悲しみのヴァージンロード
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第一章
第一章
悲しみのヴァージンロード
「じゃあね」
「ああ」
俺達はお互いに。夜の街で。
別れの言葉を言い合った。原因は。
最初からわかっていたことだった。俺は彼女がいて。彼女にもいた。
どっちもそれなりに複雑な立場だった。
俺の家は普通のバイク屋だ。けれど小さい頃から結婚する相手は決まっていた。
幼馴染み、その相手と結婚することが決まっていた。そして彼女は。
所謂いいところのお嬢様で婚約者がいた。何でも相手はとんでもない大金持ちらしい。その相手と結婚することがもう決まっていた。
けれど俺達は。カレッジのパーティーで出会っちまった。
最初そのパーティーに行ったのは。嫌々だった。
俺は不平を言いながらそこに向かっていた。
「相手はあれだろ」
「ああ、あのお嬢様学校な」
「あそことな」
「何でだよ」
俺は仲間達に言った。その不平を。
「そんなお高くとまったところとな」
「そんなに嫌か?」
「お嬢様とのパーティーは」
「俺達はあれだぜ」
俺は言ってやった。
「ロックだろ、ロック」
「ああ、そうだよ」
「俺達はロックだよ」
「それが俺達だよ」
「それでバイクに乗ってな」
俺の家の仕事だから。これは余計に意識していた。
「派手に騒いで遊んでだろ。パーティーだってな」
「じゃあ社交ダンスとかもか」
「嫌か」
「考えたこともないな」
実際にその通りだったそんなのはやったこともない。
だから俺は。パーティー会場の俺達のカレッジのホールに行く間もだ。不平不満たらたらだった。それで俺はこんなことも言った。
「何だ?向こうにいるのはワスプか?」
「おいおい、学のあること言うな」
「ワスプかよ」
ホワイト、アングロサクソン、プロテスタント。俺達の国アメリカの所謂上層階級になっている人種だ。ピリグリムファーザーズの頃からだ。
「そればっかりだっていうのかよ」
「相手は」
「違うのかよ」
俺は偏見から言ってやった。
「ワスプの気取ったお嬢様ばかりだろ」
「で、俺達はっていうと」
「それに対して」
「そう言うんだな」
俺はイタリアンだ。仲間も見れば。
メキシカンにアイリッシュ、それに黒人、そうしたアメリカじゃ今一ついい立場にいない連中ばかりだ。ワスプの奴等とは全然違う。
だからだ。俺は言ってやった。
「俺達にワスプの空気は合わないんだよ」
「ロックにディスコのダンスにだよな」
「ビールに安いカクテルにハンバーガー」
「フライドチキンにホットドッグか」
「そんなので充分だろ」
俺は言い続けた。
「パスタにピザなら俺が作ってやるさ」
「言うな。そこまで嫌か」
「お嬢様達とのパーティーは」
「そんなに嫌か」
「嫌で嫌で仕方ないさ」
本音をぶちまけてやった。
「ったくよ、何でなんだよ」
「まあそう言ってないで来いって」
「折角だからな」
俺は仲間達に引き摺られる様にしてだった。
パーティーが行われるホールに来た。すると予想通りだった。
向こうには着飾ったドレスのそれはそれは奇麗なお嬢様達が揃っている。やっぱり見たところ背が高くて楚々としたワスプのお嬢様達ばかりだ。その中に背伸びしたのかアジア系の女の子も入っている。
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