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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  Last Fight

身体が冷え切っていくのを感じる。

仮想体(アバター)を構成するポリゴン群が、思念体という高次の存在への転換に激しい抵抗を示す。

もとから存在しない痛覚が、ありえないほどの異常信号を脳に発信している。細胞同士の隔壁が全て叩き壊され、新たな相互関係に悲鳴を上げる。

しかしそれでも、痛みは感じられない。

それが逆に恐ろしい。

人外の闘いの中、レンは胸中で呟いた。

自分はもう、人間ではない。人ではない。人類ではない。

生き物ですらも、ない。

一発一発が、超新星爆発にも似た規模の爆発を起こしながら、《化け物》と《鬼》はひたすら真っ暗闇の中を駆ける。

駆けて、そして羽ばたく。

鼓膜という概念は、とうの昔に捨てた。あったとしても、度重なる衝撃音で弾け飛んでいただろう。今のレンにとって、音とは”聴く”ものではなく”感じる”ものになっていた。

同時に、視覚も捨て去った。

両者間の戦闘は今や、五感で感じた後で反応したのでは全く間に合わない域にまで達しようとしていた。

短形波パルスが体中に通っている末端神経、中枢神経を通って大脳へと吸いこまれ、そこからさらに思考のシークエンスを辿って返還される。この間は一秒にも満たない。

しかしその間は、この極限の戦闘下では致命的なものになっていた。

視てから反応しては遅すぎる。

聴いてから行動しては遅すぎる。

互換を超えた更にその先。第六感にも似た感覚感知で、神経を介さずに直接脳に信号をブチ込む。

医学的用語、生物学的用語で言うならば、《反射》というのが一番適しているだろうか。

例えば、熱いヤカンを触ったときに瞬間的に手を引っ込めてしまうとか、膝小僧に衝撃を与えると意思とは関係なく脚が跳ね上がってしまうとか。そんな動作。

要するに、本来緊急時にしか使用しない道程での動作を、ほぼずっと持続し続けているのだ。

そんなこと、現実世界でやったなら一瞬で末端神経のほうから崩壊し、断裂していくだろう。体中の血管や筋繊維、骨格が絶対にやってはいけない動作に悲鳴を上げる。

『faln:/pjprgim死os:vgro!!!』

人ではない声を上げ

獣でもない咆哮を叫び

《化け物》は人外の部位を神速の速度で振り回す。

《尾》が虚空を薙ぐと空間が断絶され、《翼》の一撃は時間さえも歪める。

アスナと呼ばれた少女の身体を乗っ取った《鬼》は、狂ったような哄笑を撒き散らしながら、縦横無尽に動き回って、掠っただけでも命を刈り取られる致死の攻撃を回避する。

時折、少しでも隙を見つけると、誰とも知れないGMから奪い取った権限を使って生成した多種多様な武器が大気を切り裂きながら飛んでくる。

それらを迎撃しようとすると、どうしても致死の攻撃の手が止まってしまう。止まってしまうとは言っても、それは百万分の一秒が千分の一秒になるような、そんな速度域下の話である。

しかしこの戦闘下では、その違いは相手に攻撃の手を許すことになってしまう。

それは致命的なものだった。

───どうすれば…………

ギリ、と歯を食いしばった時、人外に昇華されている知覚範域の中に一つの反応が知覚できた。

カグラだろうか、と幾億の剣戟を交わしながら胸中で呟く。しかし、この反応から光の光量として感ぜられる強さは強すぎる。

例えるのならば、この暗闇全てを照らし出す太陽のような。

例えるのならば、この空間にわだかまる闇を切り裂く恒星のような。

一瞬眼を合わせ、《化け物》と《鬼》は鋭く距離を取った。ぶつかり合う殺意のみで、間の暗闇にスパークが飛び散った。

同時に、眼球ではない部位で、突如割り込んできた存在を《視た》。

この空間はまさに虚空。真っ暗闇の先は、初めは全く何も見えなかったが、やがてそこからじわりと闇が滲み出すような動作で一つの人影が現れた。

漆黒のコートを風になびかせながら歩を進める、ツンツン頭の影妖精(スプリガン)

その両手には、純白と漆黒の神装が握られていた。

光の塊で形成されたかのような、愚直な片手直剣。

「悪いレン。遅れた」

そんな、軽すぎる言葉とともに、黒衣の剣士は手に持った二つの剣を素振りでもするかのように、左右に斬り払った。だが、それは空間をいとも容易く薙ぎ払い、突っ立っているレンの脇をすり抜けて背後にいた狂楽にブチ当たった。

