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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三十一話 庭園の戦い

 プレシアの住居に降り立った俺達

 そんな俺達を出迎えたのは幾多の甲冑。

「この子たちって」
「侵入者排除用の自動機械。
 小型はそうでもないけど大型になると装甲も固いから簡単にはいかない」

 なのはの言葉に甲冑に視線を向けたままフェイトが簡潔に応える。

 自動機械か。
 入口にいるのは戦斧を持った大型が一体。
 それ以外は剣と楯を持った小型が二十程。
 中にはさらにいるだろう。

 それに俺達の戦力も完全とはいかない。
 俺とクロノ、アルフ、ユーノはほぼ万全の状態だが、なのはとフェイトは先の戦いがある。
 体力的にも魔力的にも万全ではない。
 可能な限り無駄弾を使わせないように俺達がフォローする必要がある。

 どちらにしろあの甲冑と一度剣を交え、性能を把握する必要はあるか。

 小型のやつらが一歩前に踏み出す。
 それに合わせ、なのはとフェイトが相棒を構え、アルフも踏み込めるように、ユーノも魔法を発動できるように構える。
 だが

「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ」

 クロノがなのは達を止めた。
 そして、俺も

「確かにクロノの意見には賛成だな。
 一直線にあのデカブツを潰しにかかる。
 周りのを頼めるか?」
「ああ、勿論だ」

 クロノが頷き杖を構える。
 俺はクロノより一歩前に出て

「―――投影、開始(トレース・オン)

 外套から抜くように武器を握る。
 手に持つのはイリヤのメイドであるリズが使っていたハルバート。
 使用用途は単純だ。
 ただ力任せにあの甲冑をただの鉄屑に変えるための強度と威力を誇るもの。

 はっきりいってしまえば宝具を使えば一瞬で吹き飛ばすのはたやすいし、単純な切れ味ならハルバートよりも優れたものはある。
 しかし現状では管理局の目の前で使用した宝具の類はプライウェンに、フルンディング。
 存在を知られているものをいれるならゲイ・ボルク。
 それ以外は自分が最も使う干将・莫耶も見せてはいないのだ。
 ならば隠せる情報は可能な限り隠す。
 勿論必要なら躊躇わないが、恐らくこの世界の唯一の魔術師である俺だ。
 少し慎重になりすぎるぐらいで丁度いい。

「間違って後から俺を撃つなよ、クロノ」
「ふん。君こそしくじるなよ」

 軽口を叩きながらハルバートを振りあげ足に力を入れる。
 それに反応したのか小型の甲冑共がこちらに向かって走ってくる。
 模擬戦でクロノの実力はおおよそ把握している。
 そしてなにより背中を信じて任せる事が出来る。

「しっ!!」

 足に溜めた力を解放し、一気に疾走する。
 デカブツに向かうのに邪魔なのは真正面にいる一体とデカブツの前にいる一体。
 それ以外は無視できる。
 まずは真正面のやつ。
 疾走した勢いのまま跳躍し、ハルバートを横に薙ぐ。

 甲冑は異音を立てながら上半身と下半身に分かれ千切れ飛ぶ。
 予想よりも脆い。それに反応が遅すぎる。
 盾を持っていたがそれで防ぐ事すら出来ていない。
 性能としては一体一体はそれほど高くはない。
 十分に余裕を持って対応できるレベルだ。
 だが数とは単純な力でもある。
 万全ではないなのはやフェイトが囲まれると危険かもしれないな。

 しかし俺にとっては囲まれても大した問題ではない。
 人と比べるまでもない強靭な力を持つ死徒である俺。
 さらに尋常ではない重さと強度を誇るハルバートの前ではこの甲冑程度の装甲では耐えきれはしない。
 つまり俺はただ力任せに振るえばいい。

