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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep10闇の書 覚醒~Awakening of despair~

†††Sideルシリオン†††

リンディ艦長の許可の下、アースラのトレーニングルームを貸し切らせてもらい、俺は1人の敵と対峙している。俺とアイツの戦力をMAX10として表すとすれば、俺が4でアイツが8と言ったところだ。それはつまり今の俺の2人分の強さを有しているということになる。が、これは勝ち負けの問題じゃない。まぁ、勝つことが出来るのなら、勝ちたい相手なんだがな。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

――ジャーマ・コルムナ――

“神々の宝庫ブレイザブリク”や“英知の居館アルヴィト”より複製術式・武装を発動・具現させるための呪文を詠唱する。まずは炎の柱をアイツの真下から噴出させ、アイツを上空へ撃ち上げる。アイツは「むぎゃっ? あっつ~~い」と余裕のある声で呻き声を出す。

――アクティース・ディーネ――

ここで攻撃の手を緩めるな。一気に押し切って、意識を刈り取る。今度はアイツの真下に光の竜巻を発動させ、「きゃうん!」さらに上空へと吹き飛ばす。

――デルニエール・バテム――

次は真上に現れた幾何学模様からの1筋の閃光をアイツへ落とす。その閃光が直撃したアイツが地面に叩きつけられるその直前で・・・

――プレギエーラ・プロイエッティレ――

俺の足元より噴き出す黄金の光の柱と共に跳び上がり、アイツへと正拳を喰らわせる。拳打と魔力攻撃による一撃だ。回避も防御も出来なかったアイツは直撃を受け、「うぐぇ!?」と苦悶の声を上げる。だがそれはダメージよるものではなく、腹部へ正拳が入ったためのものだ。

「やっぱ硬いな、お前の障壁は。だが・・・ゼロ・ディゾ――!?」

「とおおおぉぉぉッ!」

「ぷい・・・!?」

攻撃に移る瞬間、アイツは俺の左頬に強烈なビンタを叩きつけてきた。そのあまりの衝撃に錐もみしながら吹き飛ばされたが、何とか四肢をついて着地する。だが今の一撃で目が回り、なおかつ耳鳴りが酷くてアイツに集中できない。かぶりを振って何とか立ち上がり、揺れる視界の中でアイツを見つめる。

「いっきま~す!」

「うっぐ! オール・・・デッド!」

追撃のために突っ込んできたアイツの懐にギリギリで入り、カウンターを撃つ。

「のおわぁっ!?」

――ショッキング 私好みの 宇宙人――

アイツは面白いほど吹き飛んで・・・ドベシャと床に落下、叩き付けられた。だがすぐさま立ったアイツの様子からして全くのノーダメージだ。結構な力で攻撃を当てているのに、逆にこっちの魔力と体力が削られる。

「おっとっと。ねえ、無限書庫ってとこでずっと篭ってたから、勘が鈍ったんじゃないの?」

「ああ、だからこそお前に相手を頼んでいるのだろうこのド阿呆」

「あ~! またそんなことを言う! ひどいよひどいよ、私は阿呆じゃないもんっ」

あらかた“闇の書”の調査を終えたのはいいが、随分と体を動かしていなかったため、このうるさいド阿呆と模擬戦できるようにしてもらった。

「事実だろ? ところ構わず抱きついてきては戦闘の邪魔をするアホな子。その所為で大戦の時は何度も死にかけたのを忘れたか?」

「むぅぅ、マスターを愛するのは当然でしょ。それに邪魔をしてるんじゃなくて守ってんの!」

左右に開いた両腕を上下に振りながらプンスカ怒っているが、俺は聞き流す。

「はぁ。もういいよ。それにしても行かなくてよかったの、マスター? 誘われてたんでしょ、夕ご飯。この世界での友達に。仲良くしないと、きっと後悔するよ?」

ド阿呆こと俺の正真正銘の使い魔、“フェンリル”の“異界英雄(エインヘリヤル)”がそう聞いてきた。本物のフェンリルは今頃、セインテスト王家の王城グラズヘイムで、時間凍結封印されている俺の肉体を守護しながら、俺が人間へと戻るのを待っているだろう。

