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親子

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第七章

「何でしたら少し時間を作って旅に行かれますか?」
「父っちゃん、母っちゃんとか」
「はい、そうされてはどうでしょうか」
「旅行、そうだね」
 そう言われてだ、慎太郎がまず話に出した場所は。
「じゃあ温泉に行こうかな」
「それがいいかと」
「そうだね、それじゃあね」
 小平も頷いてくれたのを見てそれでだった。
 慎太郎は両親に旅行の話を切り出した、店はその間小平達が預かるということでだ。
 その話を聞いてだ、両親はまず笑顔でこう言った。
「そうか、慎太郎と一緒にか」
「旅行にだね」
「うん、どうかな」
 小平を横に置いてそのうえでだ、慎太郎は両親に話す。
「暫くは小平さん達が店を切り盛りしてくれるっていうしね」
「お任せ下さい」
 小平も好好爺の顔で二人に言う。
「暫くは私達がいますので」
「小平さんがそう言うのならいいわね」
 トメは小平を信頼している、それは慎之介も同じだ。
 それでだ、二人は慎太郎の申し出を快諾してそのうえでだった。
 店を実際に小平達に任せてそのうえで温泉街まで旅行に出た、慎之介は街の宿の部屋に入ってから我が子に笑顔でこう言った。
「いや、列車で行くのも」
「どうだったかな」
「いいものだな」
 こう穏やかな笑顔で言うのだった。
「速くてしかも風景も見られて」
「そうだね、列車の旅もいいものだよ」
「じゃあ今から温泉に行くか」
「そうしようか、じゃあね」
「私も行ってくるからね」
 トメも二人に笑顔で言ってくる。
「それでお風呂から出たらね」
「ああ、三人で晩飯を食ってな」
 慎之介も笑顔で言う。
「それから街の中をゆっくりと回るか」
「そうしましょう」
 トメも夫の言葉に応える、そうしてだった。
 三人で温泉に入りそこの料理を食べ街を巡った。三人で揃いの浴衣を着て下駄を履いて歩き酒を飲む。その中で。
 慎之介は温泉街の酒を飲み肴を口にしつつこう言うのだった。
「いや、こうしてな」
「こうしてって?」
「何時か三人で旅をしたいって思ってはいたんだ」
 目の前の我が子への言葉である。
「親子水いらずでな」
「親子で」
「ああ、しかし時がなかった」
「そうだったのよ、お店が忙しくてね」
 トメも言う、二人はいつも店に立って働いていたのだ、それで忙しかったのだ。
 だが、だ。二人で慎太郎を見てこう言うのだ。
「けれど折角慎太郎が誘ってくれたからな」
「いい機会だったわね」
「小平さんもああ言ってくれたし」
「今こうして旅行が出来るのね」
「僕が言ったからなんだ」
「当たり前だろ、息子のこうした誘いを断る筈があるか」
「折角誘ってくれたのにね」
 両親は慎太郎に温かい笑顔で話す。
「だからな、今こうしてな」
「ここにいるのよ」
「僕が、息子が言ったから」
「そうだ、じゃあ今夜は久しぶりにな」
「親子三人で寝ましょう」
 川の字になってだというのだ、慎太郎は中学に入るまではずっと親子三人でそうして寝ていた。その時の様にだというのだ。 
 そして実際に彼は川の字になって寝た、夜をそうして過ごし昼も一緒だった。そうして温泉街での旅を楽しんで。 
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