Element Magic Trinity
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紅蓮金色、竜が舞う
前書き
タイトルは、「紅蓮金色、竜が舞う」です。
「オオオオオオオ!!!」
エーテリオンを吸収した魔水晶のカケラを口にしたナツの雄叫びが、塔に響く。
(エーテリオンを・・・喰っただと!?)
驚愕の光景にシモンを抱えるエルザと、ナツに殴り飛ばされたジェラールは目を見開いた。
雄叫びを上げると同時にナツの体から凄まじい魔力が溢れ出す。
「アアアッ!!!!」
叫び、両拳を強く床に叩きつける。
「!」
床は一気に割れていき、そこから膨大な魔力が溢れ始めた。
ナツは右手で魔水晶を掴み、がぶっと喰らい―――――
「ごはァ!!」
突然、エーテリオンを吐き出した。
「何てバカな事を!エーテルナノには炎以外の属性も融合されているんだぞ!」
「がっ、ぐはぁあ!」
ナツが喰えるのは炎。
それ以外は如何なる魔法も喰えず、毒と化してしまう。
(強力な『魔力』を『炎』の代わりに喰えばパワーアップするとでも思ったか!?)
ビクッと震えながら両手で喉を押さえ、苦しそうに時折呻き声を上げる。
(その短絡的な考えが自滅をもたらした)
四つん這い状態で床に倒れるナツ。
「ナツ!」
さらに声を上げるナツにエルザが手を伸ばす。
このままエーテリオンを喰らい続けていれば、ナツまでもがシモンのように―――――。
それは耐えられなかった。だから、必死に手を伸ばす。
「アアアアアア!!!」
しかし、ナツは立ち上がった。
(ドラゴン!?)
(何!?)
その体から―――――ドラゴンのような、魔力を噴き出して。
この場にいる全員―――エルザとジェラール―――は、ナツに気をとられていた。
突如現れた、ドラゴンに。
だが――――変化が起こっていたのは、ナツだけではなかった。
「・・・」
エルザの後ろ。
ジェラールの向かい。
そこに――――――その少女はいた。
「・・・ぁ」
少女の名はティア=T=カトレーン。
常に気高き誇りを持ち、常に冷静であり、水でありながら氷の鋭さと冷たさを併せ持つ、ギルド最強の女問題児。
その少女は今―――――冷静さを、欠いていた。
「ぅ・・・ぁ・・・」
誰が見ても無にしか見えないポーカーフェイスをガラリと崩し。
闇の人間に戦慄されるとは思えないほどに華奢な身体を震わせ。
その深く宝石のように輝き透き通った青い目を最大限に見開き。
「・・・ぁぁ・・・」
その口から、小さな声を零し。
自ら『毒』に等しいエーテリオンを喰らうナツに普段通りに飛び蹴りも決めず、ただ、呆然と。
「ぁ・・・ぁぁ・・・」
相手がどれほどの地位にいる人間でも。
相手がどれほどに強い魔導士でも。
何十人を殺した魔物、殺人鬼、世界最強の武器を持った人間―――全てに恐怖を覚えない氷の女王は。
「・・・ぃ・・・ぁ・・・」
目の前の死に。
自らを犠牲に己達を守り抜いた男の死に。
目の前で一瞬にして奪われた1人の男の命に。
「・・・ぃゃ・・・」
―――――――恐怖していた。
「!?」
背に寒気を感じ、ジェラールは辺りを見回す。
寒気の正体はエルザではない。シモンでも、ナツでもなく。
「まさか・・・!」
エルザの後ろに呆然と立つ、ティア。
目を見開き、体を震わせ、言葉にならない声を紡ごうとして、零す彼女。
(死んだ・・・私の前で・・・また・・・人が・・・!)
ぐるぐると。
メビウスの輪のように。ウロボロスのように。
彼女の中で、同じ言葉が繰り返される。
(また・・・人が・・・死んだ・・・私の・・・私の前で!)