『────────ッッッッ!!!!』

飛んだその残撃は、咄嗟に交差した両腕を引き裂き、そして胴体にも潜り込んだ。

轟音とともに数百メートルも吹き飛ばされた《鬼》は、空中で制動を掛けて止まった。咳き込むような、水っぽい音が木霊のようにどこまでも広がっていく。

《鬼》も、《化け物》すらも停滞した時間と空間の中、《黒の剣士》と呼ばれた少年は腰を落とし、左足を前に半身に構え、左右の剣の先はひょっとすると本来あるはずの床すらも貫通していそうなほどに下げた。

そんな、既存のいかような型にも当てはまらない構えを取りつつ、《黒の剣士》キリトは────

「アスナ、君を殺しに来たよ」

穏やかに宣言した。










『僕をォ、殺す……だァ?』

ビキリ、と絶対にヤってはいけないところがブチ切れたような音が、たおやかな少女の額から聞こえるという、なかなかにアナーキーな状況にもキリトの表情は揺るがなかった。

死地の中にいる人間のそれとは、とてもじゃないが思えないほどの穏やかな顔。

それが逆に、《鬼》のプライドを瞬く間に沸騰させた。

『ホザクナ、クソガキガアアアアアアァッッ!!』

咆哮と同時、大気が引き裂かれる。

虚無の波動をたたえる左手、瘴気を纏う右手の細剣(レイピア)

