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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第二章 風のアルビオン
  エピローグ 夢……


 カラドボルグにより吹き飛ばされたレコン・キスタの艦隊は、吹き飛んだ際に壊れたのか、艦隊の破片と思われるものが白い雲の中に落ちていく。
 
 士郎たちは今、タバサの使い魔であるシルフィードの背中に乗り、アルビオンを脱出していた。
 シルフィードの一番後ろに座り込み、両手で頭を抱えた士郎。
 そんな士郎の背中にルイズはそっと近寄ると、士郎と背中合わせに座り、士郎とは反対側の空を仰ぎ見る。
 しばらく二人でそのようにしていると。

「ねぇ士郎……?」
「……」
「……ねぇ」
「……」
 
 ルイズの声に反応する事無く、士郎はただ煙を上げるニューカッスルを見上げるのみ。そんな士郎の様子に、段々とルイズの声が震えていく。

「シ、シロウ……」
「……」

 声の震えは段々と大きくなっていき……そして

「シロウ……ってっ! 聞ケェッッ!!」
「ぐはっ!」

 爆発した。
 
「さっきから呼んでるでしょうっ!! 何無視してんのよアンタッ!」
「い、いや。すまない」
「すまないじゃないでしょっ! 謝るぐらいならわたしの呼びかけにすぐに応えなさいっ!」

 士郎と背中合わせの状態でくるりと体を回すと、その勢いでルイズは士郎のこめかみに拳を叩き込んだのだ。
 そんなあまりに唐突な襲撃に、さすがの士郎も防ぐことが出来なかった。頭を抱えながら振り向くと、士郎は痛みで涙が浮かんだ目をルイズに向けた。 

「ルイズ、下手すると死ぬぞ」
「死んでないからいいじゃない」
「……」

 ルイズのあまりにあまりの傍若無人ぶりに、士郎の頭にとある赤い悪魔と金の悪魔の姿が思い浮かぶ。
 そんな誰かを思わせるルイズの将来に多だ……若干の不安を覚えた士郎だが、これまでの経験から何も言わず、ただジト目で訴えるだけにした。

「はぁ……なんでさ。まぁいい。それでルイズ、何だ?」
「……ん~えっと、ね。その……士郎は、後悔してない?」
「後悔?」
「……うん」
  
 先程とはうって変わり、ペタンと女の子座りしたルイズが、上目遣いで士郎に問いかける。
 
「いや、全くしてないが?」

 予想外のルイズの問いかけに、一瞬戸惑った士郎だったが、戸惑いながらも首をふる。  
 
「そう……あ~それと、ね」
「何だ? まだあるのか?」

 どこかほっとした様子で士郎の答えを受けたルイズは、未だルイズの問いの真意が掴めず、訝しげな顔をする士郎の顔を見上げる。
 
「あの矢が……元の世界に帰れない理由……なの」
「っ! ……何故……そう思った?」
「シロウは……前に言ったよね。シロウがわたしの使い魔になる理由は二つあるって……」

 士郎を見上げていたルイズさえ気付かないほどの僅かな一瞬だけ目を見開いた士郎は、スッと目を細めてルイズを見下ろす。ルイズは見下ろしてくる士郎に対し、顔を俯きながら話を続けている。

「一つはわたしに命を救われた借りで、もう一つは元の世界に帰れない理由があるからだって……」
「……ああ」
「あの矢……あの力が、もう一つの理由」
「……」
「違うの……?」
「……」
「っ……やっぱりいい」

 何も答えず黙ったままの士郎の様子に、ルイズは立ち上がり士郎から離れようとしたが、いつの間にか士郎に左手を掴まれたことにより、立ち上がることが出来なかった。

「し、シロウ?」

 ルイズは戸惑った声を上げ、掴まれた左手を赤くした顔で見つめると、上げていた腰を再び下ろした。そして、再び士郎と背中合わせの状態になると、士郎がルイズに話しかけてきた。