「いいんだよ、さすがに気を遣ってしまう。何せなのはのご家族と会ったのはたった3回だ。それだけで御呼ばれするのはちょっと気が進まない」

「もう少し楽しめばいいのにぃ。でもまぁ、それがマスターの意思なら口は挟まない。けどそんなんじゃそのうち壊れちゃうよ? 今のマスターは精神安定しないとすぐにダメになっちゃうんだから」

「すでに壊れたことを経験しているから大丈夫だ。今はそんなことより、どうだった俺の戦闘力は? 出来るだけ」

今回の模擬戦の目的。それは固有魔術と複製術式の威力差を確認することだ。相手はクロノでもよかったが全力で断られたので、最も信頼できるフェンリルを選んだというわけだ

「受けてみて判ったんだけど、やっぱり複製術式の方が威力が高いよ。マスター、この世界の魔じゅ――じゃなくて魔導師?を傷つけないように、魔術から神秘を限りなく減らしたり、魔力も抑えてるでしょ? 複製のように神秘の有無の切り替えが出来るなら大丈夫だろうけど。どうしても神秘が加わって手加減が難しい固有魔術はマスターを苦しめるかも」

「やはり、そうなのか」

「うん。だから界律に設定されたランクどおりの威力を出したいなら、“剣神”と同じように魔術を魔法っていうのに変えた方が良いと思う。この世界での魔法は、純粋に魔力の大きさで威力が決定されているみたいだから」

「最悪だ。魔術を魔法に再構築する? どれだけ時間と手間が掛かると思ってるんだ」

「そんなの知らないよ。でもそれくらいの代償が無いと。世の中、楽に出来てなんかいないんだから」

シャルも苦労しながら魔術を魔法へと変えたそうだ。俺の固有魔術も出来ないことはないだろうが、やろうと思うと気が重い。

「・・・おぉ? それじゃ時間みたいだから、またねマスター」

フェンリルの足元が霞んでいく。召喚時間が過ぎてしまったようだ。

「ああ、ありがとう。良い運動になったよフェンリル」

フェンリルが手を振りながら光の粒子となって消えていった。俺は息を整え、修理を終えた“トロイメライ”の調子を見ることにした。

「トロイメライ、シュベルトフォルム」

†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††

今日、24日のクリスマス・イブ。この日ははやてのお見舞いに行くという話だった。でも朝方に“トロイメライ”の修理と最終動作確認を終えたって、ルシルから連絡が入った。だから私は終業式が終わるとすぐにアースラへと急いで来たというわけだ。

「それにしても良かったのか? 今日ははやての見舞いだったんだろ?」

「んん、そうなんだけどね。確かにはやての見舞いも大事だし、行きたかったよ。そうなんだけどね、トロイメライの方が気になっちゃたんだよね。ほら、いつシグナム達と戦うことになるか判らないからさ。そうなっちゃったら、デバイス無しだとなのは達のお荷物になっちゃうでしょ? それだけはどうしてもイヤだったんだよね」

本来なら友達との約束を最優先するのがいいんだろうけど、どうしても気になってしまった。なんか胸騒ぎが昼間からあって、すぐにでも“トロイメライ”を手にしておきたかった。

「ちょっとぶり、トロイメライ。待たせちゃったね、ごめんね」

今は待機形態である指環となってる“トロイメライ”を見る。お見舞いのドタキャンは、あとではやてに謝り倒そうかと思ってる。ちなみにルシルも一緒に。理由は特にないけどね。

「それにしても年内ギリギリって話だったけど、随分早く修理終わったんだね」

「修理には途中から俺も参加したしな。いくらか俺の持つ技術を使って補強した」

「本当!? 随分と太っ腹じゃない!」

「まぁ、君のあんな顔を見たら・・・な」

ルシルは私から顔を背けて早足で歩き出した。もしかしたら照れてる? あはっ、嬉しいな。

「ルシル、シャル、少しいいか?」

「「ん?」」

背後から声を掛けられて振り向いてみると、そこにはクロノが立っていた。なんかいつものような覇気がない、沈痛とした空気を纏ってる。何かあったのかな・・・。ルシルも感じたみたいで、「何かあったのかクロノ?」って聞くけど、クロノは「いや、なんでも」って首を横に振った。

「仮面の男についてなんだが、君たちの意見と僕の意見を少し交えて考えたい。モニタールームまで来てもらっていいだろうか?」

“トロイメライ”も受け取ったことだし、今からでも急いで病院に行ってなのは達と合流するつもりだったけど、クロノのその真剣な眼差しを見た私たちは断ることが出来なかった。

