SAO-銀ノ月-
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第聖夜話
前書き
※色々手違いがあり、一度削除して再投稿させていただきました
ALO事件も解決した、あるクリスマスの昼下がり。リズベット――こと篠崎里香は友人のシリカ、もとい綾野珪子と共に街中を歩いていた。クリスマスだけあって街中は美しい装飾が飾られており、その数に比例するように連れ添う男女の数が多いのは、恐らく気のせいではあるまい。
「里香さん、頼まれてた物が売ってる店……って、なに膨らんでるんですか」
「べっつにー」
道行くカップルをジト目で見つめた後、先を行くシリカに合流しつつ少しため息を吐く。今ここにはいない『彼』に心中で恨み言を呟きつつ。
……もちろん彼女にクリスマスの予定が無いわけではない。今まさに仲間たちとダイシー・カフェで行う、クリスマスパーティー一次会の買い出しを行っているところだし、その後の新生ALOでの二次会の予定もばっちりだ。
……ばっちり、なのだけれども。せっかくのクリスマスなのだから、道行く男女のように、ちょっとだけ欲を出しても良いんじゃないかと思っているのである。
「里香さん……いくら溜め息ついても、翔希さんは用事があるって……」
「うぐぅ……!」
珪子の一言に里香の胸が抉られる。里香が思う『彼』こと一条翔希は、クリスマスパーティーには問題なく出れるそうだが、それまでの準備には少し予定があるとのことで欠席していたのだった。
面と向かって誘うのは恥ずかしいからと、二人して買い出し係になってプチクリスマスデート――里香のという計画は、『悪いけど俺はちょっと用事が……』という翔希の一言で雲散霧消したということだ。
「里香さんはまだ良いじゃないですか……私なんて……」
明日菜と直葉と和人が料理係ということになっていて――和人はほとんど味見係だが――料理が明日菜と直葉ほど出来ない珪子は、自ずと買い出し係にならざるを得なかった。いや、料理が出来たとしても、和人と明日奈が発生させるノロケオーラに堪えられなかっただろう。
「直葉ちゃんは凄いですよね……」
「……それはほら、きっとあたしたちより耐性が出来てるのよ」
思うようにいかぬ現実に少女は二人して肩を落としたものの、その虚しさは回りのクリスマス用のイルミネーションで倍増される。
「キリトさん……はぁ……」
里香より少しだけ早く調子を取り戻した――開き直ったとも言うが――珪子は、顔を上げてさっさと買い出しを終わらせようとしたその時、『彼』を視界の端に捉えた。
「……翔希さん?」
「えっ!?」
反応速度がSAOでのキリト並みの里香に苦笑いしつつ、珪子は自分が見かけた方へと指を伸ばす。里香より少し高い身長に、相も変わらず黒いコートに身を包んでいる彼は、紛れもなく彼女たちが知っている翔希の姿だ。
いつもの調子ならば、『パーティーの準備をサボっておいて何してるの?』とでも軽口を叩きつつ話しかけ、翔希の用事もあるのでそこそこに切り上げて買い出しに戻る……ところであるが、今回ばかりはそうもいかなかった。何故なら翔希の隣には、彼女たちが知らない異分子が存在していたからだ。
「誰、あれ……?」
翔希の隣にいるのは彼女たちの知らない――女性だった。黒い長髪をポニーテールに纏めて、翔希と並んでも違和感の無い高身長の里香たちが知らない女性がいる。
「綺麗な人ですね、あの人」
「むぐぐ……」
妙な声を出してしまったが、その点は里香も認めざるは得ない。通りにいる他の男女のように、違和感もなくカップルをしている感覚さえ感じられる。
「SAOで知り合った人でしょうか……?」
彼女のことをついぞ聞いたことのなかった珪子は、自らと似たような経緯で知り合ったかと思ったが、あそこまで美人ならSAO内で少しは有名になっていそうなものなので違うだろう。SAOに行く前の先輩か何かかと思い、邪魔をしないように買い出しを続けようとした時、珪子は隣の里香がボソッと何かを呟くのを聞いた。