 着地した俺に襲いかかる甲冑共。

 それにこの入り口での戦いに関していえば囲まれようとハルバートを振るう必要さえない。
 なぜなら

「Stinger Snipe」
「はあっ!!」

 クロノが放った高速誘導弾が俺の横を抜け甲冑を次々に撃ち抜く。

 それにしても

「模擬戦の時よりもはるかにスピードも切れも威力も段違いだな」

 お互い手を抜いていたとはいえかなりのスピードとコントロールだ。
 この威力とスピードならば小型の甲冑では防ぎきる事はできない。

 俺もハルバートを握り直しながら速度を落とさずデカブツに向かって駆ける。

「スナイプショット!!」

 さらに加速した高速誘導弾が小型甲冑を次々に撃ち抜き、デカブツの前にいる奴も貫き、デカブツに叩き込まれる。
 しかし、さすがデカブツというところかクロノの高速誘導弾をくらっても平然としていた。
 だがそれも予想通り。
 俺は高速誘導弾のすぐ後ろを追うように疾走している。
 さらにデカブツは高速誘導弾を弾いた時の光で反応が遅れている。

 デカブツが俺に気がつき戦斧を振りあげるがもう遅い。
 飛びかかった速度を活かし空中で前転の要領で、ハルバートを脳天から叩きつける。

 ハルバートの刃がデカブツの戦斧の柄を砕き甲冑を砕き割るが、さすがに完全に分断できずに胸部の辺りで止まる。
 さすがに固いな。
 ハルバートの柄を握り直し、デカブツの腹を足場にし

「はあっ!」

 ハルバートを捩じり、胸部を抉りながら力任せに振り抜く。
 小型を叩き斬った時より凄まじい異音と共にデカブツの胸部が抉り飛ばされる。
 というよりも頭から入った刃が捩じりながら右脇腹の方に抜けているので上半身の右半分がなくなっている。

 そのままデカブツを蹴り、離れ爆風をかわす。

 着地し、なのは達の方を向くとクロノ達を含め茫然としていた。




side なのは

 士郎君とクロノ君。

 二人の息は初めてコンビを組んだとは思えないほどぴったしでした。
 それに

「クロノ君の魔法、速い」
「うん。それだけじゃない、コントロールも」

 クロノ君の魔法は士郎君との模擬戦の時よりも一段と速い。
 驚いたけど、同じ魔導師である私達でもまだ理解できるモノ。

 フェイトちゃんもクロノ君の魔法には感心してる。

 対してやっている事はわかるんだけどちゃんと理解できないモノ。

「ねえ、フェイトちゃん」
「な、なに?」
「あの子たちってその……あんなふうに力任せに壊せるものなの?」

 それが士郎君の戦い方

 空を飛ぶわけでもなく、レイジングハートのようなデバイスを持ってるわけでもない。
 ただ私達の身長よりもはるかに大きい斧と槍をくっつけたような武器を転送して、ただ振っているようにしか見えない。
 見えないのだけど

「私には……無理かな」

 フェイトちゃんもどこか困った風にアルフさんとユーノ君に視線を向けるけど

「いや、僕は無理だから」
「私も小型の奴なら力づくで押さえつけて動力コードを引き千切るぐらいなら出来るけど……あのでかいのは……ね」

 ユーノ君とアルフさんも苦笑いしてる。

 一体どうすればあんな戦い方が出来るのかがまったくわかりません。

 普通はあんな戦い方しないよね。
 私がおかしいんじゃないよね。

「だけど士郎と戦わなくてよかったって改めて思うよ」

 アルフさんのしみじみとしたつぶやきに少し考えてみる。

 敵として士郎君と向かい合う私。
 そして、士郎君が振りかぶった武器をシールドで防ごうとする私。
 士郎君の武器はシールドに食い込んで止まる。
 士郎君は武器を捩じって、力任せにシールドを突き破り、私の身体は…………

