| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

皇太子殿下はご機嫌ななめ

作者:maple
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第42話 「ぼくの将来の夢 その2」

 
前書き
クリスマスも過ぎました。
皆様はいったいどのようなクリスマスを過ごされましたか?
わたしは両手に花。ハーレム状態でした(泣)
後書きに続く。 

 

 第42話 「自業自得?」

 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウムだ。
 俺だって何もかも解ってるわけじゃない。
 手探りで生きてるのは、みな同じだ。
 俺と他人が違うのは、ただ一点、分かってなくても、分かってる振りをしなきゃいけない、という事だけだ。
 原作知識なんぞ、もはや役に立たない。
 まあ、とりあえず人の名前を知ってるぐらいだな。役に立つと思えるのは。
 考えてると、頭痛くなってきた。
 酒飲んで、寝ちまうか。
 それにしても、普通さー。就業時間ってもんがあるだろ?
 軍にだって、定時っていう概念はあるのに、どうして俺にはないんだっ!!
 定時ってなんだ?
 帰れないってことさ。
 残業も早出もあるんだよ。
 給料もボーナスもないけどな。

 ■宰相府 ヨハン・フォン・クロプシュトック■

 宰相閣下がイゼルローンに出向いておられる。
 私は閣下から託された役目に勤しんでいた。
 平民階級の政治参加に関する課題だ。
 はっきり言って、前途多難というのも、甘いぐらいだ。というのも、平民達が政治参加にそれほど積極的ではないからだ。
 本音を言えば、政治参加に対して、どう受け止めて良いのか分からないのだろう。
 生活が楽になって欲しい。税金を引き下げて欲しい。貴族の横暴を止めて欲しい。
 そういった要望はあっても、帝国の運営など考えた事もないのだろう。
 帝国がいま、どのような状況にあるのか、知ろうともしない。
 改革派というものが、多数に至らなかったはずだ。
 権利には義務が生じる。
 宰相閣下の改革案は、決して平民に、甘いだけのものではない。
 腰が引けているのも致し方ない。
 それでも私は、平民達の意識を変えていかねばならん。その事を父に相談すると、

「そんな事は分かっていた事だ。何を泣き言をほざいているっ!!」

 そう言って叱られてしまった。

「泣き言を言うな!! そんな事では宰相府を追い出されたとしても、わしは皇太子殿下をお恨みはせぬぞ」

 厳しい言葉だ。
 父も帝国の現状を認識しているのだろう。
 それとも領地経営しているうちに、知ったのかもしれん。
 しかも平民達の代表者を選ぼうとしても、企業の代表だとか、実力者を調べると大抵、フェザーンが関連している。
 頭が痛い。
 帝国の経済がフェザーンに、支配されかかっていた事に、ようやく私も気づかされた。
 なるほど宰相閣下が、フェザーンを奪いに動いたはずだ。
 中から食いつぶされたとしても、不思議ではない。
 敵は門閥貴族だけではなかった。
 今更ながら背筋が凍る思いだ。
 しかしどうしたものか……。
 う~む。フェザーンに赴任している、オーベルシュタインに相談してみるか?
 信用も信頼もできる男だ。
 彼なら良い知恵を出すかもしれんな。

 ■宇宙艦隊総司令部 ラインハルト・フォン・ミューゼル■

 宇宙艦隊司令部にお使いを頼まれた帰り、ビュッテンフェルト少将とファーレンハイト少将のふたりとばったり出会った。

「よお、ラインハルト。飯でも食いに行かんか?」

 あいも変わらず大きな声だ。
 人を褒めるときは大きな声で、人の悪口はより大きな声で、とは少将の家訓だそうだが、それにしても大きすぎる。耳が痛くなるほどだ。

「ビュッテンフェルト少将“閣下”が“珍しい事”に、奢ってくれるそうだ。遠慮するな」

 ファーレンハイト少将が“珍しい”と“閣下”の部分を強調している。
 この二人、連れ立って食事に向かうほど、仲が良かったのだろうか?
 正反対のような気がするのだが……。

「ただ飯を無視するほど、俺も人間ができていない」
「皮肉かっ」

 二人の言い合いに頭を抱えたくなった。
 意外と良いコンビなのかもしれない。
 ビッテンフェルト少将に強引に、引きずられるように連れられ、やってきたのは踊る子うさぎ亭という定食屋だった。
 こんな所に来るのは初めてだ。
 店の中に入ると、騒がしい人の声が耳に飛び込んでくる。
 こういうのを活気があるというのだろうか?

