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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百六十五話 美味しい罠

 
前書き
お待たせしました。

今年最後かも知れない更新です。

他の作品の更新が出来ずに済みませんです。何分多忙でした。

 

 
帝国暦485年7月1日

■銀河帝国 帝都オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋

「それと、父上とは既に話し合いを終えているが、捕虜交換後の今年暮れのイゼルローンツヴァイの完工式には妾が参加する事に決めたのでな」

テレーゼの一言で再度揺れる小部屋。
「殿下、臣の聞き違いでなければ、最前戦たるイゼルローン要塞へお行かれに成られると仰いましたか?」
滅多な事では驚かない、リヒテンラーデ侯が、驚愕の眼差しでテレーゼを見て質問してくる。

驚愕の表情をするリヒテンラーデ侯達を見渡しながらテレーゼは再度話す。
「ええ、国務尚書も未だ未だ耳が遠くなる年じゃないでしょう。新年をイゼルローン要塞で迎える事になるわ」

「殿下、其れだけは成りませんぞ、殿下に万が一の事があったら今後どうすれば良いか、危険な行為はお止めくだされ」
リヒテンラーデ侯が必死になって諫めるが、フリードリヒ四世が其れを止める。
「国務尚書、テレーゼは意外に頑固でな。一度決めた事は頑として翻さんのじゃ」
「しかし」

リヒテンラーデ侯が慌てているが、テレーゼはどの風吹くが如きである。
「国務尚書、別に最前戦で指揮する訳ではないのですから、護衛をしっかり就ければ許容範囲と言えましょうぞ」
グリンメルスハウゼンが、眠そうな目を見開いて仕方が無いとばかりに話しかける。

「卿達が、殿下を甘やかすから突拍子も無い事を仰る様になったのじゃぞ」
リヒテンラーデ侯がグリンメルスハウゼンやケーフェンヒラーやケスラーをジロリと見ながら愚痴をこぼす。

「ハハハ、テレーゼの性格は生まれつきであろう。予の若き頃に似てきておるしの」
フリードリヒ四世が笑いながら話すと、皆が顔を見合わせながら諦めた表情をする。それを見て更にフリードリヒ四世が大笑いした。

「もう、お父様、本人のいる前で言う事ではないでしょうが」
フリードリヒ四世は、拗ねた振りをするテレーゼを見て更に笑う。
「よいよい、テレーゼは素直なよい子じゃ」

話が脱線した為に、テレーゼが再度仕切り直す。
「話がそれたけど、向こうへ行く際には、エッシェンバッハ元帥には基幹艦隊を率いて貰い、直接の護衛はオフレッサーに来て貰うとして、艦隊としてはロイエンタール少将、ルッツ少将、ワーレン少将、ファーレンハイト少将、アイゼナッハ少将、ミュラー准将を引き連れるわ」

「殿下、小官やミッターマイヤー、ビッテンフェルト、メックリンガーは参列できませんでしょうか?」
ケスラーが自分達の名前のない事を不思議がる。
「ケスラーは来て貰うけど、ケスラーの艦隊は臨時編成で既に解体済みだから率いてはいけないのよね。他の三人は正規艦隊司令官に就任直後だから訓練に入って貰うので、イゼルローンへは不参加なのよね」

“尤も訓練宙域はアムリッツァ星系だけどね”とテレーゼは心の中で呟いていた。

「確かに、三人の艦隊は12月では未だ未だ編成途中ですが、殿下の仰った護衛の各指揮官ならば信頼の置ける人物ばかりです」
「でしょ」
「致し方ありませんの」
リヒテンラーデ侯も護衛の名前を聞いて渋々ながら賛成する事にした。


一応テレーゼのイゼルローン要塞訪問の話が終わった所で、軽食を食べ、午後になり捕虜送還についてテレーゼが話し始めた。

「今回の捕虜交換で同盟には精々高く捕虜を売りつけるつもりよ。拉致農奴一人一人に関してはその働いた年月を計算して賃金を与えるわ。それに矯正区や捕虜収容所で働いていた捕虜にも若干の金銭を渡すわ」

同盟に捕虜を高く売りつけると言いながら、金を渡すという矛盾に皆が判らないと言う顔をする中、リヒテンラーデ侯が渋面を現す。
「拉致農奴に賃金を与えるとは、前代未聞ですぞ」

