錆びた蒼い機械甲冑
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Ⅳ:彼の視点での来訪者
前書き
今回も騎士視点です。
ここ数日間歩きまわってみたものの、あるのは大小様々な樹木と、牛頭の様にポリゴン片となって消える化け物のみで、機械騎士にとって有益な情報は得られなかった。
分かった事があるとするならば、化け物たちは見た目の割に弱いという事ぐらいだろうか。最も、彼を基準として“弱い”と見ているので、一般論で弱いと言えるかどうかは微妙だが。
(分カッテイタ事ダガ……本当ニ、人ガ一人モ居ナイトハナ…)
ギリギリで分かった事に入るとするならば、実は得られた情報がある……のだが、それは役に立つかどうか判断し辛いものであった。
(化ケ物共ノ頭ノ上ニ、“カーソル”ノヨウナ物ガ有ッタガ……アレハ一体……?)
ポリゴン片になって消えうせる事といい、化け物たちの頭の上に現れたカーソルといい、まるで本当にゲームの中に入ってしまったかのような、そんな感覚を機械騎士は受けた。
彼の元居た世界にはVRシュミレーションもあったので、初めは誰かの手によって無理やりやらされているかと機械騎士は思ったのだが、それにしてはいやに精巧で現実感があった。どちらかというと、人を楽しませる為に作った、娯楽的な物だという感じがする。
それに、彼の居た世界でのVRシステムはあまり発達していない為、人の動きを再現する事は出来ても、周りの景色まで再現する事は無理なのである。
(マルデ異世界ニデモ迷い込ンダヨウダ……御伽噺ダナ……全ク笑エンガ)
何時ものように遺跡まで戻って来た彼は、ふとまだやっていない事がある事を思い出した。
(ソウイエバ、“ホバー”ヤ“ブースター”、“レーダー”ヤ武器ノ“機能”ハ正常ニ作動シタガ……他ノ事ハマダ実行シテイナカッタナ)
そうと決まれば早速―――と、実行に移そうとした彼の聴覚器官が、聞き慣れた音を捕らえる。どうやら、人間達が此処に向かってきているようだ。レーダー探知によると人数は四人、武器を持って警戒している様な挙動で進んでいる。
(彼ラニハ申し訳ナイガ……少シ実験相手ニナッテモラウカ……)
そして次の瞬間、そこに居た筈の機械騎士の姿は、モノから居なかったかのように消え失せた。これは俗に言う光学迷彩と似た様な物―――“ステルス技術”なのだが、彼の場合は短時間しか持たない。
その為、機械騎士はためらうことなく人間達の前に出た。だが、人間達は彼の存在に気付く事無く辺りを見回すばかり。
(……無事ニ作動シテイルヨウダナ)
一先ず確認を済ませた騎士は、彼等の目的が分からない以上警戒はしておくべきだと、蒼錆色の盾板剣“プラエトリアニ”を若干引いて構える。
「な―――っ!?」
「……!」
「何時の間に!?」
「きゃ……!?」
そして騎士のステルスは解け、人間達の前にその姿を晒す。彼等から見れば、騎士がいきなり目の前に現れた様に見えるだろう。
事実、目玉が飛び出さんばかりに驚いている。
(サテ、如何出ル……?)
静かに、悟られないように構える機械騎士だったが、彼等が取り出した物を見て怪訝に思った。綺麗なクリスタルのようにも見えるソレは、彼が見てきた鉱石のどれとも結びつかなかったからだ。
(何レニセヨ……防イデオイタ方ガイイカ)
騎士は剣を斜め前方に放り投げると、ブースターを利用して高速で彼等からクリスタルを捥ぎ取り、全て潰していく。次に、驚く彼等に殴打を叩き込んで陣形をバラバラに崩した。
(コレデドウダ……次ハ何ヲスル…!)
思考しながらも騎士は行動を止めない。
投げた“プラエトリアニ”を走りながらキャッチし、一番構えのなっていなかった少女に狙いを定める。そして、抵抗させる暇を与えないと言わんばかりのスピードで詰め寄って剣を振り上げた。
「!? ひっ……!」
「に、逃げろぉ!!」
(……此処マデ、ダナ)
機械騎士は少女を見下ろしたまま、再起動可能になった“ステルス”を使い、姿を消した。彼等は全くの初心者にしか見えないうえ、此方は彼等を使って実験する目的しか無かったからだ。
(単ナル“トレジャーハンター”ノ類カモシレン……ダトスルト警戒シスギタカ)
とりあえず機械騎士は、彼等がここを離れるまで待つ事にした。
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(人相手ニ実験シタ罰デモ当タッタノダロウカ……?)