致死量を遥か彼方に置き去りにした二つの暴虐が、黒衣の影妖精(スプリガン)に迫る。

対するキリトは、その状況になってさえもまだ表情を変えることはなかった。咄嗟に飛び出しかけたレンを視線だけで制し、ゆらりと動いた。

下げていた左手を前にし、右手の剣を肩に担ぐように後ろに構える。漆黒の刀身に、鮮血のような真紅の過剰光(オーバーレイ)がみるまに集まりだした。

途端、異常な重力子反応がキリトの身体を中心に吹き荒れ始め、小規模な竜巻嵐(トルネード)のように攪拌され始める。

キイイイィィィーンンン、という飛行機のジェットエンジン音にも似た高周波が辺り一帯に撒き散らされる。

神の領域にまで加速された感覚器官で、レンは両者の激突の瞬間を見ていた。

まるでハサミでも閉じるかのように、左右から閉じられる二つの黒き斬撃。徐々に近づく両者の顔が限界まで引き付けられた時、剣士が動き出した。

紅い過剰光と高周波の音を、限界まで引き絞り、その溜め込んだ全エネルギーを放出する。

奪命撃(ヴォーパル・ストライク)ウウゥアアアアアァァァァァァッッッッ!!!!!!』

それまで身に纏っていた、穏やかなオーラが嘘のような叫び声と同時、天と地が丸ごと引っくり返るがごとき轟音が暗闇全てを引き裂いた。

一人の剣士が放った真紅の一撃は、二つの致死の斬撃を弾き飛ばし、貫いた。

しかし、その一撃が貫いたのは少女の身体ではない。

その背後。

瘴気のように立ち昇っていた、アスナの身体に纏わりついていた漆黒の過剰光だった。

衝撃は、起きなかった。

ただ、何かを貫いたという手応えだけが、砕けんばかりに握りしめた柄を通して伝わってきた。

直後────



『ギィエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッァァァァァァ!!!!!!!!!!!』



ザフッ、という砂像が崩れ落ちるようなサウンドエフェクトが響き、《閃光》と呼ばれていた少女の身体から力が抜けた。

同時に、その華奢な身体を覆っていた瘴気が塊となって空を漂う。

ゴポリ、と汚泥から泡が吹き出たような音とともに、その瘴気の塊の中心に真っ白な塊が現れた。

それは、真っ赤な血管が浮き出て血走った、一抱えほどもある大きさの眼球。

それは、身を捩るような悲鳴を響き渡らせながら、ドス黒い瘴気のような過剰光を撒き散らした。

『コ………ノ!クソガキガァァァァ!!!!』

眼球が天高く咆哮すると同時、その周囲に漆黒の短剣が何十本と発現した。それは全員が反応するよりも先に、一切の呼び動作なく黒衣の剣士に向かって神速の速度で加速した。

力の抜けたアスナを支えるために、左手を使っていたのがここで凶と出た。

咄嗟に右手の黒剣を身体の前に突き出すが、その刀身は洗練されすぎていて少年と少女の身体を護るには圧倒的に面積が足りなかった。

向かい来るだろう衝撃と痛覚を予想し、せめてアスナだけはと思いながら少女の身体を護ろうと覆い被さったが、しかし予想されたそれらは何時まで待っても来なかった。

「…………………?」

おそるおそる、という形容詞がぴったりな動作で顔を上げたキリトが見たものは、視界一杯に広がる漆黒の《翼》だった。

《鬼》の成れの果てが射出した致死の短剣達は全てその《翼》に突き刺さっただけで、それに守られているキリト達にはただの一本も届いてはいない。

「レン…………」

キリトの、口から思わずこぼれ出たという風な言葉に、レンは首を巡らせて振り返る。

その頬にはヒビが入っていて、フーデッドコートの袖からちょこんとはみ出る指先はガラスでできた工芸品のように透き通っていた。

その様相に、今度こそ思わず息を呑んだキリトに、しかし少年は淡い微笑みとともに人外の言葉を紡いだ。

『l/aキリn;vアngナfu逃]/lsgk』

その、どこまでも透明で透き通っている笑みに、キリトはなぜか妙な胸騒ぎを覚え、もう一度彼の名前を叫んだ。

しかし、今度は彼は答えなかった。

再度首を巡らせ、グロテスクな眼球と真正面から対峙する。その時巡らせた首が、ピキリという硬質な異音を響かせたが、《冥王》は気に掛けなかった。

まるで、今更そんなことを気にしても()()()だと言わんばかりに。

手が壊れるのも、身体が壊れるのも、自分という人間の存在が壊れていくのも気に留めず、レンだったモノは静かに右手を上げた。

そこに、耳をつんざくような高周波とともに、《穿孔(グングニル)》ではないナニカが生まれ出でようとするのが分かる。

そこに込めるは想い。

それを包むのは願い。

愛しき者を悲しませ、涙を流させたコイツの存在を認めぬ。

そんな想い、願い、欲望、強欲。

ありとあらゆる否定の意思を込める。

もともとあった黒き槍の上に、それ以上の心意を込める。とうに限界を超え、人どころか人外のモノになりかかっている脳が、キャパシティ以上の動作を軋み声を上げながらやる。

痛みなど、痛覚など、すでに機能はしていない。

目から。

鼻から。

耳から。

滂沱のように、滝のように、鮮血が溢れ出す。

手の中に現れるは純白の矛。

その切っ先からは、見えざる何かが常に放出されているようで、向けただけで狂楽という名の眼球はおぞましい物でも見たように身震いした。

『ナンダ……ソレハ。フザケンナ!《存在否定》ナンテ………世界ノ(ことわり)を壊ス気カ!?』

レンは答えない。

レンだったモノは、応えない。

代わりに。

『《神滅(ロンギヌス)》………この世から消えろ』

白き光が世界を純白に染め上げ、眼球が咆哮を、雄叫びを、悲鳴を上げる。

『ヤメロ……ヤメロ!ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ──────────殺サナイデ!!!!』

『──────────ッッッ!!!』

ギャアアアァァァァァ────ンンンン!!!!!

世界を二つか三つ、余裕でぶった切れるような力の塊が、眼球の角膜上空一ミリのところで停止した。

強引に中断されたエネルギーが行き場を失い、アルヴヘイム北西の大空に半径数百キロの風穴を開けた。その時、ALOの予備サーバの一つを潰したが、それは後のことである。

『……g;ljsナンデ、止めるンだ………狂怒』

しゅうしゅうと、今にも消え入りそうなその声に応えたのは、心の深淵に潜むもう一人の《鬼》だった。

『俺ェ?冗談言うんじゃぁねェよ。コイツを殺そうが、俺は何も感じねェ。だから俺ァお前ェになにもしてねェぜェ?』

『だったら………誰がしたって言うのさ』

震えた声。

しかし、レンはその答えはもう分かっていた。



『お前ェしかいねェだろ、バカが』



『……………僕は、マイにここまでしておいた奴を、殺さないっていうのか』

『カッカッカ、決めるのは俺じゃねェ。お前ェだ。』

『………………………………』

砕かんばかりに、奥歯が噛み締められた。

軋まんばかりに、拳が握り締められた。

そうしているうちに、手の中の純白の槍がゆらりと空に溶けるように消えていった。槍という形で外殻を構成している心意の力が、自らを空間内に留める力が必要である最低値を下回ったのだ。