「色々あるんだ……色々……俺が元の世界に帰れない理由は……な……」
「ふ~ん……」
 
 ルイズのどこか納得していないと言うような相槌に苦笑しながら、士郎は使い魔のルーンが刻まれた左手を見つめる。

「後悔はしてない……ルイズの使い魔になったことは……」
「うん」

 ルイズと士郎の間に沈黙が満ちる。
 聞こえるのは遥か遠くに聞こえる砲撃の音と破壊音……そしてシルフィードの風を切る音。
 



 俺は……何か出来たのか……

 チラリと背後を振り返り、ルイズ達を見た後、空を見上げる。 
 
 それとも……何も出来なかったのか……

 自分の中の何かが削られていくのを感じたが、自分に寄りかかり眠るルイズを見下ろすと、自然と浮かんできた苦笑を顔に浮かべ頬を掻く。
 
 ……救えたものも……ある……か…… 







 士郎が苦笑を浮かべている中、ルイズは士郎の背中に寄りかかっているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

 ……これは……夢……

 いつの間にかルイズは広い部屋の中にいた。部屋の中には木目調の重厚な机や、壁に豪奢な絵画が飾られるているなど、どこか貴族の屋敷の一室を思わせる部屋だった。
 そんな部屋の真ん中には、大人が五、六人広々と眠ることができるほどの大きさのある、天蓋付きのキングサイズのベッドが置かれている。
 ルイズが部屋の様子を眺めていると、ベッドに眠る人の顔が、窓から差し込む月の光に照らされて浮かび上がった。

 月の光に照らされたのは、使い魔の士郎であった。
 ベッドに眠る士郎は、穏やかな顔をして、まるで子供のような顔で眠っていた。

 ん~んふふ、可愛いな。いつもわたしが先に眠っちゃうから、シロウの寝顔、見たことなかったのよね。

 ベッドに眠る士郎を良く見ようと近づいていくと、ベッドに士郎以外の人がいることに気付き足を止めた。

 えっ……誰……?

 その人の姿は、天蓋の影に隠れて見えなかったが、次第に目が慣れてくると、だんだんとその姿が見えるようになってきた。

 あっ! この人……あの時の……

 目に映ったのは、以前夢で見た士郎の頭をぶん殴った赤いトレンチコートを着た女性。あの夢の時とは違い、ベッドにいる女性はトレンチコートはおろか、何も服を着ていなかった。
 女性は隣に眠る士郎に近づくと、愛しげに士郎の頬をなで、唇にキスをする。

 ……綺麗……

 一枚の絵画のような光景に見とれる。
 愛おしげに士郎に触れる女性は、そのシミ一つない白い肌を月の光に照らし、その身体に月の光に照らされ、星空のように光り輝く黒髪を身に纏っていた……その姿はまるで夜の女神のようであった。

 この人は……
 
「士郎……いくらあなたを止めようとしても、きっとあなたは止まらないんでしょうね」
 
 止める? 止まらない?

 女性が悲しげに呟きながら士郎に顔に触れると、そのまま士郎の胸に顔を埋めるように士郎の体に両手を回して抱きつく。

「あんたは……鈍感すぎなのよ」

 士郎の胸に顔を埋めながら文句を言う女性は、上目遣いに士郎を見上げると、意地悪く笑い、囁きかける。

「私……私達の想いがどれほどのものか……少しは思い知りなさい」
 
 そこまで言うと、女性はくすくすと笑い、目を閉じた。

「士郎……」




 月の光が、優しくベッドに寄り添う二人を照らし出す。
 女性はまるで母のような優しさを込めた言葉を囁く。






 ――愛しているわ……






 ルイズは惚けたようにその光景を見つめていた。
 この光景は、どこか現実味の無い物語のような光景だった。だからだろう、士郎が好きだと自覚したにも係わらず、この光景にルイズは嫉妬の気持ちが浮かばない。
 ただただ、士郎を思う女性の姿に見惚れていた。
 
 この人、本当に士郎が好きなんだ……でも……でも、わたしだって……っ

 目が覚める前兆なのだろうか、段々と薄れゆく士郎に近づくと、女性と寄り添うように眠っている士郎の頬に手を伸ばした。
 触れることが出来ない手で、士郎の頬を撫でるように動かすと、ルイズは消えゆく士郎にゆっくりと顔を近づける。

 でも、でも……わたしだって……

 そして、士郎の唇に自分の唇を合わせた。

 わたしだって……

 ゆっくりと唇を離したルイズは、士郎の耳元に顔を近づけると、自分の気持ちを思いっきり込めて囁く。

 好きよ、シロウ……




 
 

 
後書き
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遠坂さん……デレてる? 
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