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鉄槌と清風

作者:deburu
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17部分:16:リヒトヴェッテル・ベシュテンバーグ


16:リヒトヴェッテル・ベシュテンバーグ

 あぁ、これは夢なのだと判る時がある、いまの良彦もそんな状態だ。
 誰かの視線で、それを眺めているのが判る、いまの自分よりも身長はあるのか、視界の高さに一寸違和感を感じている。

 視界に写るのは戦場、幾人もの騎士が戦っている、その中で一際目立つのが…桃色の髪をポニーテールにし、片手には剣…レヴァンティン…を持つ、烈火の将シグナム。
 赤い髪を三つ編みににして、手には鉄槌…グラーフアイゼン…を持つ少女、ヴィータ。
 この二人の騎士の前に、敵の騎士は倒れて行く。

 また、少し後方では、金の髪をなびかせた女性…シャマル…が、味方の騎士を癒し。
 その間皆を守るのは、青い髪の青年、いや、守護獣…ザフィーラ…盾の字に表されるように、その守りは鉄壁。

 彼らが、夜天の書の主を守護する、守護騎士…ヴォルケンリッター…たち、そして、更にそれをすべるのが。
 白い髪をなびかせ、広域殲滅魔法をはなつ、名を与えられていない女性…夜天の書の制御人格…だ。
 本来主をまもり、ユニゾンする事で更なる力を使う彼女だが、今代の主は、自らの保身のため、この国の城主に自らを客将としてあつかわせ、彼女らを戦力として提供、本人は城の奥で彼女らを使役しているだけなのだ。

 彼女らの近くで、共に戦っているのだろう、この夢の主は、迫り来る剣や槍、矢などを見事に捌いてみせる。
 剣を振るってきた騎士の手元を右手で『弾き』力の方向をずらして、相手の力を利用し軽く足を掛け、腹に左手を押し当てて背後へと投げ落とし、地面に背中が付くと同時、押し当てていた手の間に魔力と風が圧縮し、ドンッと衝撃をあたえ、騎士を気絶させる。
 槍を突き刺そうと振るった騎士は、槍の穂先を左手で『弾かれ』前に体勢を崩した所へ、右掌に圧縮された魔力と風で顎をアッパー気味に打ち抜かれ、此方も意識を失う。
 降り注ぐ矢は、一定の位置で風に巻かれ、一瞬動きが遅くなり、次々と手の中に集められ、数本纏めて、風をまとわせながら敵陣へ、投げ返す。

 良彦が気付いたのは、それが自分が目標とする動きだということ、かつて祖父が見せた『凪』だということ…そしてこれこそが本来の『凪』であることだ。
 自分がしていたのは、それとは程遠く、なんと未熟だったのか、それが実感できると共に。

 『その業は、まだまだ欠点が多いな……』

 そういったザフィーラの言葉を思い出し、確かにそうだ、と恥じ入るばかりだ。




 そうして、少し意識を戦場から外していると場面が変わる。
 目の前には今一緒に戦っていた騎士たち、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ、シャマル、名も無き夜天の守護者もいる。
 が、戦いの勝利に沸き立っている光景。

