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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第二章 非平凡な非日常
  54、憑依と復讐者

目を閉じて意識を集中させる。

ここに来るときはいつも寝てる間だったから、こうして意識して戻ろうとするのは初めてのことだ。

戻るべき体が気絶状態の今、意識するしか戻る方法がない。

けど、なんだか変な感覚だ。

突然ふわりと体が浮いたように軽くなる。

そのまま何かに引っ張られるような感覚に襲われた。

しばらくして止まり、ゆっくりと目を開けると

「……闇?」

真っ暗の世界だった。

しかもなぜか、学ラン姿つまり“要”から戻っていない。

どーなってんだ?

一歩踏み出す。

すると

ごんっ

「いてっ」

壁のようなものにぶつかった。

前後左右試してみるが、結果は同じ。

つまりこれって、どこかに閉じ込められた?

『おや、帰ってきましたか?』

唐突に暗闇に響いた声。

「骸!? お前なにした!」

『君の体に憑依させてもらっています。ちょうど君の精神が留守だったのでお借りしました』

「憑依……って、はあ!? どうやったんだよ」

『契約ですよ。憑依弾という特殊弾を使い、三叉槍で傷をつけた相手に憑依することができます』

えげつねぇ。

て言うか、だから契約って呼ぶのな。

……ん?

オレの体に憑依して、それで沢田と戦ってるんだよな?

「正体バレてねぇだろうな!」

『クフフ、心配には及びませんよ。今のところはバレていません』

“今のところは”?

『少々厄介なことに、彼は“超直感”と呼ばれる力がありまして、いわゆる見透かす力のことです』

「見透かす力、か。
 バレたら殺す」

ちょっとでもバレてみろ。

復讐者(ヴィンディチェ)に捕まったって助けてやんねぇから。

つか、体取り戻した瞬間にとどめ刺しに行ってやるから。

覚悟しとけよクソナッポー。

『クフフ、あまり僕を見くびらないでほしい。それはそうと、暗闇も難ですから映像でも見ますか?』

「映像?」

『僕の目を通して、僕が見ている景色を君のもとへ送ります』

オレの目(・・・・)、な」

『細かいですねぇ』

細かくねぇよボケ。

イラッとして見えない壁を殴り付ける。

ごめん、痛いッス。

そんなことをしている内に、目の前に景色が映し出された。

額にオレンジ色の炎を灯した沢田が必死に骸と戦っている。

周りには、沢田達の仲間たちが倒れていた。

「げ、恭がいる。バレてませんようにバレてませんようにバレてませんように」

にしても沢田の奴、変わったな。

いつもへなちょこで気弱で何をするにもダメダメで、そんなあいつが今こうして戦っている。

いつも眉間にシワを寄せ、祈るように拳を振るう。

誰かの台詞であった気がする。

でも、それが事実だ。

敵であれど傷つけるのを好まないのか、それとも女子(の体)を相手取ってるせいか、なるべく傷つけないように戦っているのが見てわかる。

「お人好しだな。……って、人のこと言えねぇか」

『要、聞こえますか?』

「ああ」

『ラストスパートをかけます。少し人間道(本気)を出すので映像を送ることができません』

「りょーかい」

そう答えた次の瞬間、また暗闇が訪れた。

手を握りしめると、持っていた書類が音をたてた。

これで、本当にうまく行くんだろうか。

さっきまであったはずの自信が暗闇に吸い込まれるようにして消えていく。

ダメだ。

ネガティブになったら、ダメだ。

「原作なんて知るか。オレは、オレが納得の行く世界に変えてやる。後悔なんて、したくない」

そして、見えない壁に手をつこうとした、その時だった。

さっきまであったはずの壁が消え、オレの体が一瞬浮いた。

支えの無くなったオレの体は前にのめり、そのまま倒れた。

どさっ

「っ(つう)……!」

同時に景色が戻り、全身に痛みが走った。

これってつまり、憑依が解けたってことか?

不意に視界の隅に骸が入った。

ちっ、生きてるか。←オイ

その後、骸に近づこうとした沢田をボロボロの犬と眼鏡(千種というらしい)がそれを止めた。

なぜそこまでマフィアを嫌うのかと言うチビ介の質問に、犬が全てを話した。

もとは、エストラーネオというファミリーに属していたこと、そこでは子供たちが実験台(モルモット)にされていたこと。

それをすべて壊したのが骸で、二人は地獄から救いだしてくれた彼について行くことを決意し、マフィアを根絶やしにしようとして今に至ると。

そして

「……ッッ。来た」

ついに復讐者(ヴィンディチェ)が現れた。

三人の首に枷がつけられ、引きずられていく。

「待って!!」

動かない体にムチ打って、どうにか立ち上がる。

くっそ、骸のやつどんだけ体酷使しやがったんだよ。

声だすだけで激痛じゃねぇか。

「フィリミオさん!?」

「貴様、何者ダ?」

やべえっす。

殺気がガチやべえっすよこれ。

普段から恭の殺気の下にいなかったら、多分死んでたな、うん。

ふらふらとした足取りで彼らに近づく。

本音言っていい?

怖い。

「私の名はフィリミオ。骸の仲間」

「何ノ用ダ」

「骸、犬、千種の解放の要求に来た」

「何!?」

「骸達の解放!?」

「ソレハデキナイ。コノ三人ハ大罪人ダ」

「うん、知ってる。でもね、私はお願いしに来たんじゃなくて、交渉しに来たの」

彼らの目の前につきだすのは、銀からもらったあの書類。

あー、しわくちゃになってる。

「ここに、これから復讐者(君たち)が向かうであろう犯罪者たちが載ってる。解放してくれないって言うなら、こいつらを全員、復讐者(君たち)の手の届かないところに隠す。どうする? 300人近くいるけど?」

「ナゼソレヲ持ッテイル」

「知り合いにね、この世に知らぬことなしの情報やがいるの」

だって銀は神様だもん。

神のみぞ知る、なんて言葉の神そのものだからな。

「…………デハ、条件ヲ出ス」

「条件?」

「マズ、六道骸ノミヲ仮釈放シヨウ。二人ダケデ一週間以内ニソノリストニノル人間ヲ捕マエロ。ソレガデキレバ残リノ二人モ釈放スル。デキナケレバ、貴様ゴト最下層ニ投獄スル」

うわお。

条件だなんて、ある程度は覚悟していたし、最下層だって覚悟していたが、これは驚きだ。

一週間以内にたった二人だけで約300人を捕まえるとか、鬼畜業だな。

しかもあれだ、世界中をだ。

「無理……ですよ」

「骸!?」

「ふーん、起きたんだ」

「僕達のために君が捕まる必要はありません」

「OK、その条件呑んだ」

「少し僕の話を「悪いねぇ」……!」

「私ってお人好しだし、それに仲間を見捨てる奴はクズだと思ってるから」

にっこりと微笑む。

骸は、驚いた顔を見せていた。

「デハ、六道骸ヲ解放スル」

重い音がして、骸の首から枷が外れた。

そして、犬と千種をつれて、復讐者(ヴィンディチェ)は姿を消した。

その場からようやく消え去った重い空気に、オレは安堵の行きをついた。

「さてと」

ブレスの補助を借りて骸を背負う。

ちらりと、沢田を見た。

「さようなら、沢田綱吉。二度と私と出会わないことを祈りなね。Arrivederci」

そのまま、オレは窓から飛び降りた。

本当は恭も連れて帰りたかったが、そんなことしたら正体をバラしてるのも同然だから諦めた。

着地したオレは、全速力で家へと一直線に走った。 
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