「国務尚書の言う事も判るわ。言っている事が矛盾している言いたいんでしょうけど、今回の事は後々の布石にする為なのよ。つまり拉致農奴一人につき皇帝陛下からの慰労金として、働いた年数×2万帝国マルク(300万円)を、同盟のディナールで与えるわ。尤も最近の同盟は紙幣乱造でインフレ気味らしいから、3万ディナールぐらいに成るらしけど」

「殿下、もしや製造した偽ディナールを使うわけでしょうか?」
ケスラーが心配そうに尋ねる。

「いいえ、今回200万の拉致農奴が居るわ。それに与えるとして一人平均20年として60万ディナール(6000万円)で200万人だと1兆2000万ディナールになるわ。(120兆円)それに捕虜100万に一人頭6万ディナール(600万円)で600億ディナール(6兆円)、昨年の同盟の国家予算が100兆ディナール(1京円)で同盟の紙幣発行高が180兆ディナール程(1京8000兆円)らしいから、紙幣発行高の0.7%の紙幣がいきなり新券で帝国から来たら、間違い無く偽札だと疑われるわ。既に偽札はフェザーンのダミー会社を通じて株式投資や同盟国債購入などをして資金洗浄を行って、正規のディナールを多数仕入れていますから、それを渡します」

「何と愉快なことよの」
皆が無言で驚く中、フリードリヒ四世のみが笑っていた。

「尤も此が300万だから、未だ未だ同盟もそれほど混乱しないで良いのよね。けど何れ理想主義に凝り固まった流刑共和主義者なんかを2億ほど追放刑として亡命させて上げるわ、しかも皇帝陛下の御慈悲で資産を持たせて上げてね。さて彼等が持って行くディナールは幾らになるかしらね。そのうち、同盟ではコーヒー一杯飲むのにトランクいっぱいのお札が必要になり、“こんな物、今じゃトイレットペーパーにも使えない”とか言われるかもね」

ウインクしながら、にこやかに喋るテレーゼを見て、リヒテンラーデ侯は言いようのない戦慄に包まれていた。当初フリードリヒ四世の覚醒はグリューネワルト伯爵夫人の影響かと考えていたのであるが、先年以来、この影の政府とも言うべき会議に出席を許され、其処で今まで韜晦していたテレーゼの真の姿であり正に鬼才と言える姿に触れてからと言うもの、侯は何度となく女帝として君臨し門閥貴族をバッサバッサと退治するテレーゼの姿を夢でみて飛び起きて家族を心配させていたが、今日ほどテレーゼの姿にルドルフ大帝の姿が重なって、寒気と震えが止まらなかった。

そんなリヒテンラーデ侯の恐れを知らぬ振りをしているのかテレーゼは更にとんでも無い話をし始めた。

「捕虜交換だけど、今回はイゼルローン要塞で行うわ」
「殿下、しかし其れでは、イゼルローンツヴァイや首飾りを連中に見られてしまいますぞ」
ケスラーが軍事上不味いと諫める。

「ケスラーの危惧も尤もだけど、堂々と見せる事の方が抑止力に繋がるのよ。嘗て、大日本帝国海軍は世界最大の戦艦大和を建造したけど、其れをひた隠しにして抑止力として使うことなく、戦争への道へひた走っていたのよ。其れを鑑みれば、同盟軍にイゼルローン要塞が2個に増えた上に、自分達の自慢しているアルテミスの首飾りのそっくりさんが遊弋していると知れば、よほどの阿呆以外は攻めようなんて考えないわよ」

「しかし、ツヴァイの完工は早くても486年前半と聞いておりますぞ」
「ああ、あれね、あれは嘘」
心配するリヒテンラーデ侯にテレーゼがあっけらかんと答えた。

「嘘とはいったい」
「敵を欺くにはまず味方からと言う訳よ。実際には11月にもツヴァイも首飾りも実働状態に入るわ」
「なんと、さすれば、同盟の連中が攻め来なくなれば、帝国の緩やかな改革も軌道に乗せる事が出来ます」

