を削減しなければなりません」
マザリーニ枢機卿の言葉に、会議室内が殺気立つ。
「魔の森の件が解決したので、軍部の予算にかなりの余裕があるでしょう? 軍事費を削減すれば良いのではないですかな?」
「今回の問題は、財務担当の起こした事件だろう。自分達が起こした不始末は、自分達でどうにかするのが筋だろう」
「我々の部署は何時もギリギリです。無い袖は振れません。出せる所が出すのが、当然ではありませんか?」
「軍部も再編成で予算に余裕など無い!! 王家から特別予算を出してもらっているが、それでも足りずに何とかやりくりしているのだ。むしろ追加予算が欲しいくらいだ!!」
既に文官と武官で、対立する公式が出来あがっていた。一度削減された予算は、取り戻すのが非常に困難である為、双方必死になって舌戦を繰り返している。
なるほど。マザリーニ枢機卿が出て来たのは、この為か……。この場で国王の補佐官が、文官である事は武官達は快く思わないだろう。
誰も王家を頼らないのは、王家が既にその余裕が無い事を知っているからだろう。下手に王家に頼る姿勢を見せれば「度々特別予算を出して来た王家に対して不敬だ」と言われ、劣勢に立たされるのは火を見るより明らかだ。
舌戦は激しさを増し会議は白熱しているが、リッシュモンは未だに沈黙を守り続けている。ハッキリ言って不気味だ。
暫くこの状態が続いたが、国王は埒が明かないと判断したのか大きく息を吸い込んだ。
「……静まれ!! 静まれ!!」
国王の大声に、文官も武官も押し黙った。流石国王陛下である。威厳の塊の様な人だ。
「先程から出せぬ出せぬと騒ぐばかりで、建設的な意見が何一つ出ていないではないか!! この場は、その予算をどうするかを話し合う場である。会議の趣旨を理解しているのか!?」
国王陛下のお叱りの言葉に、会議室がシンと静まり返る。その静寂を破ったのは、リッシュモンだった。
「恐れながら陛下」
「高等法院長か? 申してみよ」
国王に発言を許可されたリッシュモンは、嬉々とした表情を一瞬だけ浮かべる。それを咳払いで誤魔化してから喋り始めた。
「何処も予算が無いのは事実でございます。先程も誰かが言っていましたが、無い袖を振れないのは当然です。ここは一時的に、資金を持っている者が立て替えるのが一番と思います」
リッシュモンの言葉に、会議室内がざわついた。
「ドリュアス侯爵は、開拓のための資金を大量に確保していますな? ならばここは、ドリュアス侯爵にお支払いいただくのが一番と思います」
リッシュモンの言葉に、会議室内が静まり返った。ここで反論すれば“反論した者の部署が予算削減される雰囲気”が、既に出来あがっていた。敵ながら流石としか言いようが無い。だがここで私は、大人しくハイと言う訳にはいかないのだ。
「リッシュモン殿。申し訳ないが、私が確保している資金は開拓の為の物だ。残念ながら「はいそうですか」と、出せるものではない。それにその行為は、トリステイン王国が一貴族に借金を押し付けた事になる。対外的に「国の威信を傷つける大問題」になると思うが、その辺りはどうお考えなのかな?」
「押し付ける訳ではありませんよ。あくまで一時的な措置にすぎません。来年以降の予算から、お返しすれば良いではありませんか?」
そう言う事か。誤魔化して払わないか、物納にしてガラクタを押し付ける。これで殆どの資金を、懐に入れる気だな。二つの返済を使い、資金の二重取りを考えてるのか。強欲な奴だ。
今回のリッシュモンの手口を見る限り、今後もイケニエを用意され誤魔化されるのが関の山だ。周りの者達も、リッシュモンの言に反論出来ないだろう。ならば……。
「陛下。よろしいですか?」
「なんだ? ドリュアス侯爵。申してみよ」
ここからが勝負だ。
「不足分は全て当家で負担します」
「なっ!!」「馬鹿な!!」
会議室内が喧騒が広がる。喧騒の中身は、「困惑」の一言に尽きる。
「静まれ!! ……その様子からすると、交換条件があるのだろう?」
「はい。陛下のご推察の通りです」
再び喧騒が巻き起こる。その中には、私への罵声も含まれていた。
「静まれ!! ……ドリュアス侯爵。続きを」
「はい。現状で開拓資金には、目処はついて来ました。しかし、どうしても足りない物があります」
「……なんだ?」
「時間です。免税期間と言う事で、5年間の猶予をいただいております。しかし5年間では、領地の体裁を整える事も出来ないと見ています」
この場合は免税期間を使って、税金を納めながらでも借金を返せる状態まで、領地環境を持っていかなければならないと言う事だ。5年では正直言ってキツイのだ。
「具体的な期間は?」
「最低でも5年加算して、10年間の猶予をいただきたいです。出来れば7年加算していただき、12年ほど見ていただきたいです」
無茶苦茶な要求に聞こえるが、褒美を考える席で実際に免税10年と言う意見は出ていた。決して無茶な要求では無い。
