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錆びた蒼い機械甲冑

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Ⅱ:検証

 
前書き
アインクラッドの解釈が間違っていたらすみません。 

 
 少年達のパーティが『蒼錆色の機械甲冑』に出会ったその数日後。

 少年達のパーティの情報を元に行った者達からの証言と共に、瞬く間にその『蒼錆色の機械甲冑』の噂は広がって行った……とはいっても、半信半疑の者が殆どだったが。
 その理由は、『意図的に結晶を破壊した』という事にあった。


「マジなんだって! こっちが転移結晶を取り出したら、それを狙った様に奪って破壊しやがったんだって!」
「そう熱弁されてもなぁ……実際に見てみない事には信じられねぇよ」
「っていうか、その機械騎士ってのも、少しばかり疑わしいんだよなぁ……だって第三層は大森林だぜ? そんな文明の入っていない大自然に、文明の極致みたいな機械甲冑が現れたって言われてもいまいちな」
「……それに、アインクラッドの設定も考えると、余計に可笑しいぜ?」


 そもそもこの浮遊する城“アインクラッド”は、主に中世を舞台として作られている階層が多いらしく、現代所か大正時代の物があるかどうかすら怪しい。そんな舞台に、SFにでも出てきそうな文明の極致が現れる事自体が、この上なくおかしいのだ。


「かぁ~……やっぱ、こればかりは口だけじゃ信じる奴はいねぇよな…」
「まぁな、デス・ゲームになっちまったSAOでの生命線を狙って破壊するなんぞ、誰だって信じたくねぇって。……それでも噂が広がってるってとこを見ると、やっぱり人は人なんだなって思うけどな!」
「なんだよ、哲学者見てぇな事言いやがって……」


 しかし、男性の言うとおり、人とはつまらない方よりも楽しい方へと寄せられていくものであり、それがたとえ死の危険につながるとしても、踏み込んでみたい領域があるのもまた確かな事なのである。















そんなプレイヤーが、機械騎士がいるというエリアへと足を運んでいた。


「噂が嘘だったら、いつもと変わらねぇし……本当だったら、そいつからドロップするアイテムで更に強くなれるかもな……」



 実は彼は攻略組に近い実力を持っているのだが、あえて攻略には向かわず、そこから一歩引いた位置に居る。
 理由は、その中であれば自分が最強だという挑戦心のかけらもない考えと、その位置で感じる優越感の為という、情けない理由であった。しかし、このデス・ゲームの中では社交的な面よりも自己的の方が段々と強くなってきており、ある意味では仕方ないとも言える。
 彼が此処に一人で来た理由も、レアドロップを横取りされたくなかったからだ。


 途中に出てくるモンスター達をなぎ払っていく様子を見るに、この男の実力は高いモノだと窺えるが、同時に攻略組の中では途中で通用しなくなるかもしれないという疑念も見える。


(もうそろそろ、噂のモンスターが出てくるエリアに出る筈だが……)


 回復ポーションを口に銜えたまま当たりを見渡した男は、ふとある一点が他の場所とは明らかな違いを持っている事に気付いた。


(なんだ? あっちの方だけ、えらく樹木が少なくなってる―――…そうか、そう言う事か)


 噂での騎士が出てきた場所は、小さな遺跡がある不自然に開けた場所だと言っていた。つまり、木々が不自然に少ない場所に進めば、いずれ辿り着くという訳だ。


 そうして進んでいった男はやがて噂通りの、入る事の出来ない崩壊した小さな遺跡がある、不自然に開けた場所へと出た。


(さて……噂じゃ、騎士はいきなり現れたと言っていたな。警戒しとくか)


 そうして男が武器を引いた、まさにその瞬間――――


「なにっ!?」


 PoP演出も何もなしで、いきなり目の前に“ソレ”は現れる。

 頭上に表示される『Blue Rust Machine armor』―――“蒼錆色の機械甲冑”の文字、彼の目的である機械騎士が、目の前に居た。


「……心の準備はさせろっての!」


 誰にともなく言いながら、男は改めて武器を構える。
 そこで男はある事に気が付いた。


(武器が違う……? 噂じゃ、ハンドガードみたいに盾が付いた、鉄板刃の剣じゃなかったか?)


 そう、彼の知っている情報の武器と、今騎士が持っている武器とが違っていた。
 
 今騎士が持っているのは盾付きの件ではなく、鉈のような姿と鋸のような形状を持った、下側に鎹のような持ち手がある武器だったのだ。原始的な要素と機械的なフォルムが、偉くミスマッチではあったが。


(関係ねぇ、様は倒せばいいんだ!)


 騎士が行動を起こす前に男は、片手剣基本技『レイジスパイク』のプレモーションをとる。

 そして、片手剣突進技であるそれを、低い軌道を描きながら光の軌跡と共に騎士に打ち込んだ――――筈だった。


「!?」


 何と、騎士はレイジスパイクを紙一重で避け、まだスキル発動中である彼の剣を、武器を持っていない方の手で“掴んで止めた”のだ。まだ続いている突進の勢いごと。
 男は驚きのあまり声が出なくなる。……どういうAIを組み込めば、こんな達人の様な動きが出いるというのか、見当もつかないのだ。

 驚く彼を余所に、騎士は下段からの足払いと後向きのままでの体当たりを繰り出し、彼を吹き飛ばす。その途轍もない衝撃を受けながらも剣をしっかり握っていた彼に、さらなる驚きが待っていた。


(なんだ……!? 武器を斜め上に放り投げて―――)


 いきなり武器を投げた騎士の行動に驚く男だが、その直後に投げナイフのような物が彼を襲い、剣を弾き飛ばしながら、男に傷を付ける。慌てて立ち上がろうとした彼は、自分の体が麻痺状態になっている事に気付いた。


(ま、まさか今投げた刃物には毒が……!)


 気付いた時にはもう遅い。
 騎士は既に上空に飛びあがって鉈鋸を掴んでおり、軽くホバーのような物を吹かして軌道調性を行いながら、此方へと落下してきていたのだ。当然その狙いは―――男へと剣を叩きつける事。

 もはや反則とも言える連携と武装……何者かが操作しているかのような強さ、本当にこの機械騎士はAIで動いているのだろうか?

 しかし、男にはそんな事を考えられる余裕など、もう無い。


「あ……あ、あぁぁ……」


 痺れの所為で悲鳴も上げられず、そのまま騎士の手によって両断された。





――――彼の後ろの木が。


「は……えぇ…?」



 その後、機械騎士は追撃する事も無く、そのまま背を向けて去って行く。


 後に残ったのは、痺れたままの男と、人工的な物により作り出される鳥の声のみであった。

 
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