†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††

クロノと共にモニタールームへ来た俺たち。クロノはキーボードを操作して、砂漠での戦いに関するデータをモニターに表示させた。映っているのはヴィータを庇い、そしてシャルを背後から襲った仮面の男。この男が最速で20分かかる距離を、9分という時間で転移したということはすでに聞いている。
エイミィの話では、ほとんど不可能なほどの速さらしい。俺たち守護神の扱う位相空間転移なら可能だが、それを人間が出来るわけがない。クロノが振り向き、「どう思う?」と俺とシャルに聞いてきた。

「どうって・・・転移時間のことを言ってるの? すごいよね。仮面の男って、すごい魔導師なんだね~」

「・・・まぁ、そうだな。ルシル、君はどうだろう?」

「俺としては、仮面の男が2人いると考えれば筋が通ると思う」

調査の合間にも考えていた。そしてたどるり着いたのが、単独ではなく複数犯、というもの。まったく同じ姿の奴が2人いるなら、その時間的な問題を容易く解決することが出来る。推理ものではよくある手だ。

「・・・あぁ、なるほど」

「やはり君もそこへ行き着いてしまうか・・・」

シャルは思い至って納得した風な顔をして、クロノは別の答えを聞きたかったという顔をした。どうやら仮面の男の正体について何かを掴んだ――いや、判ってしまったようだ。

「しかし、やはりそれしかないのか」

「ああ」

それからもうしばらくエイミィが現れるまでクロノと話をした。グレアム提督のこと、リーゼ姉妹のこと、そして八神はやてのことを。

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

私とフェイトちゃんは今ビルの屋上で、はやてちゃんの家族、シグナムさんとシャマルさんの2人と対峙していた。

「そんな、はやてちゃんが・・・闇の書の主だったなんて・・・」

それはついさっき、はやてちゃんのお見舞いのときに判ったことだ。クリスマスプレゼントをはやてちゃんに渡すためのサプライズを企画して、連絡もなし病院を訪れた私たちは、そこではやてちゃんと一緒に居たヴィータちゃん達と遭遇してしまったのだ。ヴィータちゃん達が居る。それはつまりはやてちゃんが闇の書の主ということ。信じたくないけど、それは確かに存在している事実。

「我らの悲願はあと僅かで叶うのだ。邪魔をするのであれば、容赦はしないぞ」

「たとえそれがはやてちゃんのお友達でも、私たちは・・・」

「ちょっと待って! 話を聞いてください! 闇の書は完成させちゃダメなんですっ! 完成させたら、はやてちゃんは――」

このまま“闇の書”を完成させちゃったら、ユーノ君たちが調べたとおりのことになっちゃう。はやてちゃんが・・・はやてちゃんが死んじゃうことに。

「邪魔を・・・すんじゃ・・・ねぇぇぇーーーーーッ!」

――テートリヒ・シュラーク――

私はその声で、ヴィータちゃんの攻撃に気付くことが出来た。だからすぐにプロテクションを張ることが出来た。でもその強力な一撃に耐え切ることが出来なくて、弾き飛ばされてフェンスに衝突する。

「なのは!」

フェイトちゃんの声が少し遠くに聞こえる。衝撃の所為で少し頭がクラクラとしてるからだ。

「あともうちょっとで、はやてを助けることが出来るんだ。闇の書が完成して、主になって、すっごい力を手にしたはやては元気になってくれる。そうしたらはやては・・・元気になったはやてはあたし達のところへ帰ってくる・・・あたしらを笑顔で迎えてくれるんだっ!」

赤いバリアジャケットを纏ったヴィータちゃんは両目に涙を浮かべてた。それほど必死にずっと頑張ってきたのに、闇の書を完成させたら・・・全てが失くなる。

「だから・・・邪魔すんなぁぁぁぁッ!」

――フランメ・シュラーク――

ヴィータちゃんの強烈な一撃。それによって起こった爆発の中、私はバリアジャケットを纏って燃え盛る炎から歩き出る。

「はぁはぁはぁ・・・、悪魔め・・・!」

ヴィータちゃんの目にはもう敵意の色しか見えない。静かに私は“レイジングハート”を構えて、臨戦態勢に入る。

「悪魔でも、何だって言われてもいいよ。ヴィータちゃん達に話を聞いてもらうためなら、私は悪魔になったっていい。そして、ちゃんと話をして、解かってもらうの。闇の書は完成させちゃダメだって。はやてちゃんの病気は、管理局が頑張って治すって。だから・・・」