「さあ来い。遠慮するな」

 ばしばしと背中を叩かれ、咳き込んだ。
 うぬぬ、なんという奴だ。乱暴な。

「おいおい、ラインハルトは卿と違って、繊細なのだ。手加減してやれ」
「何を言うのだ。ラインハルトも立派な軍人だぞ。まだ幼年学校の生徒だが、これぐらいで根を上げるものかっ! なあ、ラインハルト」
「う、うん」

 思わず頷いてしまった。
 最近、女装ばかりしていて、こんな風に扱われる事がなかったものだから驚いたが、これぐらいは普通の事なのだろう。
 ビッテンフェルト少将が大声で、ウェイターを呼んだ。

「俺はいつもの奴を頼む。卿らは何にするのだ?」
「うむ。この牛肉のソテー黒こしょう風味というのを貰おうか」

 ファーレンハイト少将はあっさり決めた。
 シンプルなステーキというのが、いかにもファーレンハイト少将らしい。
 二人がジッと俺の方を見てくる。
 こんな所に来るのは初めてだし、それにメニューを見てもよく分からない。普通の帝国料理ではないのか?

「このアリゴというのはどうだ?」
「アリゴ?」

 メニューを見ながら悩んでいると、ビッテンフェルト少将がメニューを指差しながら言ってきた。
 アリゴというのはなんだろう?
 ファーレンハイト少将は笑みを浮かべている。
 おかしな料理ではないらしい。

「では、そのアリゴを頼みます」
「うむ。ではそれを」

 ビッテンフェルト少将がウェイターにそう言う。
 料理が来るのを待っている間、二人に将来の事を聞かれた。

「ラインハルトは、いま幼年学校だろう。卒業したらどうするのだ。やはり士官学校に入るのか?」
「しかしビッテンフェルト。卿はそう言うが、ラインハルトは幸運にも、宰相閣下の所にいるのだから、帝国大学に進んで、政治経済を学んだ方が良いのではないか?」
「そうかも知れぬな。宰相閣下の下にいるのだ。いずれは帝国の政治を担うかもしれん。その時のために武官ではなく、文官を目指すのも悪くはないか」

 二人が話し合っている。
 俺はどうすれば良いのだろうか?

「いっその事、国務尚書を目指すのも悪くないだろう」
「おお、国務尚書かっ。リヒテンラーデ候も六十を越えている。後を継ぐ者が必要だな」
「ラインハルト。目指してみてはどうだ? 下手に門閥貴族がなるより、ラインハルトがなった方が良いと思うが」
「うむ。ラインハルトは頭が良いしな」
「そうしろ。そうしろ」

 二人とも俺を無視して、一歩的に決めてしまう。
 勝手なものだ。
 しかし本当にどうするべきか?
 皇太子にも将来の事を考えておけと、言われているし……。
 悩む。
 そうこうしている内に、料理がやってきた。
 ビッテンフェルト少将のいつもの奴とは、豚肉と白いんげん豆の煮込みだった。やたら大きなソーセージが入っている。肉と同じぐらいだろうか……。
 どうやら大食漢らしい。よく食うものだ。
 ファーレンハイト少将はシンプルなステーキだ。
 そしてアリゴとは、これはなんだ?
 深皿の中に黄色っぽいものが、こんもりと盛られていた。
 チーズなのか?

