気まぐれな吹雪
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第三章 マフィア捕獲大作戦
56、事情はともあれ優しい子
やちるが帰った後、要はずっとリビングで寝転がっていた。
腕を目元に当てて、口が半開きの状態だ。
はぁ、と溜め息をついて腕をずらすと、そこには藍色のナッp……骸がいた。
「よ」
「おや、随分と無気力ですね。何かありましたか?」
「べっつにー」
まあ実際のところやちると言う名の大嫌いな人間が来ていたのだが。
そんなことは別に骸に愚痴るものでもないし、記憶から消せばどうってことない。
「それよりも要、1つ聞いてもいいですか?」
「んー?」
「この様子からして君は独り暮らしのようですが、一週間家を空けることに問題はないですか?」
「べっつに大丈……ん?」
答えようとして言葉につまる。
気に食わない、と言った具合に眉がひそめられている。
要の頭をよぎったのは、他でもない彼女の上司・雲雀恭弥だ。
一週間以上でかける、などと言えば5W1H程の追及を受け、骸の事を話さねばいけなくなるだろう。
そんなことをしてみろ。
ツナ側に自分とフィリミオが同一人物だと教えているようなものだ。
かと言って無言で出掛けようものならば、雲雀に家に乗り込まれるのは必然事項。
鍵をかければ、なんて思うかもしれないが、前に彼は合鍵の存在を明かしていた。
「あ゙ーっ」
結果、頭を抱えて唸り出してしまった。
それを見た骸が溜め息をついたのは言わずもがな。
「誰かに留守番を頼めないのですか?」
「留守番?」
一番初めに出てきたのは、銀。
即却下。
何せ彼には雲雀の侵入を許した前科がある。
次に出てきたのは山本。
こちらも即却下。
山本に教えようものなら自分とフィリミオが同一((以下略
残るは凪か正一か……。
ピンポーン
考え込んでいると、インターホンが鳴った。
しかし頭を抱える要は気づかない。
そんな彼女に代わり、骸が玄関に出た。
「おや?」
「え……? あの……?」
訪問者は、たった今要が考え込む原因となった凪だった。
知らない人物に戸惑う凪だったが、よく考えれば彼女の家に知らない人間がいるのはいつものような気がする。
銀とかコスモとか……。
「要、いますか?」
「ええ。上がりますか?」
骸の問いにコクリと頷く。
そしてリビングに入ると、何やら要が考え込んでいた。
気配を感じたのか、ようやく凪の訪問に気づいた要は、なんとも微妙そうな表情をしていた。
「遊びに来たよ」
凪の手にはいつものようにフルーツバスケットが握られていた。
その中にパイナップルが入っているのはお約束。
「あ……うん。凪、ちょっといいか?」
ちょうど良いと思い、要は凪に先程考えていたことを断られること承知で頼んでみることにした。
「オレさ、明日から一週間出掛けなきゃなんねぇんだ。それで、その間ずっと家を空けることになっちまって、お前に留守を頼めないかなってさ。あ、無理なら構わねぇ!」
「いいよ」
「いいの!? つか即答!?」
「だって要のお願いだもん、断らないよ。でも、どこに行くの?」
「えと、うん。ちょっと海外に」
「風紀委員のお仕事?」
「それは……そ、そうなんだ! 恭ったら人使い荒いよな!」
嘘がバレバレです。
冷や汗かきながら目が泳いでる人の嘘ってバレやすいですよね。
凪の視線が痛いの気づいてますか?
けど深入りしないのが凪の優しさでもある。
が、しかし
「どうして六道さんもいるの?」
「骸の事知ってんの!?」
衝撃の事実である。
凪が骸の事を知っているのは正直言って予想外だった。
「だって、黒曜中の生徒会長だもん。誰でも知ってるよ」
「そう言えばお前ら黒曜中だった……」
要は心に1000ダメージを負った!
そう、骸・犬・千種はもちろん、凪と正一だって黒曜中ですよ。
「で、骸な。こいつも一緒に行くんだ。何でも並中と黒曜中の親交を深めるとかなんとか」
「ええ。そんなとこです」
事情を察してか、骸も話を合わせた。
骸も言ったためか、凪の訝しげな表情が少し和らいだ。
「それじゃ、ちょっと待ってて。荷物とってくる」
半ば飛び出すように要の家を出た凪。
そんな彼女が戻ってきたのは約二時間後の事。
一週間分にしてはやけに大きいスーツケースを二個ほど持っていた。
「お母さんに言ったら、『ちょうどいいから出ていけ』って三下り判突きつけられちゃった」
「あ……はい。すみません」
何故かかなり申し訳ない気持ちになってしまった要であった。
その後、凪の部屋として二階の西側にある和室を提供し、手短に荷物を片付けた。
この日もって、凪は霜月家の一員として居候(?)することになったのは言うまでもない。
†‡†‡†‡†‡†‡
夜中の3時。
草木も眠るこの時間、要と骸は凪を起こさないようにと静かに準備を行っていた。
「骸、大丈夫か?」
「ええ。では、出掛けますか」
「そうだな」
物音を立てないように、静かに玄関を開け、出ていく。
扉が閉まったそこには、もう静寂しか残っていなかった。
そんな彼らを見守る影。
カーテンの隙間から外を見ていた凪は、静かに彼らを見送った。
「行ってらっしゃい、要」
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