「……? 何か言いましたか、里香さん」
振り向いた珪子の手を里香はいきなり握り締めると、先程ボソリともらした言葉をもう一度言い放った。寸分の迷いもなく。
「尾行をしましょう」
「やめときましょうよぉ……」
「誰かだけぐらいは……」
まずは服屋に入った翔希と女性の後を追い、買い出しを後にして彼女たちもその服屋に潜入していた。服屋ということが幸いして、帽子と伊達眼鏡といういわゆる変装ルックに身を包み、その挙動不審さも併せて順調に不審者と化していっている。
「そんなこと言うわりには、珪子だってきちんと変装してるし……もしかして、やってみたかったんじゃないの?」
「そ、そんなこと無いですよ!」
「あ、バカ……!」
シリカの――恐らくは本音を暴露された驚きによる――大声に、翔希と女性がチラリとこちらを見たものの、里香が手を引いてとっさに陳列している服の中に隠れることで事なきを得る。里香はそのまま服の中に隠れたまま、小声で珪子に声をかけた。
「バレちゃうところだったじゃないのよー……」
「す、すいません……でも、何見てるんですかね?」
一条翔希という男はあまり服装にこだわりを持っていない。SAO事件が解決し、こちらの世界に帰ってきてからは、黒いコートを好んで着るようになったものの……動きやすいということ以外、あまりこだわりはないと里香は記憶していた。
なので服屋に入ったことからして珍しく、何を見ているのかと隠れている服の隙間から翔希たちの姿を見る。不幸中の幸いと言ったところか、あちらからこちらからは見にくく、こちらからはじっくりと見えることが出来る絶好の位置だった。
「……女物の服みたいですね」
ひょっこりとシリカも服の隙間から顔を出し、翔希たちが見ている服をチェックする。やっぱり乗り気じゃない、などと珪子に言いたくなるものの、また一悶着あっても困るので止めておこう。
翔希の服ではない筈なので女性の方だろう。どんな服かと思って少し顔を出してみると。
「……エプロンドレス?」
否、エプロンドレスだけではなく割烹着などもあり、一見すると料理をする女性用の服装にも見えるが……リズベットには分かった。これはそういうモノではなく、『コスプレ』用の服だということを。
「何でこの店はあんなコーナーがあるのよ……」
良く見れば向こうには更にマニアックな服装まである。……少々恥ずかしい物もあったので視線を落とすと、自分の学校帰りの制服が見える。
『こちら』ではもちろん、アスナによって着せ替え人形――もといプロデュースされたエプロンドレス姿ではなく、向こうに飾ってあるエプロンドレスが少し懐かしい。
「買っていこうかな……」
「あ、里香さん! 翔希さん達、違うところ行くみたいですよ!」
一瞬だけ頭に浮かんだ妙な考えを、珪子の声で振り切って翔希たちを見ると、確かに店の外へと出て行こうとしている。
「や、やばっ!」
「ちょ、ちょっと里香さ……」
慌てて服の隙間から出ようとしたところ、同じように出ようとした珪子の足に引っかかってしまう。そのままもみくちゃになりながら服の隙間から這い出ると、さて二人を追おうとして立ち上がると、里香の前に影が立ちはだかった。
「お客様、少しよろしいですか?」
お客様は神様ですとは言うものの、真の支配者は店員だということを思い知らされたのだった。
「酷い目にあった……」
「あいましたね……」
支配者こと店員から解放された二人だったが、完全に自業自得なので反省するほか無い。そしてあわや翔希と女性を見失ってしまうところだったが、運良く商店街の小物店から出て来るところを里香が発見することが出来た。
「……そう言えば里香さん、料理って出来るんですか?」