「や、やめよう」

 背筋に寒気がはしった。
 変な考えはするもんじゃないよね。
 うん、これは考えちゃいけない。

「どうしたんだ?」

 士郎君が武器を担いで不思議そうな顔をしてる。

「ううん! なんでもないよ!」

 私の表情に士郎君は首を傾げてるけど言えないと思っていると

「魔導師から見てあまりにも常識はずれな戦い方に茫然としてるだけだよ」

 呆れたようにクロノ君が士郎君にそんな事を言った。
 さすがに真正面からそんな事を言ったら士郎君でも怒りそうと思ったら
 士郎君にも自覚があるのか苦笑してる。

「まあ、言われるとは思ったけど
 俺の戦い方に関してはまた今度だ。
 まだ入り口なんだから急ぐぞ」

 士郎君の言葉に頷き慌ててついていく。

 それにしてもやっぱり士郎君の戦い方は非常識だと思います。
 だって

「はあっ!!」

 入口の大きなドアを手に持つモノで粉砕して開けたんだから




side 士郎

 入口をハルバートで粉砕して中に侵入すると至るところの床が抜け、そこには底が見えない空間が広がっている。

「なんだ、この空間は?」
「虚数空間。あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ」

 俺の疑問にユーノが応えてくれるが、厄介な空間だな。

「飛行魔法もデリートされる。もしも落ちたら重力の底まで落下する」
「でも虚数空間って士郎の魔術もデリートされるの?」

 ふと思いついたようにつぶやいたフェイトの言葉だがどうなのだろう?
 確か桜は虚数魔術を使っていたが、あの虚数とは別物のようだ。
 まあ、どちらにしろ

「俺にもわからないが、命をかけて試そうとは思わないな」

 失敗すれば重力の底まで落ちるとんでもない穴にお試しで入ろうとは思わない。
 それに俺なんかは元々飛行の魔術なんて使えない。
 そんな会話をしながら走っていると、また新たな扉である。
 とりあえず

「しっ!!」

 ドアを蹴り破る。
 とドアの向こうにいた小型の甲冑の一体に吹き飛んだドアが突き刺さり爆発した。

「「「「「…………」」」」」
「そんな呆れたような顔をしなくてもいいだろう。倒したんだから」

 無言の圧力というか視線に言い訳じみた言葉を言っておく。

「と、とりあえず奥の階段が分かれ道」

 フェイト言葉に甲冑達の向こうにある階段を見つめる。
 さてどうするか。

「クロノ、駆動炉とジュエルシードどちらを止めるべきだ?」
「エイミィによるとどちらもロストロギアらしい。
 最終的には両方封印する必要があるが、まずは駆動炉を止めないとジュエルシードの封印すらままならないと思う」

 ならば駆動炉を先に潰す事を考えるか。
 だが全員が駆動炉に向かえばプレシアに奥の手があった時に手が出せなくなる。
 つまりはプレシアの方にも戦力を投入する必要がある。
 となると

「クロノはプレシアのところだろう?」
「ああ」

 まあ、当然といえば当然か。
 管理局という組織として事件の首謀者と一番回収したいジュエルシードがあるのだから。
 なのはとユーノは駆動炉の方かな。
 魔力が万全でない事を考えれば、フェイトとアルフも一緒に行った方がいいか。
 あと補佐として俺か。
 プレシアの方の戦力がクロノだけだが恐らく大丈夫だろう。

「クロノ以外は駆動炉に向かうぞ」
「だけど私は……」

 俺の言葉に躊躇うフェイト。
 無理もない。
 元々の目的がプレシアに会う事なのだから当然ではある。
 だが

「なのはとフェイトは魔力が万全じゃないから二人は一緒に行動することになる。
 クロノになのは達を任せて俺が駆動炉に行ってもいいんだが封印が出来ないからな。
 封印できなければ破壊するしかない」

 俺の言葉になのはとフェイトはあっという顔をしている。
 あくまで俺の封印は魔力を抑え、聖骸布で包み込むという一時的なものである。
 当然のことだがデバイスのような複雑なモノの投影は出来ないので、もし俺の方法で抑えられなければ破壊するしか手がない。

