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夜行列車

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第四章

「何時起きてもいいし何時寝てもいい」
「お金がある限り何処に行ってもいいですね」
「夢の様な生活ですね」
「明日からですね」
「満員電車の中で」
 川田は実に嬉しそうに話す。
「揺られることもなければ」
「それにですね」
「疲れ果てて、今までみたいに」
 まさにこれまでの彼等の様にだ。
「この時間でやれやれといった感じで電車に乗ることも」
「ないですね」
「本当に」
 そうしたことがだ、なるからだというのだ。
 そうした話をしてだ、そしてだった。
 川田はふとここで窓の外を見た、すると今もだった。
 夜の中にあの光達があった、川田はその光達を見ながら桑原に言った。
「この灯りもですね」
「そうですね、二度とですね」
「見ることはないですね」
「これからは」
 このことも話すのだった。
「こんな時間でしか見られないですが」
「それでもですね」
「見られないと思うと」
「どうしてもですね」
「はい、本等に」
 それでだ、こう話してだった。
 川田は桑原にだ、こんなことも言ったのだった。
「そう思うと少し寂しいですね」
「そうですね」
「ええ、何か」
「これで終わりだと思うと」
 どうかとだ、桑原も言うのだった。
「寂しいものがありますね」
「やっと、と思いますが」
 だがそれでもだった、今の彼等は。
「今日で最後だと思うと」
「見納めだと思うと」
 どうしてもだと話してだ、そしてだった。
 川田は窓の外の光達を見てそして言ったのだった。
「綺麗な光ですね」
「そうですね、生活の光が夜の中にあるこの光景は」
「こんな綺麗な光はないですね」
「ええ」
 桑原も川田のその言葉に頷く、そしてだった。
 川田と同じものを見つつだ、こう話した。
「私達の家もそうでしょうね」
「そうですね、他の人達から見れば」
「こうして不思議で綺麗な光がこのままですね」
「照らされますね」
 こう話すのだった、そして。
 二人で車窓の外を見ながら温かい顔でだ、お互いの顔を見て話した。
「お疲れ様でした」
 二人同時の言葉だ、そして。
 こうだ、お互いに話したのだった。
「それで寂しくなりますね」
「そうですね、本当に」
「この夜の電車に乗って灯りが見られなくなることは」
「そのことはですね」
「とても」
 残念だと話すのだった、そして。
 二人で電車を降りて家に帰った、これが二人の定年の日だった。
 それから数年後川田は孫達を連れて家を出た、後ろから女房の陽子が言ってくる。
「いいのね、それで」
「ああ、いいよ」
 それでだとだ、返す彼だった。その左右にはそれぞれ子供が一人ずついる。右手に男の子、左手に女の子だ。女の子はやっと歩ける様になった感じだ。
 その二人の子供達を連れながらだ、陽子の方を振り向いて言ったのだ。 
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