リヒテンラーデ侯が珍しく嬉しそうな顔をするが、其れをテレーゼは意地悪そうに希望を挫く。
「尤も、捕虜交換でツヴァイや首飾りを見た同盟軍がシャフトと黒狐経由で完工時期を知るでしょうから、難攻不落になる前にと、前倒しで無理な攻撃を仕掛ける可能性が出てくる訳なのよ」

「しかし、其れだけで、そう易々と敵が出てきますでしょうか?敵は捕虜交換により支持率UPをするわけですから、焦らないのではないでしょうか?」

「其処は其れ、確かに政府は支持率をUPさせるでしょうけど、負けっ続けの宇宙艦隊総司令部は焦るはずよ、“此からはイゼルローン要塞を攻め取る事が出来なくなる。迎撃するしかない受け身の戦術しかできない”とね」

「確かにそうなりましょうが、帝国本土を突かれることなく良い事では有りませんか?」
「確かに、普通ならそうよ、けどね私達にはフェザーンと地球教という害虫がいるのよ。その事を忘れては駄目よ。このままイゼルローン回廊を堅持しても、同盟の国力増強に手を貸すだけだわ、そうしないためにも、同盟軍の主力をイゼルローン要塞で磨り潰させる。そしてツヴァイはその為に作ったのだから」

テレーゼの話に皆が頷いた。

「其処で刑務所に収監されているオッペンハイマー中将を減刑してカプチェランカ基地に左遷した挙げ句に捕虜にさせて情報あげるし、フェザーン商人からの情報とかを流すわ、複数のルートからの情報ならば同盟は焦るわよ」

「殿下、失礼ですが、同盟が易々とそれに乗るかが肝要ですな」
熟考したケーフェンヒラーが問題点を指摘した。

「其処で餌を与えるのよ。非常に美味しくて手を出さざるを得ない餌をね」
「殿下其れはいったい何でございましょうか?」

「私よ」
「私と申しますと?」
状況が判らないリヒテンラーデ侯は再度聞き直す。

「だから、銀河帝国皇女たる私が皇族として初の、イゼルローン要塞訪問を行い、イゼルローン要塞で戦う者達を慰撫する訳よ」
「確かにそのお話はお聞きしまたが、其れはお忍びであったはず。しかも敵を誘引するのであれば、臣は殿下の訪問を反対致しますぞ」

「駄目よ、誘引する以上は、大々的に宣伝しなきゃ。それにイゼルローン要塞に行ったら。新年には全銀河に流す大々的なGIO48の新春ライブを敢行するのよ」
「殿下、其れは」

皆が再度唖然とする中、テレーゼは話し続ける。
「慰問の意味も有るし、帝国臣民の不満を少しでも発散させなきゃいけないから」
「慰問をすれば、イゼルローンの兵達の士気もあがるの」

フリードリヒ四世とテレーゼのみが和気藹々としている中、他の参加者達は驚愕の表情で諫めようと考えていた。

「大丈夫よ、ツヴァイの必殺技シュテルンブレッヒャー(星砕き)、同盟語だとスターライトブレイカーになるかしら、其れを使えば大半の敵艦隊はズタボロに出来るわ。それに、増援はオーディンから出すけど、真の増援はアムリッツァで訓練中だから、黒狐に知られても訓練未了の艦隊と映るわ」

皆が何か言いたそうであったが、テレーゼの凄みがまして絶対にご自身の安全を第一として頂くと言う事を決めただけで、納得するしかなかった。

尤もテレーゼは心の中で、焦っているロボスをフォークとホーランドが突っついて、スタンドプレイで最高評議会へD戦場のワルツ作戦を上申して実施を迫るはず。その文面は“イゼルローン要塞を奪取し銀河帝国皇女を捕虜として帝国に降伏を迫る”辺りかしらと、そして頑張れアンドリュー・フォークと、ほくそ笑んでいた。

テレーゼはご機嫌であったが、このせいで、ケスラーの白髪が増え、リヒテンラーデ侯の皺が増え、ブレンターノが胃薬愛好家と成ったのは仕方のない事と言えた。
 
 

 
後書き
テレーゼ自身を餌にしながら、悪い同盟軍に襲われる様にみせ人畜無害に見せる訳です。
頑張れフォーク、テレーゼ様は貴方を応援していますw

 
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