エプロンドレスということでふと思い出したのか、珪子は商店街を歩く翔希たちをつけながら里香に問うと、里香はとても分かりやすくうろたえた。当然のようにこちらに――つまり買い出し係――にいる時点で、そのことは予想出来ていたのだが。
「この前、明日奈に教えてもらってホットケーキを作ったんだけど……」
美味しく作ろうとするなら難しいものの、作るだけならばレトルトを使えば後は焦がさないようにするだけ、というお手軽料理ことホットケーキ。しかも料理上手の明日奈が同伴するという、失敗することが有り得ない状況だったが……その時悲劇は行った。
「完成品は……何故かホットケーキじゃなくてガーリックステーキになってたわ……」
この錬金術には明日奈も匙を投げるしかなく、今度はもう少し簡単な物に挑戦してみようということでお開きとなった。里香は落ち込んで肩を落とし、珪子は話題を変えるために翔希たちの方を指差した。
「り、里香さん! あ、アレ……」
そして結果的に、それが里香へと追撃になったような気がしないでもない。黒髪の女性の顔が、翔希の顔へと近づいていっているのだ。
「ちょっ! ちょっと……」
「ダメですって里香さん、バレちゃいますって……!」
珪子は暴れる里香を無理やり抑えつけると、里香も平静を取り戻して物影に隠れてスパイのように気を伺った。珪子も顔を手で抑えながらも、しっかりとその隙間から翔希の姿をおさえている。
「……ど、どうしましょうか里香さん……里香さん?」
「…………」
珪子が問いかけた里香の横顔は翔希たちから目を背け、どこか寂しそうでもあり、何かを考えているようでもあり……泣き出しそうになっているようでもあり。いつも明るく振る舞っている里香には、似つかわしくない表情だった。
「里香さん……」
珪子が里香の横顔をじっくり眺めている間に、翔希と黒髪の女性の人影は離れていく。そのまま二人は歩いていき、近くにある比較的空いているファミレスへと入っていく。
「……私たちも行きましょうか、里香さん」
「……うん……」
彼女たちもそれを追ってファミレスに入っていく。クリスマスということで、やや賑わってはいるが満員ではない様子で、容易に翔希達が見える席へと座ることに成功する。
「コーヒー二つお願いします」
珪子は早々と店員に二つコーヒーを注文すると、少し経った後に来たコーヒーを里香に差し出した。里香はそのコーヒーを貰うなり、やけ酒のように一気にかっこんだ。
「苦ぁ……」
「そりゃそうですよ……」
珪子は呆れた顔でミルクと砂糖を入れてかき混ぜながら、チラリと翔希たちを覗き見る。彼らもこちらのように談笑しながら、特に何をするわけでもなくお茶を飲んでいるようだ。
「翔希も、あんなに可愛い彼女がいるなら教えてくれれば良かったのにねー……」
「里香さん……私、ちょっと席を外しますね」
ミルクコーヒーのおかわりという訳でもないだろうに、珪子は席を立ってどこかへ歩いていく。もう少し何か理由がつけられないかと思ったが、今は珪子のその優しさに感謝しながら、残っていたコーヒーを飲み干した。
「苦いなぁ……」
ブラックコーヒーは得意だった筈だけど、と思いながら里香はコーヒーカップを机の上に置いて俯いた。自分に向けてか彼に向けてか誰に向けてかは知らないが、バカ、と呟きながら。
「バカ……翔希の、バカ……」
「誰がバカだ、誰が」
突如として背後から響いた声に振り向く里香だったが、自分の背後には誰もいない。それもその筈だ、その声の主である一条翔希はもう里香の前に行き、早々とコーヒーの注文を済ましていた。
「……それで、何で俺はいきなりバカって呼ばわりされたんだ?」
「ちょ、え、ショ、翔希……?」
店員が持って来たコーヒーを一口飲むと、慌てる里香の目の前に指を一本出した。すっかり俺もコーヒー派になったな、などとぼやきながら。
「シリカから電話貰ったんだ。……尾けてたらしいじゃないか」
「えーっとぉ……」
