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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 湖札とウロボロス、出会いの物語 ①

「久しぶりに日本に帰ってきたな〜。今日までの予定だったから当然だけど。」

一輝が箱庭に旅立つ数時間前、湖札は日本に入国していた。
持ち物はかなり少ない。
手提げのバッグが一つと、肩に野球のバットを入れるような入れ物をかけている。まあ、湖札も一輝のように空間倉庫を持っているので、これで全てというわけではないだろう。
ちなみに、一輝はこの事を知らない。
驚かせるために、湖札自身、いつ帰ってくるのかを秘密にしていたのだ。

「さて、よくよく考えてみたらお兄ちゃんが今どこに住んでるか分からないんだけど・・・それよりも先に神社かな。早くお兄ちゃんに会いたいし、昔みたいに一緒に寝たりしたいけど、まずは、ね。」

湖札は、初日くらいは許してくれるよね、とつぶやきながら足を進める。

もちろん、そこに神社がないことは知っているが、自分が生まれ育った場所なのだ。まず最初に訪れても何もおかしくはない。

なので、湖札はおぼろげな記憶を頼りにその場所へと向かった。



      ====================



「・・・え?」

湖札が神社跡に着いたとき、無意識にそうもらした。
まあ、無理もない。向かった先で、巫女服を着た長い嘴を持つ何かが、人を喰らっていたのだから。

《いけないいけない、まずは冷静に状況を判断して・・・》

が、そんな動揺は一瞬だった。
湖札も生まれてからずっと陰陽師、妖怪に関わっている身だ。
これくらいで取り乱したりはしない。

《まずは、あれの正体を探らないと・・・思い当たる妖怪はいないし、目を使おう》

湖札はそう言って目を瞑り、再び開く。
すると、その目は茶色から翡翠色へと変化する。

その間にも人は食われていくが、カッとなって突っ込んでも無駄なので、その場を動かない。

《情報、巫女服、嘴、食人。食人から邪の存在と推定。巫女服より日本の、女性怪異と推定。》

これが、湖札が陰陽術、言霊の矢とは別に持つギフトだ。
ギフトの由来について、湖札自身が知っていることはない。
だが、それ以外についてはいくつか分かっている。
まず、使うためには自力でいくつかの情報を得なければならない。
だから、こうして視覚から得られる情報を整理しているのだ。

《検索・・・該当妖怪なし。》

検索に失敗するが、湖札は冷静に情報を組み立て直す。

《検索内容の変更。対象、女性怪異。有力候補・・・女神。検索・・・成功。・・・うそ・・・》

湖札は、検索が成功したことに驚いた。
日本で妖怪じゃなかったから女神と入れたが、ほとんど、当たらないだろうくらいのつもりだったのだ。

《・・・成功したからには、そうだって考えるしかないか・・・。検索結果、名称は天逆海に断定。詳細検索、開始。》

このギフトは、まずいくつかの情報から名を得ることができ、その名から、その存在の全てを知ることができる。
検索先は不明だが、得られない情報は、ほぼ皆無だ。

《情報の取得完了・・・よし、まだ全員食べられた訳じゃない。間に合った。》

湖札は鞄を下ろすと、式神統合で弓矢を作り出し、天逆海に向けてはなち、同時にその場を離れる。

「ギャァァァァァァアアア!!!」

その矢は天逆海に当たり、食事を邪魔された天逆海は怒りの咆哮をあげ、湖札のいた場所へと走る。

「式神展開、傷つきし戦士を安らぎの場へ。」

そして、その隙に湖札は倒れている人たちに近づき、式神を展開して怪我人を運び出す。

「これであの人たちは大丈夫・・・後は、天逆海をどうにかするだけ。」
「グウゥ・・・ヒギャアアアァァァァ!!!」

湖札は、怒りのボルテージが上がっていく天逆海を見て、より冷静になっていく。

もちろん、神と戦うことに焦りを感じていないわけではない。だが、

《思いでの詰まったこの場所で暴れるのは・・・許せない。》

という、怒りが上回り、一輝がハクタクと戦ったときのような形で冷静になっているのだ。

そして、湖札は肩にかけていたものを下ろし、そこから一振りの日本刀を取り出し、鞘を腰に吊るすと一気にその刀を抜く。

そして、それを危険と見た天逆海は、大きく息を吸い、口から鬼の形をした霧を次々と吐き出す。

「口から鬼を吐き出し、自らのしもべとする・・・うん、情報通り。」

湖札は情報に誤りがないことを確認しながら、自分に向かってきた鬼を斬り、

「血を吸え、村正!」

そこから流れた血を、手に持つ妖刀に吸わせる。
魂は存在しなかったが、肉体はすべて揃っているようだ。

「これで・・・だいぶ切れ味も増したよね。」

湖札が使うのは、妖刀村正。斬ったものの血を吸い、切れ味を増す刀だ。
鬼の群れを壊滅するまで刻んだ今なら、その切れ味は神をも切る。

「じゃあ・・・一太刀つかまつる!」

そして、湖札は一気に天逆海まで駆け、

「鬼道流剣術、逆駆」

下から一気に切り上げる。
そして、その身へと届くだけの入り口を作れば、後は矢の出番。村正をしまい、距離を取りながら言霊を唱える。

「我は我が敵たるすべてを言霊をもってここに殲滅する。この言霊は尊く、儚きものなり。」

その瞬間に、湖札の手に銀の洋弓が現れる。

「天逆海、あなたは日本神話に伝わる、一柱の女神です。」

湖札は、天逆海に何かされる前に潰すため、一気に言霊を唱える。

「スサノオノミコトが溜まっていた邪気を吐き出した際に、その邪気より生まれた、戦いを愛するのみの存在。天狗やカッパなどの祖先とも言われています。」

そこで一度矢を放ち、天逆海の存在を抉る。

「ギャァァァァァァアアア!!!」

もちろん天逆海も黙ってはいない。
湖札に手を向け、父親、スサノオの力である暴風を振るう。

「その暴風はスサノオの力の現れ。天逆海と言う女神が父の力を多分に受け継ぎ、父親に縛られているという証拠です。そうしてできた力は脆く、薄い!」

が、湖札はそれを穿つ言霊を込め、矢を放ち、風を霧散させる。

この湖札のギフト、『言霊の矢』は、湖札の実力のメインとなるギフトだ。
前に過去編で使った際に説明したように、矢に対象の経歴の言霊を込めることで霊格を穿ち、存在できないまでに殺すというもの。

故に、一輝と戦っても勝てないこの頃の湖札は、だがしかし、一輝には単独での撃破ができず、カグツチの際にやったように三人がかりでようやく倒せる神を、単独で殺すことができる。

「貴女はそのようにして、穢れより生まれた邪なる神。故に、英雄である鋼から生まれながら滅ぼされる蛇の属性も持つ。鋼の力と蛇の力を両立する神。天狗や河童、鬼を支配者に置く邪なる神。それが貴女の本質です!!」

湖札は言霊を最大まで込め、矢を引き、天逆海に向けてはなった。
その矢は天逆海まで一直線に飛び、その霊格を穿った。

「予想以上にしぶといですね・・・まあ、止めを刺せばいいだけのことですが。」

湖札の言うとおり天逆海はまだ生きているが、もう虫の息だ。
湖札は妖刀村正を抜き、天逆海に迫り・・・その瞬間、天逆海の後ろに穴が開き、天逆海を吸い込んだ。

「な・・・って、待ちなさい!」

湖札は一瞬驚いたが、すぐに気を取り直して、その穴に飛び込んだ。
その先に何があるのか、何にも知らずに。 
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