アレからさらに数日、機械騎士は頭を悩ませていた。というのも、彼等が此処に来てから、連日のように人間達がやってくるようになったのだ。幸いそこまで強い者達はいなかったが、彼等が連日やってくる所為で探索の後も碌に休めず、更に試したい事も疲れの所為で試せず、少々ウンザリしていたのだ。
(イイ加減、街ニデモ行ニタイノダガナァ……)
生体機械である彼は、オイルと普通の食事のどちらも取れる為、久しぶりにビーフステーキが恋しくなって来ていた。何時までも携帯食料では味気なさすぎる。
(……牛肉ガ食イタクナッテキタ……クソ……)
しかしいくら毒づこうとも、ビーフステーキが目の前に現れてくれる訳ではない。決心した彼は、迷ってもいいからとにかく進み続ける事に決めた。
―――しかしその矢先、聞き慣れたウンザリする足音が聞こえてきたのだ。
(マタ人間カ……俺ガソンナニ珍シイノカ……?)
今度は数人では無く一人のようだが、今の彼にとってみれば数が多かろうが少なかろうが関係なく、唯鬱陶しいだけである。
しかし、その人間がやってくるまではまだ時間があったので、最後に確認するべき事を隠しておこうと機械騎士は思い、立ち上がった。彼は握っていた“プラエトリアニ”を虚空にかざす――――すると、“プラエトリアニ”が鈍い光を放ち、次の瞬間には消えていた。
そして、再び手が鈍く光ったと思うと、何時の間にやら先程とは違う武器が現れていたのだ。
(武装転送装置モ問題無イ、カ……スルト、余計ニコノ森ガオカシク見エテキタナ…)
不自然に開けたその場所からは空がよく見え、彼の心情とは真逆とも言っていいほど晴れ渡っていた。
(マア良イ……ドノ道コレガ、ココデノ最後ノ戦闘トナルカラナ……アル程度ハ派手ニヤッテヤロウジャナイカ)
再びステルスで身を隠した機械騎士は、気配を殺して来訪者を待ちうける。彼は逃げる事があまり好きでは無く、どうせ敵なら闘ってやろうという考えの持ち主なのだ。同時に、命を掛けなくてよいならば、それを良しとする性格でもある。
機械騎士は現れた男が武器を引き、警戒しながら此方から視線を外したのを見計らって、水からステルスを解いた。
「なにっ!?」
思った通り。彼もまた、此処に来た者たちと同じ反応をした。それを見て満足感に浸る人種も居るが、機械騎士はそれを面白がったりする性分ではないので、すぐさま手に持っている、鋸と鉈を組み合わせた形の刃に鎹の様な取っ手を付けた武器“カッシウス”を、今までと同じように腰辺りで引き気味に構える。
先に行動したのは男の方で、彼は何やら構えを取り、その構えられた剣からは光が発せられている。 此処に来た者たちは攻撃前に隙の大小有れど皆構えを取り、武器から光を発しならが攻撃してくる……機械騎士はこれにもまた疑問を持っていた。
明らかに武器以上のリーチを持っている攻撃があったり、派手な光の割には威力があまりなかったり、そして一番奇妙なのが“構えは素人同然なのに、放たれる技は洗練されている”事だった。
男は光の軌跡と共に、騎士が今まで見た事の無い技を放ってきたが、単なる突進による突きであるそれを騎士が喰らう筈もなく、わざと紙一重で避け剣を掴んで動きを止めた。
驚きのあまり声すら出ない男に、機械騎士は足払いを喰らわせて体勢を崩し、次いでブースターを利用した体当たりを打ち込んで男を弾き飛ばす。男はまるで車にでもぶつかられたかのような勢いで、背後の木に激突した。
騎士の攻撃はまだ終わらない。
“カッシウス”を斜め上に放り投げ、麻痺毒付きの投げナイフを数本男に命中させて動きを封じ、間髪いれずにブースターによる急加速で飛びあがって“カッシウス”を掴む。
更に“カッシウス”の“機能”を発動させて振りかぶり、ホバーによる軌道調性を行いながら、男ではなく背後の木を狙って――――轟音と共に“カッシウス”を振りおろす。
結果、背後の木は見事に両断されその中身を晒していた。―――とはいっても、斬りつけられた部分のみがそうなっており、樹自体はまだ根を張って佇んでいるのだが。
(斬ル事ハ出来タガ……感触ガ何処トナク木々トハ違ウナ)
確認したい事が確認できた機械騎士はこの大森林を脱するべく、足元の男を放って置いて歩き出した。
(サラバ、小サナ遺跡……世話ニナッタ)
たとえ迷ったとしても二度とここには戻らない、そう決めて彼は歩くのを止め、走り出す。戻ってばかりでは、延々とこの森を抜けられないからだ。
しかし、たとえ森を抜けられたとしても彼にはまだまだ災難が待っている事など、だれも予測できなかったに違いない。
彼の受難は、始まったばかりだ。
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