何をやっているんだと珪子を探すものの、辺りを見回しても珪子の姿はどこにもない。そこでポケットの中に入れてある携帯が震え、慌てて携帯の画面を見ると、珪子からの『キリトさんに呼ばれたので帰ります、買い出しはお願いしますね』という旨のメールだった。
「シ~リカぁ……!」
いつの間にか店の外へと出ていた親友のことを恨みながら、ばつの悪そうな顔をしながら翔希に向き直る。自分と同じようにブラックコーヒーを飲む翔希の姿は、在りし日のSAOのことを思い出させる。
会ったばかりは自分で作っていたお茶を飲んでいたのだが、気が付くと里香と同じようにブラックコーヒーを飲んでいた。いつから変わったのかは思い出せないけれど、むしろ思い出せないぐらいだということが、彼と日常を過ごしてきたのだという証明だ。
「その……悪かったわね、デートの邪魔しちゃって」
「……シリカから聞いたけどな。そもそもそっから間違いだって」
「へ?」
翔希が呆れた顔をしながら口を開くと、シリカにも電話で話したことを訥々と語りだした。
「そのポニーテールは従姉でさ……たまに来るんだけど、剣道も剣術も俺より強いから、全然頭が上がらなくてな。昔から…………」
台詞が終わるにつれてどんどん翔希の言葉尻が下がっていき、そのまま俯いていってしまう。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったようだ。
「え、えっーと……」
「……ああ、悪い……だからあんな従姉が彼女とか有り得ない! 怖気が走る!」
今日はいつにも増して様子がおかしいと思えば……絶対に気づいてやがったなあの女――と翔希は続けていき、そのまま従姉の愚痴へと移行していった様子を見て、ついつい里香は吹き出してしまう。
「フフ……アハハハハ!」
「笑わなくても良いじゃないか……」
そんな様子の翔希に更に里香は笑いながら、目尻に浮かんでいた涙を拭い去る。この涙は笑いすぎたから出て来た、ということにしておきながら。
「……あの従姉のことはともかく。まあつまり、お前は勘違いで落ち込んでたってことだよ」
「なっ……お、落ち込んでなんていないわよ!」
「はっ、どうだか。シリカから聞いた話じゃ……」
「ウソよウソ! シリカのウソ!」
さっきまでの落ち込みようはどこへやら、里香はかっとなって翔希とのいつもの口論に発展してしまう。ヒートアップして回りのお客様に見られたところで口論はストップし、二人してただの笑い話にしか過ぎなくなった。
「アハハ……ところでさ、翔希の用事ってのはその従姉さんの観光なわけ?」
「いや……まあ、確かに観光も兼ねてたな」
妙に歯切れの悪い翔希の台詞に里香は違和感を持った。気にしてみれば、先程までは席にいたポニーテールの女性が、既にいなくなってしまっている。翔希の従姉ということならば、里香としては少し話してみたかったのだが……
「あいつは帰った。……というか帰らせた。用事は……あー……その、なんだ」
「なによ、歯切れ悪いわね。本当はパーティーの買い出しサボっただけじゃないの?」
面白がってニヤニヤ笑いながら追求すると、翔希は苦い顔をしながら持っていたトートバックから小さい袋を取り出し、台詞の代わりと言っては何だが里香へと差し出してきた。
「……なによ、これ?」
里香は怪訝とした表情で翔希から渡された紙袋を見ると、翔希の顔を伺いながら開けてみると……中身は、純白の髪留め。
「……メリークリスマス、里香」
顔をほのかに赤らめながらそっぽを向く翔希から、そんな言葉が吐き出される。確かに今日はクリスマスで、つまりこの髪留めはクリスマスプレゼントということで、翔希の今日の用事は――という風に里香の頭が高速回転していく。
「……えっと?」
その結果漏れ出たのは小さい疑問の声で、翔希は髪をクシャクシャにかきむしりながら、半ばやけっぱちのように呻いた。
「その髪留めは俺からクリスマスプレゼント! 従姉はプレゼント選びを手伝ってもらってた! 用事はプレゼントを買うこと! ……以上で説明を終わる……」