「陛下!! 私は反対です!! 王国内の財政状況を考えれば、それほど長期間の免税は認められません!!」
案の定リッシュモンが、反対意見を述べて来た。しかしその顔には、困惑の表情がありありと浮かんでいる。恐らく反射的に、私の意見を通さない様に反論したのだろう。まあ、ダイヤモンドと盗んだ20万エキューがあるからこそ出来る荒技なので、それも仕方ないだろう。
「リッシュモンの意見も尤もだ。他に何かないのか?」
「資金も辛いですが、一番辛いのは時間です。陛下。どうかご検討をお願いします」
私が頭を下げると、国王が考え込み周りからざわめきが起こる。暫く考え込んだ国王が、意を決した様に口を開いた。
「そう言えばドリュアス侯爵は、塩田の設置許可を申請していたな」
「……あっ。はい」
私が返事をすると、場が静まり返った。
「ドリュアス領内で生産した塩は、国内外問わず自由に取引する事を許そう」
「そっ……そんな」
現在のハルケギニアの技術では、大規模な塩田を作っても生産量に限界がある。かなりの資金源にはなるが、22万エキューとでは釣り合わない。それが、この場に居る貴族の共通認識だ。更に言えば、王家が独占していた塩取引の場にドリュアス家が割り込むと言う事になる。それは今後塩取引に関して、ドリュアス家が責任の一端を持つと言う事になるのだ。
「もちろん免税期間も見直す。だが、3年の上乗せが限界だ。どう思うリッシュモン」
「は はい。よろしいと思います」
リッシュモンが了承した事により、反対者がいなくなり今回の会議は終了となった。
---- SIDE アズロック END ----
---- SIDE リッシュモン ----
ニヤニヤと歪む顔を、必死に抑えて自分の執務室に戻って来た。ここまで抑えて来た感情が、抑えられなくなる。
「くっくくくくっ!! ははっははははははは!! 資金より時間を取った様だが、完全に裏目に出たな!! 馬鹿が頭を使おうとするからだ!!」
私の口から意図せず言葉が漏れたが、今回の会議は本当に笑いが止まらない結果になった。ヴァリエール公爵とドリュアス侯爵は、無い頭を絞った様だが“馬鹿な策士策に溺れる”と言う奴だ。
今回の会議では、3年間の免税期間延長を許してしまった。しかしドリュアス侯爵は、それ以上の爆弾を抱える事になったのだ。一部とは言え塩取引の責任を担うと言う事は、塩に関する外交もしなければならないと言う事だ。当然何らかの事情で、塩が高騰すれば責任を取らなければならなくなる。
「ゲルマニアの担当官に裏金を積めば、ドリュアス侯爵のミスで岩塩取引中止を演出できる。その時責任を取り切れますかな?」
思わずもれてしまった言葉に、慌てて周りを確認する。周りには己の部下以外は、誰も居なかった。そしてまた大笑いを始めた。
だめだ。愉快過ぎて抑えきれない。
---- SIDE リッシュモン END ----
---- SIDE アズロック ----
会議終了後、私と公爵は国王から食事に誘われた。国王からの誘いを断る訳には行かないので、当然のごとく了承する。しかし昼食まで時間があったので、王の執務室に集まる事になった。
「ヴァリエール公爵。ドリュアス侯爵。本当にあれで良かったのか?」
ここは、私が返事をする事にした。
「はい。公爵からお聞きになっていると思いますが、ドリュアス家は東方の製塩技術を獲得しました。これにより、これまでにない高効率で大規模な海水塩の製塩が可能です。もうゲルマニアの岩塩に、高い金を払う必要がありません」
「……そうか。しかし、なかなかエグイ手を考えるものだな」
「「エグイのはお互い様です」」
「それもそうだな」
私と公爵の声が完全に重なった事に、国王は苦笑いを浮かべた。私は聞き耳防止出来ているか確認し、もう一度確認の為国王に段取りを話す。
「塩田が完成して軌道に乗っても、暫くは塩の販売は規制し在庫を溜めます。リッシュモン一派は、塩の値段が高騰する様に工作するでしょう。そして折を見て、私はゲルマニアに使者として出向きます。間違いなくリッシュモンは、そこで裏金を積み岩塩の取引を止めるでしょう。そこで在庫の塩を、一気に市場に流します。成功すれば、塩の値段をある程度下げた上に、シェアは岩塩から海水塩に取って代わる事になるでしょう」
「エグイな」
「ああ。エグイ」
侯爵も陛下も、あまりエグイエグイ言わないで欲しいものだ。ギルバートは4アルパン程度の塩田を考えている様だが、今回の作戦を上手く行かせるためには、20アルパンほどの塩田を設置する予定だ。計算上はこの塩田だけで、塩を輸入しなくとも自給自足できる。その気になれば、トリステイン王国は塩の輸出国になれるだろう。ギルバートがこの話を聞けば「オーバーワークです」と言って、泣くかもしれないが。
「塩の件もそうだが、手形の件も考えるとドリュアス侯爵は、敵には容赦しない性格だな」
あれ? 陛下。何故そのような評価が?