「管理局としてはロストロギアをそう簡単に壊されてはたまったもんじゃないんだが」

 クロノがため息を吐きながらそんな事をつぶやくのも無理はないだろう。

「それとクロノ、プレシアの所に近づいたらこちらに連絡しろ。
 フェイトはクロノからの連絡が来次第、プレシアの所に向かえ」
「わかった」

 フェイトも頷いてくれたので互いに向かうところは決まった。

 さて、向かうところは決まったが、クロノを一人で行かせ、俺達が辿りつく前にプレシアとの戦いとなるといささか危険ではある。
 だがこの状況でなのはとフェイトから離れるというのは俺の選択肢にない。
 ならばクロノの防御面を向上させ、プレシアの攻撃に耐えれるようにするしかない。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 投影品を貸すと俺の魔術がばれる可能性もあるが、人の命と天秤にかける事は出来ない。
 仕方ないと諦めるとしよう。
 投影するは四つの黄金角と四つの黄金に覆われた盾。
 ケルト神話にてクルフーア王が持ちし盾『オハン』である。

「クロノ、持っていけ。
 持ち主ではないから本来の能力は引き出せないが、それでも防御力は相当なものだ」
「いいのか?
 君の持ちモノを僕に渡して」
「当然、これが片付いたら返品してもらう」

 俺の言葉にクロノは大きくため息を吐く。

「これだけの魔力を纏っているんだ危険物扱いでこのまま引き渡してもらう」

 クロノの言葉になのはとフェイト、ユーノは「え?」という顔をしてるし、アルフは眉をひそめる。
 まあ、好意で差し出した物を返さないといえばこれが普通の反応だろう。
 だが

「本来ならね。だが士郎の好意だ。
 この件が終わったら必ず返す事を約束する」

 とのクロノの発言にユーノは眼を丸くし、なのはとフェイト、アルフは笑っている。
 もっと頭が固いかと思ったが少々認識を誤っていたな。

「なら全員向かう場所は決まった。
 この目障りなのを消し飛ばしたら行くぞ!!」

 俺はハルバートを地につきたて、新たな武器を投影する。
 クロノのオハンを返却するという約束に感謝してもう一度見せてやろう。

 新たに投影し外套から取り出すのは使い慣れた弓と赤き猟犬

 猟犬を弓に番え、魔力を叩きこむ。
 その光景になのは達が警戒するように下がったのがわかった。

 五秒
 猟犬の魔力は高まり、赤き雷を纏い始める。

 十秒
 危険と判断した機械がこちらに向かってくる。

 十二秒
 だが遅い。
 込められた魔力は全力には程遠いがこいつらを消し飛ばすにはお釣りがくる。

「―――赤原猟犬(フルンディング)

 俺の目の前で剣を振り上げている甲冑に向かって猟犬が放たれる。

 猟犬は軌道を変え甲冑を次々と鉄屑に変え、最後に床を突き破る。

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 床の向こうにいた何かに当たった手応えと同時に『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』で爆発を起こす。

 下に甲冑がどれだけいるかは知らないが、少しは片付いただろう。

「いくぞ!!」

 弓を外套にしまうように消し、ハルバートを抜き、階段に向かって駆ける。

「クロノ君! 気をつけてね!」

 階段で分かれる俺達とクロノ。
 クロノはなのはの言葉に笑みを浮かべしっかりと頷いて見せた。

 俺達が向かうは駆動炉。
 そして、最後はプレシアのところを目指すことになる。

 フェイトが辿りつくまでにプレシアが自分の間違いに少しでも気がついてくれればいいのだが。

 プレシアが拒絶している事を突きつけはしたが、それを受け入れ向き合い考える事が出来るだろうか。
 この短い時間で。

 恐らく可能性としては出来ない方が高いが、この辺りはプレシア自身に賭けるしかない。
 本当に僅かな希望だがな。 
 

 
後書き
今週は遅れることなく更新出来ました。

そして、今週の更新は2話ですので続いて三十二話もいきます。

ではでは 
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