まるで早口言葉でまくし立てた後、そこで照れが限界に達したのか、机に突っ伏してしまいそうになる翔希。里香は言われてみれば服屋で一度見失った時、従姉と小物屋から出て来ていたと思いだす。
翔希が服屋でエプロンドレス見ていた時、従姉にさんざん里香のことを聞かれた後、そのアドバイスによって購入した髪留め。……髪留めというと翔希からしてみれば、SAOでの苦い思い出の一つである《カミツレの髪飾り》を否応なく思い出させるので、少しばかり抵抗はしたものの……従姉に押し切られてしまった。
「……バカはあたし、か……」
まさかこんな物が貰えるとは思っていなかった里香は、先程まで泣き出すほど落ち込んでいた自分が一番のバカだったと苦笑する。幸運にも今の独り言は翔希には聞こえなかったようで、怪訝な表情をしてこちらの顔を覗き込んでくる。
「どうした?」
「……ううん、なんでもない! それよりどうしようかしら……あたし、今日のパーティー用のしか……」
「お返しなんていらないぞ、里香」
翔希ならばそう言うだろうとは思ったが、里香からしてみればそれでは納得がいかない。何か渡せるものがあれば良いが、あいにく今持っているお金は買い出し用のお金しかない。
「なんなら、アインクラッドでの鍛冶代だと考えて欲しい。……買い出しは終わったのか?」
もう翔希にはお返しを受け取る気は無いようで、机の上にある伝票を持ってレジの方へと歩いていく。里香は慌ててそれを追うと、翔希の横に並んだ。
「ああいや、まだだけど……」
「じゃあ行こうぜ。ま、荷物持ちぐらいならやるからさ」
早々とコーヒーの生産を済まし、数十分いた喫茶店を後にする。……入るときと出るときの気持ちが正反対とは、現金だと里香は本人ながらそう思う。
「……良し!」
心機一転、気持ちを入れ換えるために里香は自分の髪に付いていた髪留めを外し、貰った紙袋から取り出した髪留めを取り付ける。新品故の心地良い違和感と、鏡を見ながらではないため変になっているだろうが、構わずそのままにした。
「……似合ってるな」
「従姉さんのおかげかしら?」
「……勘弁してくれ……」
これは良いからかうネタが出来た、と思いながらも買い出しをすべく、二人で商店街を練り歩く。……里香が、今の状況こそ自分が思っていた『買い出し兼クリスマスプチデート』だと気づくのは、もう少し後の話になるが。
「なあリズ。そんなにお返し考えるなら、パーティーでやる交換用の物、俺に来るように祈ってたらどうだ?」
一次会でやる予定のプレゼント交換会用に、全員それぞれプレゼントを用意してきてはいる。だがその翔希の提案を、里香は考えるまでもなく却下した。
「こういうのは、自分で『あの人にあげるんだ』って考えながら選ばなきゃダメなの!」
自分にも思い当たる節があったのか、少し頷いた翔希。また、あの従姉に押し切られた奴はそのプレゼントの法則に当てはまるのだろうか、という危惧もあったものの。
「……プレゼント交換、里香は何を出したんだ?」
「えっ……!? ひ、秘密よ秘密! そういうのは内緒にしとくもんでしょ?」
もちろん、翔希もそんな事は分かっていて聞いている。案外あっさりと口を滑らすかと思ったが故の発言だったが、秘密というルール以前に、恥ずかしくて言えないというのが本音だった。
「惜しいな、もう少しで言ってくれそうだったのに」
「こっ、この……バカ!」
――かくして。クリスマスの日は更けていく。プレゼント交換会にて翔希は、妙に女の子らしいクマの人形を貰うことになったが……元の持ち主が名乗り出なかったため、誰からのプレゼントかは分からずじまいだったとさ。
「メリークリスマス、リズ」
「メリークリスマス……ショウキ」
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