「ドリュアス家の人間は、全員似たような者です」
えっ? 公爵もそう言う評価? 少なくとも私は、ギルバートより腹黒く無いと思うのだが。
「ちょ ちょっと待てください。今回の手法は、敵に合わせて仕方なくとったまでで……」
「はははははっ!! 解っているよ。侯爵の人となりは知っているつもりだ」
「そうだぞ。アズロック。塩の件は殆ど私の案だし、手形の件も案を出したのはアズロックでは無かろう」
「なに……。ドリュアス侯爵には、そのような知恵者が部下に居るのかね。機会があれば、是非紹介してもらいたいな」
国王が笑いながら聞いてきたが、私は笑ってごまかしておいた。塩田設置で負担をかけているのに、これ以上の負担をかける訳には行かないだろう。
帰ったらギルバートとシルフィアに、なんて言い訳しよう。
---- SIDE アズロック END ----
こんにちは。ギルバートです。月も変わって、ようやく父上が帰って来ました。私は我慢出来ずに、早速王都の話を聞きに行きました。
「父上。借金の件は如何なりましたか?」
「早速だな。だが、同じ話を何度もするのは面倒だ。全員を執務室に集めてくれ」
「はい」
私は元気良く返事をすると、早速家族全員に集合をかけました。
一番最初に執務室に来たのは私でした。遅れて母上、アナスタシア、ディーネの順に、執務室に来ました。父上が一番最後です。
「待たせたな。今回の収穫について今から話す」
父上が口にした話は、概ね上手く行った事を示していました。公爵から引き出した資金80万エキュー利子年3分。大公から引き出した資金60万エキュー利子年5分。免税期間の3年延長に加え塩の取引権取得。聞く限り大成功の内容です。手形の件の様に、まだ結果が出てない物もありますが、ディーネとアナスタシアは凄く喜んでいました。しかし、私と母上は素直に喜べませんでした。
「アズロック。塩の取引権の取得についてだけど……」
母上が思わずと言った感じで、父上の声をかけました。
「解っている。取引権を取得したと言う事は、塩の取引に責任を持たなければならないと言う事だ」
「父上。それは……」
場の深刻な雰囲気を察したのか、ディーネとアナスタシアが黙りました。
「対策はちゃんとある」
父上がそう言いながら、何故か私を見ました。何か……物凄く嫌な予感が……。
「ギルバート。出発前に、塩田の話を覚えているか?」
実は出発前に、父上から限界まで塩田を設置したらどうなるか冗談交じりに聞かれました。その時私は、オースヘムに20アルパン超の土地が使えると答えています。しかしその時の話の結論として、王家が黙認できる生産量を逸脱しているとなりました。出発前にした、ただの軽口だったはずなのに……。
「……まさか」
「察した様だな」
「塩田に当てるのは、4アルパンのみで……」
私は認めたく無くて、首を横に動かしていました。完璧にオーバーワーク決定です。と言うか、死にます。過労死です。本気で勘弁してください。
「出発前に言っていた20アルパン全てに、塩田を設置する事を命じる。半年以内にドリュアス家の塩田のみで、トリステイン王国に必要な塩の生産を行うのだ」
私は思わず頭を抱えて固まってしまいました。内心では「あ”-----!!」と、叫び声をあげています。
「……アズロック」
その時、母上の冷たい声が響きました。
「シルフィア」「母上?」「お母様?」「母さま?」
うわぁ……。母上の顔がものすごく怖いです。その怒りは、全て父上に向けられています。
「ギルバートは、私の書類仕事を手伝うはずなのに」
……そう言う事か!! と言うか、私をそっちの人員に数えないでください。私も書類仕事は嫌です。
「ギルバート。何か言った?」
「な なんでもありません!!」
母上の怒気が、いきなりこちらに向きました。私は必死に首を横に振り否定します。
(危なかった。油断していました。表情に出るとは、私もまだまだです)
「まあ、良いわ。それよりもアズロック。この前ギルバートを、書類仕事に回してくれる約束していたはずよね。その事でちょっと、O☆HA☆NA☆SHIしましょうか。……肉体言語で(ボソッ)」
母上。思いっきり聞こえています。肉体言語って何ですか? と言うか、この辺は間違い無く私の影響でしょうね。マギ知識内のオタク用語が、何気に家族内に蔓延しています。
母上は父上を引きずって行きました。父上から私達3人にSOSが発信されましたが、ごめんなさいです。私達も自分の命は惜しいのです。
私達は仲良く、引きずられる父上を見送りました♪
手形の件は、後日マギ商会から報告書を出してくれるらしいです。これでリッシュモンに、止めをさせる程甘くは無いと思いますが、恐怖の塩爆弾もあります。塩爆弾が爆発すれば、リッシュモンを退場に追い込めるでしょう。
まあ、爆発させる為に私がこれから地獄を見る訳ですが。……泣いても良いですか?
後書き
連投その2
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