悪魔でもなんでも、罵られたって良い。助けてあげたいんだ。はやてちゃんのこともヴィータちゃん達みんなのことも。だから・・・。

「ここでヴィータちゃん達を止めますっ!」

†††Sideなのは⇒フェイト†††

私が対峙するのはシグナム。私は、敵意を丸出しにしているシグナムに、ヴィータとシャマルにも告げる。

「闇の書は、以前の持ち主が無茶な改変をしてしまったことで、もうどうしようもないくらいに壊れてしまってる。そんな状態のままで闇の書を完成させてしまったら、持ち主――今回ははやてが、心身ともに闇の書に侵食されて・・・」

死ぬ、と最後まで口に出せなかった。口にしたら、本当にはやてがそうなってしまうと思ったから。

「何が言いたい。我われ守護騎士ヴォルケンリッターは、闇の書によって生み出された。言わば闇の書そのものだ。何を見て聞いて知ったかは判らんが・・・」

シグナムが“レヴァンティン”の剣先を私に向けてそう言い放ってきた。上空で戦ってるヴィータにも私たちの声が聞こえたのか、「あたしらを惑わそうたってそうはいかねぇっ! 闇の書のことは、あたしらが一番知って解かってんだ!」シグナムのそれに同意してきた。

「だったらどうして・・・? どうして闇の書なんて、そんな悲しい名前を呼んで、本当の名前じゃない方を呼んであげないの!?」

なのはの悲痛な叫びが聞こえる。あっちの方も気になるけど、今はシグナムを止めることが先だ。

≪Barrier jacket. Sonic form≫

対シグナムのために用意した機動力重視の“ソニックフォーム”へと変身する。“バルディッシュ”をハーケンフォームへと変え、臨戦態勢に入る。シグナムが私の“ソニックフォーム”を見て、最初は驚き、次は疑いの目を見せてきた。

「なんだそれは? ただでさえ薄い装甲をさらに薄くして・・・正気か?」

「もちろん正気です。防御力を削った分、今まで以上に速く動けます」

「馬鹿なことを。ゆるい攻撃でも当たれば、怪我どころか最悪死ぬぞ」

「どうしても必要なんです。あなたに勝つために、防御以上に速度が。シグナム。強いあなたに立ち向かって、そして止めるためにはもうこれしかない。そう思ったから」

覚悟はある。決意もある。これくらいしなければ勝つことはまず出来ないと思ってる。相手はあのシャルを真正面から打ち破った剣士だ。真っ向から戦えば押し切られるのは明白。砂漠でのシャルとシグナムの戦闘内容については“トロイメライ”の記録から知っている。力押しでは絶対に勝てない。だからこそ機動力に特化した“ソニックフォーム”だ。

「つくづく思っていた。私とお前とフライハイト、それに高町やセインテスト。出会い方が違っていれば、どれだけの友になれたかと。そう思う日々が続いていた」

シグナムの体を炎が包み込む。そして炎が消えてから現れたのは、バリアジャケットに身を包んだシグナム。

「ならそれを本当にしよう、シグナム。友達になろう。だってまだ間に合うから。今からでも遅くない。闇の書は完成してない。はやてのことは必ず治して見せるから」

魔法でも医療技術でも治らなくても、ルシルやシャルの魔術がある。その他にも方法があるかもしれない。少し時間が掛かるかもしれないけど、きっと治せる術がある、そう信じたい。

「テスタロッサ。もういい。我らにはもう立ち止まるという道は無いんだ。我ら守護騎士は、主はやての笑顔のためならば、如何なる犠牲を出してもいいと決めた。騎士としての誇りを捨て、お前たちのような子供にまで剣を向け、襲い、苦しめた。如何なる罰もこの身に受けよう。だが、それは主はやてを御救いしてからだ。ゆえに、それまでは・・・止まることは出来ん!」

シグナムの瞳から1筋の涙が流れ落ちる。この心優しい剣士を止めることこそ私の役目だ。

「私とバルディッシュが・・・あなた達を必ず止めてみせる! これ以上、シグナム達が苦しまないように!」

†††Sideフェイト⇒ヴィータ†††

さっきから高町が“闇の書”の名前が何だとか言っている。そうは言っても何も思い出せない。思い出せない? ホントの名前って何だ? 判らない。思い出せない。“闇の書”に本当の名前なんてあるのか・・・。