その瞬間―――――――。
ティアの脳裏に、1つの映像が、流れた。
―ティア・・・ちゃん・・・ゴメン・・・ね―
春を思わせる暖かい色の髪。
漆黒の、強い意志の篭った目。
否―――弱々しく、今にも閉じそうな目。
それを見たティアの目が更に見開かれ――――
――――――その青い目から、一筋の、涙が流れた。
(イオ、リ・・・さ―――――――)
その女性の名が頭をよぎった瞬間――――。
「ィ・・・イヤ・・・イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
空に向かって、冷静なる女王の咆哮が、響いた。
「ティ、ティア!?」
背後から聞こえてきた叫びにエルザが振り返り―――驚愕した。
彼女のワンピースのスカートとレースアップブーツの間の脚に。
ノースリーブのワンピースから覗く肩に。
その頬に。
突如―――――鱗のような模様が現れた。
「アアアアアアアアアアアッ!!!」
それと同時に、膨大な魔力が一気に溢れ出す。
魔水晶の床から魔力が溢れ、その魔力はティアに流れ込んでいく。
(ありえん!まさか・・・シモンの死に反応して・・・ここにあるエーテリオンの魔力を吸収して・・・目覚めたというのか!?)
その姿を見るジェラールの目が見開かれる。
(かつて、その膨大かつ強大な魔力で世界を創り上げたと伝説されるカトレーンの一族・・・一族の『力』を持たない女・・・)
この塔の建設の為に読んだ本の中に書かれていた内容を思い出し・・・ジェラールは思わず、声に出していた。
「『星竜の巫女』の力がっ!?」
それを聞いたエルザは、不思議そうに首を傾げる。
(星竜の巫女・・・?聞いた事すらない言葉だが・・・)
強大な魔力を纏った2人は、真っ直ぐにジェラールを睨みつける。
(こいつら・・・エーテリオンを取り込んで・・・)
2人にジェラールが驚愕している間に、2人は一気に距離を詰め―――
「ぐほぉ!」
ナツは膝蹴りを、ティアは魔法鞭の先に鉄球を付け、放った。
「アンタがいるからァァァアアア!!!!」
「エルザは涙を流すんだァァ!!!!」
ナツがジェラールを床へ叩きつけ、そのままの勢いで床を突き破って下へと落ちていく。
それを見たティアは何の躊躇いもなく、自らもその穴に飛び込んだ。
ジェラールの叫びが響く。
「俺達は約束したんだ」
「私達を庇って死んだ・・・アンタが殺した、シモンと」
そう言って、2人は思い出す。
ここに来る前―――。
最後の言葉が全てエルザへの言葉だとしたら、最後にシモンがナツとティアに向けた言葉を。
『ナツ、ティア。エルザを頼む』
「「約束したんだぁあぁっ!!!!」」」
雄叫びを上げながら、さらに下へと落ちていく。
エルザを頼むと言って微笑んだシモンを、思い出しながら。
「こざかしい!流星!」
するとジェラールは挟み撃ち状態から脱出し、超スピードで上へと上がっていく。
「この速さにはついてこれまい!」
そう言って更に上へと上がっていくジェラール。
「逃がさない!!」
ティアは叫ぶと、勢いよく瓦礫を踏みしめ―――跳躍した。
人間とは思えない程に。
「な、何!?がふぁ!!」
驚愕するジェラールに、容赦なく蹴りを決める。
「くそっ!」
再び攻撃しようと拳を握りしめたティアから、超スピードで距離をとるジェラール。
しかし、ジェラールの相手はティアだけではない。
「がはぁっ!」
瓦礫を踏んで飛び上がってきたナツの拳が、ジェラールの腹部へと決まった。
「バ・・・バカな!」
その様子を、エルザは見つめる。
「俺は負けられない!」
空中で体勢を変え、叫ぶ。
「自由の国をつくるのだ!」
奴隷時代の虐げを、強制労働を思い出しながら、ジェラールは更に叫ぶ。
「痛みと恐怖の中でゼレフは俺に囁いた・・・真の自由が欲しいかと呟いた!」
塔の中で飛び抜けて高い魔水晶の間をジェラールが飛び、それをナツとティアが追う。