内部に貯蔵されていたエネルギー群が一気に解放され、真っ暗闇の広大な空間の先に消えていく。

永遠で無限に続いているかと思っていた暗闇の先に、ビシリという音とともにヒビが入る。ガラガラ、と世界が崩壊していく音が耳朶を打った。

脳髄に、異常な脱力感が漂っている。

しかし、《痛み》は全く感じない。

レンの脳は、そんな段階をとうに超しているのだから。

《痛み》を感じるほどの神経など、とうに残っていないのだから。

ヒィヒィ、という《鬼》の啜り泣きが、静かに鼓膜を震わせた。

『コロサ………ナイノカ……?』

泣きじゃくる子供が放ったようなその声に、レンの表情は次々と変わった。

憤激、同情、哀れみ、悲しみ、諦め。

半開きの唇が、幾度となく開かれ、そして閉じる。

喉元まで出掛かっている言葉は数百もあって、一言ではとても言い表せなかった。

しかし、少年は言う。

《冥王》は、言う。

人外のその口から紡がれた言葉は、もう理解不能な言語でもなければ、金属質のノイズが混じった声ではなかったけれど、少年は、レンは、それを全く気に留めずに口を開いた。

「あぁ、殺さない。だけど僕は、キミを絶対に許さない」

許さなくて、赦せない。

そこまでレンは、お人好しにはなれない。

自分は《甘い》のだけれども、《優しい》のではないのだから。

「だから、僕はキミを()()()()()()()。キミの神経が擦り切れ、焼け切るまで僕の中で生き続けてもらう」

いや、”逝き”続けてという方が正しいか。

その言葉に、漆黒の眼球は慄いたように身を震わせた。

『マサカ……僕ヲ!僕ヲ喰ラウ気カ!?正気ナノカ!モウオ前ニハ兄様ガ憑イテルンダゾ!!ソンナコトガ人間ノ身デデキルワケガ────』

叫ぶ《鬼》の搾りかすに、レンは言う。

人外の者は、言う。

「お生憎さま。僕はもう、人間じゃないから」

『……………………………』

沈黙を肯定と受け取り、レンはさっさと眼球の上に手のひらを乗せた。

もう、反撃はなかった。

ただただ項垂れた子供のように、いじけている少年のように、成すがままとなっている。

ポウ、と手のひらに灯りがともる。

それはとても温かい光で、二人の《化け物》の冷え切った心の奥底まで染み渡るようだった。

「僕の中に、来い。狂楽」

『………………………クソ、ガ』

その言葉とともに白い光が暗闇を破り、世界を照らした。

数瞬後に宙空にいたのは、レン一人だけだった。

その後、いまさらのように重力が仮想の身体を引っ張り、地面に向かって落下していく。

異形の《翼》と《尾》は、もう消えていた。

もう、もともとある妖精の翅を動かすための力さえも出ずに、レンは地面に向かって落下していく。

暗闇の中にある地面に落ちていく。

その先にあるのは、白衣の女性と黒衣の剣士、その腕の中で気を失っている女性。

そして────



大粒の涙を零しながら手を振る、真っ白な少女。



ああ、という声が意図せずして口許から漏れ出た。

どうしようもなく喉が震え、目頭が熱くなる。目尻には、もうすでになみなみと涙が盛り上がっていた。

「…………マ……イ………」

掠れて、誰の耳にも聞こえないような声が発せられる。

しかし少女は、その声が聞こえたようににっこりと笑い

「レン!!」

叫んだ。

そうして少女は、流星を受け止めた。

見ていた白衣の女性の目から、一粒の涙が流れ落ちた。

頬を伝ったそれは、静かに床に落ち、儚き煌きを残して消えた。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「終わった~!!」
なべさん「終わったー!!」
レン「これでALO編終了?」
なべさん「まだだよ!須郷さんのこと忘れてない!?」
レン「え!?生きてたの!?」
なべさん「まだ死んでない!」
レン「え?じゃあなに?この期に及んでまだ原作主人公に出番を取られるの?僕は」
なべさん「いや、これ以上主人公さんが主人公すると、ホントに君の出番がなくなるからね。だからもう一人の主役にご登場願おうかと」
レン「は!?もう一人!?まだ出てくんの!?」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued── 
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