 『どうだヴィータ、ちゃんと形になってきただろ?』

 『はん、雑魚の騎士倒した程度でうかれんなっつーの』

 『へっ、言ってろ、シグナムとザフィーラはどう思う?』

 『そうだな、以前の試験の時に比べれば魔力も練れているし、反応もよくなっているな』

 『あぁ、あの時はまだ欠点が多かったが、いまはかなり安定しているようだ』

 『ほらみろ、わかる人にはわかるんだよ、んー、どうだねヴィータ』

 『ほほぅ、そこまでいうなら、ギガント受けれるんだよな、——』

 『ちょ、まてや、あれは対個人にうつもんじゃねーだろっ!』

 『うっせ、うっせ、自慢の業ならダイジョブだろ!』

 『ほら、おちついてヴィータちゃん、——も、あまりからかわないのよ』

 『判ったよシャマル…悪かったなヴィータ』

 『はっ、わかりゃいいんだよ…まぁ、でも、実際おめえのあれしっかりして来てるな』

 『戦場でできるできないで泣き言いえないからな、やるしか無い、って感じかな、シャマルにも結構世話になったし』

 『それが本領ですから、頼ってくれて問題ないわ』

 と、会話をしていると、近くの騎士から声が掛かる。

 『王子そろそろ、城へ戻りましょう』

 『あぁ、よし、凱旋だ、いくぞ』

 その声に振り向いて歩き出そうとしたとき、城の方向で黒い光が天に向かい伸び出す。
 その光は城を取り囲むように伸び、真ん中に真っ黒なドームまでできてくる。

 次の瞬間、いま其処に居たはずの守護騎士の姿が消える。
 そして、自らの体から何かが溢れぬように押さえ込もうとする夜天の守護者。

 『なにがあった、どうしてヴィータたちは消えた?』

 『どうやら、書の主が城内で暗殺されたらしい、守護騎士が消えたのは、そのためだろう…そして、あそこに見えているのは、夜天の書の自動防衛プログラムだ』

 『どういうことだ?』

 『夜天の書は改竄されている、蒐集にて666ページを埋めれば大いなる力を与えるがその持ち主を殺す』

 『そして、今代の主は、私が機能する400ページまで蒐集し、私と守護騎士を使い、客将となった』

 苦しそうにしながらも、淡々と説明して行く。

 『だが、主自身が死んだ為、自動防衛プログラムと無限転生プログラムが発動している』

 『防衛プログラムは魔力がある限り消えず、無限転生プログラムが次の転生先を見つけるまで暴走する』

 『なら、これだけの騎士がいるんだ、倒せば』

 『無理だ主がいなくては、手のうちようがない…仮に倒しても、私がいる限りどちらも再生する、私を倒してもあれは止まらない…だから、逃げろ王子、この星は滅びる』

 『だが、父や兄たちはどうなる?!』

 『既に書に食われているだろう、時間がない、私の意識ももう直ぐ消える、そうすれば近くにいる皆を攻撃し始める』

 『…同盟国もしくは近隣の中立国へむけ、転送準備、急げ』

 声に反応し、幾人もの騎士が魔力を集め出す。

 『夜天の書が何処に行くかはわからないのか?』

 『転生先はランダムに決められる、実際守護騎士か書本体を見なければわからないだろう』

 『そうか…ならば近くの国々に書の危険性を話しておかなければならないな…ヴィータ…いや、守護騎士達は、どうなる?』

 『次の主の下で再生されるだろう、今代の記憶は無いが…記憶を受け継ぐのは私だけだからな』

 『判った…準備できたものから転送せよ、私も直ぐ向かう』

 自らの下に青い三角の魔法陣が浮かび上がる。

 『では、な…名も無き友よ』

 『あぁ…元気で、リト』

 別れを告げた瞬間、空間が振動し始める、防衛プログラムの暴走が次元震を引き起こしたのだ。
 そんななか、リトと呼ばれた少年は姿を消す。




 気がつけば、何処かの森の中だった…里と思われる場所に近づくと、恐れられ武器を持って追われた。
 次元震は彼が目標としていた同盟国への転移に干渉、全く知らない場所へと彼は転送されていた。
 言葉も通じず…夢の中の記憶だからか、良彦には言葉が日本語と判ったが…人里に近づけば追い立てられる。
 リトは青い髪に黒と緑のオッドアイだった、昔の人には同じ人間とは思えなかったのかもしれない。

 いつしか、森の中を彷徨い、等々倒れた…次に目が覚めた時は、知らない場所、知らない人が近くに居て、どうやら助けられたらしい事が判った。
 助けられ、生活をするうちに、言葉を教えられ、其処が山の中にある隠れ里だとしった。
 人の中で生きられなかった…外見や、性格などの為に…者達が集いいつの間にかできた里らしい。

 リトもそこで生活し、地を耕し、人と触れ合った…その中で一人の女性と出会い、子を儲け、自らの業を教えた…魔法は使えなかったが、武術としても十分のものだった。
 そして、彼らの中で面白い考えと出会う。

 【風は過去から未来まで常に流れ、人は死して風の中に魂をとかし、この世界を流転する、何時しか風は又一つになり、魂に新たな命を与える、風には今までの全てとこれからの全てが流れている】

 輪廻転生をそんな風に捕らえる考え方…リトはそれを聞き、一つの魔法を思いつく…風に溶けた記憶を集める魔法…死の間際ゼピュロスを封印するとともに、その魔法を自らかけ、ゼピュロスへと記憶を集めさせる事にした。




 『今、これを見ているのならそれは成功したのだろうと思う…私はベシュテンバーグ公国第3王子…清風の騎士リヒトヴェッテル・ベシュテンバーグ…親しいものはリトと呼んでくれた』

 『この魔法は、ゼピュロスに記憶されている、そしてゼピュロスの起動には制限があった、いま此処で記憶を見てるならそれをクリアしたのだろう』

 『だから頼む、我が子孫よ…夜天の書を、守護騎士を、救ってやってくれ…書の力は消えるが記憶は残せる、せめて彼らに救いを』

 『そのための魔法を、知識を、受け取ってくれ』

 『清風の騎士の名と共に…我が友鉄槌の騎士を、その仲間守護騎士を、夜天の守護者に…どうか救いを』

 その言葉とともに、良彦の中に知識が溢れる、リトが使った魔法や体術、古代ベルカの幾つかの知識。
 そんな中で良彦は微笑む…全く知らない連中じゃない、寧ろ友人、友人を助ける為の知識なら喜んで受け取ろうと。
 知識は知識、実際に体術や魔法に反映させるには実践が必要だが、あるとないとじゃ大違いだ、『凪』だって、理想にちかづける、いやこのリトを追い越してみせる。

 「先人を越えるのは、後を行く者の勤めって、爺さんも父さんもいってたし、な」

 そんな呟きと共に、夢は終わり、夢の無い眠りへと落ちる、記憶を整理し、体を回復させるための眠りへと……。
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と言うわけで、記憶継承とリインフォースの救済フラグになります…実際何処まで救えるかはこの後次第で。

次回は目覚めてからのお話ですね、多分なのは、フェイトはでてきます。
 
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