蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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おかえり
バンザーイ!バンザーイ!
そんな声が、麗の耳にも届いてくる。
麗は胴上げには参加していなかった。自分がいないことに誰も気付かないことが、少し悲しい。
しかし、皆忘れているようだが、倒した死神たちは決して死んでない。
つまり再起するのに備えて、拘束しなければならない。
「そういうこと誰も気にしないんですから。すごいですよ、ウチは。」
当然、拘束係はそのことに唯一気付く麗である。
闘技場に出したドームの中に二人と、宏助に吹き飛ばされて壁にめり込んでるのが一人。
さっさと回収し、一箇所にまとめると、麗は、後ろにいるはずの彼に声をかける。
「さっさと貴方の能力で無力化してちょうだい」
「・・・・・・・」
彼・・・つまり真からの返事は無言だった。
フ~、と軽くため息をつき、麗は真の元へ近づいていく。
真がわずかに後ずさるが、宏助によって負った痛手では、動くたびに痛みが走るのだろう。
顔をしかめる真にすばやく麗が接近し、
バチン!
思い切りその右頬を殴りつける。
しかし、麗程度の力では痛みなど感じるはずもなく、なのに真は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしている。
「これは、アナタの行いの報いよ。そもそも、なんで自分の前まで護ってたもの、壊そうとするのよ」
「・・・・・・わるかった、謝罪する」
むっつりしながら、五秒後に出てきた言葉がそれだった。
なんか、もうちょい言葉の言いようとかないのか?と内心思いつつ、やはり真だな、と納得もする。
「俺は弱いな・・・・・・。」
「・・・・・?」
突然、真から話はじめるのでビックリする。
「アイツらも・・そしてお前も・・・・強いよ。生きる意志がある」
当たり前じゃない、そんなこと、と返そうとするが、言葉が出ない。
今の真の顔が、あまりにも哀れなものに、麗は見えたからだ。
「生きる意志・・・・・そんなものは俺には無い。俺には・・・・。俺には・・・・・」
真は最早、先程までとは一変した弱弱しい男になっていた。
だからではないが、麗の目は優しくなる。
「別に、弱いのはアナタだけじゃないの。皆、弱いなりに生きていこうとしているだけよ」
「・・・・・・・・」
「アナタは、どうして死神なんかになったの?どうして・・・」
「俺は・・・・・・・・」
「どうして・・・・、前みたいに笑わないの?」
「・・・・・・・!!」
真の目が大きく見開かれる。麗は、そのまま言葉を切らない。
「言いたくないならいい。でも、アナタは、あのときあの場で、私を説得した。
生きて、明様や、SPたちを護って、って。あのときのアナタはとても格好よくて、やっぱり真には敵わないと思った」
「・・・・・。」
「でも、今のアナタは全然格好よくない。真らしくない。頑固で、真面目で、不器用で。とっても格好よかったのに」
「・・・・この世を去りたくなかったんだ」
真がやっと話しはじめる。
「新しく歩き始めたお前をずっと見ていたかった。ずっと傍にいたかった。だから、こんなことしてる」
「許されるとは思わない。命令だから、お前たちを消しに来た。それだけで、反対もせず、俺はここに来てしまった」
「・・・・・・・」
今度は麗が黙る番だった。
「俺は、一体何がしたかったんだろうな。死神になって、いつかは、この世にまた戻れると思ってたのに。
結局、俺は自分の大事なものを壊しただけだ」
「・・・じゃあ、また護ればいいじゃない」
「・・・・!」
再び真は目を見開く。
「アナタの人生はまだ終わりじゃない。どんな偶然か、アナタはまだここにいる。だから・・・・・・・」
麗はそこで一旦顔を背け、腕で目をこする。
何事かと思い、真が麗のほうを見ると。
ポタッ
「・・・・・・・!」
麗の顔から水滴が落ちてきた。それが涙だと気付くのに数秒かかった。
そして、麗は振り向く。顔に一杯の涙をたたえて、
「アナタとまた会えて、良かった・・・・・・」
「・・・・・・!」
麗の泣き顔はとても美しく、そして、寂しげだった。だからだろう。
「ごめんな・・・」
「・・・・・!」
だから、抱きしめてしまうのだろう。自分に禁じて、我慢してきたはずのことなのに。
「ごめん・・・・・本当に・・・・・ごめんよぉ・・・・」
いつの間にか、真の目からも水滴がたれ始めていた。
麗はそんな真に驚きながらも、同時に優しい眼となって、その身体を抱きしめ返す。
「おかえり。真」
麗がそう呟いた後、二人はずっと、お互いの身体を離さなかった。
ーそして、数時間後
「なッ・・・・・・!」
あまりの出来事に宏助は絶句する。
「そういう訳なんです」
明を見るが、やはり肯定の意。
「そういうことになっちゃって。ごめんね、宏助くん。相談もせずに」
麗の方を見るが、テンション高いのを無理やり隠しているのがバレバレで、目も当てられない。
「そんな訳でよろしく頼む。一応、本名を言っておくと・・」
そして、当の本人はすっかり真顔で自己紹介ときた。
「知ってるよッ!若菜 真だろッ!お前がなんでここにいるんだ!」
当の本人・・・すなわち真に素早く突っ込む。
「それはさっきも言ったように、真はこの屋敷のSPのひとりとして雇われたから・・・・」
麗がハイテンションで俺に丁寧に説明するがそんなことは分かりきっている。
「そうじゃなくてだな!お前は敵で死神なんだからさっさとソウルササエティーにでもなんでも帰れ!」
「なんだその奇妙な名は。どこの国だ?」
「もしかしてお前も天然なのか?なぁ、麗さんとそんなところが似たもの同士なの・・・グフッ!」
「なんですか?宏助くん。今何か必死で否定しなければいけない単語が聞こえてきたのですが?」
「いや・・・・なんでもないです・・・・」
「まぁ、そんな訳で、真は再び私に仕えるSPのひとりになりました」
「そういう訳だ、以後よろしく」
「よろしくってなんだよ!?反対派は俺以外にいないのか?」
そこで話を聞いていた近くのSPのうちの一人が答える。
「皆、最初は混乱しましたけど、麗さんの説得もあったので、反対派はいませんでしたよ。
やっぱり、ウチの元大将でしたからね。人望もあったんですよ。ねぇ、大将」
「その呼び方はやめてくれないか・・・・・」
「ハハッ!生真面目なところも変わってねぇや」
そんな会話を聞いて、宏助は軽く絶望を覚える。
「こんなのが・・・・・こんなのと一緒に暮らさなきゃいけないのか・・・・?」
「よろしく頼む。腕には自身があるぞ。お前には負けるけどな」
「気安く握手しようとするなぁ~!」
「まぁまぁ、宏助さん」
「宏助くん?さっさと握手しなさい。もう遅いですよ」
麗は笑顔で、宏助が見覚えのある契約書を手でヒラヒラさせている。そこに書いてある名は勿論宏助のものではなかったが。
「・・・・・はぁ・・。畜生!ほれ!」
「・・・・あ、ヤケクソになったな」
「こうするしかねぇんだろ?でも、絶対もう二度と明さんと麗さんにてぇ出すなよ。」
「・・・・・心得た」
宏助と真の手がお互いを握り合う。
頼もしい仲間が、一人増えたとっていいのだろうか。
「よし、復旧作業はじめますよ!」
『おう!』
麗の号令で、闘技場の復旧作業がはじまる。
復旧作業に参加する人数は、いつもより一人多かった。
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