「え、なに・・・!? また!?」

霞が掛かったかのようなそれを思い出そうとしていると、いきなり高町にバインドが掛けられた。テスタロッサが高町に掛けられたバインドを見て、「仮面の男が居る!」ってシグナムとの距離を取ってから周囲に気を配っている。

「・・・そこだっ!」

――プラズマランサー――

テスタロッサの放った攻撃が何も無いはずの何かに当たり、その場の空間が揺らいだ。そしてテスタロッサはその波打っている空間へと「せいっ!」直接攻撃を加える。空間が揺らいでそこに現れたのは、前々からコソコソとあたしらに協力してた仮面の男。そいつは姿を隠してあたし達のことをずっと見ていやがったみてぇだ。

「ルシルから情報は貰ってるから、その手は通用しない!」

現れた仮面の男の登場に、デバイスを構えるテスタロッサだったけど、突然現れたもう1人の仮面の男に蹴り飛ばされて、「うくっ!」さらにバインドを掛けられた。それだけじゃない。あたしもシグナムもシャマルも、みんなバインドを掛けられた。

「んな・・・!?」

「なに!?」

「え・・・!?」

バインドを掛けている奴とは別の奴の手に“闇の書”が現れる。なんでだ、その疑問に答えが出る前に、仮面の男に従って“闇の書”があたしらのリンカーコアを体から抽出し始めた。

「忘れたか? 闇の書の最後のページは、もはや不要となったお前たち自らが差し出すということを」

いやだ。そんなことになったらはやてと別れることになる。抵抗しようにもバインドを掛けられた上、「ぅあああ!」抽出の激痛によって何も出来ねぇ。

「これまで幾度も繰り返してきたことだっただろう? 思い出せ」

≪Sammlung≫

“闇の書”の蒐集が本格的に始まった。あたしの目の前で、苦痛のうめき声を漏らすシャマルが消えていく。

「シャマル!? 貴様ら・・・!」

ヤメロ。ヤメロヨ。

「闇の書。こんな壊れたロストロギアなんかで誰かを救えるはずがないだろ? 思い出せ。これは、災厄を撒き散らし、お前たちが護ろうとしていた人間たちを苦しませるためだけのガラクタだ」

今度はシグナムが消えていった。ヤメロ、ヤメロ。ヤメロって言ってんだろっ。

「シャマル! シグナム! テメェら、なんでこんなことすんだよ!」

今度はあたしのリンカーコアの蒐集が始まった。足元から消え始めたあたしの体。仮面の男は言った、「お前たちを生かすよりマシなことだ」って。んだよ、それっ。確かにあたしらは今までにいろんなことをやっちまったけどさ。でも、でももうやらないから、助けてくれよ・・・。

(・・・ごめん、ごめん・・・はやて・・・)

ここで完全に意識を途切れた。最後に思ったことは・・・

(もう1回・・・みんなではやてのご飯・・・食べたかったな・・・)

†††Sideヴィータ⇒????†††

ひとり病室で休んでると、突然何か得体の知れない胸騒ぎがわたしを襲った。

(なんやろ? シグナム達が気になってしゃあない)

愛する家族がなんか離れていってしまいそうな、そんな嫌な感じがさっきから続いてる。すると今度は急に胸が痛み出して「ぅぐ・・・」胸を押さえる。と、「え・・・?」気が付くと、わたしはどこかのビルの屋上へと来てた。

「なのはちゃん・・・? フェイトちゃん・・・? 一体どうなって――何なんこれ?」

まず目に入ったんは、変わった服を着たなのはちゃんとフェイトちゃんの2人。2人は何も無い宙に浮いとった。それで夢かもしれへんって思うたけど・・・。

「ヴィータ!? ザフィーラ!? どうしたん2人とも!」

そんな考えが吹き飛ぶ光景があった。ヴィータが磔にされてるみたいに宙に浮いとるし、ザフィーラがわたしの真ん前で倒れとる。

「はやてちゃん。君はね、闇の書の呪いって病気に罹ってるんだよ」

「もうね、どんなことをしても治らない病気なんだ。だから助からないんだ。救われることもないんだよ」

闇の書の呪い? 治らない? 助からない? 救われない? なのはちゃんとフェイトちゃんが何を言っとるのか解からへん。でも、たとえ本当にそうでもわたしは・・・。

「そんなんどうでもええ! ヴィータを今すぐ降ろしてっ。ザフィーラ! ザフィーラ、どうしたん! 起きて!」

その許された時間を家族と一緒に生きられるだけで十分。わたしはもうそれだけで十分なんや。そやから返して。わたしの大切な、大好きなヴィータを、ザフィーラを・・・。ここでふと、わたしの家族が足りひんことに気付いた。

(シグナムとシャマルはどこや・・・?)

