八条学園怪異譚
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第四十九話 柳の歌その五
「僕達にしてもそうだし」
「そうよね、甘過ぎてもね」
「合わないのよね」
「だからもうね」
「これでいいわ」
「そういうことだね、それでも博士は」
から傘は今度は博士を見た、博士もその外国人の為に作られたかなり甘い水羊羹を食べている。しかし博士だけは平気な顔だった。
その博士を見てだ、から傘は言うのだった。
「凄いね」
「凄いとな?」
「うん、こんな甘いの普通に食べられるから」
「これ位の甘さならな」
どうかとだ、博士はこう言ったのだった。
「わしは平気じゃ」
「外国に行くことも多かったから?」
「うむ、インドの菓子が凄かった」
「インド?」
「そうじゃ、あの国のものがな」
とりわけ甘かったというのだ。
「最初に食べてびっくりしたわ」
「博士も驚くことがあるんだ」
「人は知らぬものに出会うと驚く」
これは博士でもだというのだ。
「普通にそうなるぞ」
「そうなんだ」
「そうじゃ、わしもこれまで数えきれぬ位驚いてきた」
生きてきたその中でだというのだ。
「普通にな」
「百五十年以上生きてきて」
「知る度に驚いてきておる」
言葉はここで現在系になった。
「今も驚くぞ」
「そんな場面あった?」
「ないよね」
妖怪達は博士の馴染みとして彼の過去を思い出して話した。
「いつも泰然自若っていうかね」
「落ち着いてるから」
「驚いているところとかね」
「見たことないわよ」
「いやいや、いつも驚いておるぞ」
今も現在形で言う博士だった。
「これでもな」
「えっ、そう!?」
「本当に!?」
「うむ、生きるということは驚き続けることでもある」
哲学的な言葉であった、尚博士は哲学博士でもありこの分野においても権威として世界的に知る人ぞ知るという人である。
「あらたなことを知ってじゃ」
「常になんだ」
「驚いているんだ」
「そうじゃ」
まさにそうだというのだ。
「所詮人間の知識は大海の仲の小匙一杯じゃ」
「それだけなんだ、博士でも」
「その知識は」
「そうじゃ、人は知らぬことばかりじゃ」
博学でありこの世に知らぬことはないとさえ言われている博士ですら、というのだ。
「小さなものじゃよ」
「じゃあ何でも知ってるっていうと」
「それこそ」
「神じゃな」
博士はここでも哲学的な言葉を出した。
「そうなる」
「ええと、どの神様かな」
「神様って多いけれどね」
「そうそう、神道も道教もね」
「ヒンズー教だってギリシアや北欧、メソポタミアにエジプトに」
「中南米だっているから」
非常に多いというのだ、彼等は。
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