「そうさ・・・ゼレフは俺にしか感じる事が出来ない!」
懲罰房で痛みと恐怖だけを感じたジェラールに悪魔の囁きをしてきたゼレフの亡霊。
それを感じられるのは、この場でも世界中でも、ジェラールだけだろう。
「俺は選ばれし者だ!俺がゼレフと共に真の自由国家をつくるのだ!」
ジェラールの叫びに、魔水晶によじ登っていたナツと、水の翼で飛んでいるティアが叫ぶ。
「それは人の自由を奪ってつくるものなのかァァーーーーーっ!!!!」
「アンタのような愚者がつくる国家を自由国家とは言わない!いいえ・・・人の自由を奪ってつくった国家なんて、最初っから自由じゃないのよ!!!!」
その2人の叫びに、ジェラールは腕を動かしながら返した。
「世界を変えようとする意志だけが、歴史を動かす事が出来る。貴様等には何故それが解らんのだァ!!!!」
その瞬間、巨大な魔法陣がジェラールの前に展開した。
「煉獄破砕!?塔ごと消滅させるつもりか!」
その魔法陣は禁忌魔法の1つ、煉獄破砕。
以前、幽鬼の支配者が使おうとした魔法だ。
「また8年・・・いや、今度は5年で完成させてみせる・・・ゼレフ・・・待っていろ」
そう呟き、ジェラールが魔法を放とうとした瞬間―――
「そんな事・・・させる訳ないでしょ!!」
タン、と。
軽いリズムで魔水晶を踏みしめ、水の翼を生やしたまま、ティアはジェラールとある程度の距離をとった、ジェラールの丁度向かいで停止する。
「ティア!?何を・・・!」
普段の彼女なら絶対にしない行動に、エルザは驚愕する。
そしてティアは、指を―――――――――
――――――鳴らさなかった。
だから、『青』の魔法陣は展開しない。
代わりに、『紺』の魔法陣が展開した。
普段ならティアの上か手の辺りに現れる魔法陣は―――――
ティアの『顔』の前に、現れた。
「大海!?いや・・・違う!あれは・・・まさか・・・!!」
その魔法陣を見たエルザは更に驚愕する。
ティアは――――――――その頬を、大きく膨らませた。
そして、放つ。
「星竜の――――――――咆哮ォォォオオオッ!!!!」
使えないはずの、滅竜魔法を。
紺色の魔法陣を挿んで放たれたのは、金色に煌めく咆哮。
誰もがやるであろう、大声を出す時にやるあの仕草―――両手の親指を顎辺りに当て、人差し指を口の辺りに当て、メガホンのようにするあれだ―――をし、体を九の字に曲げながら。
「な、何だと!?うおおおおおっ!」
禁忌の魔法陣ごと、その方向はジェラールに直撃する。
金色に飲み込まれた魔法陣は、そのまま消滅した。
「くっ」
残った魔力を使い、何とか咆哮を払いのける事に成功したジェラールだが、その姿は既にボロボロだった。
「ナツ!」
「おう!」
その姿を見たティアはすぐさまナツの名を叫び、反応したナツは一気に魔水晶を蹴る。
「お前は自由になんかなれねぇ!!!!」
ボロボロ状態のジェラールの目が、見開かれる。
「亡霊に縛られてる奴に自由なんかねぇんだよ!!!!」
そう叫び、迫るナツが。
ジェラールの目には――――――ドラゴンに見えた。
「自分を解放しろォォ!!!!!ジェラァアァァアァァル!!!!!」
叫び、拳を握りしめ――――――
――――渾身の力でジェラールを殴り、塔へと叩きつけた。
その衝撃で、塔の頂上付近が崩壊する。
(これが、ナツとティアの真の力・・・)
崩壊する頂上付近の魔水晶と共に降りてきたナツとティアを、エルザは呆然と見つめる。
(これが滅竜魔導士と星竜の巫女!!!!)
後書き
こんにちは、緋色の空です。
カトレーンの一族は今回の話だけでスケールが大きい一族になりましたね・・・。
詳しい事は過去編でやる予定なので。
感想・批評、お待ちしてます。
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