なのはちゃんとフェイトちゃんの下にもおらん。必死に周りを捜して・・・見つけた。シグナムとシャマルが着てた服だけが・・・。うそやんな・・・。だって、服だけってなんや・・・あれじゃまるでシグナムとシャマルが裸でどっかに行ってるようなもんや・・・。

「・・・シグ、ナムと・・・シャマル、は・・・どこや?」

「見たら解かるよね、はやてちゃん。その2人はね、もうどこにも居ないんだよ」

「おらんって・・・なにしたんや・・・シグナムとシャマルに何したんや!」

「怒らないで。だってこの子たちはもうずっと昔に壊れてたんだ」

「私たちが壊すまでもなくね。この子たちは闇の書の機能を、まだ使えると思い込んでたの。馬鹿だよね。ずっと昔に壊れているのに、無駄だって知らずに頑張ってきたんだから」

「無駄ってなんや!? わたしの家族を馬鹿にせんといて!」

「家族? 違うよ。壊れた道具なんだ、あの子たちは。だから役に立たないから、早く捨てるに限るよね」

「捨てるだけじゃダメだよ。ちゃんと最後まで壊してからじゃないと」

その言葉の意味だけは解かってしもうた。それはヴィータを、ザフィーラを示す言葉やって。

「アカン、・・・やめて・・・お願いやから・・・やめてぇぇぇぇっ!」

これ以上、わたしから何も奪わんでよ。

わたしが一体なにしたっていうん?

わたしは幸せになったらアカンの?

なんでわたしの前には絶望しかあらへんの?

「はやて。運命はね、いつでもどこでも残酷なことばかりなんだよ」

「やめてぇぇぇぇーーーーーっ!」

あの2人の手の輝きがさらに強くなってく。そして次の瞬間、目の前に光の爆発が起きた。わたしの願いも空しく、ヴィータとザフィーラが目の前から消えてしもうた。この瞬間、わたしから全てが失くなってしもうた。もう何も考えたくない。こんなに悲しくて辛い現実なんて・・・。

(・・・いらへん・・・もう、なんもいらへん・・・・)

≪Guten Morgen, Meister≫

そこでもう何もかも解からんくなった。でもそれでもええ。もうどうでもええんや。もう家族のおらへん世界に居ったって、なんも楽しくない。
 
†††Sideはやて⇒なのは†††

私とフェイトちゃんの目の前で起きた悲劇。私たちを捕らえていたクリスタルの檻とバインドを破壊した時には全てが手遅れだった。

「はやてちゃん・・・」「はやて・・・」

なんて声を掛けていいか躊躇ってた中、両手をついて俯いていたはやてちゃんが顔を上げて絶叫した。ヴィータちゃん達を取り込んたことで“闇の書”は完成してしまって、はやてちゃんの足元から表れた黒い光の柱が、「はやてちゃん!」を飲み込んだ。
黒い光の柱が消えてそこから現れたのは、はやてちゃんじゃなくて、ルシル君と同じ綺麗な銀色の長髪に黒い服、そして背には4枚の黒い翼を生やした女の人だった。

「また終わりを迎えてしまったのか。・・・一体、あとどれだけこのような悲しみを繰り返せばいい?」

その女の人は両腕を広げ、空を仰ぎながら涙を流していた。どうすればいいのか判らない私たちはその様子をただ見てるしかなくて。

「我は闇の書。主の願いがままに、我は・・・」

その女の人はスッと右腕を掲げてると、その手の平から黒い球体が現れて、一気に大きくなる。

≪Diabolic Emission≫

魔法だって思った瞬間、私は側に居る「フェイトちゃん!」を背中に庇うと・・・

「お願い、レイジングハート!!」

――ラウンドシールド――

シールドを張って、すぐに襲ってくるはずの攻撃に備えた。
 
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