「チーズとじゃがいもを混ぜたものだ」
「……そうなのか?」
「チーズとじゃがいもをひたすら混ぜて、つくるそうだ」

 フォークで掬ってみるとやたら伸びる。
 なんなのだいったいっ!!
 う~む。切れない。
 細く伸びたアリゴをフォークに絡めて口に入れた。
 なんというか……チーズ・フォンジュぽいな。
 味は悪くない。
 しかし食べにくいぞ。喉に詰まりそうだ。
 二人が笑っている。
 腹立たしい。ちょーむかつくーって感じ?
 アリゴと格闘しつつ、腹に収めると、胃が重い。
 腹に溜まったという感じだ。

「はっはっは。ラインハルトには、ちときつかったか?」
「木こり料理だからな」
「知っていたなー」
「知らいでか」

 二人はしらっとした顔で、自分の分の料理を口に運んでいる。
 ううー苦しい。
 重いお腹を押さえながら、店を出た。
 二人とも司令部に戻るそうだ。
 俺は苦しみながら宰相府へと帰っていった。
 いずれ、お返しはしてやるぅ~。

 ■ノイエ・サンスーシ 薔薇園 リヒテンラーデ候クラウス■

「ルードヴィヒのいない間に、新たな策を考えるぞ」
「ほほ~う。良いですな~」

 陛下と老人がなにやら話しこんでおられる。
 また無駄な事を。
 ため息がでそうになるわ。

「おお、そういえば、ルードヴィヒには嫁がおらぬ」
「そういえばそうですな。心配な事ですな~」

 なんとわざとらしい物言いじゃ。

「銀河帝国皇太子に嫁がおらぬとは、この先帝国はどうなってしまうのだ」

 陛下がわざとらしく嘆いて見せる。
 老人も首を振って驚いた振りをしている。

「ここは一つ。陛下が骨を折るべきではないでしょうか」
「やはり父である予が、動かねばならぬか」
「恐れ多い事ながら、今のままですと門閥貴族のいずれかが、殿下に押し付けんとするでしょうな。新しい外戚の誕生でしょうな」
「いいや、それはならぬ。ならぬのだ。新しい帝国のため、予が動かねば」

 わざとらしい小芝居を、見せ付けられているわしの方が疲れるわ。
 それにアレクシアが皇太子殿下の子を産むのじゃ。
 いま急ぐ必要などありはせぬ。

「おお、さすがは陛下ですぞ。これで皇太子殿下も一安心というところですな~」
「うむ。そうであろう」

 二人が笑っている。
 呆れて物が言えぬとは、この事じゃ。

「さて、どの家の娘を選ぶとするかのう」
「それでしたら、不肖、このグリンメルスハウゼンが、これはという娘を、探してきましょうぞ」
「おお、そうしてくれるか」
「お任せくだされ」

 あー頭が痛いのう。
 さっそく皇太子殿下に、報告せねばならぬな。

 ■総旗艦ヴィルヘルミナ ウルリッヒ・ケスラー■

 うん?
 いまなにやらおかしな者が、廊下の角を曲がったような?
 この先には宰相閣下がおられる。
 不審な者を見過ごすわけには、いかん。
 私はそう思い、廊下を急ぐ。
 角を曲がったところで、宰相閣下の驚いた声が耳に飛び込んできた。
 いったい何事だっ!!
 急いで宰相閣下の部屋に飛び込んだ。

「クラウス・ラヴェンデルっ、その格好はなんだ?」
「皇太子殿下のご趣味では?」
「うんな訳、あるかー」

 部屋の中では、かわいらしいドレスを身に纏った、クラウス・ラヴェンデルが宰相閣下に迫っていた。これはいったいどういう訳だ?
 卿には、宰相閣下にそのようなご趣味はないと、言っておいたはずだぞ。

「ぼくの趣味です」
「なんてこったい!! 幼年学校の綱紀粛正が必要だな」

 なんと言おうか、自業自得という言葉が脳裏を過ぎる光景だった。
 宰相閣下、少し悪ふざけが過ぎましたな。
 頭を抱えたい気分で、目の前の光景を眺めるしかなかった。
 そんな私をいったい誰が、責められよう。
 ラインハルトだけではなかったのだ。目の前にいる少年も同じ趣味だったのだな。
 はてさて、どうしたものか……。 
 

 
後書き
友人A「ちょっと酔っちゃった~今日は帰りたくなーい(お泊りの予定でした)」
私「今夜は寝かさないぞ~」
友人B「私という者がありながら~ひどい」

なんて小芝居をしていたわたし達に、クリスマスの風は冷たかった。
来年こそは、ラブラブなクリスマスを過ごすぞと、固く心に誓った三人でした、まる。
とりあえず、来年のクリスマスよりも先に、お正月も三人で過ごします(泣) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